「えーっと、それで、彰子ちゃ、あ、いや、栄華さんはどうして俺に弟子入りしたいの?俺なんかに弟子入りしなくても十分やっていけると思うんだけど。」
横島は躊躇う。はっきり言って彼にはこれ以上弟子をとるつもりなど無かった。今でも十分手一杯なのだ。
それに、力が十分だというのも本音だった。今ですら彼女は霊能力者として十分な実力を持っている。今後、修業し、経験を積めばまず間違いなく世界でもトップクラスのGSになれるだろう。
「いえ、私は力不足です。」
しかし、彰子はそれを否定する。
横島は困り果てる。
「力不足って・・・・。どうしてそう思うんだ?それに、どうしてそこまで強くなりたいの?」
そこで、横島がそう尋ねると、彰子は何故か恥ずかしそうな顔をする。
「あの、その、笑わないで聞いてもらえますか?」
既に美少女というより、美女という印象の強い彼女がもじもじとしている様子を見て、横島は頭のなかに“萌え”という単語が思い浮かぶ。
「ああ、勿論、笑ったりなんかしないよ。」
そして女の子には優しい横島、笑顔で答える。
それを見て意を決したようにして、そして叫ぶ彰子
「私・・・・正義の味方になりたいんです!!」
「・・・・・・はっ?」
でてきたあまりの予想外の言葉に思わず呆気に取られてしまう横島。
それを見てやっぱりという顔をする彰子。
「そうですよね・・・・。やっぱ、おかしいですよね。けど、私どうしても正義の味方になりたいんです。どんな、理不尽にも負けない。自分が信じる事を貫き通せる。横島先生が言ったような妖怪と人が理解できる世界だって作れる。不正にも権力にも押しつぶされない。困っている人を泣いている人を助けられる。そんな正義の味方になりたいんです!!」
彰子の叫びを聞いて横島は呆然とする。彼女の言う事ははっきり言って夢だ。
現実はそこまで甘くない。
そして彼女も、そして横島も知らない事であるが、それは美神令子の母、美知恵が目指し、そして折れてしまった道でもある。
だが、それでも、その理想を持ち続ける事は決して無意味ではない。理想と現実との差に苦しむ事にはなろうが、人は妥協を続ければ何処までも堕落し、また、現状を変えよういう意思がなければ何も変える事はできないのだから。
「え、えーと・・・・・・。」
横島は戸惑う。彼女の気持ちはわかった。
適う、適わないは別にして、そのような夢を貫こうとするのなら、力はいくらあっても足りないだろう。
だが、今度は逆にそんな凄い理想を持っている相手に対して自分なんかが師匠でいいのかと思ってしまう。
「うーん、栄華さんの気持ちはわかったけど、それだったら俺よりもっとふさわしい人に弟子入りした方がいいんじゃない?」
だから、横島はそう言った。実際実力はともかく、精神的にはまだまだ18の若造でしかない横島よりも知識、経験ともに相応しい相手がいくらでもいるだろう。
だが、言われた彼女の方はそれをていのいい断り文句だと思ってしまった。
「そうですよね。こんな馬鹿な夢を持っている子供なんて弟子にしたくないですよね。」
「えっ!? いや、そういう事じゃなくて。」
予想外の反応に慌てる横島。
「横島先生ならわかってくれると思ったのに・・・・・。」
俯き涙を流す彰子。
女の子の泣く姿を見て横島はますます慌てる。
「わ、わかった!!弟子にする!!弟子にするから!!」
だから、思わずそう言ってしまった。
言ってから“しまった”っと思うが・・・・・・・
「ほんとですか!?」
そう言って目をキラキラ光らせている彼女に対し、いまさらやっぱ取り消し、などとこの男が言えよう筈もない。
「あ、ああ、ほんとだよ。けど、俺も忙しいからあまり多くは時間を取れないけど。」
「それで十分です!!本当にありがとうございます。」
勢い込んで横島に詰め寄ってくる彰子。
彼女の豊満な胸の先端が横島の胸元に当たる。
(あー、ぽっちがああああ。ぽっちがあああああ!!!!)
内心の苦悩?を何とか押さえ込む横島。
そして彼女は笑顔で去っていった。
「はあ、大変な事になっちゃったな。」
彼女が立ち去った後、溜息をつく横島。
だが、彼の苦難はむしろこれからだった。
「横島さん!!彰子さんにまで弟子に取るなんてどういうことですか!!」
「先生、拙者にも何か教えて欲しいでござる!!」
美人の弟子を二人も取ったことで恋人候補の方々と一番弟子のシロに嫉妬され・・・・・・・
「まったく、弟子を3人だなんて、あんたも偉くなったものだね。」
師匠には嫌味を言われ・・・・・・
「先生!!私も弟子にしてください!!」
弟子入り候補の女学生が次々と現れ・・・・・・・・
「横島先生、あまり一部の生徒にだけ肩入れをしてもらっては困るのですが。」
狭霧と彰子を弟子にした事がばれて、理事長にこってりとしぼられた。
・・・・・・・・・・・・横島の教師生活をこれからも苦労の連続のようである。
霊光波動拳継承者・横島・教師編・2部 完
(後書き)
これで横島教師編は終了です。続きを書くとしたら次はGS試験かクラス対抗戦について書こうかなと思っています。更新に間が空いてしまってすいませんでした。
(追記)
“正義の味方”某国とナデシコと赤い英霊の所為ですっかりイメージが悪くなってしまった言葉ですが、私は必ずしも悪いとは思っていません。正義を完全に失うというのは信念も良心も失うって事だと思っていますから。後、薬と同じで使い方一つで善にも悪にもなるものだと思っています。
ある漫画にあった台詞ですが、正義についての考え方として私が特に好きな台詞ですね。
「俺にも本当の正義が何かはわからない。だが、みんな自分の正しいと信じた道を必死になって進んでいるんだ。お前のように他人を悪と見下す事でしか得られぬ正義など本当の正義である筈がない!!」
口にださなかったり、無自覚なだけで、他人を見下す事で正義感にひたる奴って、現実、フィクション問わず山ほどいますしねえ。