来訪者、横島忠夫 第2話
「ランス……」
横島は目の前の、ランスと名乗った男を唖然とした様子で見ている。
あまりにもでかい態度に呆れてしまったのだろうか。
ランスはそんな横島の態度に気づき、更に喋りかけてくる。
「ところでお前は何者だ?何故反乱軍でもない奴がこんな所にいやがるんだ?」
「あ、お、俺は横島忠夫って言います。なんでこんな所にいるんだって言われてもそれは俺の方が聞きたいぐらいでして…」
「ヨコシマ?変な名前だな。…いや、JAPANの人間か?」
ランスは横島と言う名前からJAPANの者であると推測した。
「JAPANって日本のことっすか?だったらそうっす。」
この時点で二人の思っている場所は全く違うのだがお互いにその事は気づかない。
もっとも名前は一緒なので気づけと言う方が無理があるのだが。
「だったらなおさらの事だ!てめえなんでこんな所にいやがるんだ?」
「だからそれは俺の方が……」
さっきと同じやり取りが繰り返されようとしたが、その邪魔をするかのごとくランスの後ろから声が聞こえてきた。
「キング!」
「あ?リックか、どうした?」
ランスはキングという声に反応して後ろを向く。釣られて横島も同じ方向を振り向く。
「うおっ!?」
思わず驚きの声を上げる横島だがそれも無理は無い。
そこには数百はいるかと思われる赤と白を基調とした鎧を身に着けた集団がいた。
どうやらさっきからいたみたいだが横島は死体とランスに気を取られて気づかなかった様だ。
いわゆる騎士団と言うやつなんだろうか?横島は頭の中で一人ごちる。
その中で先頭に立っている長身の男。
他の者より明らかに質の良いと思われる鎧に加え、額に「忠」の文字が刻まれた兜を着けている。
どうやらランスを呼んだのはこの男のようだ。
「はっ!先程バレス将軍から連絡がありまして反乱軍の総大将であるエクス将軍を捕らえたとの事です」
「がっはっは!そうか、よしそれじゃあ早速そのエクスって奴の面でも拝みに行くとするか!」
「キング!何卒、エクス将軍には寛大な処置をお願いします。」
「ああ?俺様に逆らった男に寛大な処置だ!?ったくハウレーンといい、メルフェイスといい、更にはお前もかよ」
「申し訳ありません。ですがエクス将軍がこのような行動を取ったのは……」
「…………むむっ!」
リックと呼ばれた男とランスが話をしているその時、横島の目が突如輝きを放つ。
我が求める者を見つけたり
横島の霊力がぐんぐん充電されていく。
そしてそのまま己の本能の赴くままにすぐさま行動を起こした。
この時のスピードは小竜姫や韋駄天等が使う超加速にも勝るとも劣らずと言ってもさほど誇張にはならないであろう。
「…っとそうだ、リック。こいつを城まで連れて行け。」
ランスはそう言うと横島がいた方向に向かって剣を指す。
「こいつとは……どこにいるのですかキング?」
「ああ?だからこいつを……ってあれ?」
横島のいた方を向いてみると何故か横島の姿は無い。
話をしている間に逃げられたか?
ランスは一瞬そんな事を考えたがリックの後ろから聞こえてきた声でそうではないのだと気づく。
「ねえねえか〜のじょ!可愛いね、名前なんて〜の?僕横島!」
「え、え、……メ、メナド・シセイって言いますけど」
「うわ〜名前まで可愛いね。どう、よかったらこれから僕とお茶でもしませんか!?」
「え、そ、そんな可愛いだなんて……」
「………キ、キング。もしかして、彼の事でしょうか?」
リックのすぐ後ろに控えていた女の子に対していきなりナンパをしている横島。
一体、どこでお茶をする気なのかはわからないが一気にまくし立てて喋りかけている。
メナド、と名乗った女の子はそんな横島の可愛い、と言う言葉が聞きなれないのだろうか顔を真っ赤にしている。
ちなみにメナドのいる場所より遥か後ろにいるある男はそれ以上に顔を真っ赤にしていた。
もっとも、その表情から照れが原因では無いのは明らかなのだが。
「……キング?」
「……………ぷちっ……」
いきなり自分が狙っていたメナドをナンパする横島。
そんな横島の言葉に顔を赤くしているメナド。
それだけで十分である。
彼のクモの糸よりも遥かに細いとされている堪忍袋の緒を引きちぎるには。
ランスは腰の剣を抜き、横島に向かって勢いよく切りかかっていった。
「え、え〜っとその僕には恋人がいますんで、って危ない!」
「へ……どあぁ!」
メナドの声によりランスの一撃を辛うじてかわす横島。
「な、何するんすかランスさん!?」
「やかましい!!てめえ、俺様の女(予定)に手を出すとはいい度胸してやがるぜ」
「え、…も、もしかして彼氏さん…ですか?」
実際は違うのだがランスの言葉でメナドの彼氏だったのかと思ってしまう横島。
すぐさまメナドが否定の言葉を上げようとしたがランスは口を挟ませない。
「せいぜい、城で尋問するぐらいで許してやろうと思ったが気が変わった!てめえはこの場でぶっ殺す!」
「なんでじゃああぁ!」
いくらなんでも目の前で恋人をナンパしたぐらいで殺すなんてやりすぎだろうが!!(本当は彼氏でもなんでもないのだが)
横島の心の叫びが自分だけに空しく響く。
「……おらよっ!!」
掛け声と共にランスが本気で剣を振ってきた。
(……は、はええ!)
これまでギャグモードでランスの剣をかわしてきた横島だったが、ここにきて相手が本気だと気づく。
その、凄まじい剣速に背筋がぞっとするが、なんとか体を捻ることでかわすことができた。
「何!?また避けただと?」
これまでとは違い、本気の本気(女絡みだから)で放った一撃を避けた横島に驚きを隠せないランス。
(……今の動き……シロより速かったぞおい…)
回避できたのはもちろん理由がある。
横島は以前から自分の弟子である人狼のシロを相手に修行をしていたのだ。
どうしても!っとシロに頼まれて嫌々ながら付き合っていた横島であったが今はその事に感謝しておこうと思う。
その修行が無ければさっきのランスの一撃はまず回避できなかったとわかっているからだ。
シロの剣ならば割りと楽に避ける事ができるようになるぐらいに成長していた横島だが、
ランスのは思いっきり必死じゃないとかわせなかった。
すなわち、ランスの剣速はシロの剣速よりも速い。
目の前にいるランスからは特別、強い霊力は感じられない。
つまり、ランスは自らの身体能力だけで、人狼であるシロを上回る動きをしてみせたのである。
本来、人狼の身体能力は人間のそれをはるかに上回るとされている。
だがランスはその定説を覆した。それがいかに異常な事か、横島は正しく理解する。
(こいつ、バケモンかよ…)
シロの攻撃をスイスイかわすことが出来る横島も一般人からすれば十分バケモンなのだがそのことは棚に上げておく。
横島はもはやランスに対して敬語を使う気になれなかった。
目の前の男は自分の命を狙ってくる”敵”なのだ。
横島もぐっと顔を引き締め、足をぐっと踏みしめる。
どうやら真剣に戦う気になったようだ。
「てめえ、素人じゃねえな!」
「ひいぃ、僕はどこにでもいるちょっと貧弱な坊やです!」
引き締まった顔はものの3秒で崩れ落ちた。
彼の真剣さは長く持たない所がミソである。
「舐めやがって……絶対ころーす!!」
その言葉を最後にランスは横島に向かい、剣を振りまくる。
「ぬぁ!!せいやっ!!なんとぉ!!」
気の抜ける声をかけながらもランスの猛攻をことごとくかわす横島。
それがさらにランスを苛立たせる。
「むがああぁ!!ちょろちょろすんじゃねえ!さっさと斬られやがれ!!」
「無茶言うなぁ!!」
こうして、もはや周りから見たらコントにしか見えない、滑稽な戦闘が再び行われるのである。
「あの人……すごい、王様の攻撃をことごとく回避してる」
「確かに。身のこなし等はどう見ても素人にしか見えないが……なぜあれでキングの猛攻をしのぐ事ができるのだろうか?」
横島とランスから少し離れた所でリーザス赤軍の将、リック・アディスンと同軍副将、メナド・シセイが二人の戦いを見学しながら話し合っていた。
「しかし、どうにも真剣味が感じられない戦いですね」
「そうですね」
ランスは思いっきり真剣に戦っているのだが、いかんせんその攻撃を回避する横島がとにかく格好悪い。
見ているだけでMPが吸い取られそうな動きをし続ける横島は見ている者をどんどん脱力させてしまう。
ちょっと一杯引っ掛けながらのんびりと見物をしたくなる喜劇にすら見えるのだから驚きである。
現にリックとメナドの後ろに控えている大勢の兵士達は完全にだらけていた。
「……どうします、援護でもしておきますか?」
あまりやる気の感じられない声でリックに質問するメナド。
「………手を出すとキングの機嫌が悪くなるでしょうし、もう少し様子を見ましょう」
「わかりました」
「………しかし何時になったら終わるんでしょうか」
「……そうですね」
早く帰りたい。
二人の思いは完全に一致していた。
「蝶のように舞い!」
実際はロボットダンスが関の山ではあるが。
「ゴキブリのように逃げる!!」
ズドドドドド
これは本当にゴキブリも真っ青である。
「こら!勝手に逃げるんじゃねえ!!」
慌てて横島を追いかけようとするランス。
(かわし続けるのはそろそろ限界だ。こっちも攻撃しないとやられる)
「と、見せかけてっ」
そういうと右手に自身の霊力を収束させて霊波刀、本人いわく「栄光の手(ハンズオブグローリー)」を作り出す。
「蜂のように刺す!!」
スパーン
横島の放った一撃はまるでハリセンで突っ込んだかのような奇麗な音を立ててランスのデコに直撃する。
「……何の真似だおらっ!!」
「ぬおぅ!!……ノーダメージですかい」
正確にはランスのデコはまっかっかになっており全くのノーダメージと言うわけでは無いのだが
結果的に、ランスの怒りを増幅させるだけとなってしまった。
(今のでダメだとしたら一体どうすりゃいいんじゃい!……むむっ!?)
「……何、あの光ってる……剣?」
「う〜ん、私の使っているバイ・ロードのようなものかな?いや、しかし彼は何も無い所から出した……」
突然、横島の手から現れた光る剣のようなものに驚いた二人。
そんな二人に突然後ろから声が掛かった。
「ちょっと、リック君。一体なんなのこの騒ぎは?」
「あ、レイラさん」
現れたのはリーザス国親衛隊の隊長、レイラ・グレイニーである。
「いつまで立ってもランス君がこないから呼びにきたんだけど、何がどうなってるの?」
「はい、それが「いや〜本当に俺が聞きたいぐらいですよ。ランスさんったらいきなり斬りかかってきたんですよ酷いと思いません?ところでお姉さん今お暇ですか?よかったらあそこの木陰で僕と愛を語らいませんか?ほら、風がすごい気持ちよさそうだし二人の愛を育むにはもう最適!」
「ちょ、ちょっとなんなの君は?」
先程まで向こうでランスと戦っていたはずなのにいつの間にかレイラの前に現れている横島。
同じ事をメナドにしたのが原因なのに懲りずにレイラにちょっかいを出す横島にリックは完全に呆れ果てている。
一瞬で姿を消した横島を探していたランスだったが、レイラを口説いている姿を見て完全にぶち切れた。
「貴様レイラさんにまで手を出すとはもう許さねえ!!食らいやがれ、ランスアタック!!」
気合と共にランスの剣から凄まじい気の塊が飛び、横島に襲い掛かっていった。
「……ぬおお!!」
流石に気づく横島。
そしてこの一撃をもらうと間違いなく気持ちよく昇天してしまうこともわかってしまう。
(あれはやばい、なんとしても避けんといかん!)
一瞬の判断でかわそうとするが、目の前のレイラを見て踏みとどまる。
(あかん、俺が避けたらこのお姉さまに直撃してしまう!)
となると自分が避けずにあれを受け止めなくてはいけない。
そうなると手段は唯一つ。
こんな訳の分からない所に飛ばされ、今後の事が一切読めない状況なのでできるだけ温存しておきたかったが今はそんな事も言っていられない。
横島はそう、自分の中で決着を着け自身の切り札をポケットから出す事にした。
「文殊!「護」ってくれ!」
文殊に「護」のキーワードを念ずる。すると目の前に防御壁が現れ、
ランスアタックを正面から受け止めた。
轟音とともにランスアタックと防御壁がぶつかり合い、
そして少しするとお互いが消滅していった。
「な、………お、俺様のランスアタックを受けて無傷だと?」
「な、なんちゅう威力だ。……一撃で文殊の防御壁がぶっ壊れちまった」
互いの最高の技を破られ、ショックを受けた二人。
特にランスは己の技に絶対の自信を持っていたため一層ショックが強かった。
(……残りの文殊は後3つか……)
一見互角に見えるが気を貯めれば特に制限の無いランスアタックに対して
横島の文殊には数に限りがある。
長期戦になれば横島の方が圧倒的に不利なのである。
(ちくしょう!こんな奴相手にしてられねえよ!)
追い込まれている横島は即座に逃亡する事を考える。
だが、周りを見渡す限り、自分の見方になりそうな者はいない、
仕方なく、横島は残り少ない文殊を再び使う事にした。
「もう、どこでもいいからとりあえずここから「脱」出させてくれぃ!」
そう言うと文殊に「脱」の文字が浮かび上がり
横島の体は一瞬でその場から消え去った。
そうなると目の前で消えられた周りの人間は当然驚く。
「な、どこに行きやがったんだ!?いきなり消えるなんて卑怯だぞ!」
「……どうやら逃げられたみたいですねキング」
努めて冷静に言うリック。
もちろん彼も内心では突然消えた横島に驚いているが
まずはランスを抑えることを優先した。
「……くそっ!よくわからんが逃げられたか」
「それよりランス君!一体何時まで油売るつもりだったのよ!
もうリア様が待ちくだびれてるわよ」
「あ、ああ悪い悪い、それじゃ行くとするか」
そう言ってランスは大勢の兵士を引き連れながら自分の城に向かって歩き始めた。
(くそ、くそ!あいつヨコシマとか言ったな。よくも俺様の女を口説きやがって…しかも俺様のランスアタックを…むかむかむか)
「次に会ったときは絶対に殺す!!」
一人、怒りに打ち震えるランスであった。
「ルドラサウム様」
「ん、どうしたのプランナー?」
「は、先程異世界からの侵入者が現れました」
「あ〜それ僕が頼んだの」
「は?」
「向こうの人達との約束で彼には手出しできないのが残念なんだけどね。でも、なんかそんなことしなくても十分楽しめそうだからまあいいや」
「…そうですか」
「ふふふ、面白くなりそうだよ」
後書き
横島とランスが一緒に行動するなんて無理
最初に美神が言ってたようにうちの横島はアシュタロス戦の時よりも結構強くなってます。でもランスもすごいです。めちゃ強いです。
超が付く遅筆の自分ですがなんとか週1ぐらいを目標にして頑張りたいと思います。