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▽レス始

「愛しい二人のために((GS)」

さみい (2005-02-12 13:18)
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6月のある日。昨日まで梅雨らしいジメジメした天気だったのが、今日は雲一つ無い、とてもいいお天気。まるで横島クンとおキヌちゃんの結婚式を祝うかのように。
ここは唐巣神父の教会。私も弟子だった頃には毎日のように行っていたけど、今日はちょっと違って見える。狭い礼拝堂は人と神・魔・妖・霊で満杯だ。皆、自分のことのように嬉しそうにしている。これだけ人外の者が集まったのは横島クンとおキヌちゃんならではだろう。

祭壇の唐巣神父の前でカチコチに緊張した横島クンがおキヌちゃんの入場を待っている。

礼拝堂のドアが開くと、まずフラワーガールのパピリオがバージンロードに花を蒔きながら入場してきた。可愛らしいピンクのドレスを着ている。横島クンのママが選んだドレスだ。「ユリコには丸一日デパートで着替人形にさせられたんでちゅよ!ユリコとは二度とデパートには行かないでちゅ」と式の前に言ってたっけ。でもやっぱり女の子。可愛らしい服を沢山買ってもらえて、とても満足してたみたい。
僅か数十センチだが空を飛んで花びらを蒔いている。後ろの方で参列しているベスパから「こら、飛ぶんじゃない。歩いて蒔くんだ」と注意されている。
次にリングベアラーを務める天竜童子。結婚指輪を置いたクッションを大事そうに持っている。普段の着物姿ではなく、小竜姫さまが選んだ洋装だ。七五三みたいだけど、とても似合っている。

最後に真っ白なウェディングドレスを着たおキヌちゃんがオルガンの音に合わせて入場する。

「おキヌちゃん、綺麗」
参列者から歓声が上がる。
パピリオ、天竜童子、おキヌちゃんが祭壇に到着して式が始まった。


私、美神令子は式のあいだ、ずっと考えていた。横島クンのこと、おキヌちゃんのこと、今ここには居ないルシオラのことを。

横島クンは私が開業してスグ雇った、美神除霊事務所で最初の従業員だ。思い出すのもアホらしい出会いだったが、ずっと私を支えてくれた。何度も私を守ってくれた。私が頑張って来れたのも横島クンがいてくれたからだ。実力は私を超えた今でもウチの事務所で働いてくれる。
おキヌちゃんは最初は幽霊だった。人骨温泉での除霊で知り合い日給30円で雇って、毎日一緒に過ごして、掛け替えのない存在になった。死津喪比女の事件後再会したときはとても嬉しかった。横島クンを巡って争ったけど今でも一番の親友だ。
ルシオラは横島クンの初めての恋人。そして今でも横島クンを縛っている。いや縛られているのは私かも知れない。私は絶対ルシオラに勝てない。何故ならルシオラは一番輝いているときに横島クンの為に死んだ。命を捨てて横島クンに霊基を送るという最高の自己犠牲で。

私では横島クンの支えになることは出来なかった。ルシオラが亡くなりポッカリ穴の開いた横島クンの心を埋めたのはおキヌちゃんだった。横島クンを精神的に支えたのは私ではなかった。

何を感傷的になっているのだろう。私は美神令子。世界最強のGSで、世界最高の女よ。今日は丁稚の横島クンと妹のようなおキヌちゃんの結婚式なんだから、私が一番祝ってあげなきゃ。精神的な支えはおキヌちゃんに譲るけど、世界唯一の文珠使いと並んで仕事できるのは私だけなんだから。


気が付いたときには式は聖書の朗読やお祈り・賛美歌が終わり、結婚の誓いに入っていた。ジークと机妖怪の愛子がビデオや写真を撮りまくっている。

(そういえばこの教会は他宗教の神族や妖怪でも魔族でも、誰でも気軽に入れる数少ない教会だわねぇ。)

横島クンは神魔族・妖怪・幽霊・動物に対して、偏見や先入観を持たず全く同じように接することが出来る数少ない人間だ。アイツの他は唐巣神父くらいだろう。私やおキヌちゃんも徐々にその影響を受けたのか、最近は除霊に行ってもいきなり攻撃することはない。式の前に唐巣神父から言われた言葉を思い出す。
「最近、美神クンも相手の心を確認してから除霊するようになって、私も嬉しいよ。君はとても強いGSだが、時々冷たいと思えることも昔はあったからね。」
随分と失礼な言い草だが、神父が言うのだから本当にそうなのだろう。


誓いの言葉を横島クンとおキヌちゃんが読み上げると、唐巣神父は二人が夫婦であることを参列者に告げる。その後、指輪交換、再び聖書の朗読と続き、式は終わった。式の後、私たち招待客は教会の外で二人が出てくるのを待った。

新郎新婦が出てきた。愛子が机の上に乗ってビデオを撮っている。参列者みんなでお米をまいて新郎新婦を祝福する。そして最後の大イベント・新婦がブーケを投げる番だ。女性参列者が新婦の廻りに集まる。私はちょっと離れてその光景を見守る。ちなみに最前列はシロ・弓・魔理・パピリオ・ヒャクメだ。前の方に行きたいケド、今日の私は丁稚と従業員の結婚式に来た上司なのだ。あまりバカな真似も出来ない。エミや冥子と3人で後ろの方に立つ。

おキヌちゃんがブーケを投げる。しばらく宙を漂ったブーケは、結局ママに抱かれたひのめの手に握られた。
「きぬねーね、おはなありがとー! にーにも、きぬねーねも、おめれとう!」
最近になって漸くしっかりした言葉が出てくるようになったひのめが喋る。ひのめも横島クンが大好き。ひのめにもアイツの良さが判るのだろうか。
他の女性参列者は一様にブーブー言っている。ブーケをとった人が次に結婚するという民間信仰からすると、あと最低13年は待たなきゃならないから。神魔族からすればあっという間だろうけど。


「皆さん、パーティの準備が出来ました。そろそろ魔法料理店魔鈴に移動して下さい」
みんなが新郎新婦と写真撮影をしている中、ピートが叫んで廻っていた。


結婚式から数ヶ月後。横島クンとおキヌちゃんの新婚ボケぶりにも慣れてきたころ。

朝、事務所の3人(私・シロ・タマモ)で朝食の最中、横島クンとおキヌちゃんが出社してきた。いつもよりちょっと早い。おキヌちゃんが結婚前にタマモに料理を教えていったので毎朝肉料理という目に遭わずに済んでいる。油揚げくらいはご愛敬だ。

「じゃんじゃかじゃ〜ん、みなさんに発表があります」
おキヌちゃんがいきなり話を切り出した。隣の横島クンはとてもニコニコしている。

「私、横島おキヌは今、妊娠3ヶ月です。お腹に赤ちゃんがいるんです!」
そう言って真っ赤になって俯いてしまったおキヌちゃんを横島クンがそっと抱き寄せる。
「おキヌ殿、御懐妊されたでござるか! 目出度いでござる!」
「おめでと〜、おキヌ、ヨコシマ」
私は何と言おうか。結婚したときからいずれこうなるのは判っていたのに。いい言葉が出てこない。
「おめでとう、おキヌちゃん、横島クン」
これだけ言うのがやっとだった。

「まだおキヌのお腹膨らんでないわね」
「タマモちゃん、いくら何でもあと3ヶ月くらい経たないと目立ってこないのよ」
「おキヌ殿!赤子は男女どっちでござるか?」
「シロちゃん、まだわからないのよ。あと半年くらい経てば超音波でわかるそうよ。」
シロタマの質問責めにあうおキヌちゃんは優しく答えていく
「先生はどっちがいいでござるか?」
「男女どっちでも、元気よく生まれてくれれば、俺はそれだけでいいよ。」
シロの無神経な質問にもアイツは丁寧に答える。私たちはシロやタマモにはアシュタロス戦の事を一切教えていない。だから先程のシロの質問が飛び出すのは仕方がない。
女の子だったら、ルシオラの生まれ変わり。いずれ実の母のおキヌちゃんと横島クンの奪い合いを繰り広げる事になるだろう。タブーを、少なくとも人間界ではタブーとされることを繰り広げる事になるだろう。おキヌちゃんはそれを承知で結婚・妊娠した。私にはそんな勇気はなかった...。

「男の子だったら拙者が鍛えてあげるでござる。人狼の武士・犬塚シロが。」
「じゃあ女の子だったら私が鍛えてあげるわ。金毛九尾の狐・美神タマモが。」
「おいおい、まだ生まれても居ないのにお前ら気が早すぎるぞ。あと7ヶ月は経たないと生まれないぞ!」

「とにかくおキヌちゃんおめでとう。おキヌちゃんには今日から事務をしてもらうわ。おキヌちゃんは古文書を読めるから事務でも役に立ちそうね。おなか大きくなったら産休も取っていいわ。ウチの事務所でネクロマンサーが欠けるのは大変だけど、みんなも赤ちゃんの為にその分頑張るのよ」
「判ったでござる。おキヌ殿が除霊に行けない間、拙者が頑張るでござる」
「いいわ、他ならぬおキヌの為だもん」
「シロ、タマモ、そして美神さん。ありがとうございます」横島クンが礼を言う。おキヌちゃんも一緒に頭を下げる。

「ご両親には報告したの?」
「はい、忠夫さんの方も氷室の方も昨晩電話で御報告しました。両方ともそれはもう大変喜んで頂いて。」
「そうよね。どっちにとっても初孫だからね〜。で、名前はどうするの?」
「昨日忠夫さんと相談したんですが、まだ時間もあるし、ゆっくり考えようかって」
「そりゃそうよね〜、いやだわ、私もシロタマみたいにせっかちになったみたい」
笑いが事務所を包み込んだ。


12月のある日。横島家に私は居る。産休に入ったおキヌちゃんの様子を見に、事務所の休日を利用して尋ねたのだ。横島クンから随時聞いてはいるが、やっぱり自分の目で見ないと。

「おキヌちゃん、性別は判ったの?」
「病院で双子というのは判ったんですが、性別は8ヶ月くらいじゃないと判らないらしいです。来月ですね。」
「双子?!」
「そうなんですよ。双子ちゃんです。それで忠夫さんも慌てちゃって。夏からベビー用品をいろいろ揃え始めてたんですが、もう1セット買わなきゃって昨晩大騒ぎしてました」
「おキヌ、そんなお前だって慌ててたやないか〜。お前が病院から青い顔で帰宅したから俺だってビックリしたんだぞ!」
「だって2人とは思っても無かったから。どうりで胎動が頻繁だったわけですね。」

「でも実際問題、性別判らんと困るな〜。完全に予想が外れたら目も当てられん」
「横島クン、『役立たずの神族』でも呼んだら?少しは役立つでしょう。」
「じゃあ、呼んでみます。 『ヒャクメ〜!ちょっと来〜い!』」
横島クンは霊波に声を搬送させて妙神山の方へ送った。ヒャクメだったら十分認識できるだろう。不在でも小竜姫やパピリオなら気がついて伝言してもらえそうだ。
・・・・・
1分後。来ない。
・・・・・
2分後。来ない。
・・・・・
3分後。
『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜ン』
突然横島クンの頭上にヒャクメが大きな鞄を持って現れた。ハク○ョン大魔王なみに安易な出現のしかたをする神様だ。横島クンが鞄とヒャクメの尻で潰される。
「久しぶりなのね〜、おキヌさん。お腹の中の赤ちゃんたち大きくなったのね〜。
ところで横島さん、何か用なのね〜?」
「いや、喚んでみただけ」
「カラータイマーが鳴ってるから私帰るのね〜」ヒャクメは帰り支度を始めた。
「冗談じゃ〜。今日来て貰ったのは子供の性別を診断してほしいからだ」
「そんなんだったら朝飯前なのね〜。私だったら赤ちゃんが出している霊波を見るから超音波みたいに赤ちゃんを驚かすことなく診断できるのね〜」
頼られたことでニコニコしながらおキヌちゃんのお腹をさするヒャクメ。
ヒャクメは一瞬難しそうな顔をした
「男の子と女の子の双子ちゃんなのね〜。男の子は・・・」
「どうした?ヒャクメ!教えてくれ!男の子に何か問題でもあったのか?」
横島クンが慌てる。おキヌちゃんも心配そうにヒャクメの言葉を待つ。私も心配だ。
「なんか横島さんにそっくりなんだけど・・・。ま、元気な赤ちゃんなのね〜。二人とも元気に育っているわ。あと3ヶ月後が楽しみなのね〜」
「ヒャクメ、横島くんの子なんだから似てて当たり前じゃないの。ね〜、おキヌちゃん」
「そうですよ、ヒャクメさま。」
「・・・そうなのね〜」


安心した横島クンは男と女か〜と唸っている。
「忠夫さん、男の子にはミニ四駆も教えられるしキャッチボールも出来るし、良かったですね。私も女の子にはお裁縫やお料理とか沢山教えられるし。女華姫さまと一緒に唄ったお歌もいっぱい教えられるんですね。」おキヌちゃんが言う。
「そやな〜。男の子にはスカートめくりも壁登りも教えられるしな〜」
「セクハラは教えんでいい!!」
私は久しぶりに神通棍でアイツを叩きのめした。おキヌちゃんもお腹の子たちが元気と判り笑いながら見ている。
「でも横島さんとおキヌちゃんの娘はおてんばそうだし、息子に至ってはとてもやんちゃになりそうなのね〜。霊波が横島さんと」
ヒャクメは何か拙い事でも言ったかのように口を噤んでしまった。横島クンとおキヌちゃんは「おてんば」「やんちゃ」という言葉で惚けたように未来の我が家を思い浮かべていて、霊波の件は私しか気付いていない。私は持参したケーキをテーブルの上に出した。
「さあ、お茶にしましょう。ヒャクメも手伝いなさい」
「わかったのね〜。私はチーズケーキがいいのね〜」
やんちゃ・おてんばな子供達と自分たちが繰り広げる楽しい未来を思い浮かべ惚けているおキヌちゃんと横島クン(似たもの夫婦だ。以前は妄想癖は横島クンだけだったのに)をソファに残し、私とヒャクメは台所へ行った。台所で私は小声で(あとで詳しく話しなさい)とヒャクメにいうと、ヒャクメは観念したように頷いた。勝手知ったる横島家の台所で私とヒャクメは紅茶・コーヒーを淹れ始めた。


「ところで名前はどうするのね〜?」
ヒャクメがチーズケーキを食べながら尋ねる。
横島クンとおキヌちゃんはお互いの顔を見ながら頷いたあと、こう切り出した。
「「美神さん、男の子の名付け親になっていただけませんか」」
モンブランを食べていた私は思わず咽せてコーヒーで喉を湿らす。
「あたしはそんなガラじゃないわよ〜。唐巣神父やウチのママなら兎も角」
「いえ、美神さんは私たちの上司で師匠で家族で、とても大事な人です。美神さんが居なかったら、私たちが出会うことも無かった。だからお願いしたいんです」
「美神さん、ここまで言われたら是非受けてあげるべきなのね〜。」
「そうねぇ、じゃあ名付け親になってアゲル。いい名前を考えてあげるわ」
「良かったのね〜、横島さん・おキヌさん。女の子の方はどうするの?」
「小竜姫さまにお願いしたいと思っています」
「それはいいことなのね〜。きっと小竜姫喜ぶのね〜。今度小竜姫とパピリオ連れてくるから、その時お願いするといいのね〜」
「そうしますね。ヒャクメさま宜しくお願いしますね」
「ガッテンなのね〜」
お腹の子が男女の双子と判り、とても嬉しそうな横島クンとおキヌちゃん。この幸せな家庭に来年2人の赤ちゃんがやってくる。天使か小悪魔かはわかんないケド。


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さみいです。

初めて長い話を書いてみました。至らぬ点など多々あるかも知れませんが暖かい目で読んで下さい。
結婚式のシーンって他の作者諸兄に似通ってしまう。順序とか内容が決まっている儀式だけに描写とか難しいですね。ひのめちゃんがブーケを取る話も、以前どこかで読んだ作品にあった、ブーケ争奪戦の末ひのめちゃんが取る話(その話では横島+美神で、大変面白かった)に似てしまいました。争奪戦をなくした程度で、工夫がなく済みません。でもどうしてもひのめちゃんに取って欲しかったんや〜。

次回、話は急転します。

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