「ひ、ひのめちゃん・・・ どこに連れて行く気なのさ! てか、早く離して~~~!!」
「どこって・・・ ここじゃ雰囲気でないからベッドのある寝室に行こうかなぁって♪」
「いやいやいやいやいや!! 駄目だって!!」
「いいから♪ いいから~♪」
「よくな~~~~~~い!!」
脇に抱えた横島をまったく気にすることなく、ひのめはご機嫌で部屋から出て行った。
「到着~~~」
いまだに抵抗している横島を抱えたまま寝室へ入ってくると、ひのめはベッドの前までやってきて。
「えいっ♪」
柔らかそうなベッドの上に、横島を放り投げた。
「どわっ!」
そんな声を上げながら、ベッドに着地する横島。ぽよんと軽く跳ねつつも、ベッドは彼の身体を優しく受け止める。
「それじゃあ、私も・・・」
そう言ってベッドにあがると、ひのめはあたふたとしている横島の上に覆いかぶさった。
そのまま片手で横島の両腕を彼の頭の上で押さえつけると、自分の顔をお互いの顔が触れそうな距離まで近づける。
「いよいよだね、忠にぃ・・・」
「ま、まって! 冷静に・・・そう冷静に! とりあえず落ち着くんだひのめちゃん!!」
「い・や・♪ だってお姉ちゃん達がいつ帰ってくるかわかんないし・・・・・・ それに、もう我慢なんてできないよ?」
「わ~~~~駄目だってっば!! こんなの変だって!! ほ、ほらさ・・・こういうのは、俺がちゃんと元に戻ってから・・・」
「忠にぃは元に戻ったら、ちゃんとしてくれる?」
「う・・・ いや・・・ それは、その~~~~~~」
「じゃあ、ダメ~~~♪ それに小さくなってる忠にぃと、こういう事するのは変だって言うけど・・・」
そこまで言って横島の耳元に口を近づけると、そっと囁いた。
「お姉ちゃん達としてることも変だと思うんだけどなぁ・・・ 例えばほら? タマモねぇの時なんかは、たまに忠にぃが忠ねぇになってたりしてるよね?」
「なっ!!? な、なんでひのめちゃんがそのことを・・・・・・」
「まぁ、とりあえずそのことは置いといて・・・・・・ では、そろそろ♪」
舌を出して、ちろっと唇をなめるひのめ。横島の方は目に涙をためながら、顔をぶんぶんと横に振っている。
「いただきま~~~~~~~~~~す♪」
「いやぁぁぁぁ~~ 堪忍してぇ~~~~~!!」
日が落ちかけたせいで、辺りがうっすらと暗くなってきた頃。
事務所の玄関近くの廊下に、横島の姿があった。
あれから、いろいろとひのめに可愛がられた横島。その少女は、満足したのか今はベッドの上ですやすやと眠っている。
「うっ・・・うっ・・・ なんか大事なもんを失ったような気がする・・・・・・」
涙を流しながらも、震える身体を懸命に奮い立たせ、一刻も早く自分の家に帰ろうと玄関の前までやってきた。
ひのめと一緒に寝てしまわずに、疲れた身体に鞭打って寝室を抜け出してきたのは彼の本能が危険を告げていたからだ。
『一刻も早く、ここから立ち去れ!!』と。
その本能に従った横島が、事務所を立ち去ろうと玄関の扉のノブを回そうとするが・・・
ガチャ
「あれ?」
何故かノブはいつもの半分も回らずに止まってしまう。
「おっかしいなぁ・・・・・・」
何回かノブを回すが、ガチャガチャと音を立てるだけで扉は開く気配すらない。
「鍵が閉まってる・・・のか?」
不思議そうに、そう呟く横島。
自分が美神達を見送った後、部屋に戻る時は確か鍵はかけなかったはずである。その後、帰ってきたひのめがかけたとも考えにくい。
まぁ、なんにせよ鍵があかないと外へ出られないのだが、
「お~~~~~~い人工幽霊、悪いけど鍵あけてくれねぇか?」
鍵なんて持っていない横島は、天井に向かって人工幽霊に助けを求めた。
「・・・・・・・・・・・・」
いつもなら、すぐに返事が返ってくるのに何故か人工幽霊からの返答がない。
「? お~~~~い、人工幽霊ってば」
「・・・・・・・・・・・・」
もう一度、呼びかけてみるがやはり返答がない。
「なんだ? 人工幽霊のやついないのか?」
そんなありえないことを呟いた時。
「あら、私ならさっきからここにいますよ?」
「・・・へ?」
唐突に後ろから誰かに声をかけられた。
自分の知らない、落ち着いた暖かい女性の声に思わず振り向こうとした横島だったが、それよりも早く、誰かが後ろから横島の首にそっと両腕をまわして抱きついてくる。
「え? え? だ、誰だ!?」
「誰だ? って、さっきから私のこと呼んでるじゃないですか」
「あ、いや・・・ 俺が呼んでるのは、お姉さんじゃなくて人工幽霊なんだけど・・・・・・」
見知らないはずの女性に対して、何故か不信感とかそういったものがまったくわかずに、普通に話しかける横島。
「ふふ・・・ そういえば、この姿で横島さんの前に現れるのって初めてでしたよね? 私ですよ・・・ 人工幽霊です♪」
「ええぇっ!!!?」
驚愕の事実に驚いた横島を、背後の女性は悪戯が成功した時のように、くすくすっと小さく笑う。
「あら? やっぱり驚かれました?」
「そりゃ・・・ 普通、驚くだろ・・・? それに、今まで人工幽霊のこと男だと思ってたし・・・」
「元々、私には性別の概念みたいなものはなかったんですが、美神オーナーの霊波の受けているうちに女性の方に固定されてしまったみたいです・・・」
「ふぅ~ん・・・ そんなこともあるんだな・・・ まぁ、それはいいとしてそう言えばさ、人工幽「横島さん」・・・ん?」
人工幽霊に頼みたいことがある、と言おうとした横島の言葉を人工幽霊がさえぎった。
「あの・・・ この姿の時は『人工幽霊』じゃなく、『環』と呼んでいただけませんか?」
「・・・『たまき』?」
「はい♪ この姿に初めてなれた時に、自分で考えてみたんですが・・・・・・ おかしいですか?」
「いや、おかしくないと思うぜ。いい名前じゃねぇか♪」
「・・・あ、ありがとうございます・・・・・・」
横島の顔はわからないが、喜んでくれているような口調に頬を赤く染める環。
「それでさ、環さん。ちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・」
「むぅ・・・『環』とは呼んでくれないんですね・・・ ちょっと残念ですが、そのうちきっと・・・・・・」
「ん? 何か言った?」
「い、いえ・・・何も!! それで横島さん、私に頼み事というのは?」
「あ、そうそう。あのさ、なんか玄関に鍵が掛かってるみたいなんだが、わりぃけど開けてくれないか?」
「鍵・・・・・・ですか?」
「そうそう、環さんなら簡単だろ?」
「えぇ、確かに私でしたら鍵がなくても開けられますが・・・・・・ でも・・・」
「・・・・・・でも?」
「でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・ダメです♪」
「・・・・・・・・・え?」
「残念ですが、鍵を開けることはできないんです♪」
とても、残念と思っているようには聞こえないような声が横島の耳に入ってくる。
「な、なんでだよ・・・!?」
「だって・・・ せっかく鍵を掛けておいたのに、鍵を開けたら・・・・・・・・・
横島さんが逃げちゃうじゃないですか♪」
そう言って、環は横島の首に回している両手の力を少しだけ強くした。
「な! な! ななな!? 何、言ってんだよ!!?」
環の言葉に動揺しまくりの横島。何故か先ほどのひのめとの記憶がよみがえってきて、体中からいや~~な汗が噴出してくる。
そんな横島を優しく抱きしめたまま、少年の耳元で環が囁いた。
「・・・・・・ひのめさんだけっていうのは・・・ずるいと思いませんか?」
「・・・っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、横島は何かを確信する。
『逃げろ~~~~~~~~~~~~~~~!!』
「きゃっ!」
頭の中に響き渡る忠告に従い、環の腕を振りほどくと、横島は目の前の玄関に走りよって、何回もドアノブを回す。
ガチャガチャッ
「あぁ・・・! 開かへん!!?」
ガチャガチャッ ガチャガチャッ
「開けー! 開いてくれぇ!!」
必死になる横島だが、鍵の掛かっている扉が開くはずもない。それでも諦めきれないのか、ノブを回し続ける。その目には涙がいまにも零れ落ちそうなほど溜まっており、本当に必死だ。
その横島の背後から、ゆ~~~~~~~っくりと彼に歩み寄る環。
そして・・・・・・・・・
「横島さん・・・・・・・・・ 捕まえた♪」
横島の腰辺りに両腕をまわすと、そのまま抱き上げた。
「ひっ・・・・・・!」
少年の口から漏れた小さな悲鳴を特に気にすることなく、環は腕の中の横島を、くるっとまわして自分と向き合うような体勢にさせる。
「どうしたんですか? こんなに涙を溜めて・・・・・・」
「あ・・・あ・・・・・・」
片手で横島を抱えなおすと、環は腕の中で怯えている少年の涙を、空いている方の手の人差し指で優しく拭ってやる。その表情も涙を拭う仕草と一緒で優しく、慈愛に満ちていた。
「可愛そうに・・・ こんなに怯えてしまって。でも、大丈夫です・・・ 私が優しく慰めてあげますから・・・・・・ さぁ、横島さん♪」
最早、暴れるような気力がないのか、弱々しく首を横に振るだけの横島の頬に環は軽く口づけをすると、胸に抱えた愛しの少年を連れて廊下の奥へと消えていった。
「うっ・・・ うっ・・・ うぅ・・・」
数時間後、事務所から少し離れた所を、ふらふらっと歩く少年の姿があった。
「もう嫌だ・・・ は、早く家に帰らないと・・・・・・・・・」
ぽろぽろと涙をこぼしながら歩く姿は、その趣味のお姉さま方にはたまらない光景なのだが、運がいいのか辺りには人影はない。
「何でこんなことになったんだろ・・・」
なんてことを呟きながら、少年は自分の家へ帰る為に街の中へ姿を消していった。
「家に帰ってゆっくり眠ろう・・・・・・」
おまけ♪という名の真実
横島が除霊をこなした次の日の幼稚園。
「おはようございます~」
「おはようございます、先生。怪我の具合はどうですか?」
幼稚園の職員室に入ってきた保育士のお姉さんに、園長である初老の女性があいさつを返した。保育士の腕に巻かれた包帯に気づき、労りの言葉も一緒に返す。
「あ、大分よくなりました。襲われた時は痛かったんですが、一昨日、調査に来たGSの方・・・ えっと美神さんに紹介してもらった病院で見てもらったら、すごくよくなったんですよ」
そう言って腕を振ってみせる保育士に、あらあらと少し苦笑する園長。
「それならいいんですが・・・ でも、あんまり無茶はしないでくださいね?」
「はい! ありがとうございます♪」
舌をぺろっと出して笑う保育士だったが、すっと真面目な表情になると、園長に話しかける。
「でも・・・ 子供達に何もなくてよかったですよね」
「そうね・・・ でも、あなたが怪我をしてしまったから素直には喜べないけど・・・・・・」
「何言ってるんですか、園長先生! 子供達が怪我をしてしまうことに比べたら、小さなことですよ!! 本当によかったです・・・ 美神さんの話では、あの幽霊って子供には目もくれないで大人だけを狙っていたみたいですし」
「ふふっ・・・ あなたは保育士の鏡ね♪」
「そ、そんなことないですよ! ただ、私は子供達が無事でよかったなぁ、と・・・・・・」
保育士が照れたように笑うと、ちょうどチャイムが幼稚園の中に鳴り響いた。
「それじゃあ先生、今日もがんばっていきましょうか?」
「はい、園長先生!!」
おまけ2♪
横島を事務所に残し、4人が向かった先はとあるデパートであった。
そこのデパートにある、子供服売り場。
「美神さんは、半袖と半ズボンにしたんですか?」
「えぇ、とりあえずはお約束からいこうかなって♪」
そう言う、美神の手には確かに小さな子供用の半袖と半ズボンがあった。その服は何故だか事務所で留守番をしている幼い横島にぴったり合いそうなサイズである。
「おキヌちゃんは・・・巫女衣装? よく、そんなのがあったわね・・・・・・」
「えへへ♪ 偶々、見つけたんですけど、すごいんですよ、これ。小さくても、ちゃんと細かい所まで作られてて」
これで私とおそろいです、なんて笑うおキヌの手の中にある巫女衣装も今の横島にはぴったりのサイズに見える。
「さてと・・・ 一着目も決まったことだし、二着目を物色しようかしら♪」
「私も他に似合うような服がないか、探してきますね。それじゃあ美神さん、また後で」
そう言って、二人はそれぞれ思う所があるのか、ウキウキとした様子でその場から去っていった。
その場所から少し離れた場所では、シロとタマモがなにやら話し合っていた。この二人も手に何かを持っている。
「で、結局・・・ アンタはソレにしたのね?」
「そうでござる! これを付けたら、拙者と一緒でござるよ~~♪」
えらい嬉しそうなシロの手の中にあったのは、犬の耳がくっついたカチューシャのようなものと同じく犬の尻尾を真似たようなアクセサリーであった。どちらも、ふわふわとした茶色で柴犬のそれにそっくりである。余談だが、幼くなっている横島なんかが装着すると・・・
「とっても、ぷりち~だと思うのでござるよ♪」
「まぁ、確かに可愛いでしょうね・・・」
珍しくシロに同意するタマモの腕の中にあったのは、キツネの着ぐるみパジャマである。これもまた幼い時の横島なんかが着ると、さぞかし愛らしい格好になるだろう。
「タマモはソレでござるか?」
「そうよ♪ って、何で不満そうな顔をしてるのよ?」
「いや、不満というわけでは・・・ 確かにソレも十分に可愛いとは思うが・・・・・・」
「どうせアンタのことだから、普通に着せるだけだとか思ってるんでしょう?」
「ち、違うのでござるか!?」
「当たり前でしょう? この私がそんなことをするわけがないじゃない!! いい、これはね・・・」
「これは・・・?」
「裸のうえにこれ一枚だけを着せるのよ♪」
「なんと!?」
そう言って、にやりと笑うタマモと驚くシロ。
「ぐぬぅ・・・ 中々やるでござるな。拙者だって負けてはおられん!!」
悔しみながらもシロは次を探しに何処かへ走っていく。
「私も次のを探さなくっちゃね・・・ あぁ、今晩が楽しみだわ♪」
シロの姿が見えなくなると、タマモもその場には用がないのか、辺りの物を物色しながら店の奥の方へと歩いていった。
おまけ3♪
「おかしいなぁ? 確か、ここら辺やと思うんやけど・・・・・・」
横島が疲れきった身体で自宅へ向かっていたその頃。
その自宅近くで、一人の女性がうろうろとさまよっていた。
手には地図らしき紙を持っており、時折その紙と睨めっこをしては、あっちにふらふら・・・ こっちへふらふら・・・
「だぁーーー!! 何で東京はこんなに分かりづらいねん!!!」
一向に目的地に辿り着けない女性は、ついに我慢できなくなったのか、その場で叫びながら地面を何回も踏みつけた。
「そもそも! 横島の奴が大阪に帰ってこんのが悪いんや!! 2年前の同窓会に顔出したっきりで・・・!!」
何か八つ当たり気味な感じがしないでもないが、叫んだおかげで少し冷静になれたのか、女性は手の中の地図をじっと見つめる。
「この前、電話した時は引っ越したとは言ってへんかったから、この近くで間違いないんは確かなんやけどなぁ・・・」
女性が懸命になって現在地と地図を照らし合わせていると、向こうの方から小さな人影がふらふらと歩きながら女性の方へ向かってきた。
「ん? あ、誰か来た。あれは・・・子供やろか? まぁ、ええわ。こうなったらあの子に道尋ねよ」
人影に気づいた女性がその方向を見ていると、やがてその人影である少年が女性の近くまでやってくる。
「なぁ、ボク? ちょっと、道を聞きたいんやけどええかな?」
「・・・へ? オレ?」
「そうそう。ボク以外には誰もおらへんやろ?」
「まぁ、確かに・・・」
「で、道を聞きたいんやけど・・・ ええかな?」
「まぁ、道を教えるくらいなら・・・」
「ほんまに? 助かるわぁ~ ありがとうな♪」
「それで行きたい場所ってどこなんですか?」
「えっと、この地図に書いてある場所何やけど・・・・・・」
この後、二人の目的地が一緒だったせいで一騒動あったのは言うまでもないことだろう・・・・・・
いや、まぁ実際には一騒動じゃすまないわけですが・・・・・・
それはまた別の物語。
おわり
あとがき
こちらでは初めまして。ご無沙汰してました、どうも、むぎちゃです。
久しぶりなんて言えないくらいくらい間があいたんですが、とりあえず話が出来上がったので投稿させていただきました。
しっかし・・・・・・・・・長いですね。
いや、まさかここまで長くなるとは思っても見なかったんですが・・・
まぁ、少しはリハビリになったかなと思いつつ・・・・・・ この辺で。
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