ある町の平和な夕暮れ―――町を赤い光が包み込む静かな時間……
そんな時間に似つかわしくない激しい轟音、まるで雷のような轟音が鳴り響いていた。そんな轟音の中を一人の青年が走り抜けている。
青年は16、7位の年齢であろうか、一般的な学生服を着ている。
格好も容姿も特に際立ったものではなく、どちらかといえば平凡なものだった。あえて特徴をあげるとしたなら額に赤いバンダナを巻いている、程度のものしかない。
青年は随分と長い間走り続けているのだろうか、
顔を歪め、肩を大きく上下させながらそれでもなお、走り続けている。
周りの人たちが怪訝そうな顔で青年を見やるが、そんなことは気にも留め無い様子で、
青年は車が行き交う道路を無理やり渡り、クラクションの大合唱を背に受けながらも、
今度は路地から路地へ、ただ走り続けていた。
すると、青年が突然たちどまった。
目的地にたどり着いたのだろうか?いや、青年の目の前には薄暗い路地と、コンクリートでできた大きな壁があるだけだ。
青年が道を戻ろうとしたのか、急いで振り向く。
そこにはいつの間に来たのか、同じような黒いスーツで体をかため、また同じようなサングラスをかけた
二十人近い体格のいい男たちが青年の前に立ちふさがるように立っていた。
男たちは一様に手に持った‘何か’を青年に向けている。
その男たちの中から一人の男が一歩前にでて口を開いた。
「ふぅ、いや…よく逃げるものだ。
あまり梃子摺らせないでもらいたいのだがな……」
青年は後ずさり壁に背をあわせながら、それでも力強く男たちを睨みつけ、叫ぶようにいった。
「ゼッ…、ハァッ…、あ、あんたら正気かよ!
こんな街中でそんな、そんな銃なんかぶっぱなしてっ…!」
そう、男たちが持っている‘何か’とは拳銃である。
様々な形状ではあるが目的は同じ、人を殺すもの。
それが今は明確な殺意を持って青年を殺すために向けられていた。
「貴様が気にすることではない。ここで死ぬ貴様がな…」
先頭の男がなんの感慨もなくそう言い放つ、そこにはまるで表情など浮かんでいない。あえて言うなら、これから人を殺す、そのことに微塵の躊躇もない。そんな表情だった。
「ハァッ…、ハッ…、くそっ、なんでっ…!」
青年は言葉にならない声を上げ、震える足を必死に立たせ、それでも男たちを睨み続けている。男は特に気にした様子も無く淡々と話し続けた。
「なぜ…とは。ふん、さっきも言っただろう?貴様は危険である、と。
………もうこれ以上話す必要もない、貴様はただ死んでくれればいい、横島忠夫」
その瞬間、青年―――横島忠夫は激しい轟音とともにマブルフラッシュのひかりに包まれた。
とわいらいと・えんど プロローグの1
―――夢を見ているのだろうか
いや、夢だという確信は無い。
ただ、目の前に、彼女がいる。
彼女が笑っている、とても幸せそうに、笑っている。
だから、夢なのだろう―――
彼女がおれを見つめながら、口を開いた。
「ねぇ、私ヨコシマのこと―――■■■よ…、ねっヨコシマは…?」
あぁ、おれも……。口を開こうとしたが開かない事に気付く、声が出せない。目の前に居る彼女の姿が次第に薄れていく。待ってくれ……!まだ話したいことが、言いたいことが、たくさんあるんだ…!
必死に声を出そうとするが、彼女の姿は既に消えかけている。おれは懸命にもがきながらなんとか口を開く。
「……ッ!…ッ!ルシオラァッ! おれも、おれも、お前のことが■■■だっ!!」
――――体を揺さぶられる感覚で目が覚めた。
薄く目を開けると目の前一杯に少女の顔が広がっている。
銀色の長い髪に、前髪の一部分に赤いメッシュが入った少女が、
太陽のような満面の笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでいた。
銀色の髪が朝日に反射して、
キラキラと輝いている様子はとても幻想的で―――とても綺麗だった―――が、
「 せんせぇ!せんせぇーー!!散歩に行くでござるよぉ!!!」
――――ぶち壊しだった――――
思わず、おれの感動を返せ!ゴルァ!!と、叫びたくなる程度に台無しだった。
「シロ…、声がでかい…てか、今何時だよ…」
シロ、そうこいつの名前は犬塚シロ、誇り高き人狼の子…
…の筈なんだが最近のこいつは特に犬っぷりに磨きがかかっている気がする。まぁ、似たようなものだろうな……尻尾生えてるし、今もちぎれんばかりに振ってるし。と、そんなことを俺が考えているとは露知らず、
シロは「んー…」と少し首を傾げ考える素振りをした後、
「えっとぉ……、5時30分くらいでござるなっ! いい朝でござるよっ!!さっ、先生も早く起きてくだされ! 散歩にいこ~っ、でござるぅ!!」
「って、はやすぎるわっ!! この馬鹿犬!
…………ん? そういや、お前何でここにいるんだよ?」
「狼でござるよぅ!! だから、先生を朝の散歩に誘おうと……」
「違うッ! 目的じゃなくてだな…… あ~、どうやって家に入ってきたんだ?」
「どうやってって…。鍵、開いてたでござるよ? 全く無用心でござるなぁ、先生は。拙者でなければ大変なことになっていたでござるよ?」
なぜか、得意そうに胸を張って答えるシロを視界から追い出し、俺は昨日のことを思い出していた。
…あぁ、そうか。昨日はまた一段と、美神さんにこき使われて…、
とりあえずいつも通りシャワー覗いて、いつも通りボコボコにされて…
流石に疲れて、アパートに着いたら布団に直行したんだっけ……。
ふむ……、流石だおれ、よく生きてる。
「さっ! 先生、散歩に行くでござるっ!! はやくっ、はやくっ!!」
ずずぃ!、とおれに迫ってくるシロ。
その顔は期待に満ち溢れ、零れ落ちそうな笑顔を浮かべていた。
そんなシロにおれは優しく微笑んで言ってやる。
「行かねぇ。」
おれがそう言うと、シロは凄まじいショックを受けた顔になった。
言うなれば、あれだ、劇画タッチ? これから「な、なんだってー!!」とでも叫びそうな顔だ。
「なぁっ! なんだってーーー!!」
言った。
「じゃなくてっ! なんででござるかぁ!!」
ぐわばぁ!と効果音が付きそうな勢いでおれに迫ってくるシロ。
シロがおれの肩を掴み、視界一杯にシロの顔が広がる、おれの肩がいい感じにミシミシ鳴ってる。
うん、少し痛いから離してほしいなー、なぁんて、先生思うんだけど。
そんなことを思おうが離れる筈が無いシロを、
しょうがないから無理矢理ひっぺがし、理由を言ってやることにした。
「うむ、シロよ…、大変ことになったのだ……」
おれは重々しく口を開いた。おれが珍しく真顔で話しているからだろうか、
シロは姿勢をただし真剣な顔をしておれの話を聞く。
「な、なにがでござるか……?」
シロは恐る恐る、といった様子でおれに尋ねてくる。おれはひとつ頷き、改めて口を開いた。
「学校の単位。」 「………………………はっ?」
シロがなんじゃそりゃぁ! とでも言いたげな目でおれを見ている。
「なんじゃそりゃぁ!」
言った。
「じゃなくてぇっ!! ど、どういうことでござるかっ!それはっ!!」
うむ、シロよ……、天丼とはやるようになった。だが、同じギャグは二回までだぞ……。そんなことを頭の片隅で考えながらシロにちゃんと説明をする。
「あぁ…、最近おれ、学校に行ってないだろ?なんかさ、担任の話じゃ、そろそろ本格的にやばいらしいんだよ、留年。もし、もしもだぞっ!? 留年 なんかしてみろっ……! お、おれはあの両親に………、
こ…、殺される…!まず間違いなく殺されるっ…!!」
突然ガクガク震えだし、ブツブツ言い出したおれを、とても気持ち悪いものをみるような顔をしながら、それでもしょうがないから、といった感じで声をかけてくる我が愛弟子、犬塚シロ嬢。
「せ、せんせぇ…? 大丈夫でござるかー?」
「……はっ! む、すまん。もう大丈夫だ」
少し過去のトラウマが蘇っていた。
大丈夫、大丈夫だから、おれをそんな目で見るなっ!!
おれを自分よりもはるかに下等な生命体を見るような目で見ていたシロは、少し考えて、
「むぅ、つまり……、先生は学校にいかねばならないので、
散歩には行けない……と、こういう事でござるか?」
「おぉ! 正にそういうことだ!さすがだシロ、よく分かったな!!」
うむ。やたら天真爛漫で、多少突っ走り気味な所はあるが、きちんと話せば分かってくれる。そういう、いい子なのだ、犬塚シロという少女は。
「じゃ、学校に行くまでの時間なら大丈夫でござるなっ!
散歩に行くでござるよぉ!!」
―――そうでもなかった。
「だぁー、かぁー、らぁー! 散歩には行かないっての!!
おまえの散歩に付き合ってたら学校に行く体力なんか、残んないのっ!」
おれは一息でそう言いきる。
おれを先生と慕ってくれるのは、正直うれしい。
嬉しいんだが……、これだけはどうにかしてほしい。
うん、わりと本気で切実。
「うぅ~~~……」
シロは尻尾を丸めて、目を潤ませながら上目遣いにこっちを見ている。
む……、そんな顔をするのは反則だろう。
そんな顔をされるとこっちが悪いことをしてるように感じてしまう。
「はぁ……」 おれは軽くため息をついて、
今にも涙腺が崩壊しそうなシロを見やり苦笑を浮かべる。
なんだかんだ言ってもおれはシロに甘いよなぁ…、そんなことを思いながら、
「散歩に行くのは無理だけど、まぁ…学校に行くまで時間もあるからなぁ、
なんか話でもするか?」
おれがそう言うとシロは パァッ…! と顔を輝かせながら
コクコク、と何度も頷く。
まぁ、こんなに喜んでくれるなら多少早く起こされようが、
目をつむろうか、という気持ちになる。
「じゃ、じゃ…! 昨日、先生が帰った後で……!!」
シロはとてもうれしそうな顔でさっそく話しだす。
おれはそれを見て、改めて苦笑を浮かべてシロの話を聞く事にした。
「ん……、あぁシロ話してるとこわりぃんだけど、そろそろ準備しないといけない時間だ」
時計をみるとそろそろ危ない時間になって来ている。
「えぇーっ! もう時間でござるかぁ~!うぅ~、もっと話したいことがあるでござるのにぃー!」
今まで落語家もかくやという勢いで、わふわふ話していたシロが不満の声を上げる。そんなシロの頭をクシャッと撫でてやると、シロは 「わふぅ~」と嬉しそうに鳴き声をあげた。
「悪いな、帰りに事務所に寄るから。続きはまた、そん時に……な?」
シロはまだ撫でてもらいたいのか、話したり無いのか、不満そうにしていたが、しぶしぶ、それでも納得したように頷いた。
「絶対でござるよっ!じゃあ、待ってるでござるっ!
でわ先生、いってらっしゃいでござるぅぅぅぅーーーーーー!!」
シロはがばぁ、と立ち上がると勢いよくドアを開け、
そのまま砂煙を巻き上げながら走り去っていった。
「なんだかなぁ……」
おれはそれを見送ると、学校に行く準備を始めた。
プロローグの1 終 To Be Continued
あとがき
みなさん、どうもはじめまして!! でまえそば、と申します。
この度はじめてSSを書いてみることにしました。
みなさんが書いてるのを見て無謀にも書きたくなっちゃいましたぁ!
GSはだいぶ昔に読んだ漫画なんで、
記憶が少し曖昧ではありますが一生懸命思い出して書きたいと思います。
……というか、小説を書くのも初めて、パソコンのことも初心者ですから、皆さんにご迷惑をおかけするかもしれませんが、がんばりますのでよろしくお願いします!! この作品の説明はまた次回のあとがきで書きたいと思います。プロローグは長いのでちょっと分けさせてもらいました。
プロローグの2は少し説明くさくなるかも……極力気を付けますが(汗
感想、批評、何でもかまわないので、もしありましたら、お願いします。
でまえそば、でした! でわっ!!
>NEXT