~一応GS的昔話~雪女~の続きです~
――じりり、と足の裏で砂が滑る音。
全身には魔装術が展開されている。その中で、冷や汗が垂れた。
眼前の敵との戦闘経験は、量の差はあるが質では劣っていないと確信し、自らの攻撃力は親友、そして世界最高と称されるGS、最近結婚した竜神にまで認められている。
しかし、自分が勝つと言う予想が出来ない。もう50も過ぎ、怪我までしている男に対して。
当然だよな、と思い、構えを引き締める。
――その男の名は、弓醍醐<だいご>と言った。
横島家。山奥にある、屋敷といえる大きさを持つ日本家屋だ。
その門戸を叩く男が居る。
彼は伊達雪之丞。霊的格闘なら世界有数と言われるGSだ。仲間内ではもうすぐ弓雪之丞になるとも言われているが。
さて、邸宅内。
横島は、また来やがったかあのボケは、と言いつつ戸を開けに行く。
長い廊下を歩き、門を飛び越えて入ってきた不法侵入万歳野郎を表面上は渋々と招き入れる。
「やっぱりてめえかこの野郎。小竜とのラブラブ時間を返せ」
「嘘吐けてめえ。この前何人かに…ま、誤解を恐れず言えば逆(一応伏字)プか?そのせいで喧嘩して今は天界に帰ってるって事は調べがついてる」
「…人の古傷は抉るな…」
ゴゴゴゴゴ、と横島は、ストックの文珠を取り出し、霊波を操って浮かべた。
「[滅/殺]してやろうか、[虚][無]で消してやろうか、[死]・[夷]でこの辺ごと殺してやろうか、[崩/壊]で霊基を崩してやろうか、[止]で存在を止めてやろうか?」
笑って言う横島――その目は美神が哂った時よりも恐ろしく、その顔は天使の皮を被った悪魔の様。
雪之丞は、即座に後ろに跳んだ。しかし、横島との距離は離れない。
全く同じ速度で間を保ったのだ。雪之丞が魔装術を展開していないとはいえ、恐ろしい速度。
「わ、悪かったーッ!!俺が悪かったから[激/痛]なんか押し付けるは…!!!」
即座に両手を上げて叫んだが――後に聞こえるは、悲鳴ばかり。
10分後。
「…」
雪之丞はこの世のものとは思えない痛みを受けたものの、何とか失神から復活した。
横島は少しはストレス解消が出来たのか、お湯を沸かしている。
「おい雪之丞。いつまで寝てるんだ、湯が沸いたぞ」
「そうか」
…横島の友人だけあって、やはり普通の人間ではない雪之丞。
あっさりと起き上がって、カップ麺(銘柄・CAPメン…キャンペーンでCAPメンキャップがもらえる)の場所へと何の迷いもなく歩き、4つ取り出した。
「ほれ、横島」
「お…うぉい」
横島が、栄光の手で遠隔突込みを入れた。
雪之丞が投げたのは1つ。後の3つは当然雪之丞の腕の中だ。
栄光の手を戻し、フ、とため息をついて。
「ずっと昔から思ってたんだが――」
横島は、少しだけ遠い目をした。
17歳の春。思えばあの時が人生の転機だった。
その間に色々あって。
22歳の今、大学も卒業して美人の嫁さんも貰って――とぽとぽ、とカップ麺にお湯を入れながら、言葉を続けた。
「――お前ってほんっとに――」
ここで少しの間。横島は深呼吸、雪之丞は何だ、とばかりに彼を見ている。
穏やかな顔で、雪之丞を見つめていた横島は――
――叫んだ。
「色々とやってくれてるよなぁあっ!!!」
雪之丞も初めて見る霊波刀。それが横島の右手に形成される。
「おらっ!!」
ギュウン、とそれが伸びた。
「うぉっ!?」
横に跳ばなければ喉を突かれて死亡、と言う結末が見えた。
中世騎士の騎兵槍の様な形状の霊波槍だ。その柄が伸びて、
「名づけて、サイキック・ナイトランスって所だなぁ!!」
鞭のようにしなる。
雪之丞は、カップ麺を抱えたまま飛び、しゃがみ、避け、箸をとって逃げる。
そして、足にだけ魔装術を展開。全速力で逃げる。
「逃すかっ!!」
横島は、赤い文珠――竜文珠を取り出した。
それと自らの目、雪之丞を一直線に結ぶように置く。
「ゲッ○ービームッ!!」
紅の光条が無地の竜文珠から放たれる。
雪之丞は危うくしゃがんで避けるも、その髪がいくらか蒸発した。
「こ、殺す気かっ!?」
「お前の親父から実は依頼を受けててなぁっ!娘はやらんってな!」
パターン読まれてるのか俺は、と思いつつ、雪之丞は言った。
「頂きます」
ずるずる、とカップ麺を啜りながらも、雪之丞は横島の攻撃を避ける。
壊さぬように、追い込むように加えられる攻撃なら避けるのは難しくない。
幾分の余裕を持って、半日前の出来事を思い出す。
「ここがお前の実家か」
見上げる雪之丞。その先には5m超の高さを持つ門。その門の両隣には仁王像、どちらも非常に古いことが見て取れる。
「そうですわ、雪之丞。――解っているでしょうけど、ここから先は私に敬語を。お父様に殺されますわよ」
「…解りました弓さん――こんな感じか?」
弓は頷く事で同意を示す。
二人は、門の隣、人の背丈より少し小さい扉をくぐる。
「いつも思うんだが…こういう扉くぐる時ってなんとなく情けないんだよな…」
あまり腰が曲がらない雪之丞の悲しき独り言を弓は無視。
右に見えるは道場、正面には本堂、左には蔵。本堂の奥に住居があるのだが、最初の目的地はそこではない。
「さぁ、雪之丞。行きますわよ」
「おぅ…分かり、ました…ぐぅっ、背筋に悪寒がッ!」
すっぱーん、と快音。一瞬の後、何かが石畳にめり込む鈍い音。
――さて、道場内。
ぶわっ、と190cmほどの大男が背中から畳に叩きつけられる。
「次ッ!」
投げたのは更なる巨漢。2mを超えるその体には筋肉が十二分以上に付き、しかしその身動きに鈍重さは全く無い。その顔はまさに親父。Mr.ジパングの斉藤道三とか言っても通用しそうだが。彼こそが闘竜寺弓式除霊術当代・弓醍醐…簡単に言えば弓パパである。既に50を超え、数珠こそ娘に譲ったものの、その身体能力は日本の人間GSの中では10指に入る豪傑だ。
「――」
次、と言おうとしたところで、背後の扉が開いたのを感じる。
「お父様」
東京にいる筈の愛娘の声――それを聞いて、親父師範は振り返った。
その右後ろ、小柄な男が居るのが見えた。
ぴくり、と禿頭の下、(ぶっとい)右眉が動いたが、その顔は平静のままだ。10秒ほどの間。
「…よし、今日は終わりだ」
親父師範は、弟子たちにそう言った。
かこーん、と猪脅しの音。
横島の家より大きいか、と雪之丞は思う。
「アイツはしばらく落ち着かなかったって言ってたっけな…」
座布団の前、木製の古めかしい机の上には茶。親父師範は着替えてくる、と言ってしばらく戻って来ていない。
「なぁ、ゆ…み、さん。師範はまだか?」
「まだのようですわね、伊達さん」
二人の背筋を悪寒が駆け巡った上で渦を巻く。
ひきつった笑いを上げていれば、
「かおり」
――親父師範が入ってきた。僧衣を着ているが、それが全く似合わない僧と言うのもなかなかに考えものだ。
雪之丞が頭を下げる。
「伊達雪之丞――彼が弟子入りしたいそうですわ」
親父師範は、ふむ、と唸り、
「確か、数年前のGS試験の――「彼はもうブラックリストからは外されていますわ、お父様」
弓は親父師範の言葉を遮った。
「彼はおね…美神女史の下にいた横島氏と互角に渡り合う実力の持ち主ですが、正道で実力を付けたい、と。」
「そうか…」
親父師範はそう言って少し考えたものの、頷いた。
「よし、試験をし、それで結果を見ることにする」
――実は親父師範、雪之丞の事を、深く、詳しく知っていたのである。
愛娘の近辺はいつも調べさせている。そして当然、雪之丞のことも浮かび上がってくる。
ブラドー氏曰く、身体能力最強。
横島氏曰く、バトルジャンキー、マニア、フリーク。
鬼道氏曰く、熱血。
美神女史曰く、修行馬鹿、万年金欠。
タイガー氏曰く、羨ましいですケンノー。…でば(強制終了
彼は事殲滅に限っては誰よりも高い除霊能力を持つだろう。
放出や凝縮にも才を示す、中々に多芸な人物でもある。
しかし、戦闘狂・万年金欠あたりは、親としては納得できない。
…そんな奴に娘はやれんっ!!
ソレが本音の、親父師範であった。
道場。雪之丞の目の前には、微妙に人が良さそうな男がいた。
その背、157cm。とりあえず握手で友情を結ぶ。
その間にあるのは無言。しかし、霊波により心がガンガン伝わってくる。
…あっし達は仲間でやんす~!!!
妙な口調で。
男が口を開く。
「私、卯月・紫遠<うづき・しえん>と申します…!」
「俺は伊達雪之丞だ…!」
…突然の友情に驚き慄く周囲をよそに。
二人は、熱き、万感の思いを込めた言葉を交わした。
…さて。運命とは皮肉な物である。
卯月と雪之丞は、結界(GS試験等で使用される物)の中で構え合っていた。
「ククク…娘に近づく悪しき虫よ、叩き潰されて散るが良い…!」
親父師範は、先ほどこんな事を言ったのだ。
曰く。
「正道で力を付けたいのなら、魔装術の使用を禁ずる。その状態で卯月に勝てば、入門を認めよう」
卯月紫遠は、5つの時から25年間弓式除霊術を学んできた、“努力の天才”だ。それに主戦力と言える魔装術を封じた状態で勝つのは、いくら人外の範疇(中級魔族程度)にまで力を押し上げているとは言え勝てはしないだろう。彼の通常時のマイト数は120マイト前後。対して、卯月は1000マイト程度の出力を出すことが出来る。
…と、そこまで思った時。
「始めッ!」
弓の掛け声。それと同時、二人が走り出す。
「明王観音よッ!!」
卯月が右手の百の玉の付いた数珠を突き出して叫ぶ。
緑色の光、それが纏わり付く様に鎧となる。
背には同じく緑の髪が流れた。
「いいぜ、来いよッ!!」
雪之丞は、だん、と左足で走りを止めた。
両手には光り輝く盾がある。
【サイキックソーサー】。最近オカGでも使う者が多い、意外と秀逸な技である。
「はっ!」
体重の乗った右の正拳。
雪之丞は最小限の体捌きでこれを避け、
「おらぁっ!」
サイキックソーサーを腹にぶち込んだ。
「オラオラオラオラオラオラァッ!!――ッ無駄ァッ!!」
連続してぶち込む中、僅かな右腕の動き。これを、雪之丞は拳で破砕した。
「孝、天犬…!」
砕けた鎧の先。指が、何かの印を作った。
背に流れた髪が、ザワ、と蠢いた。
「おりゃ」
全てを思い出す前に、着いてしまった。廊下をどたどたと走り、左足で踏み切り、右足を前に突き出す。
がしゃん、と扉――道場の木戸が内に吹っ飛ぶ。
右足による飛び蹴りの姿勢、そのままに右足から柔らかく着地、転がる途中でスープを飲みきり起き上がると同時に捨てる。
「こらー!修理費いくらかかると思ってんだこのーっ!」
振り返った目線の先、横島が叫んだ。その手には怒りでか一回り大きくなった霊波槍。
「文珠で直せばいいじゃねぇか」
ああ、と横島は同意の声を上げた。
全くこいつは、と雪之丞は思う。変な所で頭はいいくせに、普通の所では途端に馬鹿になる。
だからこそ。霊波槍の特性が只伸びるだけとは思えない。だって横島だし。
「…本気か、横島」
「ああ。本当は止めようかと思っていたが、気が変わった…俺がこんな状況でお前が幸せになるのは――」
左手に栄光の手が宿る。
「――許、さんっ!!」
横島の足の裏、霊力の小爆発が起こる。
雪之丞も魔装術を展開。一歩を踏み出す。
二歩目に入るまでに、左腕に盾を形成する。
三歩目で体をトップギアにまで持っていく。
サイキックランスとやらを左手の盾で防ぐ。
栄光の手を右手で掴み、
「っ!」
無言の叫びと同時に握り潰した。
さらに、頭に角をイメージ、そこに霊力を流し込むように実体化させる。
びゅ、と横島の眉間目掛けてソレが伸びる。
「のわっ!」
一見無駄だらけ、しかしその実無駄しかないかもしれない避け方で横島はその角を避けた。
「危ないやないかーっ!」
栄光の手が握り潰された場所から分化する。
雪之丞は、当たる部分にだけ魔装術を厚くし、二本の後頭部に伸びる角にあるイメージを送り込んだ。
ビスビスビス、と右肩、右腕、鎖骨に栄光の手が突き刺さる。
しかし。
叫びを上げたのは、横島だった。
がぱ、と角が開いたのだ。それぞれ中にあったのは円筒状のモノ。
ソレは爆炎を吹き、凄まじい速度で横島に向かう。
「ミサイルーっ!?」
爆発。余波で栄光の手が消し飛んだ。
雪之丞は魔装術があるが、横島は人より丈夫とはいえ所詮生身。
しばらくは動けまい、とそこまで考え、雪之丞はまだ警戒を解かない。長年の勘である。
事実、煙の向こうには横島が立っていた。
「あー、死ぬかと思った」
笑いながら言う。その眼前に浮かぶのは文珠[斥]。
おそらくは[斥]力でミサイルや爆発を逸らしたのだろう。
いつの間に、と言う問はこいつには通用しない。だって横島だし。
角、そして盾を元に戻すようにイメージ。自分も中々キている、と感じながらも。
左腕を上げ、霊波砲を一閃。それだけで、[斥]にヒビが入る。
「また出力上げたのかお前は」
「まぁな」
左腕をゆっくりと戻し、重心を前に。
横島は、見習い時代から既に圧倒的な回避技能を持っていた。
GS試験時にでも動体視力だけで言うなら美神令子すら上回っていたかもしれない。
それから6年近く。魔族の因子を取り込んだ横島は、ヘルメスやアキレスの動きすら見ることが出来るだろう。
雪之丞も、そういった速さの神に勝つことなど出来はしない。だから。
「これ…なんだと思う?」
雪之丞は、黒いビー玉サイズの物を指先に浮かべた。
――文珠、と呼ばれる物だった。
弓は、ゴゴゴゴゴと擬音も激しく怒っていた。
右には、右腕に包帯をまいた親父師範。
左の方には、この寺に居る弟子達。
目の前には、いつもよりちょっとだけ豪華な精進料理が乗った膳がある。
傍目には、連れてきた男が父を怪我させて怒っている、と取れるだろう。
事実、親父師範と一部の者以外はそのように受け取っていた。
実際は、と言えば。心の声を一部展開してみよう。
『あああの馬鹿雪之丞どうしてもう少し出力を上げなかったのよそうすればお父様と言えど吹っ飛んで大怪我するはずだったのにああ全部雪之丞のせいよそうよ卯月さんには悪いけど彼があんな物使わなければよかったのに言い含めておくのでしたわああ私も大馬鹿…』
…屈辱の中、弓は思い出す。
失敗を。
腕が折れる音を卯月は聞いた。
しかし、それでもいい、と彼は思った。正確には、それでもいいでやんす、と。印を組む。
「孝、天犬…!」
うめきのような声と同時、髪が蠢いた。
ひゅばっ、とそれは頭部から分離、さらには3体の霊獣――狛犬の様な姿を持って真友<とも>に向かう。
折られた右前腕を鎧で保持、気合と同時に、拳を入れる。
「ぐっ!」
霊獣の方に気を取られていたのだろう。
拳は腹にめり込み、さらには霊獣が突進した。
雪之丞が卯月の肩越しに、ちらり、と弓の方を見た。
彼女は頷く。
霊獣がそれぞれ、右手、左足、右肩を噛んでくる。
「なめるなぁっ!」
叫び、魔装術の外殻を薄く形成、全身から爆発させ。
卯月、そして霊獣を吹っ飛ばし、その真後ろの親父師範に――
そこで、雪之丞は気付く。
弓が、居る。
出力は、人の限界を少し超えた所で止まった。
――親父師範は右腕で吹っ飛んできた霊獣と卯月を受け止め。
…ゆ・き・の・じょ・う!!
視線の圧力に負け、雪之丞は逃げ出した。
――雪之丞が手にする物は、横島の使った文珠、その残りカスを核に自分の霊力でその周りを覆った模倣品である。
文珠特有の【力の方向を100%コントロールする力】は半分ほど。
ただ固めるだけなら、少し凝縮に優れた神魔なら同じ物を作る事ができるのだ。
それに能力を与える物が文珠使いである。
「おいおい、なんに使う気だ?」
そう言いながらも、横島の霊波は弱まりもしない。
「お前に馴染み深いヤツを呼ぶんだよ」
雪之丞は、摸文珠を握り締めた。浮かぶは[召]。
そして、飛び出したのは――
『む、事件か!?悪役っ!?』
――韋駄天・八兵衝だった。
「すまんっ、韋駄天様よ!実はアイツが小竜姫の…」
雪之丞の言葉は、そこで遮られた。
ぎゅるばっ、と振り返った八ちゃんに圧されたのである!
『協力し合おうではないか、友よ』
右手を凶悪な力で握られる。やはり、天界では色々とあるらしい。
今日は友人が多い日だ、と思いつつ!!シンクロニティに叫ぶ!!!
『「合、身ッ!!」』
背後に燃え上がるは正義の炎。一部嫉妬。
全身黒タイツの上、白き鎧が装着されていく幻視が横島を襲う。
このごろ流行の変身ヒーロー――
『「ダテ・ザ・ファスター!!天界に代わり、貴様に裁きを下しに参上ォッ!!!」』
ガッシィイン、と某永遠に5歳の幼稚園児に出てくるヒーローのポーズをとる。
…目的と手段が入れ替わってるな、と横島は判断。
お前は俺を倒す必要はねーよな、と思い。ついでに、お前のやるべき事は他にあるだろうが、と柄に無く思う。
…ま、しょうがねーな…
「来い、雪…否、ダテ・ザ・ファスターッ!!」
横島は、右手の霊波槍をレイピアのように突き出して構え、叫ぶ。
『「応ッ!」』
横島が避けるなら、避けなる事ができない攻撃法を!
『「超加速ッ!!」』
――時が止まったかのような錯覚を受けるほど、周囲が遅くなる。
ダテ・ザ・ファスターは、許せ、と言いつつ横島に向かって走る。
修行によって得た体捌きと韋駄天の歩法、それらが組み合わさって、恐ろしい威力を発する右正拳が横島に向かう。[斥]の僅かな抵抗を打ち破り、打撃は右肩を異常な方向に曲げた。
直後、超加速が解ける。
横島は突然の右肩の痛みに顔を顰め、吹っ飛びながらも、言った。
「砕けろッ!」
霊波槍が、文字通りに砕けた。破片が全方位から遅い繰る。
『「無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」』
ダテ・ザ・ファスターはその破片全てを拳で叩き割る。
そして、砕いた物は。
『「サイキックソーサーだとっ!?」』
叫ぶと同時、2度目の爆発。
横島は爆風で吹っ飛び、壁に頭を強打した。
爆心地に居たダテ・ザ・ファスターは――
「秘技・友情プロテクターッ!!」
…ま、お約束って事で。
雪之丞は、黒コゲになった八兵衝を尻目に、横島に近づく。
その手からこぼれた文珠はありがたく頂き、言った。
「すまねぇな――もしうまくいったら、弓の方から天界に頼んでもらうからな…」
横島が、僅かに頷く。
雪之丞は、文珠に[転]と込め、消えた。
――弓は、霊波を感じて後ろを向いた。
直後、障子が開く。
そこに居たのは雪之丞。
「昼間は、申し訳ありませんでした」
弓、そして弓の隣に居る親父師範に向けて土下座。
親父師範は、邪気が来たか…じゃなくて、悪い虫が来たか、と腹を決める。
「いや、気にしてはいない…もう一度聞くが、入門する気はあるか?」
「はい」
親父師範は立ち上がる。
「――ならば、付いて来い」
弓も立ち上がろうとするが、
「かおりよ、この男は誤って、とは言えお前を傷つけそうになった男。わしは本気で戦う…悪いが、邪魔なのだ」
親父師範の言葉で、それは止まる。
雪之丞に視線を動かし、言った。
「それならば、ご自由にどうぞ」
座りなおし、茶を飲む。
心を、千々に乱しながらも。
ピタ、と弓醍醐が歩みを止めた。
周囲は砂利の庭園だ。
「さて…伊達雪之丞。娘に付く悪い虫は、払わさせてもらおうか」
「知ってたのかよ…」
「娘の職場の所長に金を払えばホイホイ教えてくれたぞ…お主らの企みと共に」
「……」
とりあえず後で横島を本気でぶん殴ろうか、と思い、魔装術を展開する。
「ぬぅんっ!」
弓醍醐の体から、100マイト近い霊力が放出される。
左手にあるのは、弓に渡したはずの数珠。
そして、白い光が彼を包む。
後に現れたのは、千手観音のような姿。
「さぁ、往くぞッ!伊達雪之丞ッ!」
「応ッ!」
暫しの対峙、そして叫びの後、二人は同時に駆けた。
雪之丞の拳が、更なる魔装に覆われる。
その光り輝く拳は、叫びとともに。
「サァアアアン・シャァアアアィニンッ・ンナッパ―――ッ!!!」
対する弓醍醐は、
「千手観音――開眼、穿光条!」
千手の持つ水晶から、極太の霊波砲が発される。
激突。
霊波砲は上に弾かれ、雪之丞の右手の魔装が砕けた。
「まだだっ!」
左腕を突き出し、霊波砲を放つ。
弓醍醐は鎧でそれを弾き、
「ぬぅんっ!」
腕を伸ばして雪之丞を掴んだ。
そして、砂利に叩きつける。
がは、と血が雪之丞の口からこぼれるが、弓醍醐はさらに叩きつける。
「くっ…おりゃぁっ!!」
バン、と魔装を爆発させる。
両足の肉と皮を少々、そして10本ほどの腕を引きちぎって、雪之丞は着地する。
そこから先は、男と男の殴り合い。
意地の切れた方が、負けだ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
ごっ、と弓醍醐の拳が雪之丞に直撃するが、ばきぃ、とそれを折り砕かれる。
拳の雨に防御も間に合わず、打たれる。
雪之丞の拳が、弓醍醐の防御する腕をかいくぐって鎧を砕く。
「おらぁっ!」
「むぅうっ!」
ばきぃ、と雪之丞が最後の擬似腕を折り砕く。
さらに、既に残り少ない霊力を酷使し、一歩踏み込む。
指をそろえ、抜き手。鎧に突き刺さった手を鍵詰のようにし、鎧を引き裂く。
そして、
「おおおおおお、らぁああああっ!!!!」
渾身の、霊波砲。
それが、弓醍醐を直撃した。
――数ヵ月後。
――蝉の鳴く、林の中。
ぱしゃ、と長方形の物体――墓石に、ひしゃくで水をかける者が居る。
それに刻まれた文字は、伊達家。祖先の遺骨が入りし、石の塊。
線香を立て、手を一緒に合わせる。
左手の指輪が、どうにもくすぐったい。
自分で送り、そして共に誓った物だが、まだ慣れていない。
「…行くか」
「ええ」
自らの言葉、それに答えた女性――少々腹が膨らんできている――彼女を伴って、元来た道を歩いていく。
誰かが、笑ってくれている気がした。
空は高く、白い雲が浮いているのが見えた――
同じ頃、とある馬鹿の子供ができたと言う女性がたくさん名乗り出たのは――ま、余談にしときましょう。
やははははは、49時間徹夜は辛いぜべいべー…と斧です。木曜日の1時ごろ起きて今までずっと起きてますですよ?ユッキーミサイル辺りから6時間連続して書いてますが逆に眠たくないのはこれいかに。バトルシーンばっかりだしね?終わりのクロニク○とYOKOSHIMAN!を最初から読んでいたので文体と展開に影響が。あ、ガ○ダムも少々。好きなんですよ~…
後パクリっぽくてというかパクリで申し訳ございません御汐さん!!…テンションが戻らないよ受験生…
解りにくいかと思うので、途中で出てきた技の説明を。
※サイキックランス―サイキックソーサーを多重起動、それらしく見えるよう固めた物。当然、中はスカスカ。
※ゲッ○ービーム―暴走をわざと引き起こし、ごく微小な穴から噴出させるウォーターカッターのような物。
※ユッキーミサイル―霊波を角の中で凝縮した、形は違えど、サイキックソーサーに似た物。筒の中で霊波を爆発させ、前部の霊力ぎっちり部分でダメージを与える。
※サン・シャイニング・アッパー―魔装術を集中し霊波砲を発射寸前状態に溜めその状態で殴る技。
※開眼・穿光条<うがちこうじょう>―それぞれの目から発した霊波砲を体の前の霊波で捻じ曲げ、1つとする技。
修正と同時にレス返しを書き足します。
>Dan様
幸せにする予定です。
次回は…誰が良いかリクエストでも。
>偽バルタン様
(ぐっとガッツポーズ)甘いですか…(ニヤリ)
彼女にとっては目の前を遮る者は誰であっても敵なんです。…雇い主のが伝染して。
>柳野雫様
投稿した後、自分悶絶しました。
勢いで書いて仕上げて茶飲んで投稿した物でしたから。
当然茹蛸並みに真っ赤です(笑)
>リーマン様
今回かおりん出番少ないです。
ハイテンションで書くんじゃなかったと少々後悔中です。ハイテンションに。
>MAGIふぁ様
…いや、終わり頃には作者もすっかり。
投稿直前に「あ、親父師範の末路書いてねっ!」と入れたものだったんですが…(笑)
>犬雀様
笑っていただけて何よりです。
砂と砂糖と餡子、どれを吐いた人が一番多いのかと考えてみたりして・・・
>梶木まぐ郎様
子沢山、の予定です。
自分が元一人っ子で、従姉弟と兄弟のように遊んでいた時分があったので…
>天皿様
いえいえこちらこそ。新参なもので…
手段を選ばないと言っていただけて嬉しかったり。
…期待に添えていますかね?
>LINUS様
展開は…自分でも読まれると思っていましたが。
どんなもんでしょうか、これ?異常なハイテンションで脳内エンドルフィンちゃんどっぽどぽですよ?