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「試しの大地  最終話  (除霊委員シリーズ外伝)(GS)」

犬雀 (2005-03-23 00:30)
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最終話    「別れの日」


「あ、あ、あ…」

「どうしたタマモ!どっかやられたのか?!」

自身の傷も顧みず自分の心配をしてくれる少年。
彼に何としても伝えなくなくてはならない。
彼の背後で起きた惨劇を…。

「ヨ、ヨコシマ…う、後ろ…霧香さんが…」

「え?」と振り返った少年が凍りつく。

彼の目には魔獣の捕食腕に体を貫かれた霧香がゆっくりと崩れ落ちる光景が見える。
幻…悪夢…いや違う…裂かれた肩の痛みが、血の香りがこれは現実だと告げている。

「霧香さんっ!!」

悲痛な少年の叫び声に凍り付いていた神々たちも我に返った。

「なんでっ?!どうしてっ!!」

倒れる霧香の元に駆け寄り必死に抱き起こす。
青ざめた顔で目を閉じる女神の胸の中心に刺さった死の槍は薄黒い靄となって空気に溶けた。
途端にその傷口からあふれ出す霧香の命が横島の手を真紅に染める。

彼は気がついた…いや…気づいてしまった。

あの時、魔獣の放った最期のあがきは確実にタマモを貫くはずだった。
だから体が勝手に動いた。
死の槍は自分を貫くはずだった。

その槍が軌道を変えた理由が…目の前の光景。

言葉を失う少年に霧香が儚げな笑顔を向ける。

「えへ…お姉さん…失敗しちゃいました…」

そう言ってゆっくりと目を閉じる霧香。
濃厚になる死の気配に獣たちが頭を垂れる。

「霧香さん!!」

必死に霧香を揺さぶる少年。
その場に居る誰もが最悪の結末を予想したとき、あまりの出来事に言葉を失っていたシロがキムンカムイに詰め寄った。

「ヒグマ殿!ここの神様たちは倒れても蘇るんでござろう!ヒグマ殿のように真っ二つになっても平気なんでござろう!!」

「……」

答えは無い。

「何とか言うでござるっ!!」

激するシロの肩に男の手が置かれる。
涙を流しながら振りむくシロに搾り出すように告げられるシュマリの言葉。

「シロ殿…トーコロカムイは我ら獣の神とは違う…。摩周湖はこの世に一つしかないのだ。」

「……!!」

「くそぉぉぉぉ!!」

シュマリの言葉が届いたのか横島が吠えた。
その手に光る文珠。
込める言葉は『蘇』と『生』。

文珠の発する光芒は柔らかな熱を伴ってあたりを照らし、霧香の体に吸い込まれる。
彼女の胸から背中に抜けた傷口は光とともに塞がていく。

「効いた?!霧香さん!!」

少年の呼びかけに彼女の目が薄く開く。
その唇が弱々しく開くと言葉をつむぎ出す。

「横島さん…約束…」

「何ですか!!」

「横島さんがここに来た目的…そのこと…」

「後で聞きますからっ!今は喋らないで!!」

少年の泣き声にゆっくりと頭をふる霧香。
力を失いつつある手を少年に差し伸べる。
握り返す横島。
放したら…それで全てが終わるのでは?との恐怖が彼の心を包み込んだ。

「今、見えたの…雪だるま…と…マリモ…」

「霧香さんっ!!お願いだからっ!」

「ねえ…横島さん…文珠って雪玉みたいよね…そのままだったら溶けてしまう力を…集めて…」

「頼むから…もうしゃべらんで!」

「…ちっちゃな雪玉をコロコロと…みんなで集めておっきな雪だるまを作るの…マリモみたいに時間をかけて…丸くするの…」

「頼む…頼むよぅ…」

「……それが…きっと……答えだから…」

そして霧香の手が少年の手をすり抜けて地面を叩いた。

「よせよ…嘘だろ…やめてくれよ…霧香さん…霧香さんってばぁ…」

「ヨコシマっ!!なんとかしてよっ!!文珠使いでしょ。文珠は万能なんでしょ!!助けてよ!お願い…お願いだからぁぁ」

「先生!頼むでござる!!拙者もう人が死ぬのはイヤでござる!!」

タマモの叫びにシロの悲鳴が重なる。
だが時に頼もしいはずの少年から帰ってきたのは絶望を示唆する言葉。

「万能じゃねえ…」

「「え…」」

「万能なんかじゃないんだぁぁぁ!!」

「ヨコシマ…」、「先生…」

「今の俺じゃせいぜい使えて二個…でもダメだった…見てただろう?ダメだったんだよ!!」

なぜ自分はもっと修行をしてこなかったのか?痛烈な後悔の念が少年を苛む。
四個なら、いや三個使えれば助けられたかもしれない。
それが無駄だったとしても…今のような後悔は感じなかったはずだ。

「あきらめないでくだされ!!」

絶望と自責の叫びをあげる少年にシロの叱咤が叩きつけられる。

「シロ…」

「先生は強い敵…あのフェンリルと戦った時だって諦めなかったではこざらぬか…逃げたように見えても、怯えたように見えても最後は拙者を助けようとしてくれたではござらぬか!!」

その言葉に唇をかむ横島にタマモが恐る恐る聞いた。

「…ヨコシマ…文珠はあと何個あるの…」

「一個だ…」

その答えに息を飲むタマモ。

「一個しかなくても0ではないのでござるっ!!」

「そうか…そうだな…泣くのはこの一個を使い切ってからだ!」

少年の心に再び灯がともる。
泣くのは…出来ることをやってから!

「そうでござる!」

「すまん…シロ…」

最後の文珠を握り締め、祈るように天を仰ぐ横島に霧香の最後の言葉が蘇る。
それは最後の希望…。

悲嘆にくれはじめる獣とその神々に向け、少年は僅かな…本当に僅かな希望を示した。

「みなさん…これから最後の文珠を使います。けど…正直、俺だけの力じゃ無理です…皆さんの力を貸してください…」

何のことかはわからぬが、少年の言葉に真実と決意を感じ取り頷く神々とその眷属たち。

「いきます…」と少年が最後の文珠を天に投げる。

皆の視線が淡く光る小さな珠に集まったとき、少年の叫びが悲しみに包まれた湖に響き渡った。

「今です!みんなの霧香さんを蘇らせたいという思いをあの珠にぶつけてください!!」

少年の声に、神々が、ヒグマが、狐が、ワシが、シカが、鳥たちが、オコジョが、そして草木、岩や土くれまでもが生命を願う。

空中で静止し淡く輝いていた文珠はゆっくりと少年の手に落ちてくる。
まわりの自然の全ての願いを一身に受け、その想いを手のひらの珠に集中させる横島。
握り締めた手から漏れる光がどんどんどんどん強くなる。

「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅ」

暴走しようとする霊圧にはじけ飛びそうになる手を必死に押さえ込もうとする少年の唇が切れ、コメカミに血管が浮き上がり、目の毛細血管が弾け血の涙が滴る。

「まだぁ!!」

暴れ出そうとする手を必死に握り締める少年の体にシロが、タマモがすがりつく。

「ぬがぁぁぁぁぁっ!!」

横島が血反吐とともに上げた絶叫が湖岸に響き渡る。
その音が消えたとき、少年の体の震えが唐突に止まった。

「先生!」

「ヨコシマ!」

力が抜け崩れ落ちそうになる少年を支えるシロとタマモの叫びに血に塗れた笑顔が応えた。

「できた…やってみる…」

開かれた少年の手で輝く文珠。
だがいつものそれとは違い、水晶のように透き通ったそれは表面ではなく中心に文字を浮かべていた。

ふらふらと皆の願いを込めた文珠を手に霧香に近づいてその顔を覗きこむ。
血の気を失った端正な顔。
その唇からかすかに…本当にかすかに小さな呼気が漏れるのを感じる。

(間に合ったか…)

最後の霊力を振り絞り文珠を発動させようとする横島にヒャクメの制止の声が投げられた。

「待つのね!もしそれでその女神が蘇生したら…大変なことになるのね…」

「どういうことよっ!」

「人が神様を助けたなんてことが神界に知れたら…もしかしたら横島さんが危険人物とみなされるおそれがあるのね…」

強すぎる力を恐れる…それはいつの時代どの世界でもあったこと。
神を蘇らせることが出来るなら、その逆も可と考えるものも出るだろう。
ヒャクメの心配は杞憂ではない。だが…今は…

「関係ない…」

「横島さん…」

言葉を失うヒャクメの前に目に獰猛な光を宿して進み出るキムンカムイ。
その迫力に一歩下がる彼女の前で大男はいきなり土下座した。

「頼む!覗き神様。見逃してくれ!」

「え?」

キムンカムイの後ろからコタコロカムイが歩み出る。

「神界に報告するのはやめてくださらぬか?この通りじゃ…」

老人の姿のまま彼も地に膝をついた。気がつけば自分の周りを取り囲む様々な神々たちが地に頭をこすり付けてヒャクメに願う。

「でも…それじゃあ。あなたたちも神界の一員に戻れないかも知れないのね…」

「かまわぬ!」

シュマリが吠える。

「え?」

「我らは忘れられた神…今更、神界に戻れなくても大した違いはない。」

一斉に頷く他の神々。
いつしか彼らの眷属である動物達までもがヒャクメに跪いていた。

「わかったのね…」

「本当か!」

「知らないのねー。私は今から寝るのねー。昨日、埋められて寝不足なのねー。」

やたらと棒読みで呟きながらヒャクメは茂みの奥に消えて行こうとし、藪に消える寸前呆気にとられる神々に振り向くとニッコリと笑った。

「昼寝の邪魔されたらイヤだからこのあたり一帯は神界から見えないようにジャミングするのねー」

藪の中にヒャクメが消え、神々が横島の周りに集う。

「頼むぜ…タダッチ」
「タダッチ…お願いだよ」
「横島殿」
「…頑張って…」

皆に頷くと横島は最後の文珠を発動した。

鳥の、獣の、草木の、その場にいる全ての願いを込めた光が霧の湖を包み込んでいった。


道東の小さな空港に横島たちはいた。
羽田までの直行便はすでに駐機している。
搭乗用のタラップ車がゆっくりと羽田行きの飛行機に近づいていくのをぼんやりと見つめていた彼らに声がかけられる。

「よう!タダッチ」

そこに居たのは古の神々達。
毛皮のチョッキに毛皮の帽子のキムンカムイ。
茶色いスーツにサングラスと言うちょっとヤの字が入って見えるシュマリ。
白い和服を着た眠そうな顔の老人コタンコロカムイ。
ほっそりとした体をワンピースに包んだユクカムイ。

皆、寂しそうな顔をしている。

だが、その中に湖の女神と牛の女神はいなかった。

キムンカムイが進み出てくると横島の手をがっちりと握った。
その怪力に顔をしかめる少年の肩をポンポンと軽く叩く。

「タダッチ。また来いよ!いつでも大歓迎だからな!」

「どうも…」

「がははは」と笑ってシロに向き直る大男。

「よう狼。お前はこっちで暮らさねえか?ここは広いぞ。散歩なんかし放題だぜ。」

「散歩!…いや…拙者は先生と居るでござるよ。」

タマモのところに挨拶に来るのは手に紙袋を持ったシュマリである。
渡された紙袋からかすかに匂う油揚げの香りにウットリと目を細めるタマモにシュマリは無言で深々と頭を下げた。

「タダッチ…お肉…送るから…」とユクがノートを差し出す。どうやら住所を書けということらしい。

苦笑いしつつノートにペンを走らせ横島はユクに気になることを聞いてみた。

「霧香さんはとモモちゃんは?」

無言で首を横に振るユクに少年も溜め息をつきながらノートを返す。

「タダッチ殿。いつでもこの地に来なされよ。わしらは大歓迎じゃ。」と手を差し出すコタンコロカムイの手を握り替えした時、搭乗アナウンスが流れた。

「んじゃ行きます。本当にお世話になりました。」

ペコリと頭を下げる横島にシロタマも慌てて続いた。

「おお。タダッチ。達者でな!」

「横島殿。きっとその娘も目覚める。君たちなら出来る。」

「また…来てね…」

「修行を怠るでないぞ。」

口々に別れの言葉を告げる神々にもう一度頭を下げて横島たちは搭乗ゲートへと歩き出した。


空港の片隅の自動販売機の影…「うーうー」と唸る美女と呆れた顔の少女。

「ねえ。霧香ちん…タダッチたち行っちゃうよ?」

「うー。だって…だってぇ…」

「いいのかなぁ?ま、モモはその気になれば会えるけどね〜♪」

「でもお…こんな姿…」

「大丈夫だって!そんなこと気にするタダッチじゃないってば!!」

「そ、そうかな?」

「うん!ってもう行っちゃってるし…」

「あうぅぅぅぅ!!」

慌てて自販機の影から走り出してくる霧香だったが、横島たちはもうタラップ車に向かっている。

「ぐすう…」と涙ぐむ湖の神を見て、髭面に苦笑いを浮かべた大男が隣の少女に耳打ちした。

「なあ、ユク。」

「何?…キムンカムイ…」

「ちょっくらお前の眷属呼べや。」

「でも…フェンスが…」

「それなら俺が穴を開けておいた。」とシュマリ。

「わかった…」と頷いてユクは口笛を二・三度吹いた。


その音とともに滑走路に現れるエゾシカの群れにパニックに陥る空港管制塔。

タラップ車に足をかけて呆然としていた横島目掛けて霧香とモモが走り出す。
驚いて二人を止めようと立ちふさがる空港警備員にモモの必殺技が炸裂した。

「台風式・かき回してごっちゃ混ぜ機!」

小柄な少女に訳のわからん技名できりもみに天に舞わされる警備員も不幸である。
まあ落ちてくるところを大男に受け止められ、怪我もないようだから良しとしよう。


「横島さーん!!」と走り寄って来る霧香。

呆然としている横島目掛けてジャンプ一番その胸に飛び込んだ。

「きっとまた来てくださいね!!」

「勿論っすよ…」と優しくお姉さんを抱き返す横島。

後ろのシロタマはなんとも複雑な表情で俯き、何かをこらえるように体を震わせている。

「こ、今度はちゃんと用意しておきますっ!」

何を…とは聞かないのが礼儀だろう。
目に涙を溜めはじめた霧香に戸惑う横島だったが…。

「霧香ちん…落としたよ…」

「ふえ?」

追いついたモモが申し訳なさそうに手渡したのは女性用のカツラ…。

「ひえぇぇぇぇぇぇぇ!!」


文珠は発動した。
だが完璧とはいかなかった…。
蘇生の代償は…お姉さんの髪の毛だったらしい。

顔を真っ赤に染めて両手で隠してしゃがみこむお姉さんの頭を愛しむように撫でる少年。
すべすべした感触が気持ちいい。

「うーっ。うーっ。」と撫でられて嬉しいやら恥ずかしいやらで唸るしかないお姉さんにモモちゃんがトドメを刺しちゃった。

「大丈夫だよ…霧香ちん…。霧香ちんはエッチぃからすぐに生えてくるよ…」

「どういう理屈やぁぁぁ!!」

北海道での横島最後の突っ込みが炸裂した。


帰りの飛行機の中でぐっすり眠る横島を挟んでシロとタマモが内緒話。

「ねえ。シロ」

「なんでござるか?」

「北海道でのこと…美神たちには内緒よ。下手したら命にかかわるわ…」

「そ、そうでござるな。ヒャクメ殿もあの文珠のことは内緒にして神様たちを神界に紹介すると言っておったでござるし、先生を無用の危険に会わせるわけにはいかんでござる!」

「それもあるけど…」

「ああ…霧香殿でござるな…」

「ええ。」

「わかったでござる…」


色々と疲れ果てて東京に着いた少年達が美神にずっと連絡をしないままだったことを思い出したのは…お仕置きフルコースが終わった後であった。


試しの大地    完


後書き

ども。犬雀です。
いや〜。やっと完結までこぎつけましたです。
なんか提出の遅れた課題をやっと出せた学生の気分を満喫してます。
最終話ということでレス返しはご勘弁下さいませ。

結局、唯がどうやって目覚めたかはあえて書きません。
第一作のラストが北海道から帰った後か前かは皆様のご想像に任せますです。


えー。今作で色々とパワーアップしましたが、はっきり言って使い勝手が無茶苦茶悪い能力ばかりです。
まず新型文珠雪だるま式ですが、今の横島君では戦闘には使えません。
使うたびに死にかけたり、回りの想いを一つにしたりと手間が大変であります。

光の鳥チカプとかオオワシの翼とかは自然の多いところでしか使えません。
(必然的に東京では一部を除き使えないか、使っても威力は低いです。)

無拍子ですがこれは対人には使えても筋肉が無かったり空気と関係なく動くような敵にはあんまり意味が無いと…これも今ひとつ使い勝手が悪いです。

物になるのは弓ぐらいでしょうか。あと文珠を乗せる矢とかかな。
弓といえば合体技っぽいのが出ましたけど、犬の脳内ではタマモとの共同攻撃は出来てもシロとのそれは出来ないってことになっとります。
ザリガニ戦で使えたのは所謂火事場の馬鹿力。
二人の呼吸をぴったりと合わせるにはそれなりの修練が必要だと思いますので。

さてご要望の多い霧香さん本編参入ですが…ほとんど無理であります。
いや、湖がうろうろしちゃマズイかなぁ…って程度の考えですけどね。
それ以外の神様は上野で会えたりしちゃいます。
ネタバラシしちゃえば、元々、雪代霧香というキャラは本編のあるキャラのプロトタイプとして設定したんです。
でも、更新に手間どっているうちにそっちのキャラがどんどん進化しちゃって…。

二度と登場しないってことではないですので(修学旅行とか)それでご勘弁ください。

本作は色々と実験したりして、犬はその中で自分の未熟さを痛感いたしました。
このような作品に最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。

では…本編でまたお会いしましょう。

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