〜第16話〜
立派な建物。
ピカピカの機材。
最新の機器に、建物にはエレベーター完備!
「……違う…除霊学部とはあまりにも違いすぎる…」
横島とピートは呆然としていた。
「はい、この書類ですね〜」
「ありがとう」
二人は美神教授に頼まれていた書類を受け取ると、足早に出口へと向かう。
「早く出るんだピート、ここに慣れたら除霊学部で生きていけない可能性が高いぞ」
「は…はい…」
何とかその建物からの脱出に成功する二人。
「わう!(待ってたでござるよ!)」
シロが二人を出迎える。
六道大学には色々な学部や研究所があるのだが……
その一つ、ここは術具製作学部…霊的装甲強化服研究所。
略して「霊甲研」であった。
ちなみにライバルは変身装具研究所である。
現在この二つの研究所は、次世代GS強化案について研究しているのだが。
ある程度強力で、限られた人間しか装着出来ないものの…
ベルト一式があれば何処ででも装着可能な、変身研の主力アイテム「ドライバーシリーズ」に対して…
霊甲研の目玉は…
専用のトレーラーでのサポートが不可欠で、パワーも若干劣るが…誰にでも装着出来る特殊装甲服「Gシリーズ」である。
「ドライバーシリーズ」は現在5つのタイプが製造、うち二つが実用実験の真っ最中だった。
「Gシリーズ」は、G1 G2 G3が試作されたが、いずれもパワー不足を解消出来ず…
G4は危険と判断されて廃棄、後に持ち出されて大騒動となったが…多くの犠牲の果てに無事破壊されている。
現在強化試験中のG3−Xに全力を注いでいる状態なのだ。
実質「G5」と呼んでも差し支えないかも知れない。
まあどれもコンスタントに実用化されるのは、まだまだ先だろうと言われている。
話を戻そう。
「ピート…ここで見た事を誰にも話すなよ…」
「特に…冥子さんには…ですね、絶対ひがんだ挙げ句ダダをこねますからね」
こそこそ話す二人の後ろに迫る影…
「何を〜ひがむの〜〜〜?」
「!?」
そこには、噂をすればなんとやら…六道冥子が立っていた!
「何〜〜〜隠し事はダメよ〜教えてくれないと〜〜」
ズゴゴゴゴ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
何だか良く解らないオーラが冥子の背後から立ち昇る!
「わかりました……」
横島達は即座に降参した。
ナニをやられるにしても、被害を免れそうに無かったからであるが。
「え〜〜ピカピカの最新機材〜〜?エレベーターまで付いてるの〜〜〜?そんな〜〜たった5階建てなのに〜〜〜」
憤慨する暴走プリンセス。
ちなみに除霊学部は4階建て、しかもお世辞にもキレイとは言い難かったりして…
「ウチなんか〜〜何があっても〜〜階段なのよ〜〜使い捨ての式神ケント紙だって〜出来るだけ再使用するんだから〜」
「………再使用って……(大汗)」
無茶な節約についていけない横島達。
式神ケント紙の再使用は、式神使い講座で最近始まったばかりなのだが…
良く解らない式神モドキが出来たりして大変評判が悪い。
例えば。
「行っけぇぇ!我がしもべ達よ!!」
いつもの如く式神ケント紙(ぽいモノ)をばら撒く揚羽。
何だかよれよれっぽいそれが、一生懸命蝶型の式神になろうとするが…
「ひっ!?」
揚羽の表情がまともに引き攣る。
それもその筈。
わっさわっさわっさ…
彼女の周りを飛び回るのは、なんだかモ○ラに似た蛾であった。
「ふふふふふ…ふざけるんじゃないでちゅぅぅぅぅぅ!!!!」
ブチキレ揚羽の咆哮が講座を震わせる。
てな事もあったりして。
「くやしい〜〜〜おウチにはお金いっぱいあるのに〜〜どうして講座は貧乏なの〜〜(泣)」
うるうると涙する冥子嬢。
「だからきっとゴミ捨て場にナニかイイモノ落ちてますよ」
横島の言葉に冥子は目を輝かせた!
「わあ〜楽しみ〜じゃ〜行ってくるわね〜〜〜」
インダラに乗ってぽっくりぽっくりと去っていく冥子。
「………うまくいきましたね」
ピートがニヤリと笑う。
「さあ…どうだろうな」
楽観視していない横島。
強引な追求に負けたふりをして、一番肝心な所はうまい事誤魔化したつもりの二人…つーかピートであった。
しかし…運命の皮肉は冥子に真実を知らせたのである。
「えっと〜〜なんだろ〜この折り畳み箱の〜様なのは〜?」
冥子は「GX−05(試)」と書かれた物を捻り回していた。
「つまんない〜」
ぽいっとそれを捨てる冥子。
それは折り畳み式ガトリングガン「GX−05”ケルベロス”」の試作品だったのだが、完全にロックされているため只の箱モドキと化していたりする。
他にも出てくる出てくる正体不明のゴミの数々が……
余談だが、変身研のゴミ捨て場は立ち入り禁止になっていて、近付く事すら出来ない。
何故なら…危険なできそこない変身ベルトが転がってたりするからである。
「ん〜〜これ何かしら〜?手甲の様なのに〜赤い棒が付いてる〜?こっちはぁ〜…変な三角形の棒〜?…あらぁ〜カブトムシみたいなのもあるわ〜〜…あ〜〜しょっとがんみたいなのに〜中が剣になってる〜〜?」
もう何が何だか解らない状態だ。
「う〜〜あとはベルトもどきいっぱい〜〜」
それは、G3ユニットのバッテリー残表示システムの試作廃棄品の山である。
「あら〜変なブレスレットもいっぱいあるの〜〜」
あちらこちらにゴロゴロしているブレスレットもどき…
例を挙げると、恐竜の顔の形をしている物やら手帳みたいだが下が開き○やら×やらが浮かぶ物体。
挙げ句の果てには携帯電話のよーで何故か人型に変形するキワモノだとか………
もうキリが無いので省略。
「あの、何かお探しですか〜?」
「あ…」
冥子が顔を上げると、そこには爽やかな笑顔の美少女が立っていた。
両手にはゴミ袋を持っている。
外見は15〜6にしか見えないのだが………
胸に付いているプレートが研究所の人だと証明していた。
しかも………
式神使い講座。
「しくしく〜〜〜なの〜〜」
「何も泣く事あらへんやん……」
さめざめと泣く冥子に困り果てている鬼道。
「どうしたんスか?」
通りがかりの横島達が声をかける。
「……霊甲研に〜美少女秘書さんが〜いたの〜〜」
「………!?」
「それだけは……知らせないでおこうと思ったのに…」
がっくりとうなだれる横島とピート。
「それで………意地悪とかされたんですか?」
ピートの質問に…
「ううん〜〜親切にしてくれたわ〜〜」
冥子の目の前の様々なアイテムが、真実を語っていた。
ここの所、実験と追試と訓練とバーゲン巡りで疲れていた冥子は…
美少女秘書の親切にあって羨ましいを通り越して、何だか悲しくなってしまったのだという。
辺りの雰囲気も何か悲壮感が漂っている。
「マーくん〜〜どうして〜〜除霊学部には〜〜秘書さんが〜〜いないの〜〜?」
涙目で訴える冥子。
「そうでちゅ!それにどーしてエレベーターが無いでちゅか?」
揚羽が追い打ちコンボをかける。
他にも最新機器がどーして無いかとか色々不満の声があがった。
「ど……どーしてと言われても…ただ伝統的におらへんとしか……言い様があらへんのや、予算も出てへんしな」
冥子の迫力に押されながらも抗弁する鬼道教授。
「みんなには…つい秘書的な仕事を色々分担して貰って悪い思てる…」
鬼道教授はすまなそうに言う。
「それは〜〜いいんだけど〜〜やっぱり〜秘書さんは〜?」
おねだりモードの冥子に、無言で首を振る鬼道。
「無理………でちゅか……」
がっくり。
壮烈に落ち込む式神使い講座の面々。
横島とピートには彼らの気持ちが良く解る。
何故なら二人も、美神教授の秘書のよーな仕事もさせられているからだ。
「はぁ………」
海より深い溜息を吐く二人だった。
除霊所。
「羨まないの!みっともないわよ…余所は余所!ウチはウチ!」
取り合おうともしない美神教授。
「そんな節分の豆撒きの様な事を言われても…」
顔を見合わせる二人。
「大体霊甲研とウチを比べるのが間違ってるの!あそこを大学の施設と思わない事ね!」
「はあ?」
良くわからない事をのたまう美神教授に二人は?である。
「霊甲研は……ハワイよ!その証拠にみんなサングラスをかけているわ!」
美神教授のバックに広がる南国の風景。
「それはレーザー兵器の実験をするからっスよ…」
まあ対閃光、対ショック防御!と言う奴であるが。
「ふん、まあそーゆー説もあるわね」
美神教授は投げやりに言った。
「も〜……疲れる……」
再び溜息を吐く二人。
考えてみれば、そもそも霊甲研に行ったのだって美神教授のウッカリ…というか整理能力欠如の尻拭いだったのだ。
事の始まりは…
某心霊雑誌の増刊で本格的な心霊的防衛対策特集を組むらしく、六道大学には美神教授を始め数名に原稿依頼が来ていたのだが。
「美神教授…雑誌の編集の人から催促っスよ…」
横島はチンと電話を切りながら言った。
「これで5回目ですよね…」
小鳩が疲れた表情で美神教授を見る。
「う”…解ったわよもう…書けばい〜んでしよ書けば!」
横島達の視線にヤケ気味で答える美神教授…
一応後ろめたく思ってはいたらしい。
「えっと……何処に置いたかしら…」
美神教授はがさがさと机の上を漁り出した。
その机は整理整頓という言葉から一億光年離れた…
画家がタイトルを付けるとしたら「混沌」以外にありえないだろう…というくらい散らかっている。
従って。
「まずいわ…テーマと枚数を書いた原稿依頼の紙が無い!」
あっさりと捜索を諦める美神教授。
「……諦め早っ!」
ピートが思わず呟く。
「探す労力が惜しいのよ…霊甲研の教授にも依頼行ってる筈だから即座にコピー貰ってきて頂戴!!」
女王サマはふんぞり返って(横島達にはそう見える)のたもーたのである。
「……………」
なんだかな〜っと肩を落とす横島とピート。
まあそんなこんなで二人は、小鳩に見送られながら霊甲研へ向かったのだった。
「ふうん…中々本が出ないと思ってたら、美神教授が遅らせていたのね、あの人らしいけど」
少々呆れながらも霊甲研の責任者、小沢澄子は丁寧に対応してくれた。
横島が知る彼女の情報は、「気が美神教授並に強い」「口はかな〜り悪い」「天才」位のモンであったが……
あまり深入りするとロクな事がなさそうなので、事務的にさらりと流す事にした。
………女王様は間に合ってるからなぁ。
心の中で呟く横島だったりする。
「所でアナタ、横島クン?噂は聞いてるわ…どう?ウチでGシリーズの被験者やらない?氷川クン最近スランプ気味なのよね」
は〜っと溜息を吐く小沢教授。
以前は警察で研究していたらしいが…予算面と待遇面で折り合いがつかなくなり、ここのスカウトを受けたと言う。
「い…いや〜折角ですが辞退しとくっス…」
慌てて返す横島。
「そう…残念、まあアナタみたいな…素手でもアンノウン級の強さ持ってる人には必要の無いシステムかもね、いっそアギトと戦ってみたらどう?」
しれっと怪物扱いされてるぞ横島。
「勘弁して欲しいっス…」
美神教授とは違う意味でこの教授は苦手だ…
と言う訳で、横島はあまりここには近付かないよーにしようと心に誓うのだった。
「まあ良いわ、アン…コピー取ってあげて」
小沢教授は、後ろで雑用をこなしていた金髪の美少女に声を掛ける。
「はい教授」
アンと呼ばれた美少女はテキパキとコピー作業に入る。
「………彼女は?」
横島が思わず聞く、何故こんな所に15〜6の少女がいるのかの理由がイマイチ掴めなかったからだ。
「ああ、彼女ね…」
小沢教授が簡単に説明してくれた所によると、彼女の名はアン・ヘルシング。
昔吸血鬼ハンターとして名を馳せた、ヘルシング教授の曾孫にあたる。
半年くらい前…海外視察中の小沢教授に逢った際、何かを感じたらしく…
彼女について来日、以来留学生としてではなく秘書兼弟子としてここで働いていのだ。
………ちなみにアンの心霊メカはまだまだ未熟なモノである、
だからこそ天才小沢澄子の元で勉強したかったのであろう。
小沢教授曰く…秘書業務におかしなメカを使いたがるのが唯一の欠点だとか。
「はい、どうぞ〜」
にこにこと笑顔でアンは書類を渡してくれた。
………という訳で前回の冒頭と繋がるのである。
秘書騒ぎから数日が経過したある日。
二人は美神教授が大学付属図書館で借りた本を返却する為、構内をポクポクと歩いていた。
「確かに……秘書のいる講座が羨ましくないと言えばウソになるな」
遠い目をして横島が言う。
「美神教授のよーな人にこそ…秘書が必要なんですけどね…」
やはり同じよーな目をしながらピートが返す。
横島とピートはそんなとりとめも無い会話をしながら、図書館の前まで歩いて来た。
「あら…この前の〜」
そこでアン・ヘルシングにばったりと出会ったのである。
「小沢教授から聞きましたよ〜貴方が石喰い殺しの横島さん略して石殺の横島さんですね〜!凄いです!」
目をキラキラさせながら言うアン。
「い…いしころ……(呆然)」
横島はあまりと言えばあんまりな二つ名に硬直する。
ちなみに石喰いとは、運動会の時に横島が倒しまくったムカデの妖怪の事である。
相当な戦闘能力を誇っているらしいが、横島とは相性が悪かったらしく脆くも全滅の憂き目に遭っていた。
「あはははは…(乾いた笑い)」
笑うしかないピート。
「あ、それで貴方は〜」
「はい?」
「地味なピートさん…略して地味ピーさんですよね?」
アンはにっこりと笑って言った。
「じ…じみぴー……(ガーン)」
流石にピキピキとピートの表情が凍り付く。
「………柿ピーみたいだなピート…」
「横島さんこそその辺の道に落ちてそうなあだ名じゃないですか…」
二人は顔を見合わせて溜息を吐く。
この少女…意外と面白いセンスの持ち主の様だ。
どうも何でも略する日本人の癖を過剰に真に受けたらしい…
つーか喧嘩売ってると取られかねないと思いマスはい。
「本の返却ですか?そんなの秘書のお仕事じゃないかと思うんですけど…お休みなんですか?」
アンは不思議そうに質問してくる。
「う〜ん…除霊学部にはいないんだよ、過去にも例は無いみたいだしこれからも予算が付かないかぎりは永遠にね…」
完全に立ち直ってない横島が淡々と答えた。
「え?変ですよそれ?小沢教授は見たって言ってましたけど…」
「え〜!?」
アンのこの言葉がきっかけとなり…
秘書事件は除霊学部を揺るがす(?)一大事件へと発展していくのである。
「何処の講座なんだそれは?」
魔理(霊的格闘学)が辺りを見回しながら言う。
「う…ウチじゃありませんよ…?(ふるふる)」
おキヌ(死霊使い学)が首を振る。
「何処かに〜隠してるんじゃ〜無いわよね〜〜?」
暴走寸前の冥子。
「落ち着くでちゅ!」
そして何故か揚羽にたしなめられる始末。
「ゴルゴムの仕業だ!(ぐっと拳を握り締めて)」
「大丈夫!俺…クウガですから!(サムズアップ)」
「はいはい光太郎さんと五代くんは黙って下さい」
………仲間が増えてるよおい。
その時。
横島の隣に長い黒髪の美女がスッと歩いてきて何かを呟く。
「……え?秘書が居る事を隠し通す事なんか出来ないから、霊甲研の教授の話は随分前の話じゃないかって?」
こくこくっと美女、来栖川芹香嬢(魔女学)が頷いた。
「………横島さん…良く聞き取れるな…(汗)」
魔理が汗ジトでツッコむ。
「ま、色々修行したからね」
横島は苦笑で返した。
「ええ〜〜〜昔の話なの〜〜?」
落胆と悲観の入り混じった声をあげる冥子。
「でも…前例があるのなら、望みが無い訳でもナイでちゅ!」
ビシッと無い胸を張って揚羽(式神使い学)が言い放つ。
「そうだ!あとは費用の問題だけだろ?」
魔理が調子を合わせる。
「……やっぱり〜お金の問題〜なのね〜…お母さま〜こういう事には〜容赦無く〜厳しいから〜」
どうも意外に思われている様だが、六道理事長は経営に関してはかなりの才能を有している。
今回も、決められた予算の中で無駄を減らして黒字に転換!という基本的な経費節約を行っているだけなのだ。
というかしっかりしてないと、こんな大学経営していけないと思うのだがどうだろう?
まあ普段が普段だけに誤解されるのも無理は無い。
それはさておき……
”よし!キャンペーンをして秘書を呼び戻そう!”
除霊学部の面々はここに一致団結した!
………みんな夢を見たかったのかも知れない。
「何か引っかかっているよーな気がするんだが…」
一人横島クンは考え込んでいたりする。
「え?自分の発言が何かおかしかったですかって?」
来栖川芹香が心配そうに横島を見上げていた。
「いや…そういう訳じゃないんだけど、何か見落としている様な……え〜と…あははは…俺の気のせいかも」
小首を傾げる彼女に愛想笑いを浮かべる横島。
(小沢教授がこの大学に来たのはそんな前じゃ無かった様な…)
少し自分で調べてみようと思う横島だった。
ウチの講座に美人秘書(美人でないと駄目なのか?)が来てくれたら…
という感情は、学生に院生や果てはオーバーGS(冥子の事)の生活とお肌に張りを与えた。
……ちなみにオーバーGSとは、GS課程を終了しても大学に居残らざるを得ない人の事である。
給料は勿論無く、修行料(授業料の様なモノ)を払う。
学割は当然効かず…失業保険なんてある訳が無い。
今の冥子は無い無い尽くしの生活なのである!
悲しすぎる境遇であった。
まあとにかく、式神使役実験中に邪魔をされても……
「誰かお茶入れてくれへんか〜?」
鬼道の声がする。
「は〜い〜」
勢い良く(冥子にしては)返事をしてお茶を入れに行く冥子。
秘書が来てくれるまでの辛抱だと思えば(それほどは)辛くは無い。
「お待たせ〜お茶よ〜」
「え?冥子はんがお茶を…(嬉しいよーな恐いよーな)」
「おおきに…じゃ…頂くで」
ぐびっ………
数秒後。
「ぐはぁっ!(吐血)」
「あ〜〜しっかりして〜〜マ〜くん〜〜!!!」
……………辛いのは別の人か。
余談だが、鬼道のダイイングメッセージは…
(注)死んでません。
「い……乾汁……(がくっ)」
だったとか無かったとか。
どんなお茶だ?
まあそれは置いといて。
「冥子さん、式神ケント紙何処?」
「これしょーゆでちゅか?それともソースでちゅか?」
「お茶代持ってきたけど何処に置くの?」
(こういう〜面倒な事も〜〜み〜〜〜んな美人の秘書さんが〜やってくれるのよね〜〜)
心の中でドリームを語る冥子お嬢様。
「徹夜で〜疲れてる時に〜美人の秘書さんが〜暖かいミルクを〜入れてくれたり〜アメ玉をくれたりして〜「大変ね、頑張って!」なんて〜声を掛けてくれたりしたら〜疲れも何処かへ〜行っちゃうと思うの〜〜」
遂に口から出てしまう冥子ドリーム。
「そうでちゅ!プリンを作ってくれたりとか洗濯をしてくれたりとかとっても便利でちゅ!」
揚羽まで調子を合わせる。
「それじゃまるでお母さんだよ…」
そのやりとりに涙する横島とピート。
秘書なるモノに全く縁が無かったせいか、どうもみんな認識と言う物を誤っている様である。
………あの二人の場合、もしかしたら天然かも知れないが。
「秘書って言うのは教授の秘書なんだよなぁ…」
「ですね」
そう、横島達がしている事こそ秘書の仕事であろう。
決して、雇い主の罪を被って自殺したりさせられたりする存在ではナッシングなのでご注意を。
それからまた数日後…
「飛行機の切符持ちました?」
「持ってるわよ!」
ピートの確認の台詞に怒鳴り返す美神教授。
「12時10分の飛行機っスから…10時59分までに出ればいいッス」
「解ってるわよ!」
横島の説明にやはり怒鳴り返す美神教授。
カルシウム不足か?
「〜と…見鬼くんと…お札と…ハンカチ…全部ありま〜す」
小鳩がカバンのチェックをしている。
「それじゃ行ってくるわよ!」
美神教授はトップスピードで飛び出して行く、これから除霊の仕事なのだった。
「はぁ…」
「嵐の様ですね…」
二人は小鳩が入れたお茶で一息入れる。
RRRRRRRRR……
電話がけたたましく鳴り響く!
「はいはい」
小鳩がいそいそと電話を取った。
「今○×町のコンビニ前よ!切符間違えて持って来ちゃったみたいだから、大阪行きのヤツをシロに持たせなさい!!」
美神教授の怒声が電話から放たれる。
「よ…横島さ〜ん〜…」
半泣きの小鳩。
「任せろ!行くぞシロ!!」
「わぉん!(はいでござるよ!)」
切符をくわえたシロが、蒼いマウンテンバイクに乗った横島を牽引して突っ走る!
いわゆるサンポシフトであった。
何故かヘタな原付より速いのだからタチが悪い。
どびゅぅぅぅうん!
砂煙を巻き上げながら走り出すシロ付マウンテンバイク。
「ひ〜…待って下さい〜」
ピートが何故かピンクのママチャリできこきこと後を追う。
誰のだ?
「ええっと…私のです、ゴミ捨て場で拾った…ああピートさん壊さないで下さいね…」
何だか涕目でそれを見送る小鳩。
…慈悲深き読者様は見なかった事にしておいてあげて下さい。
びゅぅぅぅぅううん!
シロ付マウンテンバイク略してシロバイ(!)が大地を蹴立てて疾走する!
「お!」
「わう!(たーげっと確認!でござるよ!)」
その速度が更に上がった。
「シロ〜〜ここよ〜〜〜!」
コンビニに止まる赤いコブラと手を振る美神教授。
「行け!シロ!」
横島が引き綱をバージ(切り放し)した!
「わう〜ん!(任せるでござるよ!)」
途端に弾丸のごとく突撃していくシロ。
パシッ!
美神教授の手に切符が渡る!
「ありがと!シロ!横島クン!」
美神教授はひらりとコブラに飛び乗り、フルスピードでブッ飛ばして行く。
「ふ〜何とか間に合ったか〜」
マウンテンバイク(シロ抜き)をキキッと止めて横島が呟く。
「わう!(拙者頑張ったでござる!)」
全く息が上がっていないシロ…流石人狼である、
キコキコキコキコ…………(ひたすら漕ぐ音)
「ああ…本当にこんな時美人秘書が居てくれたら…」
………と思うピートだった。
お前は美人秘書にママチャリでシロバイ横島を追わせるのか?
「うぅぅ…バイクの免許でも取ろうかなぁ…」
通りがかったバイク屋の店頭に並ぶマシン群を横目で見ながら、ピートがぼやく。
きこきこ通り過ぎるピンクのママチャリ(略してピンチャリ)
「…変わった組み合わせだねぇ」
中から出てきたツナギ姿の美女がそれを見送る。
余程金髪美形とピンチャリの組み合わせが珍しかった様だ。
そのバイク屋の名前は「蜂神オートショップ」と言う。
この後ピートは横島達に追い付くのに数十分を要した。
「ぜ〜〜ぜ〜〜…や、やっと追いついた」
「遅いぞピート、ジュースおごれ」
へろんへろんピートに非情な言葉を投げかける横島。
「遅いって…時速60キロ以上ですっ飛んでいくシロバイに追いつける訳ないですよぉぉぉぉ!!」
それだけ一気に言い返すと…
べちっ。
地面に倒れ伏した。
「あーあ、息切らしてる時に怒鳴るから」
「わう(酸欠でござるな)」
横島とシロがノンキに会話している。
「直に復活するだろ」
「わぉう(そうでござるな)」
地面でひくひくしているピートが復活したのは、更に数十分後だった。
「でも、鬼道教授は秘書が居た事なんて無いって言ってましたよね…?」
ようやく復活したピートが言う。
ちなみにピートと横島の手にはジュースがあった。
そばではシロががしゅがしゅとビーフジャーキーをがっついている。
勿論ピートの奢り。
チーン。
「確かにな、美神教授はともかく鬼道教授がそんな嘘を付く理由も無い…それに、小沢教授が大学に来たのは鬼道教授よりちょっと前…」
横島がさりげなくリサーチ結果を混ぜて返事する。
まあ美神教授の場合嘘を付くと言うよりハッタリをかますのだ。
その時、コンビニのドアが開いて見知った顔が現れた。
「あら、どうしたの?アナタ達」
「こんにちわ〜石殺の横島さんに地味ピーさん」
霊甲研の小沢教授と秘書のアン・ヘルシングである。
「……いしころ?じみぴ〜?」
ひきっと顔をひきつらせてアンを見る小沢教授。
「はい!」
アンはニコニコと笑って答える。
「……………また変な略し方したわね〜(汗)」
小沢教授は、略しすぎて元がさっぱり解らなくなっているアンの略に溜息を吐いた。
「あはははは……」
乾いた笑いを浮かべる二人。
霊甲研。
二人は教授の買い出しのおこぼれに預かっていた。
アンが入れてくれたコーヒー(横島は紅茶)を前に、小沢教授はあの質問に答える。
「そうね、秘書は二人いたわ」
「二人………!?」
びっくりするピートと嫌な予感を隠し切れない横島。
「美人…と言えない事は無いけど、一人はお茶を出すのが乱暴で…一人は片付けるのが(あまりにも)遅すぎたわ」
小沢教授がしみじみと語った。
「…それは本当に秘書だったッスか?」
横島が一番聞きたい事をズバリ聞く。
「お茶を持ってきた方は学生?と言うか小学生にしか見えなかったケド、お茶を下げたほうは…あの落ち着き、講座の事を知り尽くした様子…あれは秘書以外の何者でもない…と思ったんだけど……もしかして違う?」
少しバツが悪そうにしている小沢教授。
「……それは何時のお話ッスか?」
「つい最近の話よ」
小沢教授はきっぱりと言った。
「……鬼道教授の講座ですね…」
沈痛な表情でピートが呟く。
「ええ、そうよ」
彼女は軽く頷いた。
そう……乱暴にお茶を出した小学生みたいな秘書(?)は揚羽、そしてお茶をとろとろと下げた秘書とは…
冥子の事であったのだ!
揚羽については、アンの例があるから解らないでもない。
しかしあの暴走プリンセスが秘書………
作者なら泣きながら却下した挙げ句、地の果てあるいは宇宙の果てまで逃走するであろう。
小沢教授曰く、実はあまり自信が無かったらしいが。
後調べ位して下さい、小沢さん。
後日、式神使い講座。
「すまん…ごくまれに秘書と勘違いする人がおるんや」
心底すまなそうに謝る鬼道。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(全員の叫び)」
落胆する学生ども。
「………………(ボソボソ)」
「え?すみません…私が余計な事を言ってしまったせいですね…って、いやそのあの…先輩は悪くないっス!」
泣き出しそうな表情の芹香を、必死で慰める横島。
とにもかくにも…「除霊学部に秘書がいた」説はデマだった。
2日後……
「ガッカリしないの、どうせ予算は無いんだし…って私は着服なんてしてないわよ!」
あさっての方向に叫ぶ美神教授。
誰に訴えてるんだ?
「も…もう終わったんスか?(あれだけ大騒ぎして出掛けたんだからもっとゆっくりしてくれば良かったのに…)」
心の中の言葉も混じってるぞ横島。
「あれくらいの悪霊楽勝よ!私を誰だと思ってるの!」
美神教授はどでかい胸を張って言い放つ。
「はぁ…」
小鳩が曖昧な返事をする。
だが、次の瞬間。
美神がニヤりと笑った。
「しか〜し!当番制度導入で秘書予算が何とタダ!どう?」
我ながら最高のアイデアよね〜っと自我自賛する美神教授…
「……………」
思わず顔を見合わせる3人。
と言う訳で………
美神教授の提案(?)により式神使い講座では、私設当番制秘書をやってみる事となった。
「プリン〜出来たわ〜〜」
おやつを持ってくる冥子。
「市販のプリンの素やろうな?」
「その筈でちゅ」
「安心…でしょうか?」
鬼道と揚羽とピートがなにやら確認している。
「じ…じゃ、頂くで」
「い…頂きます…」
「頂きますでちゅ」
まず三人がスプーンを取った。
「……………(ごくり)」
式神使い講座の連中が続いてスプーンを握る。
さく………ぱくん………(口に含んだ音)
「がふっ…こういう運命かいな〜…(がく)」
「ぐはぁぁっ(吐血)」
「はうっ!?でちゅ…(気絶)」
「がはぁっ…ま…真理ィィィィ…(悶死)」←草加らしい
「ば…馬鹿な…私の胃袋が敗れるとはぁぁ!?(瀕死)」
「お…俺が倒れても組織は滅びんぞ…(死亡)」
「ジ…ジ○ン公国に…栄光あれ〜!(爆死)」
ばたばたと倒れ伏す学生ズ&鬼道
「あああああ〜〜みんな〜〜しっかりして〜〜(泣)」
…………だから冥子に何か作らせるなって。
花嫁修業はさせてないらしい。
「……一体ナニが入ってたんだろう?」
食べずに危機を逃れた横島が呟く。
「……………(ぼそぼそ)」
相変わらず聞き取れないか細い声で何かをのたまう芹香。
「えええ?特製スタミナレシピを冥子さんが自作してました?アドバイスはしましたけど?…先輩…相手見てアドバイスした方がいいッス…」
頭を抱える横島だが、相手が相手だけに激しく突っ込めない。
「わう?(食べてもいいでござるか?)」
「やめとけシロ」
恐ろしい発言をするシロに、横島はブンブンブンブンと高速で顔を振って却下するのであった。
………お後がよろしい様で。
〜次回に続く〜
今回もさほど変化はありません。
基本的に一応は加筆訂正がメインの本編に、完全改訂の外伝というシフトでお送りしようと考えております。
それでは前回のレス返しです。
おやぢ様>
ご一読ありがとうございました〜(礼)そもそもこの作品は漆原教授と美神のイメージがダブッた所から始まっておりますw
柳野雫様>
地味というか、この後また暫く出番が無くなるんですよね(涙)何処かで出してやろうかなとは考えてます。
草加は本編ではアレですが、この作品では死なないけど酷い目にあう…という感じですかねw
casa様>
ユッキーはなまじ変身(?)出来るのが仇になってるみたいで(汗)
なるべく活躍させてあげたいんすけどね、実戦向きの貴重なGSキャラですし。
ATK51様>
魔鈴はもう少し出番を増やしたいキャラですね、ヒャクメは使いどころが難しい…(汗)
ユッキーと涼は合わないでしょう、むしろ横島の方がこの作品では合うでしょうね。
ヒュウガは…全部ワルキューレのせいです(涙)
恐るべし戦乙女。
それでは次回でお逢いしましょ〜でわでわ〜〜