漆黒の闇の中
魔法陣の中心には一人の青年がたたずんでいた。
先に起こった大戦
俗に核ジャック事件とも、
アシュタロス戦役とも呼ばれる事象における英雄。
魔神殺しの文殊使い
横島忠夫がそこにいた。
世界はそこにあるか プロローグ
「ほんまにええんか? 今やったらまだ止められるで」
「ええ。私たちにこれを強制する意思はありません」
神魔界の最高指導者、サっちゃんとキーやんである。
「おいおい、いまさら何言ってんだよ。あんた等から言い始めたことだろ。ご褒美とお詫びだって」
横島が答える。
「それにあんたらにもいろいろ事情があるんだろ? この前の説明ではいろいろ誤魔化されたけどさ。そうでなきゃいくらご褒美だからって、時間移動、それも直接同一世界の過去になんか送るわけないからな。ん? おにーさんに言ってごらん?」
茶化すような物言い。
だがこれを聞いて最高指導者二人は、驚きの顔を浮かべるとともに深いため息をついた。
貴方の何百倍生きてると思ってるんですか、なんていうべたなツッコミもしない。
「はー……あんたときどきほんま凄いな。それでこそこの世界を託せるってもんやけど」
「で、どうします。今の状況を聞きますか? 聞いておいたほうが何かと有利だとは思いますけど」
横島は腕を組んで少し考える。
「んー……いいや。すべてを知ってるっていうのも面白くないしな。それに全部が全部あんた等の思い通りに進むっていうのも癪だし」
そう言うと横島はシニカルな笑みを浮かべる。
それ聞いて最高指導者二人は、顔を見合わせて苦笑した。
「ほんまにすまん。でもこっちが横っちに対して感謝の気持ちや、贖罪の気持ちを持ってるっていうんはほんまやねん」
「それについて黙っていたのも、貴方の純粋な気持ちで決意してもらいたかったからなんです。ですが貴方に対して謝ることが一つ増えただけのようですね。本当に申し訳ありません」
二人が頭を下げる。
今度は横島が苦笑する。
今の彼にとって二人に対して同情や憐憫の念はあれど、怨みや怒りの念はまったくなかった。
「いいって。俺は俺の意思でここにいるんだからさ。まっ、確かに昔はいろいろ考えることがあったけどな」
彼の瞳に一瞬深い悲しみが宿る。
「そんなことより時間無いんだろ? ちゃっちゃとしようぜ。ちゃっちゃと」
三人の視線が交わる。
そして最高指導者二人が頷いたときには、
もう、横島忠夫の姿はなかった。
「行きましたね……」
「そやな」
「アシュタロスの死による均衡の崩壊。デタントの崩壊」
「分かってたんやけどな。こうなるやろうってことは。つまり‘運命と分かってて超えられない運命’っていうことか」
「そうですね。ですが今はまだ世界は平和そのものです。それまでに彼を送り出せただけでも良しとしましょう。あと何時間、いや何分持つか分かりませんが。彼がこれ以上悲しむのは見たくありませんから」
「はー……力ないなーわしら。≪明けの明星≫なんて言われててもこんなもんや。横っちにやってしまおか」
「そんなもの、彼は欲しがらないでしょう。それより彼女たちです」
「そしてそれが終わった後は、わしらにできる最後の作業やな。それでしまいや」
「ええ。後は彼に託しましょう」
「頼むで、横っち」
「頼みます」
変わるもの、変えるもの、変えられるもの
すべては御都合主義の予定調和
無茶苦茶な物語
未来
運命
過去
シュレジンガーの猫は死ななかったのか否か
何がそこにあるのか
そこに世界はあるのか
因果律の果ての終焉<トリガーハッピーエンド>
『物語』は――
あとがき
最近GS美神の二次創作に出会い、逆行というジャンルに強い衝撃(少し言い過ぎかな)を受け自分でも書いてみることにしました。
あんまり量を読んでないんですが、なるべくありきたりにならないように気を付けたいと思います。(逆行っていうテーマ自体ありきたりみたいだけど)
プロローグなんであまり長くはありませんが、読んでくれてありがとうございます。
では。