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「マッドネスヒーロー 第七話「肩すかしのマシーン相撲!」(GS)」

zokuto (2005-04-29 10:04)
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「ぬぅおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ、テレサぁぁぁぁぁぁぁ、どこへ行ったんだぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 街の中で泣き叫ぶ男。 子供が大声に驚いて無き、大人達は何も見なかったふりをして早足で通り過ぎていく。 頭髪が薄く、強面のおっさんが町中で涙と鼻水をぐぢゅぐぢゅにして辺りを走り回っているので、誰も声をかけることができる猛者は中々居ない。
 それをしなければならない職業に就いている人以外ならば。

「あー、キミキミ、一体何があったんだね?」

 青い制服をきちっと着こなし、腰に黒光りした武器を携帯している中年の公務員。 つまり警察官が彼に声をかけた。 警察官といえどさすがに平然としていられることはできないのか、少々弱腰で街を縦横無尽にかけずり回る目標物を引き留めた。

「ほら、涙を拭きなさい。 落ち着いてゆっくり、何があったのか本官に話しなさい」

 男は声をかけられたので足をとめ、差し出されたハンカチでチンと鼻をかみ、涙ながらにも話し始めた。 顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、まさに明日が世紀末であるかのようにがっくりと肩を落としている。 同情を誘う風貌だが、何故か同情することができない微妙なラインだった。

「ワ、ワシの娘がぁ〜〜、い、い、居なくなってしまったんじゃああ! うぉぉぉ〜〜〜ん」

 耳をつんざくような大きな音で叫ぶ。 元々の声が低いので、地面を揺らすような叫び声だった。

「そ、それは大変ですね。 誘拐ですか? 行方不明ですか?」
「それが……迷子なんじゃぁぁぁ!」

 耳をふさぎながら聞いていた警察官は、迷子と聞いてほっと胸をなで下ろした。 男のあわてようにもう少し大きな事件の予感を感じていたのだった。 警察官人生十年、今までこれほど大きな事件に巡り合ったことがなく、大きな事件を迎えるプレッシャーと期待が彼の中を駆けめぐっていたのだった。
 もし万が一、国家的陰謀の誘拐事件であったら、インターネット絡みの凶悪な犯罪によって目の前の男の娘が行方不明になっていたりしたら……等々、ドラマのようなシチュエーションを想像し、私が死んでしまったら妻と子は一体どうなってしまうだろうか、とまで考えていた。 少し嬉しそうではあったが。
 ともあれ、ただのなんてことのない、迷子だと聞いてちょっと残念に思い、わくわくとどきどきの詰まった溜息をはいた。

「あの子に何かあったら……ああ、ワシは一体どうすればいいのだ。 もう十日間も帰って来ん……」
「十日間……それは大変だ。 お子さんの名前はなんと言うんですか?」
「テレサじゃ」
「女の子ですか。 年齢は?」
「ううう……十八歳という設定なんじゃ」
「一目で本人だとわかる特徴は?」

 警察官は泣き叫ぶ男から聞き出したことを手早くメモしていく。 涙声はやはり聞きにくいのか、同じ事を何度も何度も聞き直した。 大きな事件ではないものの、市民の力になることが警察官の役目、と彼は真面目に信じていたからだ。 その結果、少しだけ出世するのが遅かったが、彼は別段気にしていなかった。
 警察官がマニュアルの半分ほど情報を得られたあたりで、ふと男は何故目の前の人物が自分の娘のことを聞き出したがるのか気になった。

「ところで、お前さんはなんでそんなに娘のことを聞きたがるのかね?」
「は? それが本官の仕事ですから」

 男はまじまじと警察官を見る。 この手の格好をしている人間がどういうものなのか気づいたようで……。

「おっ、お前ッ! 警察だなッ!」
「そ、そうですけど」
「お、おのれ〜! 貴様、ワシの最高傑作テレサの秘密を知って何をたくらんでおるッ! うっかり動力源とか秘密事項を話してしまうところだったではないかッ……ハッ、待てよ!? 今までのは誘導尋問なのか? そ、そうか! ワシとしたことがまんまと罠に引っかかってしまうところだったわい」
「は?」
「ええい、黙れ黙れ! 見事な誘導尋問だったがワシにはもう通じぬぞ。 これでもワシは秘密結社アシュロスのブレインと呼ばれたプロフェッサーヌルじゃ。 貴様のような人間に遅れをとるワシではないッ!」

 急に態度が変わり、泣いていたのが怒り始めた男にとまどう警察官。 アシュロスやらプロフェッサーヌルやらテレサを調査やら、まったく身に覚え、聞き覚えのない単語を並べられて混乱していた。 なんとか宥めようとしても、男は興奮状態にあって言葉は無力だった。

「うぬぬぬぬ……こうなってしまってはワシのカワイイテレサが危険だ。 一旦基地に帰って本格的な捜索の準備をせねば」
「あ、ちょっと待って」

 警察官が声をかけたが、男はあっという間に走り去ってしまった。 一人残されてしまった警察官は、挙動不審だった男を追おうかどうか迷ったが、娘のことをあれだけ心配している親なのだから大丈夫だろう、と思って朝のパトロールを再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 
       マッドネスヒーロー 第七話
            押しつ押されつマシーン相撲

 

 

 

 

 

 

 ここは六道家の庭。 数人の庭師が毎日手入れをしていて、とても優美で、それでいて東京ドーム二つ分の大きさを持つ広大な庭。 ちょうど中央に屋敷が建ち、あたりに様々な植物や彫刻などのものが置かれている。
 庭は、赤い煉瓦と鉄柵でまるまる覆われていて、入り口は東西南北に一つずつ。 南側の煉瓦と鉄柵の切れ目が正面の入り口で、そこからの道は綺麗な木々が周りに立つ石造りの道が敷かれていた。 それはまっすぐ六道家の屋敷の入り口につながっている。
 その美しい道を半ばほど行き、そこから屋敷から見て左側に小道がある。 その砂利の小道を数十メートル進むと、白い机と白い椅子が開けた場所におよそ二十ほど置いてあった。 ここでは、昼時になると手の空いたメイド達が集まって、持ち寄せたお弁当を一緒に食べるのだ。

「ふう、もう昼か。 もう少しやってから休みにしよう」

 年頃の女の子がきゃあきゃあと騒いでいるのを横目に、ねじりはちまきに枝きりはさみを持っていた男が言った。 男ははしごに乗って、手に持つはさみを操って目の前の木の枝を鮮やかな手つきで切り落としていく。
 彼の名前は伊達雪之丞。 元アシュロスの蟹怪人「ダテ・ザ・キラー」である。 人間界でアシュロスと敵対するヨコシマンの情報を集めるべく、GS界の大家と呼ばれる六道家にスパイとして侵入。 しかし、そこで庭師として働くことに目覚め、あっさりアシュロスを裏切って正義のために戦うことにした、硬派なんだか軟派なんだかよくわからない男である。
 煩悩英雄ヨコシマンとは良き仲間と思っていて、未だヨコシマンの正体をつかめずにいるのだが、実はヨコシマンの正体、つまり「横島 忠夫」とは面識のある相手なのである。 というよりむしろ、仕事は違うけれども同じ職場(つまりは六道家)で働いているのだった。 更に更に、雪之丞はあろうことか同性といる壁を越え、横島忠夫に恋という感情すら抱いてしまっていた。 もちろん横島はそんなことは露とも知らないうえ、心の中を伝えるようなこともされていない。 よい仕事仲間という印象しか受けていなかった。 だが、雪之丞はいつか横島と添い遂げることを夢見て、今日もまた枝を切っていた。

「雪之丞さーん、一緒にご飯食べましょーー!」

 作業をしているはしごの下で、女の子が大声を上げて雪之丞を呼んだ。 金髪の綺麗な髪をポニーテールにし、綺麗に整った顔を精一杯にこやかにして声を上げる。 青い瞳につんと出た鼻、そして小さめの口。 百人中九十八人くらいは彼女のことを美人と認識するような顔をしていた。 無論、美しく整っているのは顔だけではなく、体もふくよかでおおよその女性が理想とするスタイルを誇っている。 肌もシミ一つなく、透き通るような色をしていた。

「おう、テレサか。 ちょっと待ってな、これが終わったらすぐに行くから。 危ないから離れてろよ」

 雪之丞は地面を見下ろし、下で自分のことを呼びかけてくる女の子に声をかけた。 彼女はにこにこした顔で返事をし、その場でみじろぎ一つせずに立っていた。

 彼女の名前はテレサ。 実は秘密結社アシュロスのブレインとごくマニアの間で噂されているプロフェッサーヌルが作り上げた、珠玉のアンドロイドである。 ヨーロッパの魔王と業界関係者各位に呼ばれている天才錬金術師ドクターカオスの発明したアンドロイドマリアに対抗すべく作成されたアンドロイドで、炊事・洗濯・掃除とミリタリー関係で他に随を許さぬマリアに対し、テレサはどじッ娘メイド及び萌え萌えオプション機能をコンセプトにして製作されたのだった。
 材質はマリアと同じく超合金、アシュロスの技術力と資金力を駆使しコンピューターと人工霊魂はマリアを超すもので出来ている。 馬力や戦闘能力はマリアには遠く及ばないが、殿方(とごく一部の女性)の心をキャッチする面に置いてはテレサの方が突出した性能を見せている。
 それが一体何の役に立つのかは甚だ謎だが、とにかくテレサはアンドロイド界の頂点に立つマリアを倒すためにうまれてきたアンドロイドだったのだ。

 で、そのアンドロイドが何故こんなところにいるかと言うと、それはごく複雑で簡単な事情により今は六道家のメイドの一人になっているのだ。

 産まれておよそ一分でテレサは立ち上がり、開発者であるプロフェッサーヌルを喜ばせた。 だがそれもつかのま、彼女の中に内蔵されている『迷子っこシステム ver1.02』が起動し、アシュロスの秘密基地から抜け出て、迷子になってしまったのだ。
 『迷子っこシステム ver1.02』が起動したテレサは究極の迷子アンドロイドである。 アシュロス基地の警備システムをハッキングし全て無効果にし、GPS機能を駆使してみつからないように歩き、電磁ステルスを使って、基地を抜け出してしまったのだ。

 アシュロスの基地から抜け出したテレサは『迷子っこシステム ver1.02』が起動している間中ずっと、街を徘徊し、迷子になっていた。 そこでふらりと立ち寄ったのがなんの因果か六道家。 ちょうどタイミングよく『迷子っこシステム ver1.02』が停止したところを庭の木を切っていた雪之丞に拾われたのだった。
 雪之丞は彼女のことを自分の妹だと偽り、なんとか六道家のメイドにしてもらって、互いに裏切り者同士支え合っていこうと考えていただけだが、テレサは雪之丞に淡い想いを抱いていたのだった。

 雪之丞は微妙なバランスの上で成り立っている枝に、迷い無くはさみをいれていく。 枝がいくつも地面に向かって落ち、木が美しい造形へ変化していく。 まさに木の美容師とでも言える腕前だった。

「……まだまだ親方の腕前にはいきつかねぇな」

 まずまずの出来だったのだが、自分を甘やかさないために雪之丞はわざと辛口の評価を下した。 最後に一回、はさみを入れる。 大きな枝がゆっくりと地面に落ちていく。

「きゃ、きゃっ! はわッ」

 どさりという枝の落ちる音が聞こえず、代わりに響いたのはとまどいの声と、短い悲鳴、そして鈍い音。 それらが指し示す事実というのは……。

「やば。 当てちまったか!?」

 雪之丞は一気にはしごを飛び降りた。 アシュロスの元怪人であった利点で、ちょっとやそっとの高さから落ちても怪我をすることはおろか、足首さえ痛めることはない。
 目の前にころがっていたものは、まさしく雪之丞の予想した通りのものだった。

 うつぶせに倒れ、顔を地面にめり込ませ、後頭部にはありえない大きさのたんこぶをつくり、ひくひくと小刻みに痙攣しているメイド服を身にまとっているアンドロイド。 そばにはさきほど切った枝が無造作に転がっていた。

「あー……大丈夫か? テレサ?」

 ばつ悪くなり、手をさしのべる雪之丞。

「だーいじょうぶでっす。 私は、丈夫で、健気で、狂おしいほどかわいいだけが取り柄ですから」

 こともなげにさらりと言い放つテレサ。

「超合金の肌は伊達じゃないんですよ、ねー、雪之丞さん」

 自分の言っただじゃれにけらけらと笑う。 雪之丞は女性に好かれるのにあまり慣れていなく、テレサは妹分だと思っているもののどうも照れてしまっていた。

「も、もう行くぞ。 ほら、掴まれ」

 テレサにさしのべる手をぶんぶんと左右に振り、立つことを催促する。 テレサはその手を掴まず、すっと立ち上がり、雪之丞の脇を取った。

「こ、こら、何をするんだ」
「いいじゃないですか、雪之丞さん。 このくらいは……ね? 兄妹の範囲でしょ」

 恥ずかしがる雪之丞と腕を組んだまま、ずんずん進む。 誰が見ても……雪之丞とテレサとが兄妹だと言われていなければ、熱々のカップルにしか見えない光景だった。
 そして、それをあまり喜ばしくなく思っている人物が居た。

 テレサと雪之丞が手を組んで歩いている少し手前の木の裏に、一人のメイドが立っていた。 彼女の名前は「弓かおり」 貧乏寺の一人娘で、家が貧乏なので六道女学院に通いつつ、この六道家でメイドをしている女性である。 水晶の乙女「クリスタルレディ」の正体であり、煩悩英雄「ヨコシマン」、ダークヒーロー「ダテ・ザ・キラー」とは面識がある。 もちろん例のごとく、彼女は身近にいる二人のヒーローの正体を知らない。

 流れるような黒髪で、顔も体も標準以上。 テレサには及ばぬものの、すばらしい美貌を備えていると言える。 これまたテレサには及ばぬものの、すばらしいラブコメ要素を持っていて、更に加えて普通の人間なのである。 彼女もテレサと同じように、汗をかきつつも一生懸命に自分の技を高めようとしている庭師の伊達雪之丞に恋する心を持っているのである。
 故に、テレサの存在が非常に邪魔だったのだ。

 妹と聞かされてはいえ、自分の好きな人が他の女と仲良くしているなんて許せないッ、という恋する乙女特有の理不尽思考に突き動かされ、雪之丞が前を通る瞬間に弓は飛び出した。

「うっ、おわっ! な、なんすか弓さん、一体!?」

 驚く雪之丞の、テレサによってふさがってない余った右腕を取る。 そしてテレサと同じように自分も腕を組み、歩く。

「雪之丞さん。 今日もお勤め、お疲れ様です。 今日は私、お弁当を作ってきましたのよ。 一緒に食べましょう」
「えっ、あのっ、えーと……」

 未だかつて見せなかった大胆不敵さに、ただただとまどうだけの雪之丞。 両側を掴まれ、まるで黒服に捕まってしまったエイリアンのようによたよたと歩かざるを得なかった。

「あら、弓さんじゃないですか〜。 弓さんも、雪之じょ……あ、いや、お兄ちゃんにお弁当作ってきたんですか〜?」

 テレサが邪気の無い笑みを浮かべて言う。 一応、雪之丞とテレサは兄妹であることになっているので人前で雪之丞を呼ぶときには、「お兄ちゃん」となるわけだ。
 さすがに萌えをコンセプトにプログラムされたAIを使っていることだけはあり、お兄ちゃんという単語だけでも色っぽい響きがあった。 妹というものは実に多彩な萌えの種類があり、今回テレサがベースに使っている『妹プログラム』は標準の『普通の兄妹モード』。 他には『年齢が近く、しかも仲がいい。 まるで私たち恋人みたいね、な兄妹モード』、『年上の頼れるお兄ちゃんと、甘えん坊の妹の兄妹モード』、『両親が再婚して義理の兄妹モード』、『双子だけどお兄ちゃんが少しだけ早く産まれてきたからお兄ちゃんはお兄ちゃんの兄妹モード』、『本当は兄妹じゃないけど、小さい頃からずっと一緒に遊んできて、ほとんど兄妹モード』など、プロフェッサーヌルの努力と汗の入れ込みかたが違うのが一見にしてわかっていただけるであろう。 裏モードには『お姉ちゃんと結婚した義理のお兄ちゃんに禁断の恋を持ってしまうイケナイ私……切ない兄妹モード』というマニアックなものまであるのを見て頂ければ、プロフェッサーヌルの思考がわかっていただけるだろう。


 かくして、連行されるがままに弓とテレサに連れて行かれてしまった雪之丞。 昼休みをとる場所は彼女らの他にもメイドがたくさん集まっており、その中で唯一の男の雪之丞は実に居心地の悪い思いをしていた。
 なんで自分がこんなに固執されているのか全く理解していないのだから、尚更に。

「はーい。 これがテレサ特製弁当でーす。 残さず食べてね、お兄ちゃん」

 せめて涙がこぼれるほどおいしい弁当が出されれば彼も報われたのだろうが、出てきたものは見るも無惨な形をした食べ物だった。

「え、えーと。 こ、これってなんていう料理なんだ?」

 緑色のねばねばしたものを指さす。 弁当の区切りがないせいで、どこからがどの料理なのか全く判断できない。 肝心の料理も、一体何の料理なのか予測できないものばかりだった。 かろうじてわかるのは、黒く焦げたところの多い米だけ。 そしてその米も、弁当の黄金比率という単語を知らぬかのようにごく少量。 更に、おかずに漂うなんとも言い難い臭いをはなつおかずの液でびちゃびちゃにぬれてしまっていた。 この世でもっともあぶなそうな外見の弁当と呼んでも差し支えのないほどだった。

「え? えーと……なんだったっけ?」
「……」
「あ、大丈夫です。 そんなつらそうな顔しなくても。 きっとおいしいはずですから」

 怖くないよ、怖くないよ、といった様子で弁当をぐいぐい雪之丞に押しつけていくテレサ。 
 しかし根拠が微塵にも存在しない。 タイトル「原色の舞踊」なお弁当がおいしい確率は極めて低い。

「あら、なんて前衛芸術的なお弁当でしょう。 なんというか、私のお弁当が貧弱に見えてしまいますわ」

 そういって弓が、唐草模様の包み布を外したシンプルなアルミ製のお弁当を取り出してきた。 ぱかりと音を立てふたを取ると、本当に貧弱なお弁当が姿を現した。 無駄な装飾は一切ない、というか、米しかない。 正確にいえば、小さい赤い梅干しがちょこんとまんなかに乗っているだけ。 それ以外一切ない。
 弓はテレサの弁当を見て鼻で笑っていたが、今取り出した弁当と貧弱過ぎるお弁当と比べてみるとどっちもどっちだった。

「う。 うーわー……」

 こちらはこちらでコメントに困る。 雪之丞は言葉に詰まり、ただ脳の中で現在状況を把握しようと整理することしかできなかった。 かたや色んな意味でゴージャスすぎる弁当、かたや日の丸弁当。
 ひょっとしていじめなのか、と脳裏によぎる。 ここ、六道家のような大きなお屋敷であれば使用人同士のいじめもあるのかもしれない。 トゥシューズに画鋲をいれられたり……トゥシューズなんてものはないが、そんなことが日常茶飯事のように存在しているのかもしれない、と雪之丞は考えた。
 だがしかし、それでテレサの説明はつかないだろう、テレサは自分より後に入ってきた新人で、オレをいじめてやろうと思うようなことはしない。 雪之丞は一人悩む。

「……お気に召しませんでしたか? すいません……うちは貧乏なので……」

 申し訳なさそうにしょげる弓。 自分の弁当と思われるものを脇に出し、弁当箱のフタをあけると隣にある差し出された弁当と同じ内容のものが。

「……う。 うーわー……」

 これはこれでたじたじになる雪之丞。 つまりはいやがらせではなく、本気で米だけの弁当を差し出されたのだ。 今の時代、こんなに辛く生きているなんて……と、涙ぐみそうになった。
 自分もアシュロスに入る前のフリーだったときには貧乏だったが、何かおかずが一品ついてはいた。 だが、今目の前にある弁当をみるとそれらしきものは梅干しくらいしかない。

「あ、ありがとよ。 弓さん。 でも、これはオレが食うのにはふさわしくないよ」

 さすがにそこまで困っている人の弁当を、わざわざ作ってきてくれた相手が差し出してきたからと言って食べるわけにはいかない、と思い、雪之丞は弓の方へと弁当箱を返した。
 弓さんは優しいから新入りには弁当を振る舞うんだな、と事実とは的はずれなことを考えつつ。

「……ごめんなさい。 私……」
「お兄ちゃんには私の愛憎がこもったお弁当があるから、いいんですよねー。 はい、あーんして」
「お、おいこら。 愛憎がこもってどーすんだよ、愛情だろ……やめ、やめろ! その紫色の正体不明のものを口に入れるな……がッ!」

 鼻をつままれ、呼吸するために開いた口に緑色の汁が滴る紫色のものが放りこまれる。 吐き出そうにも、テレサの手が口を閉じ、まるで拷問するかのように頭を上下にシェイクしたのだ。 テレサは飽くまで無邪気な笑顔。 ただ、無邪気すぎるというのは時として残酷なものなのだ。
 一方的に虐待を受けているかのような光景だが、それでも恋する乙女にとっては憎たらしいラブコメに見えるらしい。 弓はテレサとじゃれあっている雪之丞を見るに見かねて、いきなり走り出した。

「私、やっぱり失礼のようでしたわね。 では、お二人で仲良く食事なさってくださいっ……」

 雪之丞は何がなにやらわからぬまま手を伸ばすが、弓はすでに遠くに行ってしまっていた。 口の中に放り込まれた異物を飲み込めたものの、テレサの束縛は未だに彼を縛り付けていたのだ。

「……ん……おや? 中々うまいな、これ」
「でしょでしょー。 妹システム起動時には、大抵『見た目最悪、でも味はけっこういける』と『見た目はきれい、だけど塩と砂糖を間違えている』の二つなんですよ。 今回は前者でした。 まあ『見た目最悪、塩と砂糖を間違えている』という選択肢もあったんですけど、それはいくらなんでもイヤでしょ? ちなみに幼なじみシステムだったら、最強の料理を作れるんですが、今度ためしてみます? 多分、お兄ちゃんを愛称で「ゆっきー」と呼ぶことになりますが」
「……ゆっきーだけはやめろ。 嫌な思い出がフラッシュバックする……」

 と、二人して談笑する。 もはや弓のことなどさっぱり忘れ、目先の前衛芸術風うまい弁当に釘付けになっていたのだ。

 その平和な光景に、やがて、黒い影が差すことになる。


「テェェェェレサァァァァァァァァ!!!」

 地面を揺らすかのような低い声。 実際に地面を揺らしている地響き。 その地響きは、ズシン、ズシンと一定のリズムを保っている。 まるで巨人が歩いているかのような……。

「見つけたぞおおおおおおおおおおおおお!!」

 六道家の木々の間から、のっそりと巨大な機械の塊が姿を見せる。 高さは六道家の屋敷を見下ろすほどで、横幅は五メートルほど。 胴の太さはおおよそ四メートル。 所謂巨大ロボットであった。

「おお、おおおおお!? アシュロス……敵か!」

 メイド達が叫び声を上げ、蜘蛛の子散らすかのように逃げ出した。 それも当然だろう、六道家の家主の娘の式神の暴走に、なんと一人で「一撃」も受け止められる六道家警備員達が蹴散らされていたのだから。

「ぐははははッ! 厚生省に売りつけて大もうけしようと思っていた全自動老人介護ベッドを改造したら、なんと究極無敵ロボットになってしまったわい。 ああっ、ワシはあまりにも天才すぎるワシが怖い」

 ロボットのちょうど胴体の中心に、その言葉の通り、介護ベッドを立てたようなものがあり、更にその中にひげをはやした中年の男が馬鹿笑いをしていた。 この男こそが、秘密結社アシュロスのブレインと呼ばれた男にして、萌えアンドロイド「テレサ」の製作者プロフェッサーヌルその人なのである。

「テレサ発見! すみやかに回収せよ、現代仕様ゲソバルスキー!」
「了解しました、ヌル様」
「ばかもん! 名誉あるアシュロスの戦闘員たるもの、返事は常に「イィー」だ! 決して「イゥー」じゃなく、「イォー」でもなく「イィー」だッ」
「い、イィー」

 どこから出てきたのか、甲冑を着た男が何体もテレサに迫ってきていた。 驚くべきところは、それらの男の顔は全員瓜二つで、全く区別のつかないものだったことだ。 彼らはプロフェッサーヌルの技術で複製されたクローン兵なのだ。 とは言え、アシュロスの一般戦闘員より戦闘能力は遙かに高い。 言うなればプロフェッサーヌルの私兵のようなものだった。

「キャッ。 ぷ、プロフェッサー、何するんですかっ。 あん、ゲソバルスキーさん達、そんなに乱暴しないでください」

 あっという間にゲソバルスキーに捕まってしまうテレサ。 複数のゲソバルスキーに取り囲まれ、腕を掴まれて超重量の体を引きずられていく。 そこでも萌えアンドロイドとしての役目を忘れていないのか、潤んだ目で見上げるようにゲソバルスキーに優しくしてくれるように頼んだ。 超都合のいい男の夢を叶えるためだけに作られたアンドロイドは、やはり伊達ではなかった。

「う……そんなに困った顔をしないでくれ。 もしお前を逃がしたりしたら、ゲソ焼きにされてしまうのだ」

 リーダー格とおぼしきゲソバルスキーが言った。 なんだかんだ言ってゲソバルスキーといえど男なのだ。

「う、うわーん。 雪之丞さーん、助けてーーーーッ。 ……あら? そういえば雪之丞さんはいづこへ?」

 ふと、自分の隣に居るべき男のことを思い出した。 いつの間にか姿を消している。 雪之丞ならば、こんな状況では絶対に逃げ出さず自分を庇うなりなんなりしてくれるだろうと思ったのに。

 そう思った矢先のことだった。

「キィーーーーーーック」

 先頭を歩いていたゲソバルスキー三体が吹っ飛ぶ。 黒い影の襲来によって全てのゲソバルスキー達は体勢を崩し、なすがままになった。

「ひっそりと現れて、アシュロスを倒す。 社会の闇に潜むダークヒーロー……それは、ダテ・ザ・キラー! まさしくオレのことだッ!」

 蟹のような造形をした男が、次々とゲソバルスキーを撃退していく。 あるものは拳で、あるものは蹴りで地面に倒れ伏させられていく。 ゲソバルスキーも個々に剣を抜いて応戦するも、出鱈目なスピードを誇る男に勝ることは出来なかった。

「大丈夫か? テレサ」

 ゲソバルスキーによって放り出されたテレサに、手を差し出すダテ・ザ・キラー。 言うまでもなく、ダテ・ザ・キラーの正体は伊達雪之丞である。

「……誰ですか?」
「オレだよッ、オレ! 伊達雪之丞!!」
「……え? 雪之丞さん?」
「そうそう、オレだって……オレもアシュロスの怪人改造手術を(志願して)受けたって話をしたろ」
「そ、そんな……そんな蟹っぽい怪人に……」
「蟹って言うなーーーーッ! これでも気にしてるんだぞ」
「で、でも……」

 なんとかダテ・ザ・キラーはテレサの救出を成功させたものの、背後に敵がいるというのにテレサと漫才をかましていた。 そして、その背後にいる敵は人知れずに嫉妬の炎を燃やしていたのだった。

「ワシのテレサと何をそんなに楽しげに話しをしているぅ! この、泥棒蟹めッ! どっから沸いてきた!」

 プロフェッサーヌルのロボットがゆっくりと歩き始めた。 まずは身近にあった邪魔な木を引き抜き、そのままのっしのっしと。

「あーーッ! お、オレの木がーーーッ! て、てめぇ、許さねぇぞ!」

 ロボットは手に持っていた、雪之丞がカットした木を放り投げた。 その木は六道家の広い庭を穴を開けながら転がり、最後には大きな岩にぶつかって半分にぽきりとおれてしまった。
 それを見て激昂したダテ・ザ・キラー。 手塩にかけて綺麗にした木を、こう無下に扱われるのは彼にとって最大の屈辱だったのだ。

「ん? 誰かと思ったら、お前はワシが改造したゆっきーではないか。 組織を裏切ったと聞いていたが、まさかテレサを監禁してい……うおおおおーーーテレサァァァァ!! こんなマザコン男に監禁されて、何をされたのかッ! いや、みなまで聞くまい!! 聞いたら、わしは心臓発作で死んでしまう! ……おおお、そしてその姿をビデオカメラにおさめられ、逃げたらこの映像をバラ巻くぞ、と脅迫されていやいやながら、そんなメイド萌えな衣装を着せられて女工哀史みたいに働かされていたのかーーッ! 大丈夫だ、テレサッ、ワシが絶対にお前の嫌な記憶を消してやろう。 汚れた体も代えてやる! ……ああっ、天よ……こんな無垢な少女になんという試練を……」
「誰が監禁陵辱をしたというかーーーッ! 名誉毀損で訴えてやるぞ、このタコじじい!!」

 ダテ・ザ・キラーはロボットの手前で跳ね、思いっきり頭部をけりつけた。 ロボットのモーメントの釣り合いが崩れ、地響きを立てて倒れる。

「へっ。 監禁陵辱は投稿規定にひっかかるのさ……」

 無事に地面に着地する。 無様に倒れたロボットと、その中で気絶するプロフェッサーヌルを見下ろす。

「テレサ。 もう大丈夫だぞ。 追っ手は撃退した」
「え? え〜〜〜っと……別にプロフェッサーを倒さなくても……。 ま、いっか。 エヘヘヘ、ありがとうございます、雪之丞さん。 ありがとうのチューを……」

 しかしそんなところで自分の娘を手放すプロフェッサーではなかった。 ダテ・ザ・キラーが後ろを向いている間に、このロボットの欠点である、操縦者にかかる負荷が大きすぎる、という面を補うために組み込まれた気絶防止装置が発動し、意識を覚醒させていたのだ。 背後から襲いかかれるチャンスを得、ゆっくりとロボットの損害をチェックした。

「やめろ、テレサッ! 変なことするなッ、キスなんてまだお前には早い!」

 ダテ・ザ・キラーのその声にぴくりと反応するプロフェッサーヌル。 天才科学者とはいえ所詮はへっぽこ悪の秘密結社アシュロスの一員、こらえ性のない性格がここでマイナス面に働いた。 損害のチェックがまだ終わっていないというのに、ロボットを再起動させてしまったのだ。

「この鬼畜めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 大きな音を立てて立ち上がり、その巨大な腕を振り上げる。 このままではダテ・ザ・キラーが危ない! そんなとき、影に隠れていた三人の男達が一斉に姿を現したのだった。

「うぉぉぉぉ!! なんか得体の知れんロボットが、我らが守るべき屋敷を攻撃しているぞ! ジョー、ボビー!」
「ああ、これは大変だ。 ヘンリー、ボビー!」
「エミさんのところから六道家の警備員のアルバイトに行かされた俺たちだッ、あのロボットを根性で止めて見せよう! ヘンリー、ジョー!」

 三人の男達は六道家の警備員達だった。

「外人部隊三人組の底力を見せてやろうぜ、ジョー、ボビー!」
「その意気だな、ヘンリー、ボビー!」
「おうともさ、ヘンリー、ジョー!」

 ダテ・ザ・キラーを押しのけて、ロボットに立ち向かおうとする三人。 彼らは特別に改造の施された超人警備員などということはまったくなく、ただちょっと丈夫なだけの普通の人間達だったのだ。

「ええい、小うるさい虫どもめ!」

 そしてそのまま無慈悲なロボットの一撃を喰らい、案の定空を飛び、星になる三人組。

「へ、ヘンリーとジョーとボビー!! お前ら……」

 ちょっとした顔見知り達が星になったのを嘆くダテ・ザ・キラー。

「原作ではタイガーより影が薄かったのに、こうもあっさりと……」

 星になった仲間達、空には彼らの顔が浮かび上がり、サムズアップサインをした歯が何故か光るヘンリー、ジョー、ボビーの姿が。
 今のは流石に少しやりすぎであろうか?

「何をッ! 影の薄さではゲソバルスキーも負けてはおらんぞ! もう一撃を喰らえぇぇぇ!」

 再びロボットの拳が振り上げられる。 仮にもヘンリー、ジョー、ボビーを星にした威力を持つ攻撃。 ダテ・ザ・キラーが直撃を受けたとしたら、魔装術を使用しているので致命傷にはならずとも戦闘不能になるのは必須である。

「くっ、クソ……」

 拳が当たりそうになるその瞬間、ロボットの腕に小爆発が起こり、体勢を崩したロボットはダテ・ザ・キラーへの攻撃を外してしまった。 大きな地響きを立てて、大きく地面に食い込むロボットの拳。

「またかッ! 今度は一体何者だ!?」

「聖なる水晶が輝く時、華麗な乙女が悪を断つ。 例えば、悪のロボットが正義の味方を攻撃をしかけていたとしたら、そこへ舞い降りる乙女は私。 クリスタルレディ、推参ッ!」

 前後の台詞がまったくかみ合っていないが、彼女にとっては登場時の台詞は往々にしてそういうものらしい。
 六道家の屋根の上に立っていた六本腕の女。 水晶の鎧を身にまとい、正義に燃える瞳を持つ乙女。 すなわちクリスタルレディである。

「私の仲間であるダテ・ザ・キラーを倒そうなどと不埒な考えをする輩め! 私が成敗してくれるわッ!」
「何を! ダテ・ザ・キラーは私のかわいいテレサを監禁し、不特定多数の前で口に出して言ったらそれだけでも警察に御用になるようなことまでしたのだぞッ! 私はテレサを取り戻しにきただけだッ、邪魔をするな!」
「そっ、そんな……出鱈目ですッ!」
「嘘ではない、全ては事実なのだ。 私だって信じたくない……」
「テレサさんが……そんなッ!」
「何をそんなに嬉しそうにしているのだ、クリスタルレディ! 顔がにやけているぞッ」
「いえ、別に……あの女がそういう状況であるとは……なるほど、それは都合のいい……」

「って、信じるなーーーッ! オレは無実だーーーッ!」

 見覚えがないどころか、想像すらしたこともない罪をおっかぶせられそうになり、絶叫。 彼にとってあまりそれ系統の話はされたくないようだ、元々女に興味がないのだから尚更だろう。

「大丈夫です、ダテ・ザ・キラー。 あなたの言っていることは信じます。 テレサをアシュロスに引き渡すだけです」
「馬鹿な! 何を言っているんだ、クリスタルレディ! お前、それでも正義の味方か?」
「正義の味方ですわ。 けど……その女がどうしても邪魔なんですッ。 覚悟ッ!」

 本来は共に敵に向けられるための数多くの拳が、ダテ・ザ・キラーを襲った。 そこいらの岩であれば粉々にしてしまうほどの威力をもつパンチが地面をえぐる。

「何を……」
「黙ってください。 今回だけはあなたと私は敵同士。 言葉は必要ありません」
「じ、事情を教えてくれ……」
「問答は無用!」

 そのとき、クリスタルレディのパンチがダテ・ザ・キラーの横面に命中した。 ダテ・ザ・キラーは衝撃を受けるがまま後ろに回転するように飛んでいった。

「ふがいない」

 ダテ・ザ・キラーは芝生の中を転げ、草や土を巻き上げていく。 数十メートルほど転がり、ようやく止まった。

「正義の味方たるもの。 己の信念を曲げることは許されないのです。 例え、それが間違っていようとも、最善のために次善を尽くす、ヒーローの掟その2です」

 ダテ・ザ・キラーを戦闘不能にすべく、クリスタルレディは近寄っていく。 四本の腕がきしんだ音を立て、うなりをあげている。
 クリスタルレディがダテ・ザ・キラーにあと二歩ほどの位置にくると、大きく飛翔し、空中で鎧からまばゆい光を放った。

「クリスタル……アターーック!」

 クリスタルレディの必殺技、クリスタルアタック。 まずは跳躍し、水晶観音の力とまばゆい太陽の力を使い、クリスタルパワーを解放して、自由落下と共に一気にたたみかける技。 体に大きな負荷がかかるのと同時に、相手が素早く動いていると攻撃が命中しないこともあいなり、非常に条件が厳しいが、一撃必殺の攻撃力を誇る、彼女の奥の手なのである。

 そんな大層な技を繰り出されてダテ・ザ・キラーも黙ってはいない。 元アシュロスの怪人であるだけに、非常にキレやすい性格をしているのだ。 頭の中でぷつんと音を立て、堪忍袋の緒が切れた。
 ひょいと立ち上がり、そのまま数歩移動する。 クリスタルレディはダテ・ザ・キラーが倒れていた地点に落下。 地面に衝突して、その衝撃で勝手に気絶してしまった。

「……」

 とめどのない憤りが行き場を失う。 だからと言って暴走するわけでもなく、彼の中で瞬時に萎えてしまった。 力なく肩を落とし、溜息が一つ出る。

「ぬぅ。 なんだかよくわからんが、テレサを取り戻すためには貴様という存在が邪魔だということだな、ゆっきー!」
「だからオレをゆっきーって呼ぶな……まあ、いいか、そういうことだ、プロフェッサーヌル」

 もはや熱したり冷めたり、また熱して冷めて、と繰り返し、感情の起伏がなだらかになってしまった。 どうでもいいから早く終わらせて熱い茶を飲みたい、という欲求にかられれば、誰だって現状を投げ槍に対処することだろう。 まさに、今のダテ・ザ・キラーがそうだった。

「このワシのロボットの怒りの鉄拳を喰らえッ!」

 腕を引き、持ち上げ、回転させるという大がかりなモーションの後、前に突き出す強烈な攻撃。

「あぶねぇ!」

 横に跳び、攻撃を回避。 打ってかわってバトルモードに突入した二人の男。 前置きが散々長かったせいか、本当にバトルなんてするのか? と危ぶまれていただけにダテ・ザ・キラーの安堵感もひとしお。

「ぐぬぬ……ちょこざいな」
「今度はこっちから行くぜッ!」

 地面を蹴り、全力で疾走するダテ・ザ・キラー。 加速装置なんて大仰なものはついてはいないが、身体能力が平均的な人の数十倍以上もあるダテ・ザ・キラーにとって100メートルを五秒台で走り抜けることなんて造作もないことなのだ。

「キーック!」

 足を突き出し、プロフェッサーヌルが操縦するロボットに見事攻撃が命中しそうになったその瞬間、ダテ・ザ・キラーは刻の涙を見た。


 空を貫く紅蓮の炎。 それは一筋の光になり、空を切り裂き、無音のままにあらゆるものを破壊する。 メギドの光線はどんなに硬いものであろうと有象無象に砕き、壊す。 そして殺す。


 ぐぅの音も出ることもなく、ロボットは爆散。 蹴りをかまそうとしていたダテ・ザ・キラーもすさまじいエネルギーの前に吹き飛んだ。
 それはたった半径数センチを貫いただけだったのだが、しかし、それにともなう爆発は半径数十メートルにも及んだのだ。

 あとに残ったものは、ロボットがあった地点に開いた巨大で深い穴。 それは大人が十人入ってもまだ余裕にスペースを残すほどの大きさ。 爆風によって巻き起こった風が辺りのもの全てを振動させ、奇妙な音を作り出す。 ダテ・ザ・キラーは自分が手入れをした木の一本に命中し、ずるずると滑り落ちていく。 プロフェッサーヌルの姿は影も形もない。 腐ってもアシュロスのブレイン。 パワードスーツを着込んでいたこともあり、どこか遠くへ吹き飛ばされただけで生きてはいるだろう。


 一体全体何が起こったのか?
 それはこの場でただ唯一立っているものが知っていた。

「……あ。 威力が強すぎましたね、『テレサテライトキャノンシステム』って調節がむずかしいです」

 アシュロス最終兵器、萌えアンドロイドテレサ。 内装の兵器は他のオプションを搭載するに当たって大幅に省かれているが、実は究極兵器とのリンクを持っていたりする。


 報われず、おのおの気絶している三人に合掌。 加えて、ヘンリー、ジョー、ボビーとゲソバルスキー達に敬礼。

 

 
 事態は最終回に向かって切迫している……

「ぬぉぉぉぉぉ! テレサッ、わしは絶対に諦めんぞぉぉぉぉ!!」

「……え〜っと……わたくし、一体何をしていたんでしたっけ?」

「……まあ、いいか……」

 ……わけでもなかった。

 

 

 

   第八話へ続く!

 

 

 

    後書き

 どうもzokutoです。
 今回も更新遅かったです。 一話書くのにテキストで32KB超えたのは始めてでした、ぐふぅ。
 本来前後編くらいに分けるべきだったのかもしれませんが、前後編に分けるとさぼる可能性があるので一つにまとめました。 一話完結に書くのは楽じゃないけど、これしか書けないというジレンマです。
 ではでは、色々と消耗しているので今回の後書きはここらへんで。

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