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▽レス始

「機械仕掛けの……(前編)(GS)」

テイル (2005-01-24 10:15)
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 一人の少年の顔が、自分に近づいてくる。とても澄んだ目をした少年だ。自分をまるで生きた女の子のような目で見て、そして扱ってくれる。額に巻いたバンダナがトレードマークの、GS見習いの少年。
 胸が破裂しそうなほど高鳴り、思考が吹っ飛んでしまう。もはや少年の目しか見えない。世界が閉じる。頭がくらくらして、倒れそう。
 やがて鼻先が触れあうほどに近づき、二人はどちらともなく目を閉じた。唇に柔らかな感触。思わずすがりつくと、それに応えるように優しく抱きしめられた。ああ、おかしくなりそうだ。身体がふわふわとしていて、まるで地から足が離れているみたい。
 彼の腕の中、生まれたばかりの子鹿のように震える身体。そして燃えるように熱い顔。はずかしい。そしてうれしい。望んで燃えられない夢が、ここにある。
唇が、ゆっくりと離れた。至近距離で見詰め合う。
震えそうな唇が、彼の名を紡いだ。そんな私に、彼は優しい光をたたえた目を、眩しそうに細めた……。

 ゆっくりと目を開ける。視線が部屋の中をさまよい、いびきをかく主人や様々な道具をその目にとらえた。まぎれもなく彼女が生活している空間だ。その現実感が今のが夢であったことを告げる。
 彼女は自分をぎゅっと抱きしめた。その身体は夢の中のように熱くなく、震えてもいない。しかしその胸の奥には、確かに身を焦がすほどの炎が燃えさかっていた。たとえ胸にあてた手から高鳴る心臓の鼓動は伝わらなくとも、その張り裂けそうな胸の高鳴りを彼女自身は確かに感じている。
 感覚器官の異常。そう断じてしまうのは容易い。彼女の主人にその旨を伝え要請すれば、すぐにこの“異常”を直してくれるだろう。しかしそれは嫌だった。もしこの“異常”を直せば、今感じている温かな想いも消えてしまうだろうから。だからそれは嫌だった。しかしその思いに引きずられるわけにはいかないし、外に出すわけにもいかない。自分の思いは彼には迷惑だろう。常識的に考えて、彼女はそう判断していたからだ。
 これは今までもあったこと。何度もあったこと。だから彼女はいつものように、すべてを自分の胸の中にしまい込んだ。夜が明ければ日常が始まる。今感じている温かな思い。張り裂けそうな胸の思い。それらはすべて、泡沫の夢に過ぎないのだ。
「………」
 虚空をしばらく見つめていた彼女の目は、ゆっくりと再び閉じられた。
 その胸の内に様々な思いが渦巻いていたが、それは彼女の中、奥深くに追いやられる。
 それはいつものこと。たまに訪れる、彼女にとっては特に代わり映えのない日常の一端……。


 その日は陽気がよかった。気持ちのいい一日。これから日課のバイトだが、充実した一日を過ごせそうだ。
 横島が機嫌良く美神除霊事務所に向かっていると、前方に見慣れた少女を見つけた。その少女は事務所の前で立ちすくんでいるように見える。
 当然少年は声をかけた。
「マリアじゃないか。どうしたんだ、こんなところで」
 横島の声にマリアが振り返った。その目に横島を認めて、表情が軟らかくなる。
「おはよう・ございます。横島・さん」
「お、おう。お、おはよう」
 声がどもる横島。マリアのあまりに柔らかな表情に、ちょっとどぎまぎしてしまった。
(マリアってこんなに可愛かったっけ)
 内心で思ったことは内緒だ。
「で、どうしたんだ? カオスの用事かなんか?」
 気を取り直して聞いた横島に、マリアは首を横に振る。
「ノー。マリア・自分で・来ました。雇って・貰いたくて」
 困ったような顔でそう言ったマリアは、事情を説明し始めた。といっても、事情といってもいつものこと。家賃が払えなくて仕事を探しているらしい。そこで何度か働いたことがある美神の元へお願いしに来た次第だ。
ちなみにドクターカオスは大家にしばかれて部屋で寝てるらしい。しばかれたのはマリアも同じだが、そこはそれ、超合金のボディである。
 とはいえ。
「長刀は・痛い・です」
 目を伏せるマリア。今日中に家賃を入れなければ、大家のばあさんにカオスともども再びしばかれる。涙をだくだく流しながら横島はその肩にぽんっと手を乗せた。
「了解だ、マリア。俺からも美神さんに頼んでやる」
「ありがとう・ございます」
 マリアが肩に置かれた横島の手にそっと手を重ねた。
 横島が慌てたのは、いうまでもない。
 ――でだ。
「駄目よ」
 事務所にマリアと連れだって入ってきた横島に、怪訝な表情を浮かべていた美神は、話を聞いて開口一番こういった。
「な、なんでやー!! けちーー!」
「あのね。人手は十分間に合ってるの」
 喚く横島に美神はそう言った。
 美神除霊事務所の所員は、一流ばかりだ。知識経験戦闘力と、三拍子そろった所長である美神を筆頭に、知識は劣るが戦闘力は一級の横島にシロ。攻撃能力は低いがサポート能力に長けたおキヌにタマモ。このメンツならたとえどんな悪霊を相手にして、普通に対処できるだろう。マリアの力は特に必要ではない。
「一応経営者だからね。無駄な出費をするつもりはないわ」
 別にけちだからじゃないわよ、と横島をにらむ。
「で、でも、なんかかわいそうでござる」
 シロが口を開くが――
「あんたが一ヶ月肉を絶つって言うなら、それなりの額をマリアに寄付できるけど?」
「うう、マリア殿、すまんでござる」
 あえなく撃沈。
「で、でも。少しくらい何とか」
 横島がなおも食い下がるが、美神はやはり首を縦には振らない。
「駄目な物は駄目。今日入っている仕事は一件だけなの。しかも事務所のメンバーですら全員必要じゃないような仕事なのよ。そりゃ今度機会があったら声をかけてあげてもいいけど……」
 少なくとも今日マリアを雇う必要は、髪の毛の先ほどもない。
 マリアはそれを聞いて、端から見てわかるほどに消沈して見せた。
「そう・ですか。了承。仕方・ありま・せん」
 口から漏れる言葉も、心なしか暗い。
 そんなマリアを見て、横島は無論美神ですらうめいた。
(ぬおお。憂いに目を伏せる美少女!! 可愛い! 絵になる! 機械とか何とかどうでもいいぞっ)
(な、なんか、初めてあったときよりもずっと感情が豊かになっているような……)
「ありがとう・ござい・ました。他を・あたります」
 マリアがそう言って頭を下げた。
 その横で横島と美神がアイコンタクトを交わしている。
(美神さん!)
(だってしょうがないじゃない!)
(友達でしょうが!)
(慈善事業やってるわけじゃないのよっ)
 つきあいの長いおキヌがそのやりとりにおろおろするが、さすがにマリアは気づかずに踵を返した。
 その時だった。事務所の電話が鳴った。反射的に受話器を取るおキヌ。
「は、はい。こちら美神除霊事務所……え?」
 電話をとったおキヌの顔がぱっと綻んだ。
「はい、はい。ちょっとお待ち下さい」
 おキヌは電話を保留にすると、美神に弾んだ声で言った。
「美神さん、悪霊の除霊依頼です! 報酬は二百万円。すぐ来て欲しいそうですけど……」
 マリアが、振り返った。


 あとがき
 皆様ごきげんよう。テイルです。
 ちなみにヒロインはマリアです。でもそのヒロインの口調がうまくいかなかったり……。単行本が手元にないのは痛いです。

 「恋する女の子」の感想へのお返事です。感謝。


>与一様
 爆笑感謝です。
 どうにも笑いの取れるものを書けない自分としては、とても嬉しい。

>柿の種様
 雰囲気に苦労しました。どうやら成功しているようですね。元の話があるから、それを壊さないよう頑張ってみました。

>米田鷹雄様
 実はシロタマも候補に挙がっていました。でもシロタマにすると、「鶴の恩返し」じゃなくなるような気がしたので却下……。
 ちなみにひのめを使ったのは、偶然ですたいw

>nacky様
 ふふふ。ハッピーエンド万歳! くたばれ不幸エンド!!

 失礼しました。

>天皿様
 はじめまして、テイルです。
 偏見と言う言葉が、横島にはありませんからね。凄いことに。
 本質を見抜く目を持っていると言うのでしょうかねぇ。

>偽バルタン様
 ふっふっふ。妄想癖のある小学生とご理解ください。

 ……余計な一文だったかな。つい入れてしまったのは、そのほうが萌……ゲフンゲフン。

>柳野雫様
 二人の行く末は、いつまでも仲良くハッピーエンド。
 書いた本人が言うのだから間違いありません。ふふふ

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