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「歩む道(プロローグ)(GS)」

テイル (2005-02-07 09:41)
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 夕暮れ時、一人の青年が家路についていた。ジージャンにジーパン、そして額にはバンダナを巻いている今時珍しい服装をした青年だ。右手にコンビニのビニール袋をぶら下げ、青年はゆっくりと歩を進めている。
 青年の目は夕日に注がれていた。遠く沈みゆく夕日はとても鮮やかで、世界を赤に染めあげている。右手にのびる影は刻一刻とその長さを増し、しかしいずれは闇に融けて消えるのだろう。風もなく、青年の他に道行く人は誰もいない。逐う魔が時と称されるにふさわしい、怪しい時間。
 夕日は青年の顔も、赤に染めていた。夕日に照らされた青年の眉間にはしわが寄り、その目は細められている。夕日の光が眩しいのか、それとも他に理由があるのか。そもそも何故青年は夕日を見ているのか。見続けているのか。それはわからない。ただ青年は先ほどから、片時も夕日から視線をそらしていない。それは事実としてここにある。曲げられようもなく、変えられようもなく、ただ事実としてここにある。
 ただ夕日を見つめ続け、家路につく青年。その姿は赤に染められたこの怪しい世界において、永遠に続くのではないか……そんな錯覚に陥りそうな、怪しい光景だった。
しかしそんな不可思議な想いを抱かせるその絵は、唐突に終わった。不意に青年の視線が、夕日からはずれたのだ。動かされた視線の先は、壊れかけた小さなお堂である。青年が歩いていた道の右斜め前方。細い横道が続くその角に、そのお堂はちょこんとあった。
 青年は一瞬足を止めると、何かが気になるのか、じっとお堂を見つめた。ぼろぼろのお堂だ。人々に忘れ去られて久しいのだろう。お堂の中には、蜘蛛の巣が張ったご神体が一体、薄汚れて鎮座していた。
 忘れ去られた神霊。ごくまれにこういった代物が道端に転がっている事がある。しかし彼の職業からして、このような物を見ることは決して珍しくはない。青年がこのように注目する理由など、特に無いように思えるが……。
「ふむ」
 青年は一つ頷くと、お堂に向かい歩き出した。そしてお堂の目の前まで来ると、あきれたように言った。
「だいじょうぶか、坊主」
 青年の目はお堂を見ていない。その視線はお堂の横に注がれている。ちょうどお堂が影となり、青年が来た方向からでは見えにくい場所だ。よく見るとそこには少年が一人、お堂に体重を預けるように腰掛けていた。年の頃は十歳前後……いや、もっと下かもしれない。ぼろぼろの服を身に纏い、服から覗く手足は汚れこれでもかというくらい細い。まるで行き倒れる間近の浮浪少年のようにも見える。先ほどから青年は、お堂ではなくこの少年が気になっていたらしい。
「ぼろぼろだな。今にも死にそうだぞ」
 青年の言葉にその少年はゆっくりと俯いていた顔を上げた。感情の色が全くない、能面のような顔。それでも青年を見上げるその目には、意外というか何というか、不思議がっているような光が浮かんでいる……ような気もする。
 青年は苦笑した。
「何だよその顔は。お前に声をかけるのが変なことか?」
「………」
 少年、全く反応なし。
 青年はますます苦い笑いを浮かべると、持っていた買い物袋に手を突っ込み、紙袋を取り出した。その中にはほかほかと湯気をたてる、肉まんあんまんピザまん等々。青年が奮発して買った、青年の晩ご飯が詰まっている。
「ちょいと惜しい気もするけどな、そんなぼろぼろな姿見ちまったら仕方がない。……やるよ」
 そう言って青年は温かな紙袋を、その少年の手に握らせた。何の表情も浮かべず、それでも紙袋を凝視する少年。
「それ食って、ちょっとは元気になれよな」
 青年は少年の頭を優しく二度三度撫でた。再び青年を見上げた少年に笑いかけてやると、じゃあな、と一言添えて立ち去る。
 しばらく歩いてから一度だけ青年は振り向いてみた。既に周囲は薄暗くなっている。しかし紙袋をその手に持った少年が今もなお、こちらを見続けていることくらいは判別できた。
 青年は軽く少年に手を振った。少年は全く反応せず、ただこちらを見ているだけだ。青年はまた苦笑した。
「愛想がないな。元気になったらちょっとくらい笑ってもらわにゃ、割にあわんな。……また来るか、なんか持って」
 少年に背を向け、今度こそ家路につきながら、青年は小さく呟く。
 その時、青年は気づかなかった。霊能を有し、人に在らざる物を見ることのできる目を持つ青年でも、闇を見通す目は持っていない。だから青年には見えなかったのだ。
「あーあ。夕日、完全に沈んじまったな」
 先ほど夕日が輝いていた空を見ながら、青年は何も気づかず、ただ家に向かって歩き続けた。

 歩き去る青年の後ろ姿を、少年はじっと見つめていた。だんだんと遠くなっていくその後ろ姿を、ただじっと見つめていた。立ち上がりはしない。声をかけたりもしない。手を振ったりもしない。……ただ、見つめていた。
 その顔には、まぎれもない悲しみの表情が、浮かんでいた。それは青年が少年に浮かべさせたもの。しかし件の青年は、その事を知らない。気づいてもいない。少年のその表情を見る者は誰一人としていなかったし、少年がその表情を浮かべた事を知る者も、誰一人としていない。

 そう、ただの一人も……いない。


 あとがき
 プロローグです。ぶっちゃけ、これだけではよくわからないと思います(当たり前だ)。
 続きはなるべく早く書き上げますが、この作品、ダークおよびもろもろの指定が入る予定です。


 前回の感想のお返事であります。大感謝


>柳野雫様
 カオスのあの言葉、自分もお気に入りです。書いていたら勝手にしゃべった
んですよねぇ、カオスがw

>義王様
 結婚式ですか。実はいろいろ考えてみたんですが……思いっきり壊れになりしかも収拾がつかなくなる予感がしてやめたのです。あははw

>矢沢様
 分娩室への付き添い。そう、今ではぜんぜん珍しくないようですね。
 でも、矢沢様の言うとおりなのです! 
 横島を分娩室に入れたら、話がうまくいかなかったのですぅぅ! だはははは

>Dan様
 カオスはマリアの身体をどうやって作ったのか。それは秘密です。決して考えていないわけじゃありません。いやほんと……

>キリュウ様
 裏設定として、人間にする前のマリアの魂を複製し、その魂をベースに未来においてマリアの兄弟機が続々作られたり。……とか

>偽バルタン様
 大丈夫です。カオスは少なくともあと二百年は生きます。
 思いっきりぼけてますけど!

>LINUS様
 浮気癖。
 ……なおる、かもしれません。おそらくマリアの目には勝てまい、とか思ってたり。

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