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「宝珠師横島before 〜The Broken stones〜 最終話 (GS)」

セラニアン (2005-05-08 14:27/2005-05-08 14:37)
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 ほ・・・ほ・・・ほたる来い


 こっちの水は・・・甘いぞ


 こっちの水は・・・辛いぞ


 ほ・・・ほ・・・ほたる来い


 ・・・・・ほたる


 ・・・・・ほたる


 ・・・・・・・・・・・・・ほたる・・・・・来い


 宝珠師横島before 〜The Broken stones〜

 -----最終話『心・掻き集め』


(ベスパ)

 今日も離れの縁側で、三人身を寄せ合って過ごす。変わった事と言えば、前まではパピリオを挟んで、右にヨコシマ、左にアタシという並びだったのが、右にアタシ、そして左にヨコシマと、座る順番が変わったくらいだ。


「それで・・・でちゅね・・・・・あの時は・・・」


 ぽつりぽつりと・・・途切れがちなパピリオの声が、空気にとけ込んでゆく。以前は途切れることなくしゃべり続けていたが、もうそんな『必死さ』も、影を潜めてしまった。


 いや、それも当然だろう。


『・・・ザリッ・・・』


 耳障りな音が聞こえる。

「ヨコチマ!!」
「・・・あ・・・すまん・・・つい」

 パピリオがヨコシマの右手をつかむ。ヨコシマの首筋には、掻きむしった跡。

「・・・すまん」
「う・・・ううん、いいんでちゅよ・・・」

 ヨコシマの右腕を抱きしめながら、またぽつりぽつりと話し出すパピリオ。


 もうヨコシマの自殺未遂は、二桁を超えた。そして今のように、自分の首筋を掻きむしるといった自傷行為は、癖を通り越して、呼吸のように自然になった。

 ポチの腕をかき抱くパピリオの手には、いくつものひっかいたような傷跡。それは昨日、舌をかみ切ろうとしたヨコシマの口の中に、パピリオが自分の手を無理矢理つっこんでついた傷。もしパピリオが魔族でなかったら、間違いなく肉をかみ切られていただろう。


「・・・あは・・・あははは・・・まったく・・・小竜姫にも・・・」


 もうヨコシマもアタシも・・・そして何よりパピリオも、限界を通り越してしまって、惰性で生きているようなものだ。惰性のままヨコシマは自殺未遂と自傷行為を繰り返し、惰性のままアタシはヨコシマを止め、そして惰性のまま、パピリオはうつろな笑いを浮かべるだけ。


 心はすり減り、意志は砕け散り・・・アタシたちの目に光はない。


(いったいいつまで・・・続くんだろうな・・・)


 もうピリオドを打つ気さえ、起こらない日々。


 壊れる事さえ・・・いや、もう壊れているか・・・出来ない毎日。


 アタシたちに出来る事は、ただ繰り返す事だけ。


「あは・・・あはは・・・あはははは・・・・はは・・・は・・・・・ぅぅ・・・ぅぅぅぅ・・・ぅぅぅぅぅっ・・・」


 もう笑顔さえ忘れてしまったパピリオの顔が、ゆがむ。


「・・・・ゃでちゅ・・・ぃゃでちゅ・・・・・・こんなの・・・ぃやでちゅ・・・」


 涙すら枯れ果てていて、それでも泣いていると分かる。


「いやでちゅ・・・もうこんなの・・・いやでちゅよぉぉ・・・」


 ほんのすこし、ヨコシマの顔が動く。その焦点は、パピリオへと。


「・・・なんででちゅか・・・こんな・・・こんなの・・・いらないでちゅ・・・」


 ついにパピリオの目から、涙がこぼれる。枯れ果てていた、あのパピリオの目からだ。


「こんなの・・・こんなのあたちは欲しくなかった!あたちはただ・・・ルシオラちゃんがいて・・・ベスパちゃんがいて・・・ヨコチマがいて・・・ドグラ様がいて・・・みんなで一緒に生活していて・・・それで・・・それで良かったんでちゅ!!」

「パピ・・・おまえ・・・」


 今までかすれていたその声は、いつのまにか絶叫になっていた。


「欲しくない!!あたちはこんなの欲しくない!!」


 叫ぶ。それはきっと、パピリオの魂からの声。


「なんででちゅか!どうしてでちゅか!!ドグラ様も・・・ルシオラちゃんも・・・ベスパちゃんもヨコチマもいないのに・・・なんで!!!なんでなんでなんでなんでなんで!!!!!」


 ヨコシマもアタシも、ただ呆然とパピリオを見る。


「いらないっ!!あたちはいらない!!!こんな世界・・・なくなっちゃえばいいんでちゅ!!!!!!!!!!!」


 思わず思考が熱くなる。右手を思わず振り上げ・・・


『パシッ!!』


 縁側からパピリオが転がり落ちる。振り抜いた形で固まるのは・・・ヨコシマの腕。


『・・・え?』


 パピリオとアタシの口から、思わず声が漏れる。

 数秒してから、ようやくヨコチマがパピリオに手をあげたという事実が、理解できた。


「・・・あっ・・・」


 今まで光を失っていたヨコシマの目に、光が戻る。呆然と振り上げられた自分の手と、頬を押さえながら、地面で尻餅をつくパピリオとを交互に見る。


「ぅぁ・・・・ぁぁ・・・ぁぁ・・・・」
「あは・・・あはは・・・いやでちゅね・・・ヨコチマ・・・飼い主に手をあげるなんて・・・・なっていまちぇん・・・よ・・・・あはははは・・・」

 うめき声を上げるヨコシマと、無理に笑おうとするパピリオ。ヨコシマ程度の力では、パピリオの頬は腫れるどころか、赤くなることすらしないだろう。いや、もしかしたらヨコシマの手の方が腫れるかも知れない。

 しかし間違いなく『ヨコシマ』が・・・『パピリオ』を・・・打った。


「ぅぁ・・・ぁぁ・・・すま・・・すまん・・・パピリオ・・・・ぁぁ・・・俺・・・俺・・・何を・・・・すまな・・・俺・・・ぅぁぁ・・・」


 顔をゆがめ、後ずさるヨコシマ。それはまるで未知の恐怖から逃げるように。


「あはは・・・べ、別に・・・痛くも・・・なんともありまちぇん・・・から・・・」

 そんなヨコシマに、笑顔を浮かべようとするパピリオ。しかし眼からこぼれ落ちる涙は本物で、その笑顔をますます痛々しく見せている。


「ぁぁ・・・ぅぁぁぁぁぁあぁぁぁああああああああ!!!」

 後ずさっていたヨコシマが、ついに逃げ出す。


 糸が切れたように、仰向けに倒れるパピリオ。

「あはは・・・・ははは・・・・あはははは・・・・・あは・・・・は・・・・ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」


 声をあげずに泣くパピリオ。


 その時になってようやく、自分の手が振り上げられたままになっている事に・・・


 アタシは気づいた。


(パピリオ)

 呼吸が辛い。


「ぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・ぅぅ・・・ぅぅぅ〜・・・」


 心が苦しい。


「ぁぅぅ・・・ぁ・・・ぅぅ・・・・ぁぁぁぅぁぁぁ・・・・」


 そしてヨコチマに叩かれた頬が・・・『痛い』。


「ひぐっ・・・・ひっ・・・ひぐっ・・・・・ぅぅ・・・・あぅぅぅぅぅ・・・・」

 頭の中がぐちゃぐちゃで、何にも考えられないでちゅ。

 ただ痛くて・・・痛くて・・・『痛い』。

 心が・・・『痛い』。


(・・・・あ〜空はこんなに・・・青かったんでちゅね・・・)


 投げ出した手で地面を撫でる。手のひら・・・そして背中や後頭部に当たる石のゴツゴツした感触が新鮮で・・・。


(あぁ・・・空がこんなに青いから・・・だからわたちは泣いてるんでちゅね・・・)


 ぐちゃぐちゃの頭にぽっと浮かんだ。ああ、なんかそうかもしれないでちゅ。

「ひっ・・・ひあっ・・・・ぅぁ・・・あぅ・・・ぅぅ・・・ひぐっ・・・・ひぐっ・・・」

 涙にぼやけた空。そういえば涙って・・・こうやって流すんでちたね。


 手に力を込める。でも力が入らない。

(あ・・・はやくヨコチマの所に行かなくちゃ・・・)

 そう思っているのに、まるでグニャグニャになってしまったように、力が入らない。

(そういえば・・・ベスパちゃんがいまちたね・・・)

「ひっ・・・ひぐっ・・・・ひぐっ・・・・ベス・・・ひぁっ・・・・ベスパ・・・」


 そういえば声を出すのって・・・辛かったんでちゅよね。


「ベス・・・・ベスパちゃ・・・ん・・・」
「!?・・・どうした、パピ!」


 あはは・・・どうしたんでちゅかベスパちゃん、そんなに慌てて。

「ひぐっ・・・ヨコチマのとこに・・・っく・・・行ってくだちゃい・・・」
「・・・・っ!!!」

 何かベスパちゃん、変でちゅよ。ほら、わたちは全然平気でちゅから。


「パピ・・・お前・・・」
「ほら・・・わたちもすぐ行きまちゅから・・・」


 ああ、ベスパちゃん・・・なんでそんなに泣きそうなんでちゅか?

 そっか・・・空がこんなに青いからでちたね。


「ポチには・・・あたち達が付いてなくちゃ・・・ダメなんでちゅよ・・・」

 ああ、そうでちゅね。あたち達がポチの飼い主なんでちゅから・・・ちゃんと面倒見なきゃいけないんでちゅから・・・だから・・・。

「ほら・・・早く行ってくだちゃい・・・」
「・・・・っぅ!・・・・・・ああ・・・わかった・・・」

 ポチの走っていった方に、飛んでゆくベスパちゃん。そうでちゅ、それで良いんでちゅ。


「ぅぅぅ・・・ぁぅぅ・・・・」


 ああ、空がこんなに青いから・・・また泣けてきまちたよ。


 ちょっと待っててくだちゃいね・・・ポチ。


(ベスパ)

「・・・・・・ヨコシマ」


 ヨコシマの姿は、すぐに見つけることが出来た。しかしあまりに壮絶なその姿に、歩み寄ろうとした足がすくんでしまった。


「ぅぁ・・・ぐぅ・・・・あっ!・・・あぁっ!!・・・・とれな・・・ぅあ・・・がっ!!がぁぁっ!!!!」


 右手を・・・パピリオを打った右手を何度も何度も岩に打ち付け、その手で左手に結ばれたバンダナをほどこうと藻掻く。しかし血にまみれ、ほとんどの指があらぬ方向を向いてしまった右手は動かず、それなのに結び目をほどこうとして・・・また打ち付ける。


「ぁぁ・・・くそっ・・・・くそっ!!なんでだよ・・・何で・・・・ぁぁぅぁ・・・・くそっ!!!・・・くそっ!!!!!」


 そして右手が使えないと気づくと、今度はその口で手首にかぶりつく。バンダナをむしり取ろうと・・・あわよくばそのまま手首を食いちぎろうと・・・。


『ぐちゃぐちゃ・・・ぐちゃぐちゃ・・・』


 まるで肉食動物が、骨付き肉にかぶりつくように。

 しかししっかりと結びつけたバンダナはほどけず、それでも歯が折れるまで何度も何度もかじりつく。

 そしてまた右手でほどこうとしてあがき、歯でかみ千切ろうとして藻掻く。


「・・・・うくっ!!!」

 思わずこみ上げる吐き気を、無理矢理押さえつける。


 震える足で、ヨコシマに近付く。

「ヨコシマ・・・」

「・・・・ベス・・・パ・・・?」

 振り返るヨコシマ。思わず悲鳴を上げそうになるのを、堪える。


 口の周りは血だらけで、頬に付いているのは、おそらく自分自身の肉片。餓えたケルベロスでも、もっと上品な食べ方をするだろう・・・と、あまりの光景に逆に思考が追いつかなくて、そんな事を考えてしまう。


「ベ・・・ス・・パ・・・」


 ふらふらと近づくヨコシマ。アタシの足は、動かない。


「・・・ぅぁ・・・ベスパ・・・頼む・・・」


 アタシにすがりつき、懺悔するように膝をつくヨコシマ。


「・・・頼む・・・頼むから・・・・俺を死なせてくれ・・・」


 血と涙とよだれで顔をぐちゃぐちゃにし、アタシにすがりつくヨコシマ。アタシをつかもうとのばされた右手は、もう『手』という機能を果たさないのに・・・それでも何とかアタシをつかもうとして、アタシの身体に血の跡をつける。


「死なせてくれ・・・頼む・・・・俺を・・・」


 哀願。ふと既視感に駆られる。


 そういえば・・・知っている。


 アタシはこの眼を・・・知っている。


 全てに絶望し、全てにうちひしがれ・・・それでもたった一つの希望にすがる。


「俺を・・・・死なせてくれ・・・」


 ああ、そうか。


 この眼は・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アシュ様・・・」


「・・・ベスパちゃん?・・・ヨコチマ?」

 その声に、はっと我に返る。

 その空白は、一秒か・・・一分か・・・一時間か。


 気が付けばポチは、ぴくりとも動かなくなっていて・・・そしてアタシの手はポチの首をしっかりと絞めていた。


『・・・どさりっ』


 呆然。

 アタシの手から力が抜け、ポチの身体が崩れ落ちる。

「あれ・・・ヨコチマ?どうしたんでちゅか・・・ヨコチマ?」

 ふらふらと近寄るパピリオ。

 崩れ落ちたヨコシマの傍らに膝をつき・・・その身体を、揺する。

「あれ・・・何ふざけてるん・・・でちゅか・・・飼い主をバカにすると・・・ご飯・・・抜きでちゅよ・・・・・・」

 パピリオがヨコシマの身体を、ゆさゆさと揺する。


 何度も・・・何度も。


 その動きはだんだん大きくなっていき・・・しかしヨコシマはぴくりとも動かない。

「こらヨコチマ・・・こんなとこで寝ちゃダメでちゅよ・・・ほら・・・起きるでちゅ、ヨコチマ・・・早く起きるでちゅ・・・ヨコチマ・・・・ヨコチマ・・・」


 ゆさゆさ・・・ゆさゆさ・・・。


 壊れた木こりの人形のように、ヨコシマを揺すり続けるパピリオ。

「ねぇ・・・ベスパちゃん・・・起きないでちゅ・・・ヨコシマが・・・・起きないでちゅよ・・・」


 目を極限まで見開き、呆然と私を見上げるパピリオ。


 膝から力が抜け、私もひざまずく。


「・・・・・・・アタシ・・・なのか・・・?」

 呆然と自分の両手を見つめる。先ほどまでヨコシマの首を絞めていただろう、自分の手を。


 世界からすべての色が消えてゆく。


 世界からすべての音が消えてゆく。


『ぽうっ』


 空はもう青くなく、どこからともなく、小さな光が舞い降りる。


 どこからか舞い降りた・・・それは小さな虫が発する光。


 色も音もない世界でその光は・・・・


 ただ・・・・


「おまえは・・・魔族が支配する世界がどんなものだと思う?」
「は・・・?」

 思わぬ問いかけに振り返る。視線の先には・・・アシュ様?

「そりゃーやっぱり・・・」

 ああ・・・そういえば、今は深海だったっけ・・・。

「・・・こんな感じじゃないでしょうか?」

 思い浮かんだイメージをアシュ様に伝える。

「フ・・・違うな・・・・!」

 口元にほんの少し笑みを浮かべ、そして遠く・・・はるか手の届かない遠くに視線を向け、つぶやく。


 アシュ様の独白。それはまるで、疲れ果てた老人のする、昔話のようで。


「アシュ様は・・・それに反対なのですね?」
「当然だ!」

 それは滅多に見る事のない、アシュ様の姿。

「私はまっぴらだ!救われる日が、永久に来ないのなら・・・いっそ滅んだ方がいい!!・・・だが・・・」

 アシュ様の激昂。しかしその声色は、すぐに諦めの色に変わった。


『魂の牢獄』


 アシュ様をとらえる、絶望。


「私は必ず抜け出してみせる!!どんなことをしてもだ!!たとえ造物主が相手でも・・・・」

 アシュ様の歯が『ギリッ』っと鳴る。しかし歯をかみしめるのは、きっとアシュ様自身を奮い立たせ・・・そして耐えるため。

「同じようにあがく者を、踏みにじってもだ・・・・!」


 虚空をにらみつける眼。それはどこかで見たような・・・『眼』。


「アシュ様・・・」


 違う・・・!!


 自信を持って、それが理解できる。そう、私は知っている。アシュ様が本当に望んでいる事を。


「アシュ様は・・・本当は滅びたいのですね?もう誰も・・・踏みにじりたくないから・・・!」


 そう、アシュ様が本当に望んでいること。それは・・・


「いや・・・もう私の願いは果たされた・・・」


「えっ・・・?」

 しかし帰ってきたのは、私の知らない言葉。

 アシュ様の口に浮かぶ笑み。兵鬼の中だったはずなのに、気づけばそこは見覚えのある・・・

「バベルの・・・塔・・・?」

 アシュ様の精神エネルギーによって創られた、バベルの塔。ここはその最奥部だった。


「ベスパ・・・宇宙とは・・・『世界』とはなんだと思う?」

 悠然としたアシュ様。いつの間にか、アシュ様の手に握られていたのは・・・『宇宙のタマゴ』?

「え・・・?」
「この宇宙・・・つまり『世界』にある全ての物理法則は、常に消滅を目指している。なのになぜ、『世界』は宇宙意志をつかってまで、生き延びようとするのだと思う?」


 急な事に頭がついていかない。世界?宇宙意志?

 いったいアシュ様は何を・・・?


「それはなベスパ・・・『世界』もまた『魂』だからだ」

「世界が・・・魂・・・?」

「そう、『生命』の根幹である、存続し続けようとする・・・生き続けようとする力の源である『魂』。我々のいるこの宇宙も、言ってみれば『魂』を持ち、『魂』によって出来ているのだ」


 朗々と響くアシュ様の声。それは今まで聞いた事もないような、穏やかさを持っていた。


「この『宇宙のタマゴ』も、また同じだ・・・」


 右手に持った『宇宙のタマゴ』のひな形を掲げるアシュ様。


「宇宙が『魂』によって出来ているのなら、その逆もまた然り。『魂』を加工する事で、『世界』を創る・・・それがこの『宇宙のタマゴ』なのだよ」

 掲げられた『宇宙のタマゴ』。しかしその『宇宙のタマゴ』はよく見ると、本来のような輝きはもっておらず、今にも消えそうな弱々しい光しかない。


「フ・・・」


 アシュ様が笑う。するとどこからともなく聞こえてくる、詩。


『ほ・・・ほ・・・ほたる来い

 こっちの水は・・・甘いぞ・・・

 こっちの水は・・・辛いぞ・・・

 ほ・・・ほ・・・ほたる来い

 ほたる・・・ほたる・・・ほたる・・・・・・来い・・・・・』


 その詩に惹かれるように、どこからともなく飛んできたのは・・・小さな蛍。それは見覚えのある蛍で・・・


「ルシ・・・オラ・・・・・・?」


 間違いない。それはルシオラの残った霊波片をどうにか寄せ集めた・・・ほたる。

 その蛍は吸い込まれるように、『宇宙のタマゴ』の中に消えていった。


「これだけでは足りない。だが・・・」


 アシュ様は左手を自分の胸に当てると、そこから何かを引っ張り出す。それは蛍のような、小さな光。


「・・・生きている人間の『魂』を削る事は出来ない。だが今なら問題はないだろう」

 もちろん蘇生せねばならないがね、とつぶやくアシュ様。

 そしてその小さな光も、同じように『宇宙のタマゴ』に吸い込まれてゆく。


「さあ・・・」

 目を閉じるアシュ様。目に見えないが、その右手にもつ『宇宙のタマゴ』に、膨大な『魔術』が・・・それこそ『無限』に限りなく近い『魔術』が編みこまれてゆく。

 弱々しかった光が、だんだん強くなってゆく。それはまさに・・・『生命』の光。


 アシュ様の閉じられていた目が開く。

「ベスパ・・・」

 アタシに歩み寄るアシュ様。その右手に握られた、脈打つように点滅を繰り返す『宇宙のタマゴ』を、アタシに差し出す。


「この身に残された残滓である私では、これが限界だ・・・」

「アシュ・・・様・・・?」

「お前の姉と・・・あの少年との間に生まれた『命』だ。どうかお前が、見守ってやってくれ・・・」


 震える手で、その『命』を受け取る。気が付けばタマゴ大の大きさだった『宇宙のタマゴ』は、小さなビー玉くらいの大きさになっていた。


 呆然とするアタシに、アシュ様の左手が掲げられる。


『くしゃッ・・・』


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・アシュ・・・様」


 アタシの頭を優しく撫でる、アシュ様の手。記憶に残る、ぬくもり。

 記憶と違うのは、その手首に巻かれた赤い布だけ。


「よく最後まで見届けてくれた・・・我が娘よ・・・・・・」


 その眼は穏やかで、優しく・・・


 そして儚く見えた。


「信じないかもしれないが・・・・」


 意識が遠のく。

 世界に色が戻ってゆく。

 世界に音が戻ってゆく。

 でも撫でられた手のぬくもりは消えずに・・・


「アシュ・・・様・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛していたよ」


『おぎゃあ・・・・おぎゃあ・・・』

 耳元で響く泣き声で、目を覚ます。

 目に入ってきたのは、泣き声を発しながら光り輝く・・・『文珠』。


「う・・・うぁ・・・」
「あれ・・・あたちは・・・いったい・・・」


 同じように目を覚ますパピリオと・・・ヨコシマ!?しかし次の瞬間、二人とも目の前の光景を見て、固まってしまった。


『魂』


 そう文字が込められた文珠は、まるで赤ん坊のような泣き声を発しながら、ふわふわと空中に浮かんでいる。


『おぎゃあ・・・おぎゃあ・・・おぎゃあ・・・』


 ゆっくり点滅を繰り返す文珠。その泣き声に合わせるように、光がだんだん大きくなってゆく。


 そして・・・・・


「・・・おぎゃあ・・・!!」


 周りに満ちあふれる光。ひときわ大きな泣き声。


『産声』


 ふわりふわり・・・生まれたばかりの姿で、ゆっくりと舞い降りてくるのは、一つの『命』。


「おぎゃあ・・・・・おぎゃあ・・・・・」


 泣き声に惹かれるように、三人で手を伸ばす。その中央に降りてくる赤ん坊。


 腕にかかる、軽いようでずっしりとした『命』の重み。


 暖かくて、そして熱い『命』のぬくもり。


「おぎゃあ・・・おぎゃあ・・・おぎゃあ・・・」


 生まれた喜びを表すように、泣き続ける赤子。

 ああ、もう何がなんだか分からない。

 しかし、今この腕にかかる重みと、感じるぬくもりは本物で・・・。


「おぎゃあ・・・おぎゃあ・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・』


 アタシの目から・・・パピリオの目から・・・そしてヨコシマの目から、ぽろぽろと涙が落ちる。


 腕の中で泣き続ける赤ん坊。


 しかしその泣き声は決して悲しみではない。『命』への・・・『生』への・・・それは喜びの声。


「ぁぁぁ・・・・・・・・・わああああああああああ・・・・・・ああああああああああ・・・・」


 赤ん坊の声に釣られるように、声をあげて・・・大きな声をあげて泣き出すパピリオ。


「ぅぁ・・・・ぅあ・・・・ぁああああああああああああああああああ・・・・・・」


 赤ん坊と、パピリオに釣られて・・・大声で泣き出すヨコシマ。


 そして・・・


「おぎゃあ・・・・・・おぎゃあ・・・・・・おぎゃあ・・・・・・おぎゃあ・・・・・・おぎゃあ・・・・・・・・」

『わああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・』


 大声で・・・・・声を張り上げて・・・・・。


 砕け散った心はバラバラで、まだまだ元には戻らないけれど。


 その欠片をかき集め・・・・・4人で・・・・・泣き疲れるまで・・・・・


 ああ、空はこんなにも・・・青い。


(後書き)
 どうも、セラニアンです。『宝珠師横島before 〜The Broken stones〜』、最終話『心・掻き集め』をお送りしました。

 さて、これはきっかけにすぎません。本当の意味で彼らが立ち直るまで、まだまだ長い月日がかかる事でしょう。しかし深い闇の中に、ともった光。例えそれが小さな光でも、その目印がある限り、きっといつか闇から舞い戻ってきてくれる・・・そう信じて。

 この<The Broken stones>編を通して、皆様の心に残った『何か』・・・。その『何か』を持って、もう一度<The Jewelry days>編を思い起こして頂ければ、これほど作者としてうれしい事はございません。


 またしばらく間をおきまして、次回は<The Fluorite’s vacation>編をお送りする予定です。今度は心機一転、暗雲払拭、『ヨコシマ一家』の沖縄旅行!


 それではこの度も最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。またの機会があれば、よろしくお願いいたします。


(後書きの後で・・・)


 『絆・いつでも』


「ヨコチマ・・・本当に行っちゃうんでちゅか?」

「蛍にもっと広い世界を見て欲しいからな・・・大丈夫、ときどき帰ってくるし、それにいつでも遊びに来ればいいからさ」

「・・・・」


 寂しそうな顔をするパピリオ。この数年の間、ずっと一緒に過ごしてきたのだから当然だろう。

 しかし、蛍にはもっと色んな世界を見て欲しい。この妙神山の中だけじゃだけじゃなくて、もっと大きな世界を。パピリオには本当に悪いと思っているけれど・・・。

「・・・おねえちゃん」

 蛍も不安そうな表情を浮かべる。

 この二人にこんな顔をされては、まるで自分が悪人のように思えてきてならないのだが・・・。


「こらパピ、お前がそんな顔したら蛍まで不安になるだろ?」
「ベスパちゃん・・・」
「会いたかったらいつでも遊びに行けば良いんだから・・・そうだろ、義兄さん?」
「ああ」

 目線でベスパに礼を言う。


『いつも悪いな』
『かまわないよ』


 ベスパの目がそう言っているのが分かった。


「パピリオ・・・」


 ひざまづいて、小指を差し出す。

 俺の意図を察して、俺の小指に自分の小指をからめるパピリオ。

「ん・・・ほたるも・・・」

 自分も入りたいのか、俺たちの小指に引っかけるように、蛍のちっちゃな小指が加わる。


『じーーーーーー・・・』

 蛍とパピリオの無言の視線。


「ふふ・・・わかったよ」

 苦笑しながら腰をかがめ、三人の絡まった小指に、上からそっと自分の小指をからめるベスパ。


 小指と、小指と、小指と、小指が絡まった不思議な山。


「お兄ちゃん・・・約束でちゅよ」
「ああ、もちろん・・・約束だ」


 そうして示し合わせたように、四人で声を合わせる。


『ゆ〜び切〜り、げ〜んま〜ん

 ウ〜ソ付〜いた〜ら、は〜り千本・・・の〜ます

 ゆ〜びきった!!!』


 歌い終わる。


 でも歌のように、からめた小指は決して切らない。お互いの目を合わせ・・・・・それからゆっくりと放す。


 何があっても・・・例え離れていても・・・4人は一緒。


 いや、ルシオラもいれれば5人かな?


「それじゃあ・・・またな」
「ああ」
「またでちゅ!」
「またね・・・おねえちゃん・・・」


 俺たちを祝福するように。


 空はとっても・・・・・青い。


 --------------そして、宝石のような日々へ・・・・・・

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