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▽レス始

「機械仕掛けの……後日談(GS)」

テイル (2005-01-31 01:35/2005-01-31 09:06)
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 それは遙か昔のこと。しかし今でも鮮明に思い出すことのできる、忘れられない思い出。
 そのベッドには母が横たわっていた。
「おかあさん!」
 わしは涙を流しながら母にすがりついていた。母のやせ細った身体から容赦なく体温が失われていく。その過程が母にすがりついたわしには、全身で感じ取れたものだ。どんなに思い、どんなに願っても、もはや母が再び目を開けることはない。二度と笑いかけてもくれないのだと、嫌というほど理解した。
「おかあさん!!」
 母がいったい何をしたというのか? 母がした事といえば、わしを愛し慈しみ、早くに無くした夫のかわりに必死で働き、わしを守り育ててくれた事くらいだ。辛くても苦しくても、人の道に背くことは何一つしなかった。そんな母が、なぜこんな死を迎えなければならない? 何なのだこの運命は!? 
 わしは恨んだ。呪った。世界の理不尽に、大好きな母を奪った運命に。そして誓ったのだ。わしは運命を、世界を許さない。理不尽な運命から大切な者を護る方法を見つけ出してみせる。その探求に、わしの一生を使うと。
 それからというもの、わしは学んだ。あらゆる事を、あらゆる技術を学んだ。それこそがむしゃらにやった。才能もあったのだろう。わしは十代半ばほどで、一流の錬金術師となっていた。
 そんなある日のこと。あれは二十代の頃だっただろうか。わしは錬金術の至宝と言われた、あのエリクサーの作成方法が記された書物を得た。エリクサーとは死者ですら蘇らすと言われている霊薬。それはわしが求めていた、理不尽な死を退ける事が可能な答えの一つだった。しかし……その作成方法を知り、わしは即座にその書物を破棄した。確かにエリクサーの効力は求めていたものだ。しかしその原料が気に入らなかった。
 エリクサーの原料……。それは人の魂である。悪魔との契約のように、なにがしかの方法で対象者の魂に己の力を注ぎ加工を可能とする。その魂を原料として作れば、なるほど、死者ですら蘇らすことができるわけだ。しかしそれは断じて求めていたものではない。わしが求めていた物は……無から有を生み出すこと。何かの犠牲なくして、理不尽な世界から運命をもぎ取ることだったのだから。
 わしは再び探した。満足のいく答えを。幼い頃の誓いを果たす為に、一心に学んだ。しかし……時間はなかった。限りある人の命では、我が探求は成されない。そう悟るのに時間はかからなかった。ならば、どうするか。人の持ちうる時間ではわしの目標は達成できない。ではどうすればいい? ……答は簡単だ。人でなくなればいい。幸いその当時のわしは、すでに邪法と呼ばれる魔人化の法を知っていた。そしてその邪法を己に施す事を躊躇する理由は、一つとしてなかったのだ。
 そうしてわしは魔人になった。不死ではない。不老でもない。限りなく近づいただけだ。だがそれでよかった。それがよかった。
 魔人となったわしは、さらに精力的に学んだ。探した。やがてわしが蓄えた知識や技術は、わしに一つの答えを与えるに至った。わしは知識の総て、そして技術の総てをもってその答えに向かって邁進した。そう、わしはある人造人間の作成に取りかかったのだ。その目的は命の創造。もし人工的な魂の作成に成功すれば、それはエリクサーと同じく死者すら蘇らす魂のスペアとなるはずだった。
 マリア姫と出会ったのは、ちょうどその頃だった。年甲斐も無くどんどんと惹かれていく自分に、戸惑ったものだった。マリア姫に求愛すらしたのだから。
 結局わしとマリア姫が結ばれることはなかった。しかしそれでいいと思っている。たとえわしとマリア姫が恋仲になっても、わしがマリア姫を幸福にできたか甚だ疑問だからだ。
 わしがマリア姫を幸せにできない……そう思える理由は二つほどあった。まず歩む時間、寿命の違いだ。魔人と化したこの身は、人間が共に歩むにはいささか寿命が長すぎる。
 そしてもう一つ。それはわしが魔人化したことにより失われた機能の事だ。……わしには、生殖能力がない。魔人と化した事により、失われてしまった。人には長すぎる寿命を得た事に対する、それは代償だ。わしはマリア姫に母となる喜びを与える事はできなかったのだ。
 マリア姫の死後、わしは人造人間を完成させた。その人造人間はわしの夢。望み求めたものの結晶。その人造人間に、わしはマリアという名を付けた。それはわしのマリア姫への慕情であったかもしれないし、決して望む事はできなかったわしとマリア姫との子供への、想いであったのかもしれない。だから……マリアを起動させるとき、わしの手はおかしいほどに震えた。今でも鮮明に覚えている。
 マリアはわしの最高傑作。それは間違いない。しかしその命はあくまで人工。あくまで擬似的な物でしかなかった。……起動したマリアは、真の魂を持つには至っていなかったのだ。これでは機械のボディならまだしも、生身の生きた肉体には定着しない……。
 わしは落胆した。マリアはわしの総てといってよかったのだから。だがそんなことで諦めたりはしない。どんなに失敗しようと、最後に成功すればいいのだ。幾たびの失敗を重ねることができるように、自分の時間を延ばしたのだから。
 その後わしは再び知識や技術を求めた。マリアと共に数百年の長きに渡って、世界中を旅したものだ。その数百年という時の中でマリアに感情が芽生えたのは、わしにとって嬉しい誤算だった。もしかしたらこのまま進化するかもしれない。そう希望を持ったこともある。しかしそこまでだった。そこでマリアは停滞した。
 やはり駄目なのか。そんなことを思っていた時、ある島国である小僧に出会った。その小僧はスケベでバカで、底抜けに優しい極めて変なやつだった。人間も妖怪も神も悪魔も、あげくには人造人間ですら同列に扱うようなバカだ。長年生きてきたが、わしですらこんなバカを見るのは初めてだった。そしてその小僧に出会ってから、マリアには再び変化が訪れた。脳味噌がとろけて、物忘れの激しいボケ老人と化しつつあるわしは……しばらく気づかなかったが。
 マリアはその人間の小僧に恋をしたのだ。その恋が作られた命に、作られた魂に……最後の一押しを加えたらしい。
 マリアの魂は、この世界の根幹に食い込んでみせた。それはマリアが真の命を得た証拠。マリアが輪廻転生の輪の中に入ったことを意味している。それをもって、わしの長年の目的は成されたといっていい。
 惜しむらくは、当初考えていた使い方ができないことか。マリアが真の命を得たのは奇跡でしかないし、その奇跡を呼び込んだのはマリア自身の想いだ。たとえ今現在のマリアの魂を複製できたとしても、そんな魂を使い捨てにするなどという罰当たりなまねはできない。純粋な無から作った魂という名のエネルギーではなく、心を持ち人格を有した命なのだから。
 ここまでか、とそうわしは思った。これがわしにとっての極めだと。ならば後は、真の命を得たマリアを幸せにすることくらいしか、やることはない。だからわしはマリアにプレゼントをすることにした。誕生日プレゼント……のような物なのかもしれない。
 マリアへのプレゼント。それは生身の身体だ。
 愛しい者の子供を産むことのできる、母となることのできる身体だ。


 わしの前を一人の男が行ったり来たりを繰り返している。鬱陶しいといえなくもないが、気持ちは分かるのであえて止めない。わしですら平静を装っているのだから。ベンチに腰掛け腕を組み、泰然としているように見えて、しかし実はわしの膝はさっきから貧乏揺すりをしっぱなしだ。
 廊下をうろうろしている男は、小僧……横島忠夫という。マリアの心を射止め、マリアをいろんな意味で女にしたやつだ。娘をとられた父親とはこんな心境なのか、と幾日か落ち込んだのは……酒が入ると本人に愚痴ってる気がする。
 わしは視線を小僧から外すと、目の前の部屋のプレートに向けた。そのプレートにはこう書かれている。分娩室、と。
「カオス!」
 わしが感慨深くそのプレートを見ていると、小僧がどっかりとわしの隣に腰を下ろした。そして血走った目でわしを見る。
「いくら何でも長すぎゃしねーか? 何かあったんじゃねーだろうな!?」
 我が娘が、マリアがこの分娩室に入って既に八時間が経過している。だから小僧の心配もわかるが……。
「そんなことわしに聞かれてもわからんわい。だがの、初産はこんなもののはずじゃぞ?」
「そ、そうなのか?」
「まあ心配せんでどっしり構えておけ。父親になるんじゃろ?」
「あ、ああ」
 わしの言葉に小僧はこくこくと軽く頷くと、分娩室にじっと視線を注いだ。その表情から何を考えているのかはっきりとわかる。

『マリア、頑張れ』

 そう心の中で繰り返し言っているのだろう。
 なるほど、とわしは思った。この小僧が意外にもてるのは、こういう一面をもっているからか、と。あの美神令子ですら、この小僧に惹かれていたようだから。もっとも結局一番素直に、そして一番直球で気持ちをぶつけたマリアが、小僧の心を射止めたわけだが。式場で横島を潤んだ目で見る者たちの多さに、わしは驚いたものだ。その数はもちろん、その種類の多さに。神族魔族はたまた妖怪……小僧が分け隔てなく扱った相手は、やはり分け隔てなく小僧への思いを募らせたらしい。人外に好かれやすいとよく言われていたが、それにつけても規格外の不思議小僧だ。
 もし……この小僧がいなかったら、とわしは思うことがある。もちろん運命は読み切ることなどできるわけがない。未来を断定することなぞ滑稽の極みだ。……しかしどうやらこれだけはいえるらしい。もし小僧がいなかったら、わしにもマリアにも今この瞬間の幸せは絶対になかった、と。

 おぎゃぁ、おぎゃぁ。

 不意に分娩室から産声が漏れた。か弱く、しかし力強い小さな命の叫び。その泣き声を聞いたとき、わしの身体の奥底から、震えるほどの熱い思いがこみ上げた。それは決して味わうことはないと思っていた感動だ。おそらく分娩室でマリアもわし以上の感動を噛みしめているだろう。それは間違いなく、隣で放心している小僧がわしとマリアにくれたもの。
 小僧がくれた、奇跡だった。


 世界は理不尽だ。世界は残酷だ。辛く苦しい。それが人生だ。そう思っていたわしに小僧は教えた。知識として知ってはいたが、実際に経験したことはなかったあの涙を。
 悲しみからでも苦痛からでもない涙が、わしの頬を一筋流れた。
 それはわしが世界を祝福した瞬間。そしてわしが世界に祝福された瞬間……。そういって、いいのかもしれない。


 あとがき

 こんにちは。テイルです。どうやら好評だったようなので調子に乗って後日談を書いたはいいですが……どうなのでしょう、これ。

 とりあえず書き終わって思ったこと。カオスの設定が、「風○い」の某魔人とくりそつ。別にねらった訳じゃないんだけどな……。


 前回の感想へのお返事 多謝

>義王様
 今回立派な母親になって貰いました。
 可愛いではなく、今度は奇麗……かなぁw

>矢沢様
 腐ってもカオス。しかして格好つけても所詮はカオス。
 ぼけぼけです。

>sirius様
 うーん、今回美神さんには泣いて貰いました。
 原作から見れば、おそらく依頼があろうと無かろうとマリアを助けていたんではないかなーと、私的には思っていたりしますw

>斧様
 燃え。それは魂の燃焼。
 つまりそれが萌え。(何を言いたかったんだろう)

>Dan様
 実は精霊石を加工する際に出る精霊石の粉を利用して……などと勝手に妄想していたりします。……原作でどういう扱いになっていたか、実はしらんのですが……w

>不動様
 あはは。シリーズ化ではありませんが、これでご勘弁をw

>キリュウ様
 読者のつぼにはまる文。それを書くことが物書きの一つの目標ですな。
 感謝。

>LINUS様
 ご期待に応え、こんなんができました。

>偽バルタン様
 カオス、がんばりました。過程はすっ飛ばして結果だけですがw

>柳野雫様
 色々考えましたが、マリアが人間になったら他のライバルなんて目じゃないです。
 だって直球でぶつかっていくもん、きっと。
 というわけで、横島の心ゲットだぜ!

>通りすわり様
 なははははは、全く気づいてなかったですわい。
 投稿したものはあのままですが、パソコンの方は修正させていただきました。
 ありがとうございます。

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