ほたるのパパはとってもステキなパパです。
やさしくって、かっこよくて、あったかくて。
パパの作ってくれるごはんはとってもおいしいし、にちようになるとほたるをいろんなところにつれていってくれるし、こわいユメをみると、おいでおいでってしてくれて、ほたるのことをギュッってしてくれます。
だからほたるはパパのことががセカイでいちばん、ダイダイダーイ好きです。
1ねんCぐみ よこしま ほたる
宝珠師横島 side-stories ~Thank you for my fathers~
(横島 蛍)
「はい、ほたるちゃん」
「せんせい、ありがとうございます」
この間だした『父の日のさくぶん』をせんせいからうけとる。宿題でだされたさくぶんで、パパにみられないように書くのがとってもたいへんだったの。
だってパパには明日の『父の日』にわたしたかったから。
自分のせきにもどる。
めいぼうばんごうだと、ほたるは最後の方だから、もう帰りの会もおわり。
今日はいえにかえってから、ベスパおねえちゃんといっしょにマリンさんのお店でクッキーをつくるヤクソクなの。パピリオおねえちゃんは、ご用事があるからこれないんだって。だからザンネン。
ああ~はやく終わらないかなぁ~。
「じゃあみんな、あしたはお父さんに感謝する日です。ちゃんとお父さんにありがとうって言いましょうね。それじゃあさようなら」
『せんせい、さようなら!』
よし、おわった!
かばんをせおって教室からいそいで下駄箱にむかう。
ごめんね、みやちゃん。今日はいっしょに帰れないの!
さあ、はやくかえらないとおねえちゃんがまちくたびれて、ぼうになっちゃう。
おいしいクッキーつくるから、パパ、たのしみにしててね!
(ベスパ)
「うんしょっと・・・・・できた、おほしさま」
「じょうずだよ、蛍」
「うん!」
顔を小麦粉まみれにして、一生懸命、型を抜く蛍。
ああもう、こんなに服よごしちゃって。
「すまないね、厨房使わせてもらっちゃって」
「いいえ、かまいませんよ」
にっこりと笑いながらそういうマリン。
蛍がどうしても義兄さんに内緒でつくりたいって言うから、マリンに頼んで、自宅のキッチンを貸してもらっている。
逆に言えば、マリンの自宅は魔界に繋がっているから、忙しい合間を縫って、こうして蛍とクッキーを作ることができるのだけれど。
ちなみに妙神山預かりであるパピリオは簡単に魔界に来る事ができない。きっと蛍に会えなくてすねてるだろうから、あとでクッキーをおくっとかないとな。
「おねえちゃん、できたよ!」
「ん、いっぱいつくったね蛍」
「とっても美味しそうですよ、蛍ちゃん」
「えへへ~」
きっとこれなら義兄さんも喜んでくれるよ。もっともあの義兄さんが、蛍の作ったものを受け取って、喜ばないはずなんかないだろうけどね。
だから蛍、たのむから粉まみれの手で髪の毛触っちゃ・・・ああまた!ほら髪の毛が白くなってるよ、しょうがないな。
私は苦笑しながら、蛍の髪の毛をタオルで拭った。
(横島 忠夫)
「はいパパ、いつもありがとうございます」
朝起きてすぐ、蛍が差し出してきたものを見て、俺は目を丸くした。
蛍の手に携えられた、透明なビニールにラッピングされた小さなバスケット。下には細くきった緑色の紙が敷き詰められていて、その上に、いくつかのクッキーと、たたまれた紙がのっていた。
「蛍、これなんなんだ?」
「父の日のプレゼント!」
「え?ああ・・・・そういえば今日は父の日だっけ・・・・」
壁に掛かったカレンダーを見る。そこには今日が『父の日』だと、しっかり書かれていた。
「はい、パパ」
「え、ああ、ありがとな蛍」
「えへへ」
満面の笑みを浮かべながら手を差し出す蛍から、バスケットを受け取る。その中には、星とかハートとか・・・・・・これはカメかな?・・・・・・とにかく色んな形のクッキーが詰め込まれていた。
なるほど、昨日魔鈴さんのお店に遊びに行くとか言っていたけれど、これを作りに行っていたのか。
心がホッと温かくなり、自然と笑みが浮かんできた。
「じーーーーーー」
バスケットを持つ俺の方をじっと見つめる蛍。
食べて欲しいのかな?
綺麗にむすばれたリボンをほどき、中に手を入れる。様々な形のクッキーの中から、星形のを取りだし、俺は味わうように半分かじった。
『サクッ』
あっさりとした甘みと、ハーブの香りが口に広がる。
きっと生地自体は、魔鈴さんが作ったのだろう。しかし少々形がいびつなクッキーは、間違いなく蛍が型を抜いたものだとわかる。
俺にはそれだけで十分だった。
「じーーーーー」
真剣な顔で俺を見つめる蛍。だいじょうぶだよ。
「とーってもおいしいよ、蛍」
「ホント!?」
「ああ」
ぱっと花が咲いたような・・・まるで太陽のような笑みを浮かべる蛍。
のこった半分かけのクッキーを口にほおりこみ、袋の中から今度は二枚クッキーを取り出した。
「蛍も食べるか?」
「うん!」
ハートの形のクッキーにはむはむとかじりつく蛍。
そんな嬉しそうな蛍の様子を見ながら、俺ももう一枚、口にほおりこんだ。
ありがとな、蛍。
あとさ・・・・・・・・これやっぱりカメだよな?
(ベスパ)
初夏の夜。
涼しい海風がアタシの頬を撫でてゆく。
うみほたるとか言うところのデッキの上。
すでに太陽は水平線の彼方に沈み、ライトアップされたデッキでは、人間達が愛の語らいとやらをしている。
そんな中、アタシはトウキョウ湾・・・・・・・・アシュ様が最後の時を迎えた場所を見つめていた。
蛍とあった後、たまにアタシはここへやってくる。
アシュ様の願いをちゃんと果たせているか・・・・・・それを自分の中で確かめるために。
柵に寄りかかり、暗い海を見つめる。
月の光が波に反射して、海原に揺らめく白い帯を作り出していた。
「お父さん・・・・・・か・・・・・・」
手に持っていた包みを開く。
中に入っているのは、パピリオのために作ったハニークッキー。あとで魔界に戻ってからジークフリートにでも頼んで、パピリオに届けてもらおうと思っているやつだ。
そのクッキーの中から一つだけ拝借し、かじる。
「・・・・・・甘いな」
食べられない事はないが、基本的に甘いものは苦手。
けれどそんな甘さが、何となく心地よかった。
もう一度海の方に視線を向ける。
「父の日・・・・・か・・・・」
暗い海。
しかし広く大きな海。
小さく、誰にも聞こえないようにつぶやく。
たった一人、お父さんに聞いてもらえればいいのだから・・・・・・
『・・・・・・・・・・・・』
つぶやいた言葉を海風がそっと水平線へと運んでいってくれる気がして・・・・
今日の風は、やけに優しかった。
(後書き)
どうも、セラニアンです。『父の日』企画という事で、『宝珠師横島 side-stories ~Thank you for my fathers~』をお送りしました。
さて、続編をお待ち頂いておられる方、大変申し訳ありません。私自身、思うところがあり、当初のプロットを全面的に見直しております。はやく完成させなければと常々思ってはいるのですが、どうしても納得のいく話にならず、書き直しを繰り返しております。そのため、予定していた以上の時間がかかってしまった事を深くお詫びすると共に、もうしばらくお時間がかかることを、平にご容赦ください。
それではまたお会いできる日を切に願って・・・・