「ピート、何の用なんだよ?」
「わざわざお呼びして申し訳ありません。」
「選りによって日曜日の駅前とか、勘弁してくれよな・・・。」
バツが悪そうに頭をかく横島。
そう、ここは東京都練馬区諌坂駅の目の前。
現在時刻はAM09:45。
そう、ココはまさに激戦区。喩えるならばハンバーガー・ヒル。迂闊な方向を向けばたちまち絨毯爆撃が襲う、そんな危険地帯。
そこに横島忠夫はなんとも無防備なことに友人ピート(無論♂)と2人っきり。
男2人。これは危険である。
周りを見渡せばデートに向かうのであろう恋人達や、恋人を待って浮かれている連中がウジャウジャしているのだ。
これは何かの罰ゲームなのか?と横島が考えている時に、ようやくピートが口を開いた。
「横島さん、僕だって好き好んでこんな場所へお呼びした訳じゃありませんよ。それだけの事態が発生したんです。」
「このピンク色の毒ガスに耐えてまでやらねばならんコトがあるのか?テロか?文珠ならストックいっぱいあるぞ?爆か?毒か?滅か?拉致なら二文字制御頑張るぞ俺?」
「いえ、それも魅力的な提案なのですが・・・今日はそんな無差別テロは行ないません。某合衆国御用達の、ピンポイント攻撃です。」
「・・・目標は?」
「噴水のあちら側を見てください。」
ピートが指差した方向には、長身で金髪を逆立てた少女がいた。
パンツルックに薄手のレザージャケット。上品とは言い難いが、ロックぽくて決して悪いセンスではない。なにより顔の造形が男前「宝塚型」美少女だ。いつも見慣れている様な巨乳ではないにしろモデル体型、なかなかにスタイルが良い。だが、ピートの意図が掴めない。
「見下げたぞピート!女の子は襲うモンじゃねぇっ!口説くモンだろ!?」
「その台詞、世界中の誰に言われても貴方に言われるよりはマシでしょうが・・・そこまでトチ狂ってはいませんよ。彼女、良く見てください。」
全くである。初対面の美女にところ構わず飛び掛る男にだけは言われたくないものだ。
「ん?あ〜・・・そうだ!確かおキヌちゃんの友達の一文字魔理ちゃん(16歳、T167・B88・W59・H84)じゃないかっ!!」
ギラッと横島の双眸が光った。必殺・横島EYEである。
説明しよう!
横島EYEとは、長年の死線を掻い潜った経験に基づき鍛え抜かれた眼力によって、一度でも視界(端っこも含む)に映った美女を、普段ウィンドウズ普及以前のMS−DOS並の演算能力しか持たない横島の頭脳を一挙に某特務機関の生体コンピュータ並のスペックに引き上げ、即座に索敵・分析する技であるッ!
この必殺技による分析に誤りは0.0000000001%の確率でしか起こり得ず、起こった時の実物と分析結果との誤差は0.0000000001%と言う、俗にオーナインシステムとも呼ばれる文珠を超える横島の最強必殺技である!例えコンピュータウィルスサイズの使徒が侵入しようと、その情報の精度に揺るぎは起こりえないッ!!
「流石です横島さん。しかも今のは暗記データではなく瞬時に見抜きましたね?また、眼力を上げられた様で感服しましたよ。」
「ふふん、この程度造作も無い!・・・なるほど、判った!一度合コンまでやった仲だし、声をかけてデートに行こうってコトだな?!」
合点がいったように嬉々とする横島。
「いえ、違います。もしそうなら僕が横島さんを呼ぶ理由が見つかりませんよ。もう少し待っていてください。」
何気にサラッと聞き捨てならない事を言い放つピート。
「・・・チクショウ、男待ちか?」
何が悲しゅうて男待ちでウキウキしてる女の子を遠くから見ていなきゃならんのか。
横島はピートの思惑が掴めずに自販機で(自分のだけ)コーヒーを買う。
時計を見ながらソワソワしている魔理。
ソレを見て横島がいい加減限界が来る。ちなみにさっきの会話から二分経っていない。
「俺の魔理ちゃんを待たせるとはなんてヤツだ!もー我慢ならん、俺が早速声を・・・!」
そう言って魔理の元に向かおうとしたその時。
―――突如―――
―――コーヒーの半分ほど残るスチール缶が横島の足元に舞う―――
―――横島は「見てはいけない物」を目撃してしまったのだ―――
―――魔理に駆け寄る巨体の男―――
―――その姿は、共に昼休みの極貧食生活を、バレンタイン戦線を戦った盟友―――
―――あの泥沼の東部戦線スターリングラードがピクニックに思えた程の過酷な戦場で―――
―――互いを認め合った漢・オブ・漢―――
―――横島は「信じていた盟友」に裏切られた―――
―――巨体の男を確認するなり途端に嬉しそうに微笑む魔理―――
ヤツの名はタイガー寅吉。
ヤツこそはタイガー寅吉。
この街でタイガーと言えばヤツの事(当たり前)。
この街でタイガーを知らぬヤツはいない(変人として有名)。
「ま、ままっま魔理しゃん!遅くなってスマンでスノー!」
「いやいや、遅くないって。あたしが速く来すぎちゃっただけだから。ほら、ちょっと楽しみで・・・・昨日の夜、あんまり寝付けなかったんだ♪」
「寝付けなかったんだ♪」である。
繰り返すが、
「♪」である。
女性と付き合った経験の無かったタイガーに、その語尾は破壊力抜群だった。
タイガー爆発。
(ワッシは今死んでも本望ですケンーーーーッ!!」
「今死なれちゃあたしが困るんだけど(笑)。」
「は!?ワッシとした事が!?」
Operation Tiger 〜お前は虎になるのだ〜
「あれ、ヘンだよなんでだろう・・・。心の奥からしょっぱい水が出てきて止まらないよ・・・。教えてよ、母さん・・・・?」
目の幅涙と言うレアでアレな技を見せる横島。
「無理もありません、僕も知ったときは高熱で三日ほど生死の境を彷徨いましたから。」
ツツ・・・と涙するピート。
「ピート・・・お前、知っててなんで俺に秘密にしてやがッた?」
人は「殺意だけで人を殺す事が出来る」のだと確信するに足る様な横島の視線。
それに応える、穏やかな笑顔。
「だって、どうせなら絶頂時の方がイイでしょう?」
何が「どうせ」で何が「絶頂時の方が良い」のか。筆者には解らない。無知な筆者には全くもって皆目見当も付かないが、横島とピートの間にそれ以上の言葉は必要無いようだ。
2人は無言で張り手を合わせ、左手でガードを固めたまま互いの懐に飛び込みボディブローを2発ずつ。肋骨の一番下に在る最も脆いソレを狙う的確なリバーブロー。少なくとも味方に放つモノじゃないのだが。
リズミカルな攻防の後、ザッとタイガーの方を向き直り、同時にFUCKサインをキメる!
「「ブッ殺!!」」
が、タイガー達は当然二人に気付いてはおらず、ただの変人2人による奇行以外の何モノでもなかった。
「ブリーーフィンッ(作戦ターイム)!!ピート!タイガーと彼女は付き合い始めてどのくらいか!?」
ビシィッ!と何故か軍服に着替えた横島が、ホワイトボードに色々書き込みながら教鞭でピートを指差す。
「イエス・サーッ!タイガーが赤貧のクセに携帯電話を持っているのを小官が確認したのが先週末ッ!恐らくその辺りが]デイでは無いかと!」
「うむッ!つまりまだ間も無いと言う事だな!?ならば手は如何様にも打てるッ!!重要参考人=一文字魔理とはどのような人物か調査は済んでいるか?!」
「無論であります!ご存知の通りおキヌさんの学友、名門六道女学院高等部一年B組所属ッ!得意なスタイルは接近・格闘戦!中学時代はレディースのヘッドだったと言う情報もありますがこれは未確認、ただ今でも声をかければ都内5000を超えるレディースが集まると言うのは間違いないようでありますッ!」
未確認って5000人の舎弟が集まるならじゅーぶんレディースのヘッドだったんだろう。この元ネタは多分誰も気付かないンだろーなー。どーでもいいけど。
「・・・・・・・・・・・・・・ブッちゃけた話、なんでタイガー?」
「うわ、いきなりブッちゃけましたね。兎に角、良いコには違いないですよ。」
「・・・・・・・・・(今の説明でどう良いコなんだ?)」
「少なくとも、見てくれやお金で男性を判断している訳ではないですから。タイガーはどっちもダメでしょう?タイガーの本当に良いところを彼女は解っているんですよ。」
「何処ソレ?俺、ヤツのいいトコなんて見た事ねーぞ?」
しばらく眉間を抑え、悩んだ挙句の横島の台詞だ。
「ん〜、いや、何処でしたかね・・・。ほら、デカくて目立ちそうな割に地味な所とか。」
「ぜってぇ弱点だソレ。」
「なら、虎に変化できることとか?文珠ほどじゃないですがレアな能力ですよ。」
「セクハラの虎に?」
「・・・・・・・・ほ、ほら!あるじゃないですか良い所!ガタイはイイですよ!?」
「・・・・・・・・・・・・もう良いよ。」
つくづく、こいつら本当に友達なのだろうか?
「アテンショーンッ!!」
突如現われる銀髪の悪魔。
「「うわ。」」
それに対し二人はフツーにひいた。こう言う乱入者には耐性が付いているので驚くよりも先にこんなリアクションしか取れない体になってしまったのだ。
「貴様らッ!なにやら不穏な作戦行動を取っているな!?魔界正規軍大本営より配属されたジークフリード中尉である!以後、貴様ら二名は私の指揮下に入るッ!!」
「「いえ、遠慮します。」」
「そんなコト言わないで下さいよ2人とも。って言うか僕、何気にタイガーより影薄いんですよ?」
「うわ、ギャップ激しぃなー。」
「喋り方が僕とカブりますしねぇ、横島さんどうします?」
「三等兵で良ければ使ってやらんでもないぞジーク。」
「そ、そんな!折角一階級昇進したのに三等兵だなんてッ!」
コレでもかと階級章を見せるジーク。
「あ、ホントだ。オメデト。んじゃ。」
「待って下さいよ〜ぅ、そんな楽しそうな事見逃す訳には行かないじゃないですか〜!僕だって混ぜて下さいよ〜!僕だって彼女欲しいんですよ、僕だって出番欲しいんですよ〜!」
横島の袖を掴み、懇願するジーク。魔界正規軍中尉ともあろう者が、上官(姉)に見られたら懲罰モノの情けなさである。
「・・・楽しい?何か勘違いしているな、ジーク。」
「ええ、どうやら思い違いをされているようですね?まるで僕等が嫉妬に狂って邪魔をするように思っているみたいです。」
2人は遺憾の意を心底表情に出す。
「え?違うんですか?」
ゴスッ!!
「未熟未熟未熟ゥッ!!この馬鹿弟子がぁ!だぁ〜からお前は阿呆なのだ〜〜〜!!」
ジークの頬を怒りの鉄拳が襲う!
そのあとの口上は白目剥いてぶっ倒れてるジークの耳に届いてるのかどうか。
「僕らはね、ジークさん。タイガーに彼女が出来た事はむしろ喜ばしいと思っているんですよ?だけどタイガーは残念ながらヘタレの根性無し。そんなコトでは直ぐに愛想を付かされてしまう。そして肩を落とす友の姿なんて、僕らは見ていることが出来ないでしょう。」
何気にタイガーをこき下ろすピート。
「ヤツはかつて共に戦った友!英語で言うと腐恋奴!!それならば過酷な現実が来る前にヤツの精神を鍛えるべく試練を与えてやらねばならん!ソレこそが、友として前に進むタイガーに贈る事が出来る唯一無二のモノではないか!?」
ガックリと膝を落とし、眼には熱き液体を流すジーク。
「・・・・・・・・・・・・・・横島さん、ピートさん。僕が間違っていました!!是非ともお供させてくださいッ!!」
「道は険しいぞジーク!」
「さぁ、貴方も漢-路雄努(オトコ・ロード)を共に歩む盟友です!」
ピートが差し伸べた手と、その笑顔。
それは神の慈悲を思わせるが如き微笑みだった。
元神族であったジークはキリスト教系の神族との戦いに敗れ堕天した経緯を持つが、その罪すら赦され思わず天に昇ってしまいそうだった。
まるで、天使の笑顔を絵に描いたらこうなんだろう、と。
邪気の欠片も感じられない、心からの笑顔。
横島も「いや、その顔でナンパしたら女の子引っ掛かるから!!」ってなステキな笑顔でサムズアップ。
まさしく愛する者へ向ける満面の笑み。
そう、神は試練を与える者だ。
神とは厳しい者なのだ。
愛ゆえに、神は試練を与える。
愛ゆえに、神は甘えを許さない。
そう、これは愛の成せる業なのだ。
この先、タイガーには七難八苦が待ち受けるだろう。俺たちの知るタイガーでは、それに挫けてしまうかも知れない。
そうはさせない為に先に試練を与え、心身ともに鍛え上げたタイガーが幸せになるのを望んで・・・
ってのは建前ドコロか即興・嘘八百も良いトコロ、つい数分前までは一行たりとも脳の中に無かった文章。
良くこんな口から出任せを高回転で弾き出せる舌だなぁ、と自分で呆れている横島だったりする。
続く・・・のか!?
後書きの様なモノ。
こちらでは初めまして、GULOISES46と言う痴れモノでありますこんばんわ。
まずは、見て頂きまして有り難う御座いますとお礼をば。
さてさて。この話を書くに至った経緯なんですが
電波って本当にあるんですね(笑)。
突如振ってきた電波の所為で、ココまで書き上げるのはやたらと早かったんですが、色んなトコからネタ引っ張ってきてるモンで書いてる俺にももー何がなんだか(笑)。
それに電波が途切れたのか、この先の展開にまったく目途が立たず。
続きが出来たとしても大分先になりそうな予感・・・。
>NEXT