「ひぃ・・・ふぅ・・・」
とある事務所のドアを空け、一人の男が中に入ってくる。
その顔は憔悴しており、まるで何かに取り付かれているようだ。
と言うより憑かれているといっても良いだろう…ある女性に
「ああ、お疲れ様」
「お・・・お疲れ・・様・で・・・す」
中からかけられた九つのポニーテールを持つ少女の声に答える男。
その声は絶え絶えで、今にも倒れそうである。
「先生!大丈夫でござるか!?」
「大丈夫ですか?今、お茶を入れてきますね」
少女の声によって男が帰って来た事に気付いた銀髪の中に赤いワンポイントが入った少女と、巫女服の少女が心配そうに尋ねる。
巫女服の少女は男を休ませるために、急いで台所に向かう。
「あ、戻ってきたの?じゃ、次はこれお願いね」
どさっ!
亜麻色の髪のボディコン服の女性が紙の束を男の目の前に置く。
此処まで来たらお分かりになるであろう…男の名前は横島忠夫。
GS美神の影(?)の主人公であり、この美神除霊事務所の唯一の男性社員である。
「美神さ~ん。幾ら俺でもこの量は死んじゃいますよ」
横島は新たに渡された依頼を見て泣き声を上げる。
彼は今、朝8時から10件の除霊をこなして来たのだ。
普通は綿密に準備をし、長い時は一週間に1回。
短くとも1日に1回だ。
ちなみに今は夜8時…休憩時間を差し引いて、1時間に1件の割合である。
「そうですよ、美神さん。幾ら横島さんでも倒れちゃいますよ」
さすがに見かねたのか、おキヌが美神を止める。
「大丈夫よ。最近アンタ、霊力が残ってるでしょ。まだまだこれくらい平気よ!」
「鬼や…やっぱアンタ鬼や~!!!」
美神の言葉に横島は血の涙を流しながら絶叫する。
ズキャボキャ!!!
「それじゃ、早速行って来てね」
1行の間に横島を血の海に沈ませ、その頭の上に先程の紙の束を置く。
「あ・・・あの、美神さん」
「何?おキヌちゃん?」
そのまま机に向かう美神を、お茶を持って来ていたおキヌが呼び止める。
「私も横島さんに付いて行っても良いですか?」
「美神殿!拙者も行くでござる!」
台所にも聞こえていたのであろう、疲れている横島の体を案じて同行の許可を求める。
横島に付いて行くと言う言葉を聴いて、彼に懐いているシロも言葉を重ねた。
「駄目よ。おキヌちゃん達は私が親元から預かってるんだから、こんな夜更けに男と一緒に外出させるなんて出来ないわよ…相手は横島君だし」
横島君だし…と言う言葉の意味は、普段の彼の言動を知っていれば納得するだろう。
無意識下で、どういう意味を持っているのかは彼女にしか解らない事であるが・・・
「でも…」
「う~…おキヌちゃん。ええ子や…」
「拙者は!?」
「もちろんシロもだ」
さらに言い募るおキヌの横で、何時の間にか復活していた横島がシロの頭をなでていた。
シロは嫌がらずに「くぅ~ん」と、犬っぽい声を上げながら、上目使いで横島を見ているのが色っぽい。
「アレはやばいわ。ここで許したらどうなるか解らないのよ」
「そ…そうですね」
額に青い縦線を付けながら会話する二人であった。
「疲・・・れ・・たぁ・・・・・・」
結局横島は一人で除霊をこなすことになった・・・いや、こなした。
今現在、美神に報告を終えて自宅であるぼろアパートに戻る途中である。
「流石に・・・15件は・・・・新記録やな・・・」
新たに渡された依頼は5件…今はそれらの除霊を終えて、美神に報告をして来た所だ。
「あ・・・ようやっと駅か~」
そしてようやく駅に着いた…が、時間は深夜1時…終電は既に終わっていた。
「やっぱりや~。はぁ、奥の手使わんといかんな」
そう言って横島は掌から丸い玉…文殊を出す。
美神には内緒にしているが、最近は毎日3つ程出せる様になっていた。
毎日1つ出せる様になるまでは美神に報告していたが、報告する度に仕事の量は増え、自分で使える文殊の量は変わらないと気が付いてからは「伸び悩んでいる」と言って、報告しては居ない。
それでも今回の用に、行き成り仕事が追加される…と言う事が有るだが・・・
そして横島は文殊に”移”と文字を込める。
そして・・・そして・・・
「ぐぅ・・・・・・って、此処で眠ったらいかん。早く帰って眠らねば・・・」
すぐに文殊を取り出して、”帰”と込め、使用する。
シュィン
二つの文殊が光り、横島の姿はその場から消え去った。
翌日、美神除霊事務所
其処にはいつも通りの女性陣がいた。
だが、いつも通りには一人足りない。
「あれ、横島君は?」
そう、其処には横島忠夫の姿が無かった。
「連絡は聞いてませんが、やっぱり昨日の依頼がきつかったんじゃないです?」
「そうね~。幾ら雑魚霊ばかりとはいえ、やっぱり1日15件はきつかったかしら?今日は休みにして上げましょ」
流石にやりすぎたと思ったのか、優しい事を言い出す美神。
おキヌ、シロ、タマモが、変なものを見る目で美神を見ている。
「何よ?」
「な・・・何でもないです!」「何でもないでござる!」「何でもないわ!」
ドスの聞いた声に、声をそろえて答える3人。
「1日に質の悪い依頼15件こなさせて、次の日休まれるより、質の良い依頼10件が限界ね」
(やっぱり美神さんだわ)(やはり、美神殿でござる)(やっぱり美神ね)
そのままどの段取りが儲けが出るのかを考える美神をみて、考える事までそろえる3人であった。
だが・・・その翌日、翌々日も横島は現れず、自宅を探しても見つからなかった。
知り合いの神族、ヒャクメに探させても見つからず、現実的・霊的に神隠しと言う調査結果に終わった。
始めまして、ウインと申します。
皆様の面白い投稿作品を見て、私も投稿したくなって投稿しました、
駄文ですが、皆様よろしくお願いします。
なお、なるべく週刊を目指したいと思います。