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▽レス始

「タイガーの挑戦  〜妙神山ハヌマン編〜(GS)」

MAGIふぁ (2005-04-15 12:33)
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「ゴハァッ!!」

 血を吐き、痛みを少しでも誤魔化そうとのた打ち回る大男。しかし痛みは治まらない。込み上げる血も収まらず、大男は再び喀血した。

「ガハッ!ガフッ、グッ!!?」
「どうした………………そのまま死ぬか?」

 大男の吐く血の量からすると、内臓が傷付いている可能性がある。しかし、その傷を与えた存在は大男を見下し、冷たくそう言い放った。

「立て。さもなくば死ね」

 再び死ねと言ったのは、大男よりもなお大きな、山の如き大猿。無論、これは普通の生物ではありえない。
 彼は山神ハヌマン。かつて斉天大聖と自ら名乗った伝説の魔猿にして、現在は妙神山の支配人である。

「…あ、…あぁっ!!あぐぁぁぁ!!!」

 その魔猿の叱咤に答えて、涙を流しながらも震える体で力を振り絞って立ち上がる大男。
 彼の名はタイガー寅吉。
 ごく軽い気持ちでこの妙神山最難関コースを受けてしまい、現在死にかけている愛すべき大馬鹿野郎である。
 そもそも何故にこんな事になったのかと言えば――

 まず、妙神山とは霊能者のための修行場である。それも神族の管理する、人界では最上級のもの。
 そしてそこへ行き、最難関クラスをクリアしてしまった友人がタイガーには2人もいた。
 更にその友人2人は、現在世界でもトップクラスの霊能者になっている。
 それでもって、タイガー本人は実力はさほど成長しておらず。
 トドメにGS試験がもうすぐ行われると来れば……

 しかし、タイガーは知らなかったのだ。
 妙神山とは……デッド・オア・アライブ、本気で生きるか死ぬかの試練を課せられて、生き残った場合のみパワーアップさせてもらえる。そんな修行場とは名ばかりの、命をチップにした賭博場だという事を。
 彼の周りの人間も、覚悟はいいか?とは散々に聞いたのだが、あいにくとその辺を詳しく説明してくれる人はいなかった。どうやらうっかり失念していたらしい。
 そんな不幸が重なって……現在タイガーは死の3歩手前あたりにいた。

「あ、あう…アオォゥッ!!ガァァッ!!」

 相変わらず止まらない、喉の奥からの血を吐き出すのと一緒に咆哮を上げ、目の前の魔猿に精神感応による幻覚を叩きつける。
 この力がある程度以上の上級者や、精神感応というネタを知っている者には通用しにくいのはタイガーにも解っている。
 だが、彼にはこれしか縋る物は無かった。
 生と死の狭間、その状況にまで追い込まれてなお戦わねばならない――そんな時に、彼が頼みとする力はやはりこれしかなかったのだ。
 自分では制御できない力だった。現在の上司であるエミが暴走していたところを押さえ込み、封印してくれなかったら、今でもこの力に飲み込まれて暴走したまま、セクハラの虎の異名を欲しいままにしていただろう。
 ほぼ理性を無くし、ケダモノそのままに異性に襲い掛かる。ただそれだけの人生――
 エミがいなかったら、この力は自分をそうしていただろう。だが、それでも…それでもこの力は自分の拠り所でもあった。この力ゆえにエミは自分をスカウトに来た。この力ゆえに自分は霊能者でいられた。
 そうだ。この力こそ……この力こそ、制御できれば、自分を特別なものにしてくれる――上司らや友人達のように、あの出番、じゃない光あふれる場所に導いてくれる――

「ガガガガガ………………ガァルォォォォォォンン!!!」
「ほぅ?霊波の質が変わりよった」

 タイガーが己の中の力を心から肯定し、全てを注ぎ込んだのを感じたのだろう。それまで無表情に近かったハヌマンに、安堵の表情が浮かんだ。
 ハヌマンとてむざむざ修行者を殺したくは無い。生と死を長い間見てきたゆえに、死んだ時は仕方が無いと割り切れるが、それでもつい先ほどまで魂をシンクロさせていた相手が死なないのなら、それに越した事は無いのだ。
 そしてハヌマンが見守る中、タイガーはそれまでの力強い獣の咆哮から一転して、人語を静かに呟きだした。


 体は獣になっている
 姿はタイガー 心はチキン
 逝くたびにセクハラを行い失敗
 ただの一度の敗走により
 ただの一度の勝利を得る
 我が担い手はここに一人
 呪術師の姿で笛を吹く
 ならばセクハラの虎は存在しえず
 その身はきっと 精神だけで出来ていた


 どこか哀しい、そんな詩をタイガーが諳んじ終えたその時。タイガーを中心として、光の帯が走った。
 そして光の帯が通りすぎた部分から世界が書き換えられてゆき……
 そこに、タイガーの世界が誕生した。

「なんと!?これは……固○結界か!!」

 驚き、叫ぶハヌマン。しかしそれでも伏字を忘れないあたりは流石。
 固有○界とは、術者の心象風景で現実を侵食して、一つの世界を形作る大技。心象風景ゆえに決まった物しか具現化できないが、己のイメージしたものを選んだ相手に見せる精神感応よりもはるかに上のランク。

「精神波に乗せて……世界を書き換えよったか」

 発動に霊力を使い果たしたのだろう。結界の消滅とともに倒れこむタイガーを見下ろしつつ、しゅるるる…と、それまでの巨大な姿から1メートルもない小さな猿の姿になり、タイガーの能力の分析をするハヌマン。
 小さくなっているのは、この能力を引き出した以上タイガーの修行は終了だと判断したからだろう。

「ふむ、特性は、と………………望んだ幻覚を結界内の存在に見せる、か……ん?ということは」

 …………精神感応と、ほぼ変わらんのぅ………

 命をかけた割には、成長したともしていないとも言える。そんなタイガーに、何か宿命めいたものを感じてハヌマンはコッソリ涙した――


 <完>

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