チュン チュン チュン
「ん、く、ふぁあああああああ。」
外から聞こえてくる鳥の鳴き声で、私は眠りから目を覚ました。
私の名前はタマモ、金毛白面九尾の妖狐である(ほとんどの記憶と力を失ってるけど)
好きな物は油揚げで、キツネうどんのお揚げが特に好き。
嫌いな物はバカな犬。
現在、ある男と同居中である(同棲と言いたいけど、何故か全力で止められた)
「あ、タマモちゃん。 おはよう。」
顔を洗おうと洗面所に行く途中で会ったこの娘はおキヌちゃん、今働いている事務所での除霊の仕事で出会い、なんだかんだで一緒に働くようになった浮遊霊である。
最初は日給30円で雇われかけたけど、そりゃあんまりでしょと言う忠夫の介入から起こった‘第2次交渉合戦 湯煙温泉阿鼻叫喚地獄絵図’により、日給200円で雇われる事になった。
なぜここに居るかと言うと、この前うちの食生活(ほとんど毎日三食全部カップ麺か、コンビニ弁当)について話した所、朝食と夕飯をちょくちょく作りに来てくれるようになった。
本人気が付いていないようだが、あいつに少し気が有るようだ。
おキヌちゃんの作るご飯は美味しいので、私的には第二婦人で来てくれてOKである、と言うかむしろ来て。
「おはよう、おキヌちゃん。」
「もうすぐ朝ご飯出来るから、顔洗ったら、横島さんを起こしてきてね。」
「ん、了解。」
そう言っておキヌちゃんと別れた私は、顔を洗った後に、あいつの部屋に行った。
「忠夫、忠夫。 朝ご飯出来たって。」
耳元でそう言いつつ体を揺さぶっても、このバカは起きそうに無い。
ちなみに、こいつの名前は横島忠夫。
私の保護者、兼同居人である。
今はこうやって馬鹿面下げて寝ているが、こう見えてもスプリガンと呼ばれる特殊工作員の一人で、世界中の組織に恐れられている・・・・・・中身は実際に馬鹿だけど。
まあ、実力の方は確かに一級品である。
「よいしょっと。」
私は、一度狐の姿に戻ってタンスの上に上った。
そして、忠夫の方に向かってジャンプ! と同時に人の姿に変化!
ドゴス! 「ぎょぇええええええええええええ!!」
良い感じに決まってくれたわね、良い仕事したわ。
* * * * * *
「うう、痛い。」
さっき忠夫に殴られた頭をさすりながら、私はうめいていた。
全然起きなかった忠夫が悪いのに、理不尽だ。
「やかましい! こっちもまだ腹が痛いわ! ったく、もう少し打点がずれてたら、男として再起不能になっとったかもしれんっつーの。」
ぶつぶつ言う忠夫に連れられて向かって行くのは、忠夫が通っている高校である。
事務所の仕事もアーカムの仕事も無いので、今日は普通に登校しているのだ。
「おおっす、忠夫。 それに、タマモ。」
横から現れて、いきなり挨拶してきたこいつは御神苗優。
実は忠夫と同じスプリガンの一人で、忠夫とは子供の頃からの付き合いならしい。
二人とも昔のことを必要以上に語ろうとしないので、どういう経緯で知り合ったとかは聞いていない。
「おー、優。 今日はお前も朝から出れるのか。」
「ああ。 だけど今日の夕方から、ちょっとジャングルでサバイバル生活する事になっかもしれねえよ。」
「大変だなー。 まあ、留年しない程度に頑張りたまへ。」
うわ、すっごい見下ろす笑顔で優の事を見てるわ。
自分の方はGSの仕事の時はあとで少しの補習を受ければ欠席を見逃してくれる事になってるから、かなり余裕があるからね、これは。
優の方は優の方で、殺す笑顔を浮かべてるし。
巻き込まれる前に避難避難っと。
「万年欠席コンビが珍しく揃って登校してきたと思ったら、な〜〜に馬鹿みたいな顔して睨みあってんのよ。 あっ、タマモちゃん、おはよー。」
「おお、初穂に香穂じゃねーか。 おーっす。」
「おはよう、御神苗君、横島君、タマモちゃん。」
「うんうん、おはよう、香穂ちゃん。 今日も可愛いねー。」
「やめなさいっての! ゴス おはよう、香穂。 それに初穂。」
いきなり乱入してきたこの二人は、笹原初穂・香穂姉妹。
高校の中で唯一、忠夫達の裏の顔の事を知っている人間である。
数ヶ月前、香穂がある遺跡に取り付かれ、その為に起こったゴタゴタでバレたのだ。
ちなみに、二人とも優に惚れてたりするらしい。
「とりあえず、こんな所で立ち止まってたら遅刻するから、とっとと行くわよ。」
そのまま少しその場で話していたら、初穂がそう言ってきた。
時計を見ると、急がなくても良いけどのんびりお喋りは出来ない時間になっていたので、私達はそのまま学校に向かって歩き出した。
まあ、私は生徒じゃなくて、忠夫に着いて来てるだけだから遅刻でも良いんだけどね。
* * * * * *
「おはようございます、皆さん。」
「おはよう、5人とも。 仲良し5人組での集団登校なんて、青春で良いわねー。」
教室の中に入ると、二人の男女がおはようと言いながら寄って来た。
男の方はピート、バンパイア・ハーフであり、この男のボケた親父を何とかする為にうちに依頼に来て知り合った。
後で知った事だが、実は師匠である唐巣神父がアーカムの協力者なので忠夫の正体も知っているらしい。
まあ良い奴なんだろうけど、師匠共々付き合う(弄くる)奴によってはとんでもなく壊れた奴になりそうなんで、私の中では要注意人物の筆頭の一人である。
女の方は机妖怪の愛子で、この前忠夫と私が巻き込まれた事件の犯人で現在はこの学校の備品、兼生徒。
口癖は青春、趣味はプリクラとかの女子高生っぽい事をする事。
私的に言わせてもらうと、この女は絶対に青春とかいうものを勘違いしてると思う。
「おーーっす、ピート、愛子。」
忠夫が挨拶するのに続いて全員が挨拶をした後、チャイムが鳴り先生が入ってので私達は自分たちの席に向かった。
まあ、私は狐の姿に戻って忠夫の頭か背中か肩にへばり付いてるだけだけど。
時折忠夫の顔を覆うようにへばりつきながら、今日も平和に学校での時間は過ぎて行った。
* * * * * *
「うぃーー。 横島忠夫、只今到着しましたーーー!」
「ん、やっと来たわね、二人とも。」
「あ、横島さん、タマモちゃん。 二人とも、おかえりなさーい。」
学校が終わって事務所に出勤してきた私達をおキヌちゃんと一緒に迎えてくれたこの女は、美神令子。
この美神除霊事務所の所長で、一流のGS。
確かに一流と言われるだけ有って腕は立つけど、スプリガンと言う常識外れな奴等と比べると、やはり見劣りする。
実際、本気の忠夫と美神が戦ったら、忠夫が簡単に勝つだろうし。
でもまあ、よっぽどのことが無い限り忠夫が女を相手に本気で戦うなんて事は無いんだけどね。
「さて、それじゃあ早速だけど、今入ってる依頼について説明するわね。」
そう言って何かの書類を手に取った美神は、こちらの方にその書類を投げてくる。
そして忠夫が何とかそれをキャッチするのを見届けた後、その書類にかかれている事の概要を話し始めた。
「今回の依頼は、ある生物学者からなんだけど。 ある霊的に特殊な環境において育った植物や動物のサンプルを捕獲したいので、護衛を頼みたいって事らしいわ。」
美神のその説明を聞きながら書類を見ると、どうやらそのサンプルの体組織等を調べる事により、霊的な疾患に苦しむ人間への特効薬が見つからないかと期待しての事らしい。
体内を流れる気脈等に幼い頃から異常があったり、悪霊に襲われ致命傷とは言えなくとも霊体に多少の傷を負わされその後遺症に苦しんだりする人間等がいても治療できる人間など殆ど居ないので、そういう薬が見つけられる可能性がある所に是非とも行きたいとある。
「依頼についてはわかったけど、資料を見る限りかなり危険な場所みたいよ。 大丈夫なの?」
「大丈夫よ、厄珍に頼んで最高の道具を目一杯用意したから。 それに、・・・」
「それに?」
「今回はあっちの学者のスポンサーである、大企業のアーカム財団が全部の費用を出してくれるのよ! 成功すれば報酬に加えて、アーカムへの宣伝にもなるのよ!! 絶対に止められないわ!!」
「はあ!? アーカムゥ!?」
って、つまり山本さんとかが関わってんの、この依頼。
そんなんだったら素直に忠夫に任務としてやらせりゃ良いのに、何考えてんだろ。
そう思って忠夫の方に顔を向けると、そこには真っ白に固まりながら書類のある一点を見つづける忠夫が居た。
「た、忠夫!! どうしたのよ!?」
「・・・ス・・・ン・・・・・もう・・・・・・んなさ・・・」
小声で何かを言っているようなので、私は口元に耳を寄せてみた。
「すいませんごめんなさいもうせくはらなんてしませんだからゆるしてくださいあまぞねすくぃーんなんてよびかたもしませんからだからだからそれだけはごかんべんを・・・・・」
・・・壊れてるわね、完全に。
「え〜〜〜っと、タマモ。 どうしたの、横島君?」
「何故かはわかんないけど、完全に壊れてるわね。 まあ、そのうち復活するわよ。 それより依頼人に会いに行ったりしなくて良いの?」
「あ、そうね。 それじゃあ、依頼人との待ち合わせ場所に行くけど、横島君はタマモが引っ張ってきてね。」
私は手を振ってその声に了解の意を示して、未だ固まり続ける忠夫の襟首をおキヌちゃんと一緒に掴んで引きりながら美神の後に続いた。
何故忠夫が固まったのか等わからない事も多いけど、とりあえず厄介な事にならないように祈っておきますか。
後書き
ようやく試験やらが終わったんで、執筆再開。
これからは最低でも1週間に一本は出したいっす。
それはさておき・・・・・・・・・・・・・・『守護者』復活ーーーーーーーーー!!
まあ、問題が解決したんで心置きなくこの話の執筆が出来ますわ。
さて、今回の話は短めですが、話の展開を前回から何話分かすっ飛ばしてる事を説明するのと、登場人物の説明を兼ねた幕間みたいなものなんでこんなもんです。
とりあえず次回の話については大多数の人がわかってるでしょうが、あの娘とあの女傑が登場します。
でも、娘の方は出るかは微妙なんですけどね。
では、次回は『素晴らしい日々へ』にてお会いしましょう♪
>NEXT