その日もまた、横島忠夫が目覚めて最初にしたことは冷蔵庫の中身を確認したことだった。何も無いことは知っているが確かめずにはいられなかった。
「…ハラへったな」
ふと納豆をみつけ、ふるえる手で取ろうとしてやめる。絶対無理、買ってから一月以上が経っている。
節約するため自炊をしようと冷蔵庫を満タンにしたのはいつだったか、もう忘れてしまった。
そんなことを考えていると、横島の頭にふと光明がさす。
(そうだ、まだカップうどんがあったはずだ…)
ふらつく足で居間に戻ろうとすると、何者かの気配にふと気が付く。先程は寝呆けて気が付かなかったのだろう。
ずるずる、ずるずると不気味な音が室内に響いている。
嫌な予感を感じながら音のする方へ目を向ける、すると久しぶりに会うそいつと目があった。
「ヨコシマおはよ」
見つけたそいつは狐の化身。笑顔で挨拶してくるが、愛らしいであろうその笑顔もいまの横島にとっては死神そのものだった。
がくりと膝から崩れ落ち、絶望の淵、うすれる意識のなか横島は思う。
GS横島は、金毛白面九尾の妖狐にカップうどん食われ飢えに死す。
「…?」
不思議そうに小首をかしげるタマモを見ながら横島は意識を手放した。
横島はタマモが買ってきたコンビニのおにぎりを食べおわると、茶を飲み、倒れこむようにふとん寝転がっていた。
「ふぅん、ろくに食べるものも無いなんてコーコーセーって大変なのね?」
タマモは呆れた様子でふとんに仰向けに寝ている横島に問い掛けた。
「…まぁな、でも高校はやめたぞ?」
そう、横島は高校を中退していた。何のことはない出席日数がたりなかったのだ。
教師に相談したところ、これから毎日出席すればまだ3年にあがる望みはあると言われた。だが横島はこれをあっさり「無理ッス」と返事を返した。
「えっ?やめちゃったの?じゃあ毎日なにしてんの?」
「別にな~んも、しいて言えば考え事かな」
そう、横島は高校をやめたからといって事務所でバイトに明け暮れるわけでもなかった。
それは一月前のこと、いつもの様に事務所に顔をだした横島は、所長である美神に「しばらく一人で考えたいことがあるから休みをください」と告げた。横島はクビを覚悟で言ったのだが、意外にもあっさりOKがもらえた。
俺って実はいらない人間なんじゃ…と横島は一瞬考えたがそれは杞憂だとわかった。
なぜなら、仕事忙しいんだからさっさと復帰すんのよ!と付け加える美神の目が心配そうに自分をみる視線に気付いたからだ。
ああ、この人はわかってるんだな、と同時にやはり意地っ張りだなと思う。たまらなかった、たまらなく愛おしかった、目が潤みそうになった。
んで取りあえず飛び掛かってみたら殴り飛ばされた。
「考え事ねぇ…やめたら?似合わないから、アンタ頭弱そーだしさ」
「ったく、相変わらず口が悪いなお前は。俺はけじめをつけたかったんだよ」
「毛染め?白髪ね?知ってるわよ!てれびでやってたもの!あのね…えーと、元気はつらつ~とかいうやつ」
「あのな」
タマモは最近たまにこういうボケをかましてくれる。よほど暇なのかテレビを視ては人間の情報を仕入れ、とても的外れなうんちくをしゃべりだす。
タマモは普段はクールだが実はおしゃべり好きだったりする。
だがシロはテレビを見ないし、美神はニュースだけ、おキヌはテレビを割りと視ているようだが、やはりまだ現世に疎いため、逆にタマモに影響され、間違えておぼえては学校で恥ずかしい思いをしているようだ。
いろいろ考えて、やはりタマモには同世代の友達が必要だと感じる。シロには里に帰れば同族がいるが、タマモには種族的なつながりは無いのだから。
「まぁいいや、んで?なんか用があって来たんじゃないのか?」
「んー?よう?用ねぇ、何かあったかな」
「おいおい」
(ホントはミカミに様子を見てこいって言われただけなんだけど…)
「うん今日はもういいや、あたし帰るね」
「暇つぶしかよ! んじゃまぁ美神さん達によろしく言っといてな」
「うん、じゃね」
突然来て突然去っていった少女を見送り横島は一つため息をつく。
(さて、今日は久しぶりに食料を買い出しに行って…また今夜か)
横島は考える。
アシュタロス戦での俺の誓いはまだ果たされたわけじゃない。
自分は何をすべきか。
何ができるのか。
自分一人では何も出てきはしないだろうその答え、だが。
ルシオラお前が惚れた男はここで終わる男じゃない。
そう自分に言い聞かせ、今夜も記憶の海へダイブする。
大戦時に【模】した記憶。広大に広がるアシュタロスの海へ
あとがき
初めて投稿します。これを書くまで色んな方のSSを読み耽っていたので、かなり影響を受けていると思いますが自分的要素をうまく出していけたらいいなとか都合のいいこと考えてます。でひゃ!
K‐2さんどうも、修正させてもらいました。
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