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「狐ノ妹(GS)」

桜華 (2005-03-20 18:16)
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「吸引、っと」
 横島のかざした札に、悪霊が吸い込まれる。
 これにて依頼終了。お疲れ様でした、ってわけだ。
「思ったより早く終わったな。時間結構余っちまった」
「じゃさじゃさ、ちょっと遊んで帰らない? どうせ泊りがけの予定だったんだし。旅館でゆっくりしようよ」
「そうだな。美神さんはすぐ帰れって言ってたけど、たまにはいいか。じゃ、戻ろうか、タマモ」
 横島の言葉に続き、私たちは下山をはじめた。青葉香る、5月下旬のことだった。


 狐ノ妹
 その1


「ふぅ」

 心地よい湯につかり、私は思わずため息をついた。
 旅館の温泉。露天風呂。東京と違ってきれいな空気は、夜空に星々を輝かせている。
 五月末の土日。私と横島は、泊りがけの除霊に来ていた。
 最近では、割かし多いパターンだ。所員を3と2のチームに分けて、仕事の数を増やす。
 チームは、美神と横島が各々のリーダーとなり、状況に応じてその下のメンバーが決定される。
 私とシロはバイト扱いだし、おキヌちゃんは正所員だけど、いかんせんリーダーシップに乏しい。この二人が長となるのは必然ではあった。
 で、メンバー構成なんだけど、なぜか私と横島はペアを組むことが多い。所長である美神の魂胆が見え隠れするが、別に私に実害はないので放っているわけだ。
 それに、最近で言えば、横島のそばにいるのは苦にならないし。

「ていうか、むしろ……」

 横島のそばにいると、安心できる?
 浮かんできた考えを、湯船に頭から突っ込んで打ち消す。マナー違反だが、今は私しかいない。構うまい。
 それよりも、先ほど浮かんだ自分の思考が意外だ。そんな考えは、シロやおキヌちゃんだけで十分。私まで乱入するつもりはない。
 考えもしないことを考える。最近の私は不安定だ。望まぬことを繰り返す。その精神的負荷か。
 それをやめるにはどうすればいいのか。時々考える。そのたびに打ち消す。やめたいと思う。だけどやめるわけにはいかない。それはなんだか負けた気がする。それは悔しい。
 ……ああ、もう。だから考えるなといってるんだ、私は。
 せっかくこんな片田舎の温泉に来ているんだ。たまにはいやなことなど忘れて、心行くまで楽しもうじゃないか。
 そう結論付け、私は夜空を見上げた。
 きれいな空。たくさんの光が輝く。
 ……うん。
 ――――いい、気持ちだ。


「お、出たか、タマモ。長風呂だったな」

 土産物コーナーをのぞいていた横島が、私に気づいて開口一番に言った。
 お風呂上りの見目麗しい美少女に、出会い頭に言うセリフじゃない。いや、自分で美少女もなんだけど。
 やっぱり、こいつの側が安心だなんて、錯覚もいいところだ。

「あんた、なにやってんのよ?」
「いや、みんなにお土産買って帰ろうかなと思ってさ」
「あんたねぇ」

 出張のたびに土産を買ってたら、出費も馬鹿にならないだろうに。

「経費で落ちないわよ?」
「お土産だぜ? 経費で落としてどうするよ」

 何の打算もなくこういうことができる。まったく、こいつらしい。

「どんなのを考えてんの? 私も一緒に選んであげる」
「いいのか? サンキュ」

 そうして私と横島は、美神たちのお土産――といっても、お饅頭とかお煎餅とかだけど――を購入した。
 土産物コーナーを出て、部屋に戻る。横島と私、当然、部屋は別々だ。
 隣り合った部屋。その襖の前に立ったとき。

「タマモ。今日はありがとな。これ、お礼」

 横島は、いきなり、私にネックレスを手渡した。

「……なにこれ?」
「ネックレス」
「……さっき、お礼と言ったわよね? なんの?」
「さっき土産選ぶの手伝ってくれたじゃないか」

 そんなことのお礼に、これを?

「さっきの土産物屋で見かけたんだ。タマモに似合うと思ってな」
「………」

 渡されたネックレスを見る。銀のチェーンに、先端についた小さな青い石。土産物屋らしいチープさが見て取れる。
 あまり気は乗らなかったが、横島が期待してるふうだったので、この場で身につけた。

「どう? 似合う?」
「似合う似合う」
「どうだか。あんたのセンスはめちゃくちゃだからね」
「おいおい、ひどいこと言うな」
「ま、ありがとうとだけ言っておくわよ」
「おう。……なぁ、タマモ」
「なに?」

 私の瞳を見つめ、彼はいくらか逡巡し。
 やがて、小さく首を振って、苦笑した。

「いや、なんでもない。お休み」
「? お休み、横島」

 私と横島は、隣り合う襖に別れた。


 髪を梳かし、寝巻きに着替え、歯を磨く。
 ……もう、後は寝るだけだったけど。私は、チェーンを首に巻いた。
 鏡に映った自分には、やっぱり、そのネックレスは似合ってはいなかった。
 ―――だけど。うん。気に入った。
 青色は落ち着く効果があるというけれど。本当に、これを見るとなんだか心が落ち着いていく。
 ああ、そっか。
 横島の側にいると、安心できる。
 違う、そうじゃない。
 あいつの側にいると、安定できるんだ。
 あいつは多分、きっと、絶対、私を見捨てない。私はそれを知っているから。
 今までだって、二人で仕事して、何度か危ない場面はあった。
 私のヘマで横島が危なくなったことも、少なくはない。
 それでもあいつは、笑って私に接してくれた。私の扱いを、私との関係を変えなかった。
 だから私は、あいつの前では気負わずにいられるんだ。

「ありがと、横島……」

 その日。
 私は笑った。久しぶりに、心から。
 満足に、熟睡できた。
 お休み、横島。
 また、明日。


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 武装錬金の毒島さんがかわいらしくて仕方のない今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか? こんにちは、こんばんは。お久しぶりです、はじめまして。桜華です。
 か〜な〜り間が空いてしまいましたが、ここに妹シリーズ第3弾、「狐ノ妹」をお送りいたします。
 以前にも少し書きましたが、これは、時間軸的には、『猫ノ妹』よりも以前になります。シロとタマモは六道女学院に通っています。二人は隣り合ったクラスで、タマモはいじめを受けています。
 気丈に振舞っていますが、彼女は生まれてまだ3年。その負荷たるやいかほどのものでしょうか。
 『猫ノ妹』での彼女は落ちこぼれです。補習をたくさん受けています。出席率も、あまりよくありません。
 なぜなら彼女は、学校に価値を見出せていないから。
 どうしてそのようになったのかを、これから書いて行きたいと思います。
 全4編。すぐにUPしますので、お付き合いください。

 それでは。

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