階段を上る影。
一歩一歩軋む階段を上る。
後ろ手を縛られているらしい、
階段に写る影がそうであることを示していた。
階段は13段目で終わっている。
白い世界が目の前に広がっていた。
足を置いていた場所が無くなる。
重力に従って身体は地面へと向かう。
首に掛けられていたロープだけで全体重を支える事は、人間には不可能である。
その男の生涯は幕を閉じた。
司法解剖の結果、死刑執行されたのはヨコシマ三世本人
であると結論された。
だが、信じようとしない男がいた。
真夜中の山道を走る1台の車。
車種はかなり古いブルーバード、博物館入りしてもおかしくない旧車だ。
無謀にもその旧車で雨の降る山道を猛スピードで駆け抜けていく。
車内だというのに茶系のトレンチコートを着たままで同色のソフト帽を
被ったまま運転している。
その男は必死の形相でブルーバードを走らせていた。
男は西条警部。ICPO所属の刑事である。
山道を登りきると、なにやら物の怪でも出そうな古城がそびえている。
臆することなく西条は古城の門を潜った。
かび臭い古城に入ると、迷うことなく地下室へ向かう。
石の階段を踏み外すことなく数段飛ばしながら走り降りる。
西条を迎え入れるかのように、階段には蝋燭が灯っていた。
革靴の足音だけが古城に響く。
最下層につくと行き止まりの扉を蹴り破り、古城の静寂さをも打ち破る。
地下室には洋風の棺桶が真ん中に安置してある。
気にする様子もなく西条は棺桶を開けた。
中を開けると、洋風の死に装束をまとい、それに不似合いな赤いバンダナを
つけた少年が胸の前で手を組まれて眠っていた。
西条は少年の顔を見ると口の端を歪めて笑った。
「は~はっは!!ピート君にあやかって永遠の命を得ようってワケか?
だがな物事には“限り”ってヤツがあるんだ!!!」
手にしていた木の杭を少年の死体目掛けて振り下ろす。
少年の身体が杭に突き刺された瞬間、少年の身体が爆発した。
「どわーーーーっ!!!」
かなりの爆発で城の床や壁の石も瓦礫と化している。
西条は瓦礫の山に埋もれていた。
「んふふふ・・・あ~~っはっはっは」
埋もれている西条を誰かが笑っていた。
西条は瓦礫から身を起こし、声の方向を探した。
「あ~~~~~!!!!!」
驚きの声が上る。
先程棺桶の中にいた少年が西条の眼前にいるのだ。
「あ~いかわらず殺気だってんなぁ~西条のとっつぁ~ん。」
「よ・・・横島君??き・・・君は死んだんだぞ??」
瓦礫からどけて立ち上がると、横島と呼ばれた赤いジャケットの少年は天井の
梁に足をかけてぶら下がっていた。
「らしいなぁ~・・・で俺も困ってんのよ。」
「確かに処刑された横島は本人だった・・・・それは断言できる。」
「簡単にいうなよ。そんじゃこの俺はどうなるんだよ。」
「そいつを確かめに来たんだっ!!」
近くにあった瓦礫を横島めがけて振りかざした。
横島はそれをかわすと地面に降り立ち、地下室から駆け出した。
西条も横島に続いて飛び出していく。
城の上へ上へと目指して駆け上がっていく2つの靴音。
吹き抜けのテラスで横島は巨大な蝙蝠傘の横に立っていた。
「その話は後でじ~っくり聞かせてもらうわ。」
蝙蝠傘を開くと、傘ではなく黒いハンググライダーである。
横島は蝙蝠型のハンググライダーに飛び乗ると、射出用のレバーを引いた。
おそらくスプリング式の射出装置であったのであろう。
轟音を残すことなくハンググライダーは城の外へ飛び出していく。
「ほんじゃお達者で~~~~♪」
その姿はまさに蝙蝠であった。
城の外にいた蝙蝠たちも仲間と思ったのであろうか、
ハンググライダーに併走していく。
後に残された西条は、テラスの先端までいくと身体が揺れていた。
身体が熱をだしているのが自覚できた。
「や、奴は本物だ・・・・生きていた、生きていやがった・・・」
逃げられた悔しさは毛ほど感じなかった。
腹の底から喜びが上ってきているのだ。
おもわず口から笑みが漏れる。
「ふ・・・ふふふふふふ・・・・あーーーっはっはっは。」
顔に手をあて込み上げてくる感情を露にした。
警察官としてはあるまじき態度である事は百も承知だ。
しかし西条は笑わずにはいられなかったのだ。
自分の人生の目標、横島三世が生きている。
それだけで彼は自分の存在を示すことが出来る。
これ以上の至福は無い。
西条は顔に当てていた手を背広の中に入れ、ショルダーホルスターの
ベレッタM92Fを抜いた。
「貴様が死なんなら俺も死なん。こうなったら終わりはないぞ!
貴様の骨に戒名を刻んでやるぞ!!!!」
拳銃の射程外の距離にすでに横島は飛んでいた。
そんな事は関係ない。
当たる当たらないではないのだ。
これが俺とお前の戦いの始まりだ。
祝砲にも似た発砲を西条は横島に向けた。
古城に拳銃の発射音が響いた。
横島三世VS(とりあえずまだ秘密)
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