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「(帰ってきた)マッドネスヒーロー 第六話(GS)」

zokuto (2005-04-20 11:39)
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「……これより人界での単独任務を行う。 任務内容は、横島忠夫……この世界のイレギュラーの確保、もしくは排除……以上」

 夜でも明るい街。 そういう風に人から呼ばれている場所に今夜、一人の戦乙女が舞い降りた。 名前はワルキューレ。 魔界正規軍のエキスパートで、独り言通りに横島忠夫、つまりかの複雑な人間関係を作り上げてしまったヨコシマンを拉致、もしくは殺すために派遣されたのだった。

「春桐と名乗る人間に変装……ターゲットを発見次第戦闘リミッターを解除し、捕獲に入る」

 ワルキューレが人間の姿へと変わる。 自然に、怪しまれないよう、ワルちゃん変身セットスティックのボタンをメルヘンな呪文を唱えつつ押せば、容貌が人間と変化する。

 そう、彼女は「魔界天使マジカルワルキューレ」だったのだッ!

 

 

 

 

 
       マッドネス ヒーロー  ヨコツマン?
                第六話

              魔界からこんにちは

 

 

 

 

 
「ホホー! みんな、みんな子供に変えてやるよ〜! おいら、子供が大好きなんだ、ホホーッ!」

 町中で笛を吹く変態さん、ピエロの格好をしてちゅらちゅらちゅらら〜と大人を子供へと変えていた。 その変態の名前はパイパー、かつてヨーロッパを荒らしまくったとかいう噂があったりなかったりする悪の秘密結社理想推進機関アシュロスの怪人である。

「黄金の煩悩を携えて、東へ西へ宇宙へと駆けめぐる正義の味方! 煩悩超特急、ヨコシマン、推参!」

 そこに現れる新たな変態。 彼の名はヨコシマン。 毒をもって毒を制すというのか、アシュロスの怪人に対するドクターカオスが作り上げたれっきとした改造人間である。 煩悩をエネルギー源とし、百八つの必殺技を持っている。 八の字の描かれたTシャツに普通の短パン、そして赤いマフラーの憎いヤツ。

「ホホー! お前がヨコシマンか、このパイパーが子供にして殺してやるよ!」
「何をッ! この、世界の美女を幼女にしてしまう悪魔パイパーめ! このヨコシマンがいるかぎり、お前のロリコン趣味を世界に蔓延させないぞッ! ヨコシマン・オーバーヘッドキーーック!」

 建造予定で放り出された遊園地で、パイパーとヨコシマンが拳を交わしている。
 悪魔パイパーは大人を子供に変えてしまうラッパを吹き、ヨコシマンはゴールネットを突き破り、コンクリートの壁に食い込むほどの威力を持つオーバーヘッドキックをかます。

「ヌウウウウ! 貴様、やるなッ! おいらのラッパが効かぬのは何故だッ!」
「貴様こそ! 俺のボールをかわすとは流石だなッ!」

 人が一人もいない遊園地でヨコシマンとパイパーが激戦をかわしている間、本当に久しぶりなので「これまでのお話」でも。

 心頭滅却とかいう言葉を全く知らない、主成分が煩悩でできている普通の高校生、横島忠夫。 その実体は、美神の時間跳躍能力によって、正史からパラレルワールドにつれてこられてしまった横島忠夫だったのだ。 プロフェッサーヌルの氷の矢で殺された横島がドクターカオスによって保管され、超人ヨコシマンとして復活したのだ。
 長年、全世界を渡り歩き、何故かTVヒーローに感化されたヨコシマンはまだ見ぬ悪の秘密結社を倒すために生きることにした。 しかし、悪の秘密結社を見つけるという悲願は叶わず、本意ではなかったのだが平和に暮らしていた。 しかし日本に定住することになって数十年、ようやくライバルを見つけるのに成功することができた。

 相対する悪の秘密結社の名は「アシュロス」。 自分がいつになっても定年退職することができないということを悟ったアシュタロスがすべての世界を征服することを目的として組織を発足。 神族、魔族を支配するためにまずは人界から、と初期のイルパラッツォみたいなことを考え、設立した組織である。
 尚、これは正史から外れたパラレルワールドであるせいか、総統のアシュタロス以下部下全員がおおむね全員間抜けである。

 ちなみに、ヨコシマンには伊達・座・吉良とクリスタルレディという仲間(?)がいるが、両方とも基本的『アレ』である。 中の人達に至っては、ヨコシマンの通常版横島忠夫と顔見知りであるが、実は全員相手の正体に気づいていなかったりする。


 ……と、ちょうどあらすじが終わったところで、ヨコシマンとパイパーの戦いも局面に入ったらしい。

 ヨコシマンがヨコシマン・長ネギを刀のように構えている。 パイパーはヨコシマンの度重なる猛攻に大幅に体力を削られ、地面に片膝をついて息を切らしていた。

「お前の負けだ、このロリコン野郎!」
「……ぬぬぬ……おいらはロリコンじゃない……」

 ヨコシマン、格好も態度もまるで変態であるのだが、これが中々強い。 ただ、思考回路が日常生活に支障をきたすほど偏りすぎているため、そして自身の中に存在する歪んだヒーロー像に類似しようとせんがため、性能を100パーセント活かせていないのだ。 そのくせ、ヨコシマン・ウェーブやヨコシマン・ファイナルなど危なげなワザを所持しているだけに始末が悪い。

「おいらはただ単にみんな子供にしてしまえば楽しく生きれる、そう思っただけだ!」
「そんな世界で楽しく生きれるわけないだろう。 この世の楽園は……そう、大人の魅力によって作られるものなんだよ。 ボインとか眺めずに何を楽しめというのかーーーッ」

 ヨコシマン・長ネギを鞘に戻すヨコシマン。 とどめを刺すのをやめたわけではない、最後の一撃を決めるためだ。 ヨコシマンは女性……それも美女にはとびきり優しいが、男にはきわめて厳しい。 特に相手が悪人だったりすると尚更。 まず間違いなく、ヨコシマンは殺る気だ。

「ぬぅ、おいらは子供帝国を作るためにここで死ねないのさ。 悪いが、撤退させてもらうよ」

 ひょいと空を飛ぶパイパー。 体が透けて、変な髪型のどうみても変態なピエロが空を舞う姿は、シュールレアリスムの境地としか言いようがない。 そして空飛ぶピエロを見上げている、世間一般で認知されている清く正しいヒーロー像を根底から勘違いしているであろう格好をしたヒーローが叫んでいるのならば尚更に。

「逃げる気か、パイパイ!」
「おいらはパイパーだッ! なんだそのドラゴンボールにちょっと出していそうなキャラみたいな名前はッ!」

 長ネギをぶんぶん振り回すヨコシマン。 さっきからずっとスルーされていたが、ヨコシマン・長ネギは普通の長ネギである。 だが、ヨコシマンの煩悩エネルギーとかそういうご都合主義な能力によって通常の刀のような鋭さを持つネギなのだ。 じゃあ、普通のポン刀に煩悩エネルギーを使ったらどーなるんだよ、というツッコミが予想されるが、そういうのは全部スルーで。 これこそすべてご都合主義のなせるワザなのである。 何、大したことはない、天上天下唯我独尊な強さを誇るヤツは彼以外にもたくさん存在している。
 ともあれ危険なカミングアウトの最中にパイパーは空高く飛翔し、ヨコシマンの猛攻から見事逃げ切った。

 かのように見えたのだが……。


「魔界天使マジカルワルキューレ! 参上っ!」

 冒頭の『アレ』がパイパーよりも更に高い空から降ってきた。 『アレ』はファンタスティックな妖精さんのコスプレ衣装を着、ディズニー……もといデジャヴーランドの夕方から夜にかけて道ばたで売られている安っぽい発光体のようなもので装飾されたスティックを右手に握りしめていた。 パイパーを頭から踏んずけるもそれを無視する。 そしてそのままビシィッとヨコシマンに指さし、口上。

「ヨコシマン! 諸事情により貴様を逮捕する!」

 おおよそ魔法少女らしからぬ口調だが、まあ年齢が年齢だから……げふんげふん、魔界の正規軍の一つなのだから勘弁してもらいたい。 エセファンタジーな格好をファジーな表現のままにしておくのはあまりにもお粗末、故に彼女のファニーでファンシーな格好を改めて描写しよう。
 『何か勘違いした感じの妖精ルック服。 つまりやけに膝丈までのドレスを着、裾は大きなギザギザで切られ、腹部でタイトに縛られている。 袖はなくて、肩には大きなぼんぼんしているものが付いているだけ。 全体的に色は黒で、胸元には蝶々結びにされた赤いリボン。 髪型はショートだが、そう短くもない。 それでいて何故かサングラス』こんなところであろうか。
 表現により簡便性を持たせるならば、『街を歩いたら子供が喜び(もしくは泣きわめく)、親が退く。 そしておっきいお友達にはやたら喜ばれそうな格好』そんな感じだと思って頂ければよろしい。 ただ、おっきいお友達といってもそれでも人を選びそうではあるが。

 とにかくヨコシマンの前に新たな敵が現れたのだった。 ……パイパーを踏みつぶしたままで。

「な、何? 俺が逮捕されるだって! そんな馬鹿なことがあるかッ! 大体一体なんなんだ、『諸事情により』って!」
「言ったら大変なことになってしまう、ということを暗に示している言葉だ、ヨコシマン。 素直に私に付いてきてくれるな?」

 そういいながら腰元のファンシーなスティックを引き抜くマジカルワルキューレ。 先端に星がついて、棒の部分はピンクと白の螺旋模様の一見至って普通のマジカルスティックだが、実はそれ、仕込み刀なのである。 時代劇とかで琵琶法師が持っている杖に刃物を仕込んでいるもののようなものをよく見るが、それのことだ。 まあ、簡単に言えば相手を油断させて攻撃するという一つの武器のことである。
 そんなことも露とも知らないヨコシマン。 ワルキューレに暴言を吐く。

「何を! 魔法少女と言えるかどうか全く怪しい年齢だと言うのに、そんなやつの言うことを聞けるかッ!」

 ちなみに、ワルキューレは「魔法少女」とは一言も言ってない。 ナレーターは言ったが。

「ふ。 『魔界の法に乗っとり隠密に活動する少尉の女』を略して魔法少女だ。 何ら問題はない」

 ……。

「問題あるわ、ボケェェー!」
「あったとしても些細なことだ、私に大人しく逮捕されろ、ヨコシマン」
「悪いことはいっぱいしてるけど、それが明るみになっていないのに逮捕されてたまるかっ!」

 悪いことしとるんかいっ、というツッコミはこの場では無意味だということを一応言っておこう。

「やはり言葉は無力か。 では、力ずくで捕まえるのみ!」
「やってみろ。 しかし俺を簡単に捕まえられるとは思うなよ。 チチやシリの一揉み二揉みは覚悟してもらおう!」

 何故か怒髪天に来たヨコシマンは、長ネギを構えて一気に走る。 対峙するワルキューレはマジカルスティックの鞘を少し抜き、ヨコシマンに相対する。

 古来より、ヒーローと魔法少女との間には確執があり、いがみあっていなければならないのだ、とヨコシマンは思っていた。 無論、それは例のごとく事実とは大きく外れている。

「ていやッ!」

 長ネギが横に一閃。

「やあッ」

 仕込み刀が縦に一閃。


 一陣の風が吹き、砂埃が立ち上がる。 両者とも無傷、二人とも相手の攻撃を受け止めたのだ。

「まさか、そのスティックが刃物だったとはな」
「そういう貴様こそ、長ネギが武器だったとは思わなかったぞ」

 無意味に強い二人。 確かに二人とも無傷だったが、打ち合いになった場所の地面はワルキューレの攻撃で大きくえぐれ、ちかくにあった鉄筋がヨコシマンの長ネギ・スラッシュによって打ち砕かれていた。 地面の安定性と大事な鉄筋を無くした作りかけのアトラクションは大きな音を立てて崩れた。
 それすらも無視して互いににらみ合う二人。

「これが任務でなかったら今頃、夕焼けの河原の草むらに二人して横になって『お前、強いな』『お前もな』といって青春を謳歌していただろう、残念だな」
「……ふ、俺としては夕焼けの校舎でラブレターを貰う方がいいシチュエーションだが……いかんせん、俺も魔法少女という魔法少女と戦わなければならないという宿命を持っているからな。 俺も残念だ」

 脳がずれてしまったかのように馬鹿なことをほざく二人。 いや、実際に脳がずれているんだろう。 場違いな発言といえばそうなのだが、二人とも場違いならば場違いではあるまい。 あたかもコーヒーに間違ってマヨネーズをいれてしまったかのような、ギャップ。 けれど、観戦者が誰もいないので二人ともそれに気づいていない。 ……いたとしても気づく保証はないのだが。

「……いたた……何があったんだ。 おいらは一体どうなって……」

 観戦者が一人だけ、居た。 どちらかというと対戦者二人と同じようなベクトルの方向の思考を持った観戦者だが、こんな変態でも相対的に見れば常識人なのだろう。 ……社会一般の常識人とは全く異なるものではあるが……いやはや。

「……ハッ!」

 パイパーは目の前でワルキューレとヨコシマンが戦っているのを見た。 情勢はヨコシマン、劣勢。 流石に連戦はキツイというのか、それともワルキューレの方が元々強かったのか、ワルキューレはマジカルスティックガンという精霊石を発射する、黒光りする拳銃を駆使してヨコシマンを追いつめていた。 マジカルスティックという名称が極めて似合わない武器である。 そこらへんによくいる、黒いスーツを着たごつい男が懐に手をつっこんだら出てきそうな武器なのだ。

「くっ、くそ。 ヨコシマン・長ネギのエネルギーが残り少ないのか……」
「ふはははッ、ヨコシマン、ふがいないぞ! 私はまだまだ戦える!」

 やたら黒光りして、禍々しい形のマジカルスティックは凶悪な威力を見せ、ヨコシマンのすぐ近くの地面や壁に弾を命中させる。 正確無比な射撃術は、常にヨコシマンの心臓部分に軌道を描くが、ヨコシマンのバリアによって弾かれていたのだ。
 だが、そのバリアも限界がある。 今、まさにヨコシマンのバリアが破られようとしている。 外付けのエネルギーパックでのみバリアは展開されているせいで、ヨコシマンの無限のエネルギー「煩悩エネルギー」によってエネルギーの供給がされていない。 煩悩エネルギーを武器系統に多く割り当てる、ということのための処置だったのだが、今回はそれが完全に裏目に出てしまった。

「く……そ……。 いや、まだだ、まだ諦めない。 ヒーローとバスケの選手が一番しちゃいけないことは諦めることなんだ。 俺は信じる、俺の友が来てくれることをッ!」

 ヒーローらしく熱血した様子で語るヨコシマン。 正直言って、彼の仲間はあまり当てにしない方がよさそうな連中なのだが、それでも決して疑うことをしらない。 無条件で友人を信じるのはヒーローの必要条件ではあるが、ただの馬鹿ととられるいう弊害が存在するがために十分条件ではないのが玉に傷だ。

「無駄だ。 応援など来るはずもない。 私が何も策を講じていないとでも思ったか!」

 極めてクールに言い放つワルキューレ。 彼女は彼女で魔法少女としての条件を満たしていない。 魔法少女は謎を含んだもの言いをするのは許容されるが、そういう場合は語尾を「ですぅ〜☆」にしなければいけないのだ。

「……ヨコシマン・外部エネルギーパック、離脱ッ! 装着ッ!」

 ヨコシマンは腰のベルトにつけていた、カートリッジを引き抜き、それを腕に再び装着した。 ヨコシマンの周りを包んでいたバリアが消え、代わりに長ネギが黄金の光りを放ちはじめる。 そう、ヨコシマンはバリアのエネルギーをすべて攻撃力に回すという背水の陣に打って出たのだ。
 展開が早すぎるような気がしないでもないが、ほら、ウルトラマンだってカラータイマーが鳴るといきなり殺人光線ぶっぱなして怪獣を爆殺するのだから、ヨコシマンもそれに習ったのだろう。

 それに対して、ワルキューレは手早くマジカルスティックガンを変形させる。 魔界の最新兵器はそのものに生命が宿っており、使用者の都合のいいように変形する。

「ワルキューレ・ソード」

 何故か銃という遠距離攻撃用武器だったのに近接戦闘用の剣になってしまうマジカルスティックガン。 レンジが広いというアドバンテージを捨て去ってしまったが、その剣から漏れ出る覇気はすさまじいものがあった。 ワルキューレもこの一回の攻撃において、決着をつける気だ。


 再び、相まみえる二人。
 一方では、あたりのアトラクションが片っ端から崩壊し、多くの破片が地面に突き刺さっているという状況。 またもう一方では、地面がえぐれ、穴が数多く点在する足を取られかねない非常に危険な場所。
 ヨコシマンはくたびれた黄金の長ネギを握りしめ、ワルキューレはマジカルスティックガン……いやマジカルスティックソードを右手で構え、マジカル仕込み刀を左手に持っていた。

 いざ最後のシーンへと。 水戸黄門であれば印籠を出す寸前、ウルトラマンならばカラータイマーがなり出す瞬間、仮面ライダーならばキックをかますために跳躍しているところ。

 夕日が背景の草原の決闘のごとく速く、二人は走る。 互いにすれ違うかすれ違わないかのその瞬間。 鉄と鉄が混じり合う音。 雷鳴にも似たそれが天を切り裂くように響く。
 鍔迫り合いだ。

 ヨコシマンは上段から下へ押しつぶすように長ネギを握り、ワルキューレは下から上へ弾くように仕込み刀とソードを持ち上げる。 二人とも顔に汗を浮かべ、純粋に力比べ、霊力比べをしていた。 この勝負、ヨコシマンのプライドとワルキューレの使命感、どちらが強いかで決まる。 実力はほぼ同等。


「ヒーローこそが世界を救うんだ。 魔法少女は……お呼びじゃない」

 ルールに縛られる男。(オレ方程式、自分ルールだけど)

「何を……魔法少女でも世界は救える! 見損なうなッ」

 使命に燃える女。(使命と手段が反対になってるけど)

 よりエネルギッシュに、より活力的に戦う二人。 霊力が長ネギと仕込み刀の中で錯綜し、多くの量の霊力が大気に散っていった。 その霊力は、まるで透明の水の中に垂らした一滴の色水のように広がっていく。

 五秒、十秒、十五秒……一分が経過しても、ヨコシマンとワルキューレの決着は付かなかった。

 ただ時間だけがじわりじわりと過ぎていく。


 そんな戦いを一人、遠くで見るモノがいた。 そうパイパーである。

「ヌヌヌ、あの女、最初はおいらの敵かと思ったけど、ヨコシマンと戦っている。 ひょっとしたら仲間なのか?」

 瓦礫と化した観覧車のゴンドラを盾にして、戦っている様をじっくりと観察していた。 今はヨコシマンもワルキューレもパイパーの存在を失念していたので、パイパーにとっては絶好の奇襲のチャンスだった。 ラッパを吹けば確実に一人子供に変形させられ、そこで飛び込んで攫えば勝ちを得ることができる。 ではどちらを子供にするか、霊能力者相手で二人いっぺんにラッパ攻撃を成功することを望むにはいささか勇気が必要だった。
 ならばどちらを確実にしとめるか、となれば自分に明確に敵意を寄せているヨコシマンであろう。

 パイパーはラッパをヨコシマンへと向け、息を大きく吸い込む。

 パイパーがそんなことをしている間にも、ワルキューレとヨコシマンとの戦いの戦局は大きく変化していた。 ほんのわずかな力関係がずれただけだが、鍔迫り合いではそれだけでも勝敗を決めることになる。
 今回の勝負はワルキューレに分があった。 さすがにかなり消費していたエネルギーパックだけでは長ネギに与えるエネルギーが不足していたのだ。
 しかし、ヨコシマンには秘策があった。 恐らく一発しか決めることができないが、高確率で勝ち……最低でも引き分けに持ち込める超必殺技。 幾多の強敵をこの技で葬り去ってきたという、一回限りの勝利の答え。 大きく息を吸いこむ。

 ヨコシマンの技はパイパーのラッパ攻撃より一瞬だけ早く発動した。


「のっぴょぴょーーーーーんッ!」

 肺の空気をすべて吐き出し、全力で声を張り上げる。 血圧を上昇させて目を血走らせ、恥を忘れ、ヒーローとしての外面を捨て、一声に魂をかける。 そう、芸人の魂を。
 ギャグマンガ及びそれに準ずるモノに宿命的に働く不思議な力。 この手の知性のかけらもない、ただの一発ギャグを行うと、物理法則を完全に無視してギャラリーはずこーと転ぶ現象が起こるのだ。 それをうまく利用したヨコシマンの超必殺技「ヨコシマン・のっぴょぴょーん」
 何もかも、ひょっとしたら人間としての尊厳すらも捨て去っても勝ちを取る場面でしか使えない。 かといって地球を救うため、という戦いでそれを使用したらなんとも情けない姿をさらしてしまい、後生に恥を残してしまうのでやっぱり使えない。 使うチャンスが極めて絶妙な技で、発動するタイミングを間違えれば自爆技「ヨコシマン・ファイナル」よりよっぽどリスクが大きい技なのである。

 ワルキューレが奇声とボケのせいで力を一瞬抜いてしまう。 鍔迫り合いのときには、常にその一瞬の隙が勝負を決める。

「しまった!」

 仕込み刀とソードが弾かれ、地面に落ちる。 ヨコシマンはその隙をつき、一瞬にして長ネギを構え直し、横に一文字に振った。

「ヨ コ シ マ ン ・ ホームラン!」

 問答無用の大技、ヨコシマンホームラン。 バッドのスウィングのように手に持っている棒を振り回し、対象物を遙か彼方の地平線までかっ飛ばす技である。 どこまで飛ぶかは、ヨコシマンのエネルギー残量と対象物の重量によるが、少なくとも技の発動地点からは見えなくなるほどの距離を飛ぶ。 もちろん、着地するまで生きていられるかという保証は一切無い。

 と、本来ならばワルキューレが遠くで地面を滑り、ミンチの牛肉を更に大根おろしでぐちゃぐちゃにし、そのうえにトマトジュースをぶちまけたような感じになるだけだったのだが、思わぬアクシデントがあった。 ワルキューレが吹っ飛ぶはずの直線上にちょうどパイパーが立っていたのだ。 そしてそのパイパーは、ヨコシマンに向かって……正確にはワルキューレと鍔迫り合いをしていたヨコシマンに向かって今まさにラッパを吹いたところだったのだ。

「ゲェェェェェェェ!!!」

 パイパーのラッパ攻撃が波状に広がり、そしてその中をつっきってくるワルキューレ。 パラノイアの人が着そうな妖精さんルックの服を着たワルキューレは、そのハンドメイドのコスチュームのサイズがだんだんと大きくなっていくのを感じた。


 ぱっこーーん


 ワルキューレにとっては運良く、パイパーにとっては運悪く、高速で斜方投射された物体が地上で静止している物体と衝突。 カートゥーンのように目玉が飛び出し、転がるパイパー。 そしてとっくのとうに気絶しているワルキューレ。
 数十メートルに及んで砂埃を巻き上げ、ゴンドラを弾き飛ばし、ようやくジェットコースターのアトラクションの壁にめり込んで止まった。 あたりは先ほどにもまして荒れ果てる。 近隣に人が誰もいなかったことと、元々壊れてもよかった遊園地だったことだけが幸いな点だった。

 ヨコシマンはゆっくりと歩き始める。 片手で長ネギを背中の鞘に戻す。 まだワルキューレが壁にめりこんでいるところでは砂埃がもうもうと立ち上がっていて、それが一体どんな風になっているかは確認できない。 ヨコシマンはトドメをさすべく、その砂煙の中へと。

「くぅっ……おいらもここまでなのか……」

 砂埃の中でまず見えたのはパイパーだった。 ピエロの格好をした悪魔はずたぼろになっていた。 自らの運命を悟って、晩年丸くなる毒舌家のようなそんな感じ。

「こ、殺すなら殺せ。 化けてでてやるかならな!」

 ヨコシマンは長ネギを抜かない。 

「子供はいい。 子供はいいんだ。 大人なんて信用できない。 子供は無邪気でおいらのことを笑ってくれる。 大人なんて別の意味で笑ってくる。 おいらは、おいらはただ……子供達と愉快に、生きたかっただけなんだ。 大人社会においらの居場所なんてない、部屋のすみっこでおいらの頭の中で愉快に生きている子供達と野原をかけまわったり……けどそんなことじゃなくて、おいらは、本当に子供達と遊びたかっただけなんだ。 大人は薄汚い、ゴミだ、汚物だ、ゴミだ。 子供だけがおいらのオアシス、おいらのカンフル剤……」

 死を目の前にして内心をすべて吐露しはじめたパイパー。 ロリコン野郎かと思っていたら、実はただの引きこもり野郎だったのだ。 どっちにしろ底辺にいることは変わりないと言えば変わりないのだが。
 死ぬ前には誰しも饒舌になるもののようで、その後もパイパーは知りたくもないことを白状し始める始末。
 うつろな目と暗い雰囲気で、淡々と語ったりいきなり感情を剥き出しにして話す姿は実に不気味。 ピエロの格好がB級ホラーの雰囲気を醸し出している。

「見逃してやるよ、今日のところは」

 それに答えるヨコシマン。 無益な殺生はしない、それが彼のジャスティスだった。 ……無益な戦闘は割とする方だが。

「ただ、もう悪行をするんじゃないぞ。 子供のために、そして自分のために本当によくなることをするんだ。 たとえば……一生懸命働いて、孤児達に寄付するとか」

 ごくごくありきたりなことしか言えないヨコシマン。 ありきたりなことで説得する、それが彼のジャスティスだった。 もっとも彼の行動はありきたりというか規格外ではあるが。

「ほら、立つんだ。 お前の助けを求めている子供が世界にはたくさんいるぞ」

 ヨコシマンがほほえむときらりんと光る歯が見える。 俗にいうヨコシマンスマイルとかいうヤツだが、あんまり拝みたくない笑顔だ。 気色悪いという印象しか与えない。
 映像化して見てみたいと思うことはひとかけらもないこの説教だが、それでも彼は彼の流儀で生きていた。 これでパイパーという男が救われたのも事実。
 パイパーは涙を浮かばせ、無言で空の彼方へと消えていった。 彼の先に待っているものは果たして……。

「……ところで、あいつの名前ってなんだっけ」

 ヨコシマンがつぶやく。 けどそんなことはどうでもいいことだった。 心は晴れ晴れとして、足も軽い。 家に帰ってご飯にしようか、と思いつつ、歩き始めた。

「待て、ヨコシマン」

 背後から不意に声がした。 そうだった、まだ敵は残っていた。 あのちょっとヤバげな電波を受信していそうな女、ワルキューレを倒さなければ今日は平穏に終えることができない。 背中の鞘にさした長ネギに手をかけ、ゆっくりと振り返る。

「貴様、一体私に何をしたんだ!」

 そこにいたのは、なんというか寸詰まりな体型をしたワルキューレだった。 所謂ちびっこ化。 さきほどのパイパーのラッパ攻撃は極めて正確にワルキューレに命中していて、彼女は見事に子供になってしまったのだ。 ただドップラー効果のせいなのか、性格と頭脳だけは元のままのようだ。
 子供特有の甲高い声を張り上げ、そのせいか電波度はアップしたように見えてしまう。
 砂埃が完全にはれ、幼児体型のワルキューレがむっくと立ち上がった。

「このロリコン野郎ッ! わたしをこんな姿にしてどうするつもりなんだッ、ええッ!? 力が弱くて、胸が小さい体にしてどうするつもりなんだッ。 いや、みなまで言わなくていい。 きっとそうなのだ。 ああ、お前の姿をちらと見たときに、『こいつはロリコンだな』と思っていたのに……ああ、油断した」

 それだけで電波をユンユン発信してそうな服で体をかくし、まるで性犯罪者に出会ってしまった子供のようにおびえるワルキューレ。 いや、性犯罪者云々は例えというか実際にそう思いこんでいるのだが。

「ふん、笑わせてくれる。 今の貴様になんの魅力があろうかッ! 俺が好むのは、ナイスバデーのねえちゃんだけだ。 子供などには用はない。 応援してくれるなら大歓迎だがな」

 そして胸を張って言うヨコシマン。 変態と呼ばれる彼であっても、方向だけならば性的嗜好はお天道様に恥じることはなかった、飽くまで方向性『だけ』ならばの話しだが。

「ええい、嘘をつくな! 怪しげな術を使って子供にしたくせにッ。 私を元の姿に戻せ」
「はー、帰って飯でも食おう。 ……あー、長ネギがずたぼろになっちまったなぁ、夕飯の材料だったんだが……」

 激戦の末、砂だらけで傷だらけになってしまった長ネギを感慨深く見つめるヨコシマン。 もはやワルキューレなど眼中になかった。
 しかしワルキューレの方はヨコシマンから眼中にない存在にされると非常に困ることになる。 彼女はヨコシマンが自分をこんな寸詰まりな体にしたと思いこんでいたからだ。 寸詰まりな体にしたのがヨコシマンであれば、それを戻すのもヨコシマンしか出来まい。 少なくとも、自分の力で体を大きくすることはかなわない。 任務のことも当然頭にあったが、大人の姿の状態でも一枚上手にいかれた相手に子供の状態で勝てるはずがなく、まずは体を戻すことが任務達成へと第一歩だったのだ。

「あああ、私の運命はこれまでか。 きっと殺されて犯されて埋められてもう一回犯されて、そしてまた埋められて殺されるのか……この変態野郎めッ! ペドフィリアが服を着て歩いているようなヤツめッ!」

 被害妄想激しく、猛々しい。 電波受信者は特殊な精神構造をしていて、自分の類い希なる想像力を無意味に働かせ、驚異的な人間不信へと勝手に陥るのだ。 ヨコシマンは当の昔にすたすたと脇目もふらずに遊園地の出口に向かって歩を進めている。 しかし、ワルキューレは自身が創造した電波ワールドに突入していて気づかない。
 ヨコシマンが完全に姿を消した、無論、ワルキューレは壊れたパラボラのように延々と電波を発信しつづけているまま。

 延々と自分が犯される様をのたまうワルキューレは、その子供のような体型と見るも無惨な遊園地の中に居たことにより、非常にシュールに見えたという。


 そして今日もまた、ヨコシマンによって地球は救われた。
 しかし、アシュロスの驚異はまだ終わってはいない。 そして魔界からのエージェント、ワルキューレも子供になったといえどまだ生き残っている。 世界の平和を守るのは、ヨコシマンと愉快な変態達だけなのだ。

 戦え、ヨコシマン。 走れ、ヨコシマン。
 僕らの地球の平和を守るために!

 僕らは非常に不安を隠せないけど、頑張ってくれ、ヨコシマン!
 宇宙が終わるときまで戦いつづけるのだ!

 ジャカジャン♪

 

 「マッドネスヒーロー ヨコツマン 第六話」 完

 

  後書き

 どうもお久しぶりです。 zokutoです。
 今回の作品も久しぶりの「マッドネスヒーロー」でした。 また無責任にキャラを壊してます。
 ワルキューレは電波ッ子で、魔界のエージェント。 そして最後には「わるちゃん偉いッ」と言いかねないシチュエーションになってしまいましたが、まあそれなりに。
 なんてたって「マッドネス」ですからしょうがないでしょう。(言い訳になってない)

 いままで散々停滞していてすみませんでした。 元々見てねぇよと仰られる方がいるのならば、おそらくこの後書きも見てないとおもうので安心してます。
 ちまちまと短編だけは書いていたので、名前はなんとか忘れられてないと思いますが、連載を再開してなんとかマッドネスの名前を皆様方に覚えて貰おうということを当面の目標に掲げ、これからも頑張っていきますのでどうかよろしく。

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