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「新世界極楽大作戦!!第七話(GS+エヴァ+α)」

おびわん (2005-02-17 02:33)
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御呂地岳、深夜。

月の光さえ射す事の無い、深い森の中。
闇に紛れるように、一つの人影が歩いていた。

影の名は横島忠夫。

彼は今、この地に封印された大妖『死津喪比女』と、
その封印の要とされたおキヌの体を探索している所である。

「それにしても、シンジがあんなに酒に弱いとはなぁ・・・。」

横島は死津喪比女の妖気を探しながら、夕刻に始まり、
つい一時間前まで続いた宴会の席での事を思い出していた。

旅館側の好意なのだろう。やけに豪華な料理の数々が並べられた宴会の席で、
横島は悪ノリしてシンジに酒を飲ませたのだ。

コップ一杯のビールである。
しかし、彼にはそれで十分だった。

うふふふふふふ。横島さぁん。杯が空いてますにょ〜。

白い肌を朱に染め、銚子を持ったシンジが横島ににじり寄る。

横島の体へもたれ気味に酒を注ぐ彼の姿は、乱れた浴衣から覗く太腿や細い鎖骨と相まって、少年とは思えない程の色気を醸し出していた。

「ようアレに耐えれたよなぁ・・・。ワルキューレやったら出血多量で死んでんぞ。」

ショタ趣味の入った魔界軍大尉を思い浮かべる。
脳裏に浮かんだ彼女は、鼻からの多量の出血にもかかわらず、とても良い笑顔で笑っていた。

「ん〜、中々見つかんねぇな。でも流石にアレが居ない訳ねぇし。」

何処行ったんだ? と横島は首を傾げる。

『前』と同じ様におキヌが山の神として死んでいる以上、やはり彼女は封印の要として人身御供にされたのだろう。
となると、その原因となった死津喪比女が存在しない訳は無いのだ。

横島の左手中指からは、細く輝く霊気の鎖が垂れている。
これは死津喪比女の妖気を探す為の、言わばダウジングの代わりである。

たとえ妖気の欠片でも見つかれば、それから本体の位置を割り出すことも可能なのだが。

それからさらに地道に探し続ける事一時間。
横島はついに死津喪比女の物と思われる、妖気の欠片を探し当てた。

そこは『前』に小笠原エミの呪いが込められた銃弾を受け、怒り狂った死津喪比女の本体が飛び出した場所だった。

「やっとかい。・・・どら、女王様は何処かいな〜。」

そう言って横島は妖気の欠片に手を伸ばした。

「なんだ・・・コレ。」

これで死津喪比女の居場所が判る。
そう思い妖気に触れた横島に、突如流れ込んできた死津喪比女の感情。

怒り、驚愕、そして恐怖。

妖気の欠片が横島に示したのは、死津喪比女の居場所などでは無く、
さらに彼を混乱させるだけの物だった。

「・・・・・一体、ここで何があったんだ?」

もしや何らかの理由で、既に彼女は滅んでいるのだろうか。
しかし、それではおキヌが幽霊で有り続けている理由が判らない。

居なくなった死津喪比女。残された妖気に込められた彼女の感情、その意味。

自分の経験した物とは違った歴史に進んでいるこの世界。それは判っていた。
だがここまで違ってくると、何か作為的な物を感じてしまい薄ら寒くなってくる。

今、横島が欲しいのは情報である。
どんな物でも良い。死津喪比女が居なくなった経緯が知りたかった。

「そういや、説明してくれそうなオッサンがいたなぁ。」

死津喪を封じたあの道士。
おキヌの体が封ぜられた洞窟に居るはずの彼ならば、事の次第を知っているかもしれない。

そう思い、横島はあの洞窟へと向った。


「良かった。この洞窟まで無かったらどうしようかと思ったぜ。」

『前に』美神に蹴り落とされた崖。その中腹にある洞窟。
記憶通りに存在していてくれた事に、横島はホッと安堵の溜息をついた。

ここまで歩いてきた夜の森より尚暗い、まるで地獄にでも通じているかの様な洞窟。
墨で塗り潰した様なその闇の中へ、横島は足を踏み入れていった。

『鼻を摘まれても判らない』そんな言葉通りの闇の中、横島はおもむろに右手の平を掲げた。

その手が微かに発光し、次いで幾つもの淡い光が中空へ浮かび上がる。
光の数は二十を越えるだろうか、横島の周りを漂いながら、緩い点滅を繰り返す。

中空に揺らめく無数の光は、徐々にその光度を増してゆき、洞窟内を照らし出した。

「・・・居るんだろ? 出てこいよ。」

何とか内部を視認できるまでになった所で、横島は声をあげる。
それに反応するように、和装の男が彼の前に現れた。

どうやら実体では無いらしい。
光の中でもその足元に影は生まれてはいないのだ。

『・・・・・何者だ。』

黒衣を纏った男は、深い疑いの眼差しで横島を見ていた。
横島の記憶通りのその男。三百年前に死津喪比女を封じた道士である。

「別に怪しい者じゃねぇ。俺は横島忠夫、霊能力者だ。」

『して、その横島とやらが、一体ここに何の用がある?』

道士は態度を崩さない。

「見てたんだろ? おキヌちゃんの事。」

『・・・気付いておったか。』

昼間、おキヌとワンゲル部との立場交換の術を行った際、
自分達の他にもう一人、その場にいる事に横島は気付いていた。

「その後思い出したんだが、確かこの山には三百年ほど前に暴れまわった
大妖の封印が有るとか何とか。おキヌちゃんの話からもしかしてってな。」

横島は洞窟の奥の闇へ視線を向けた。

「おキヌちゃんに掛かっていた封印の術式を、俺が勝手に変えたことで
その大妖・・・死津喪比女だっけか? それが復活しちまうかもしれんし、
念をいれて、フォローする為に伺わせてもらった。」

『・・・なるほど。悪い人間では無さそうだな。』

道士は横島に付いて来るように促し、洞窟の奥へと進んでいった。

奥と言っても、さほど深い訳ではない。
十メートルほど進めば、あの氷の壁と、そこに封じられたおキヌの体が見えた。

「死津喪比女は俺が責任もって滅ぼしとこうと思ったんだが、何故か何処にも居やしねぇ。」

三百年を経ても、少女のままに時を止め続けるおキヌの体を見やりながら、
横島は死津喪比女の存在が感じられない事について、道士に問い掛けた。

「まさか、既に滅んでたりすんのか?」

『いや・・・。私もよく判らんのだ。』

静かな口調で道士は語りだした。

『二年程前になるか・・・。十数人の白衣の者達がこの山を登って来た。』

おキヌの封印や死津喪比女を監視する為にこの世に在る道士の幻影だが、
別にこの洞窟に括られている訳ではなく、よく山中を散策したりもしているのだ。

『強い霊気は感じなかったのでな、私はそやつらを霊能者とは思わなかった。
・・・しかしな。』

ちょうど死津喪比女の本体が眠る場所へとやって来た男達は、
隠れ見る道士の前で奇妙な形の筒を取り出した。

「筒?」

『うむ。銀色に光っておっての、金属で出来ている様だった。』

その筒を持った男が何言かを呟くと、巨大な光が半球状に膨れ上がり、
一瞬にして男達をその内に包み隠してしまった。

道士が呆気に取られている内に再び光は動き出し、今度は凄まじい速さで収縮していった。

完全に光が消えた後、先程と少しも変わらないその場所に、白衣の男達は立っていた。

『奴らは銀の筒を覗き込み何か言っておったな。成功した、とか研究がどうのこうのとな。』

だが、道士はすぐに気付いた。

あの銀の筒から感じるのだ。己の存在理由。怨敵、死津喪比女の気配を。
肉を持たない体では何も出来ない事を弁えている道士は、そのまま彼らを見送るしかなかった。

「じゃあ何か? 死津喪比女はそいつ等に連れてかれたってのか!?」

『そう・・・なるのだろうな。』

まじかよ・・・。

横島は頭を抱えた。美神の不在。美智恵の健在。そして連れ去られた死津喪比女。
またしても発生したイレギュラーが心に重い。

あの妖気の欠片から感じた死津喪の感情からして、彼女は何らかの手段で無理矢理に移動させられたのだろう。
それを容易く成し遂げる謎の男達。

何時かこの先、自分達と関わって来るのだろうか。

『死津喪がここから消えたとはいえ、滅ぼされた訳ではない。故におキヌの封印をとく事も出来ん。』

道士は苦い顔で呟いた。
死津喪比女が滅んでいない以上、最終手段であるおキヌは無暗に生き返らせないのである。

「・・・とりあえず状況は判った。おキヌちゃんは俺が預かるが、いいか?」

『それが良いだろうな。悔しいが、私では不意の事態におキヌを護りきることはできん。あの娘を頼むぞ、横島。』

「ああ、まかせろ。なんかあったらまた来るよ。」

頭を垂れる道士に、横島は人好きのする笑みを浮べると、再び氷中のおキヌを見上げた。

(・・・絶対。出してやるからな。)

横島には彼女が少し微笑んでいるように見えた。


道士と別れ洞窟を後にした横島は、東の空が薄く輝きだす頃、漸く宿へ戻ってきた。
中庭から窓を開け、暗い室内にそっと足を踏み入れる。

「たぁ〜だぁいまぁ〜。」

当然まだ寝ているだろうシンジとおキヌに対して、横島は彼らを起さないように
声をかけた。

壮絶な宴会の名残を残した卓上を一瞥し、横島は僅かながらも睡眠を取ろうと隣室への襖に手をかけ、ようとした所で、ふわふわと漂いながら眠るおキヌが目に留まった。

「・・・おキヌちゃん。」

何故かパーティー用品の鼻眼鏡を掛け、ウサミミを付けたまま鼻ちょうちんを膨らます彼女の姿に、自然と暖かい物が心に溢れてくる。

「幸せに、なろうな。」

そう言って静かに彼女の頭を撫でた後、横島は新ためて隣室へ入った。
室内には暖かそうな布団が二組並べて敷かれており、その片方でシンジが眠っていた。

恐らく一時間程しか睡眠は取れないだろうが、それでも頑張ってくれた両足を休ませてやりたかった。
下着一枚の姿になった横島は忍び足で布団へと向う。

横になろうと掛け布団をめくった時、隣に眠るシンジが大きく寝返りをうち、
そのため掛け布団が大きく乱れた。

「? ・・・っげ。」

たった一杯のビールがよっぽど堪えたのだろう、乱れに乱れた浴衣を辛うじて帯で体に結わえた状態のまま眠っているシンジの頭に、黒いネコミミが付けられていたのだ。

それもおキヌ同様、宴会の名残である。

目を極限まで見開き、反射的に部屋の隅に飛び退った横島だが、
その視線は無意識にシンジの体へ吸い寄せられた。

ギリギリのラインまで捲れあがった浴衣から伸びる白い太腿。
大きく肌蹴た胸元に覗く、細い鎖骨と少しだけ見えるピンクの・・・。


(・・・・・・・・・・ちょっとくらい。)


脳裏に浮かんだその意識を認識した瞬間、横島は神速の動きで文珠を出し、
『転』『移』で部屋から抜け出した。

転移先は近くの川。
春先にもかかわらず、横島はそこで狂った様に行水を始めた。

「ちがうんやぁぁぁぁぁっ!! 『別にええかな?』なんて思てへんのやぁぁぁっ!!!』

早朝の山間に木霊する、悲痛な男の叫び。
それは完全に日が昇るまで響きつづけ、この山に来るキャンパー達の間に新しい怪談を定着させた。

怪談、『泣き男』


              新世界極楽大作戦!!

                  第七話


「・・・以上で今回の件の報告を終わります。」

神界、天竜宮の一室。

上司である竜神王への報告を終え部屋を退室しようとした小竜姫に、
彼女が提出した書類に目を通していた竜神王が声を掛けた。

「この横島忠夫という人間だが・・・。」

「はい?」

何事かと振り返った小竜姫に対し、ニヤリ、と笑う竜神王。
長年この上司と付き合ってきた小竜姫は直感した。これはマズイ、と。

一万年近く生きている竜神王だが、その体は隆々と逞しく、全く衰えを見せていない。
関帝を気取って髭を伸ばしているのだが、似合わない事甚だしい。

厳つい顔に、人界で手に入れたサングラスを常時掛けているので笑うと無気味である。しかも外見に似合わず、部下をからかうのが趣味なのだから始末が悪い。

「横島忠夫が・・・何か?」

「いやな、書類を読んでおると、やたらと横島に対しての記述が目に付く。
お前が『異界』の小竜姫である事を踏まえても、あまりにらしくなくてな。」

サングラスの奥の目が上弦に歪む。
この親父の癖である。小竜姫をからかって楽しんでいるのだ。

「堅物、鉄の女、撃墜女王。そう渾名され、これまで男の『お』の字も無縁だったお前が、公的な文書に多分の私情を盛り込んで、それと気付かぬまま提出する。勘繰らぬ方がおかしいだろう。」

「わ、私と横島さんは、別に何も・・・。」

何かあるとは判っていたが、まさかこの様な方面に話が進むとは思ってもみなかった小竜姫。
俯いたまま、両の人差し指を突付き合わせながら力無い反論を試みる。

「いやいやいやいやいや、恥ずかしがらずとも良い。さぞかし熱い仲なんであろうなぁ。ほれ、なんといったか・・・。そう、『らぶらぶ』?」

「いや、ですから・・・あの。」

「子は暫く待てよ? 大竜姫が恐ろしいからな。」

「あの、竜神王様・・・。」

「しかし肉欲という物は、一度嵌ると容易に抜け出せんからのぉ。婚前の身なのだから自重せねばな。・・・もしかして、その必要も無いの?」

聞けぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!

我慢も限界を越えたのだろう。とうとう爆発した小竜姫が、
怒りの神気まじりに机に両手を打ちつけた。

ふしゅ〜、ふしゅ〜、と女華姫の如く鼻息を荒立たせる小竜姫に、
流石にやり過ぎたかと竜神王も話を止め、居住まいを正した。

「・・・とまあ、心潤うお茶目はこれぐらいにしてだな、この横島忠夫と碇シンジの両名は神魔会議の結果次第では強制招集もありえる。今すぐ、という訳では無いだろうが、その時は彼らの事はお前に任されるだろう。・・・頼むぞ。」

急に真面目な顔で話を変えてきた上司にペースを乱されたのか、
小竜姫も神剣に伸びた手を引っ込めた。

「・・・判りました。では小竜姫、退室致します。」

「ああ、斉天大聖殿が『白烏の間』で待っておれ、と言っておったぞ。」

部屋を出ようと扉に手を掛けた小竜姫に掛けられた上司の声。
これは彼女にとっても好都合である。元々此方から連絡を入れようとしていたのだから。

そして小竜姫は妙神山管理人の解任への第一歩を踏む為、嬉々として部屋を飛び出していった。

一人残った竜神王は書類を机上に放し、夕刻の赤光に支配されつつある窓の外に目をやった。
厳つい顔に微笑が浮かぶ。

「・・・竜は雲を得、神剣は身を収める鞘にめぐり会ったか。寂しい気もするがな・・・。」

会うてみたいな。横島忠夫。


天竜宮『白烏の間』。

広大な庭に面したその広間にて、小竜姫は師を待ちながらこれからの会話をシミュレートしていた。
なにせその結果次第で、自分が横島の元へ身を寄せる時期が決まるのである。

彼女にとって、横島と同居するのは決定事項らしい。

(やはり後任はお師匠様かお姉様が適任ですが、お二人とも素直に変わっては貰えないでしょうね。特にお姉様。後々面倒な事になりそうですし、ここはお師匠様に『ふぁみこん』を進呈して・・・。)

野望成就の為、思考の海に沈んでいた小竜姫だが、こちらに向ってくる強大な『気』に気付き、扉の方に顔を向けた。

(この『気』は、お師匠様!)

彼女が慌てて立ち上がったと同時に、『白烏の間』の観音扉が音を立てて開いた。

「お師しょ・・・・・・・・ゑ?」

足音高く入ってきた『斉天大聖』に、首を傾げて質問をする小竜姫。
目の前の『師』は、彼女の知っている『師』では無かったのだ。

「なにを・・・、おお、そういえばお前は『向こう』の小竜姫なのじゃったな。
でははじめまして、か。ワシが『ここ』の斉天大聖じゃ。宜しくな。」

黄金に輝く髪をかきあげ微笑む『斉天大聖』。

「・・・え、あ、いや。・・・此方こそ宜しくお願いします・・・。」

相手の方が背が高いので、自然と小竜姫は師を見上げる事になってしまう。

『斉天大聖』はソファーに身を沈めると、まだポケラッと口を開けて立っている小竜姫に着席を勧めた。

「竜神王に書類を見せて貰ったが、ワシは碇という少年より横島忠夫の方に興味がある。
なにやら『向こう』でのワシの弟子だったらしいからな。・・・・・小竜姫?」

動かない小竜姫を不審に思ったのか、首を傾げて彼女を見る『斉天大聖』。

「どうした? ワシも人界に下ると言っておるのじゃが。」

「あ、その・・・、私の知っている『斉天大聖』様と、大分お姿が違っていらっしゃったので。つい呆けてしまいました・・・。」

漸く現世に魂を帰還させた小竜姫が、少々虚ろな瞳をしながらも返事を返した。

「ほう、まあ良い。兎に角小竜姫、人界に戻る時は言うのじゃぞ。」

「は、はい。判りました。」

(でも、横島さんに会わせて大丈夫かしら。だって『ここ』のお師匠様ってば、)

小竜姫は黙考する。
師と想い人を合わせた場合、どういう事になるか手に取るように判るからだ。

褐色の肌に美しい金髪。筋肉質だがしなやかな細身の体と大きな胸。

この世界の斉天大聖は、野性的な極上の美女だった。


おキヌと出会ってから、はや数週間。
今日も今日とて、横島達は美智恵に頼まれたお仕事に励んでいた。

『横島さん頑張ってぇ〜!』

「また来ましたおキヌさんっ」

『むっ、ちぇすとぉー!』

『ウボアァァ〜!!』

深夜、カタギの人間なら絶対に足を踏み入れる事の無い廃ビルの1フロア。
そこに巣食う悪霊退治が今回の仕事だった。

元々は害の無い霊魂の溜まり場だったらしいが、何度かチンピラやヤクザの『お仕事』の現場となり、その被害者の念が浮遊霊を外道に堕としめたそうだ。

その後、迷い込んでくる野良犬、猫、ホームレスなどを殺し、今では立派な
心霊危険地帯としてオカGに登録された。

そして此の侭では廃ビル自体が悪意を持ち、人を誘い込むまでになりそうだと判断され、横島達にお鉢が回されたのだった。

こういう悪霊達には、大抵核となるボスがいるものである。
それを浄化させれば終わりだが、そう簡単にはいかない。

ビルに入った横島達を待ち受けていたのは、百匹以上は居る悪霊の群れだった。

ボス霊にしてみれば、この数が居れば出来ない事など何も無いはずだった。

これまで自分達の糧としてきた者達の中には、かなりの除霊技術を持った者もいたのだが、それさえ意にも介せず喰らい尽くしてやる事が出来たのだ。

それに今回の犠牲者達は、栄養の無さそうな痩せた男と少女の霊、それに変な子供。自分達が祓われる確率など微塵も無かった。

筈なのに。

「ひとつっ、ふたつっ、みぃっつぅっ!!」

男が両腕から出した光の剣に、無敵の筈の部下達が為す術無く祓われていくのだ。

声無く消えていく部下達は、消滅させられているのでは無く、浄化されているという事には気付いていたが、今更輪廻の輪に戻るなど自分は御免だった。

「ごじゅいち、ごじゅに、ごじゅさ〜んっ!」

男を先頭に、彼らはどんどんこのフロアに上がってくる。

堪らず男の後ろに控える少女の霊や子供に狙いを変えさせてみたが、強大な霊波の壁に阻まれ、挙句には少女の霊が持つ変な珠によって浄化させられていく。

彼らが目の前に来た時、気付けばボス霊の周りには部下の一匹も居なかった。

『ゼ、ゼンメツゥッ!? 120ピキノアクリョウガゼンメツダト!?
30プンモタタズニ・・・・・バケモノカ・・・。』

呆然と呟くボス霊に向け、横島は文殊を発動させた。

「次世は、もっとマシな死後を迎えろよ。」

『浄/化』

清き光に包まれ、ボス霊は唖然としたままに消えていった。

『ブルゥワアアァァァ〜!!』

光はボス霊を天に送ったばかりか、ビルの全てを輝き照らし、その存在を陰から陽へと転じさせた。


その帰り道。
今度どこかに遊びに行こうと話している横島とおキヌから少し遅れ、
シンジは少しくらい顔で何か考え込んでいた。

自然とその歩みも遅くなり、段々離れていく。
それに気付いたおキヌが舞い戻り、彼に話し掛けた。

『どうかしたんですか? シンジさん。』

ふよふよと中空に浮いたおキヌの声に、パッと顔を上げるシンジ。
だがそこには何時ものような優しい笑みは無かった。

「あ、いや。・・・何でもないですよ?」

「んなわけねぇだろが、シンジ。」

おキヌに続き、何時の間にか横島までシンジの元へ戻ってきていた。
なぜか暗い目をしているシンジの髪をかき回し、その顔を覗き込んだ。

「で? どうしたんだ一体。」

沈黙が間を包む。
おそらくは言葉を捜しているのだろう。シンジは暫く俯いていたが。

「・・・判らないんです。」

ポツリと、呟いた。

「なにが?」

「ボク、横島さんの役に立っているのかなって・・・。」

これまで赴いた除霊現場において、シンジはただ『守られている』だけであった。横島は当然として、おキヌでさえ『浄』の文珠を手に立ち回っていたのだ。

怖かった。だが竦んでいた訳でもなかった。

場慣れした横島、身軽なおキヌと違い、肉体を行使しての戦闘など経験した事が無かったのが大きな理由だろう。

エヴァの操縦と違い、どう動けば良いのかは判るのだが、その意識に体がついていかないのだった。対霊ボーガンを手にしていても動けない。

動き回る横島とおキヌを前に、シンジは見守る事しか出来ないのだった。

『立ってるに決まってるじゃないですかっ。シンジさんは私に色んなお料理を教えてくれてますっ。』

シンジが言いたいのはそういう事では無いのだが。

「でも、さっきだって・・・。」

『納得出来ないなら出来るように頑張れば良いんですっ。無能だとか要らない子だとか、そんな、そんな事言う口はコレですかっ! 修正してやるっ歯ぁ食い縛れぇっ!!

喋っている内に段々自分の言葉に興奮してきたのか、シンジに向って飛び掛ろうとしたおキヌを抱き止め、横島は静かに口を開いた。

「お前が、さ。何を思い、何を求めるのか俺も判る。昔の俺も似たようなモンだったからな。
・・・でもな、その答えを与えられるのもお前しかいないんだと思う。」

極偶にしか見せない『本気』の顔で、横島は諭すように言った。
横にいるおキヌは目を丸くしているが。

「横島さん・・・。」

「おキヌちゃんが言ったように自分で何とかするしかねぇんだよ。
俺達にゃお前が納得できる答えを見付けれる様、手伝う事しか出来ねぇ。」

何故力を欲するのか。それをどう扱うのか。それで自分はどうなるのか。
その答えを見つけなければならない。

『横島さんの役に立ちたいから』、シンジの求める答えはそれだけではないのだ。

「その答えはすぐに見つかるかもしれねぇし、逆にそうじゃないかもしれねぇ。
だけどな、いつかそれが見つかった時はシンジ、俺に教えてくれ。」

「・・・・・はい。」

返すべき言葉は見付からず、しかしシンジは返事を返した。
手探りの暗闇の中、それを求めて歩くしかなく、それでもそれを選んだのは自分なのだから。


「とは言ってもね。」

翌日の昼下がり。シンジは公園でジュースの缶を傾けていた。

横島が美智恵に報告をしに行った間に、シンジは夕飯の為の買い物をしていたのだが、暖かい陽射しが心地よく、両手にビニール袋を持ったシンジは公園で休んでいこうと寄り道をする事にしたのだ。

「実際に除霊現場でボクが何も出来ていないっていうのは本当だからなぁ。」

過剰な程の力など要らない。だが、せめて自分の身くらい守れるだけの力は欲しかった。
誰かを殺す力など要らない。だが、せめて仲間を守れるだけの力は欲しかった。

死にたくないから力が欲しいのか。孤独は嫌だから力が要るのか。
その答えはまだ見付からない。

「綾波はボクにも力が有るって言ってたけど、確か封印されてるんだよね。
・・・でも考えてみたら、力の封印を解く力さえ無いや。」

うん、と背伸びをし、空を仰ぐ。

そろそろ戻らなければならない。
買い物の中には肉や(店の親父が赤い顔をしてオマケしてくれたのが気になる。)牛乳も有るのだ。

空き缶を手に立ち上がったシンジだが、ふと気配を感じ視線を落した。

「・・・犬?」

そこに座っていたのは犬種のわからない中型犬だった。
しかしその体の造りから見て、まだ子犬と言っても良い位の年齢らしい。

元は美しい白い毛並みだったのだろうが、今は所々煤けており、それが野に生きる者だと主張している様だった。
何故か頭部にのみ紅い毛が生えているのが特徴的だ。

犬は唸るでも吠えるでもなく、唯シンジを見つめ座っている。

「ボクに、何か様なの?」

手に食い込むビニール袋の重さに辟易しながらも、シンジは犬に問い掛けた。
別に答えが返ってくるとは思っていない。戯れに声を掛けただけなのだったが。

「わん。」

犬は小さく一声吼えると、シンジに背を向けて近くの茂みに向けて歩いていく。
茂みの前まで来ると、シンジの方へ振り向き、再び吠えた。

「? そっちに行けばいいのかな?」

頭の良い犬だなぁ。そう思いながらシンジは犬の待つ茂みへと近づいていく。
彼が向ってくるのを確認してから、犬はその茂みに入っていった。

「何だろ・・・!」

犬を追って茂みに入ったシンジが見た物は、病気なのだろうか、
荒い呼吸を繰り返す、コレもまた変わった小型犬だった。

土に汚れた金色の毛並みが、まるで何かの機械装置のように上下を繰り返す。
動物には素人のシンジでさえ、この子犬が危ない状態だと言う事はすぐに判った。

「た、大変だ・・・。」

シンジは両手の荷物を無理矢理片手に持ち帰ると、空いた手でその子犬を胸に抱えた。それを見ても犬は吠えもせず、シンジのさせるままにしていた。

「とにかく横島さんに知らせて、お医者さんに連れてかないとっ。」

そう言ってよたよた走り出したシンジに並ぶように犬も着いて来る。

「キミ、安心して? この子は絶対助けるから。」

犬もシンジの言葉を理解したかのように一声吠えて返した。


横島邸。

子犬を抱えて帰ってきたシンジだったが、居間には誰の姿も見えない。

「ねえ人工幽霊一号、横島さん達は?」

『オーナーは屋上にいらっしゃいます。』

「そう。何してんだろ。」

とりあえず子犬をソファーに寝かせ、自分の部屋から運んできた毛布に包む。
平皿に注いだミルクを犬に与えていると、ハタキを手にしたおキヌが部屋に入って来た。

『あ、お帰りなさいシンジさん。・・・犬?』

「ああ、おキヌさん。こっちの子犬、大分弱ってるみたいなんです。」

二人は毛布に包まれた子犬を覗き込む。
相変わらず子犬は荒い呼吸を繰り返していた。

『わ、大変、横島さんに治してもらいましょっ』

「そうか、文珠ですねっ。」

『はいっ』

横島の霊能力『文珠』。
霊力を極限まで圧縮した珠に任意の文字を封じ、それを解凍した『結果』を利用する霊能力である。

その利用法は多岐に渉り、攻撃、治療はおろか物理法則を無視した働きを求めることすら出来る。

世界の事象を操る反則技である。
しかもその力を持つのは神魔界を含めても横島しか居ないらしい。

シンジもおキヌも始めて文珠を見た時は目が飛び出る程驚いた。

『横島さんは屋上で修行するって言ってましたよ。』

「ボ、ボク呼んできますっ。」

おキヌの言葉を受け屋上へ向けて部屋を飛び出したシンジを、何故か犬が追いかけて来た。急に走り出した自分に興味を持っただけなのだろうと、シンジは気にせず屋上へ駆け上がった。

屋根裏部屋を通り抜け、屋上への扉を開く。
扉の先、光に照らされた石畳の上に横島は立っていた。

「横島さ〜・・・うぅっ。」

「ガァッ!?」

横島に向け声を掛けようとしたシンジだったが、この場を支配する異様な気配に気付き、微動だに出来なくなった。

今まで幾つか経験してきた除霊にて、様々な悪霊達と対峙して来たが、
そこで感じた物など『コレ』に比べればそよ風のような物だった。

傍の犬もそれを感じているのか、全身を総毛立たせて震えている。

動けない彼らに気付いていないのか、無手のまま棒立ちの横島から、
更に強烈な『気配』が立ち込めてきた。

しかし次の瞬間、濃密なそれは一瞬にして消滅し、それどころか横島本人の気配さえ減少していく。
戒めが消えても呆然とし続ける彼らをよそに、さらに横島の気配は消えていった。

もうシンジには意識して『視』なければ、まるで横島を認識できなくなってしまった。

「よぉ、どした?」

「うわっ!?」

「ワフゥッ!?」

いきなり声を掛けられたシンジと犬は飛び上がって驚いた。
横島が十メートル程むこうに居るのを『視』ていた筈なのに、気付けば隣で汗を拭いていたのだから。

「い、今の何ですか横島さん・・・。」

上顎に張り付いていた舌を何とか引き剥がし、引き攣った声でシンジは尋ねた。

「ああ、また今度ゆっくり話してやるよ。それより何か話があんだろ?」

此方を見上げる犬に視線を移し、目を細める横島。

(これは・・・。へぇ、この時期に・・・。)

「あ、そうですっ。来て貰えませんかっ。」

ここに来た本来の用事を思い出し、シンジは横島の手を取った。


居間に戻った横島は、おキヌが抱える子犬を覗き見やり、
何故か少し考え込んだ後、霊視でその弱っている原因を探った。

「なんだ、体力の低下と共に霊力が下がってるだけじゃん。
これなら文珠で一発で治る。」

そう言って横島は双文珠を出し、『全/快』の文字を封じて子犬に押し当てた。
双文珠が発した優しい光が子犬を包み込み、その体を癒していく。

「それになシンジ、おキヌちゃん。この二匹は犬じゃなくて狼と狐だよ。」

「え、そうなんですか?」

『そーいえばどこか変だなぁって。』

シンジは兎も角、おキヌは狐くらい見たこと有るだろうに、と横島は苦笑する。
しかし意外な時期に意外なペアが登場した事に驚いてもいた。

(まさかこいつ等が揃ってやってくるとはなぁ。どんな関係なんだ?)

仔狐に続いて狼の方にも文珠を翳し、その身を治療する。

汚れが取れ、輝くような毛並みを取り戻した狼が、まだ目を覚まさない仔狐に鼻先を押し当てると、仔狐は漸く意識を取り戻した様で、その瞳を開いた。

「キュ、キュ−ン。」

「ウォン。」

ポンッ!

何かの意思を疎通したのだろうか、二匹はお互いに声を掛け合うと、
煙と閃光を放ちその身を隠した。

煙が晴れた後そこに二匹の姿は無く、代わりに二人の少女が立っていた。

二人共にシンジと同じ十三、四歳程の外見。
片方は腰まで伸ばした白髪に、頭の一部分だけ紅くメッシュが入った活発そうな少女。
首にネックレスを掛け、ノースリーブのTシャツと片足が股から裂けたジーンズを履いていた。

もう片方の少女は、長い黄金の髪を、後頭部で九つに分けた変わった髪形。
ブラウスにサマーセーターを重ね、キャンパススカートを履いている。

「・・・へ、変身した。」

『狐だけじゃなくて、狼も変身するんですねぇ。』

突然現れた少女達の姿に、シンジはポカンと口を開け、
おキヌはのんきな口調で呟いた。

(やっぱり、シロとタマモか・・・。)

『前』の世界、美神所霊事務所で共に働いた少女達。

クールを装いながらも、その実温もりを求めていたタマモ。
そして、無垢で純真で、横島の一番弟子を名乗っていたシロ。

横島はこの世界でも彼女らと縁があった事に、ホッとしている自分に気付いた。

「危ない所を救って頂き、真に感謝するでござる。」

白髪の少女、シロはいきなり床の上に正座すると、横島達に向け平伏した。

「拙者、人狼族犬塚タロウが娘、シロにござる。こっちの娘はタマモ、
・・・これ、タマモ、お前も礼を言うでござるよっ!」

ソファーの上に胡座をかき、そっぽを向いている金髪の少女に注意するシロ。
しかし少女、タマモは聞こえないと言う風に無視を決め込んでいる。

「タマモッ!」

「・・・うるさいわねっ、何で人間なんかに頭下げなきゃなんないのよっ!!」

流石に声を荒げたシロに、タマモはそれ以上の怒声で返した。
怯えておキヌの後ろに逃げ込むシンジ。

「命を救ってもらったのにその言い方は無いでござろうっ、人狼の、
お父上の名を貶めるつもりでござるか!?」

「・・・・・くっ、わ、判ったわよ・・・。」

シロの言葉の中の何かが心に触れたのか、タマモは嫌々ながらも礼を言う気になったようだ。

「・・・私はタマモ。『犬飼』タマモ。」

伏せ目がちに口を開くタマモ。

シロに説き伏せられる彼女の姿など、『前』は絶対に見られない事だった。
が、しかし横島は全く別の事で驚愕していた。

彼女の苗字。

『かつて』狼王を目指した凶刃。

(い、い、い、犬飼って、えぇっ!?)

「私の『お父さん』の名は犬飼ポチ。・・・助けてくれて、あ、ありがと。」

そう陳べて、犬飼タマモは微かに頬を染めた。


あとがき。

皆様こんにちは。
これを書いている途中、『べすぱと!』というネタを思いつき、
天真爛漫なベスパと、

パンツマ〜ンッ!

と叫ぶ魔王様を思い浮かべて転げ回ったおびわんです。

前回より大分間が空いてしまいました。
コンスタントに投稿し続けれる様になりたいです。

さて、シロと共に人気No1のタマモが出てきました。
この作品中ではあの男の養女という設定です。
うまく書ける様努力しますので、投石は勘弁してください。

それよりも段々おキヌちゃんがおポンチ娘に・・・。

次の投稿は、おそらく18禁の短編になると思います。
・・・炉。頑張ります。


ではレス返しです。

>アバター様。

萌え。感じて貰えましたか?

>わーゆ様。

萌え度。・・・たぶんシンジきゅんに限界は無いでしょう。
結果、周りがどうなるのかは想像できません(笑)

>Dan様。

今の所シンジ君の意識には同性愛は無いのですが、
これからの事は判りません。
彼をそっち方面に誘う某シ者の登場次第ですかね。

>Dr.J様。

死津喪比女の即時殲滅も考えたんですが、
彼女には別の場所で大活躍して貰う事にしました。

姫様のご活躍を楽しみにしていて下さいね。

>米田鷹雄様。

・・・は、いいんですよね?
ですよね?

>二郎三郎様。

残念ながら、横×シンでは無いです。
確かに作品越えカップリングなのですが、シンちゃんのお相手は別の方です。

そして美智恵のアレですが、彼女は嵐のような忙しさの中、
超有能な横島を手に入れるために、見栄なんて形振り構ってられないと
とった事。その様に描写したかったのですが、矢張り失敗でしたね。

一連の記述を読まれて気分を害されたのでしたら申し訳ありません。

>柳野雫様。

この作品のおポンチ娘筆頭おキヌちゃん。
今後更にボケボケさせて行きたいです。

令子さんの出番はもう暫く先ですね。
多分シリアスになると思います。


次回からはシロ・タマモ編です。
バトルシーン、大丈夫かなぁ。

それでは次回も宜しくお願いしますね。

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