昔々。カオスがホームズを教えていた頃でしょう。
日本っぽいところの北方に、小さな村がありました。
その雪の深さは、一晩で人の身長ほどにも降ったことが在ったほど。
まさに、豪雪地帯というにふさわしい村でした――
――とある冬の日のお話です――
「くぉらぁっ!!この糞馬鹿息子が!てめーのおかげでメシ無くなっちまったじゃねぇかっ!!」
――と叫んだのは闘竜寺師範――つまりは弓かおりの父親でした。
その背は6尺(約2m)を超え、その頭は禿頭です。普通の家なのに何故か僧服を着ています。
一応僧兵崩れとでもしておきましょう。薙刀も背負ってますし。
「あんたこそガツガツ食いまくりじゃねぇかっ!!」
そう叫び返したチ…ゴホン。小柄な人物は伊達雪乃丞。
小柄でこそあるもののその身は鍛えられ、鋭い目つきが怪しげです。
「昨日最後の米を食ったのはお前だろうがっ!!」
「あんたは一昨日冬の間用の干し肉を食いまくったっ!!」
ぬぅう、と二人は(50cm近い身長差が)至近距離でにらみ合い…やがて、悟ったのです。
しばし額を突き合わせましたが、同時にこう言いました。
「「まず飯を取ってきてからだ」」
そして二人は銃を取ったのです。
――で、あっさり遭難。似たもの馬鹿二人がここに居ました。
さすがと言うべきは豪雪地帯。喧嘩しながら歩いていた二人は、天候の変化を見誤りました。
運良く山小屋を見つけた二人は、何とかその中に逃げ込んだのです。
「…っぷはーッ!」
親父師範、防寒具をとりあえず火の近くに置き、乾かし始めました。雪之丞も続きます。
「この駄目親父が…」
「ふんっ、貴様に父と言われる筋合いはないわっ!」
「しゃーねーだろ、これはゆ――「シャーラーップ!!!!――ぐはぁあっ!!」
親父師範、思いっきり雪之丞を殴り飛ばしました。さすがにメタレベルはマズイと判断したのでしょう。
瞬間的に魔装術を展開した雪之丞は、たいして動じた様子もなく親父師範を見ています。硬いものを殴ってしまったうずくまる親父師範を。
「――とにかく、わしは寝る。お前も永眠するなよ」
「へーへー」
親父師範は、痛む右拳をさすりながら眠りに付きました。
深夜。
ユッキー、うつらうつらと寝かけていました。
その後ろに忍び寄る影に気付かずに。
「くくく…お前などが居ては…」
そう。親父師範です。薙刀を、振りかぶり――!
がたん。
ぎゅば、と彼は神速で振り返りました。おそらく今までの戦いで最も早い振り返りです。
そこに居たのは、雪のように白い肌を持つ美女――いえ、少女と女の境目でしょうか。17,8の娘が、扉を外してこちらを見ていたのです。
「お前は――」
ぱきぃいん…
――そして、親父師範はコミカル気に雪ダルマになったのです。
しかも、動く、動く。なんと雪ダルマ妖怪になってしまったのです、彼は。
動かぬ脚に心の中で悪態をつきながらも、親父師範は必死で息子を助けようとします。
そんな事は知らず、ひゅっ、と雪之丞に近づく雪女。
妖気によって雪之丞は起きたのですが、すでに四肢を凍らされ、身動きが取れません。
雪女は、その手を雪之丞の頬に添え、こう言いました。
『冬の間、人々がこの山に立ち入らないようにしなさい。貴方の父親の死と言う話を持って。私に言われた事は、口にしてはいけません。あくまで、貴方の体験として言うのです』
そして、雪女は開け放たれた扉から去って行きました。
次の日の朝。
雪之丞は、親父師範が化身した雪ダルマ妖怪を発見しました。
とりあえず殴ります。
ボディランゲージによる説得で正体を解った上で数度殴り、それから筆談し始めました。
曰く、
[雪女を倒せばわしも元に戻るだろう]
そう親父師範雪達マンは書きました。
しかし雪之丞、高笑いし、
「ふははははそのまま夏に解けるがいいわこの糞親父ッ!」
…そう言いながら、彼は年中凍っている洞窟に彼を運び込んだのです。
村人たちは、屈強の親父師範ですら山で死んだと言う話に、震え上がりました。
そして、冬は山に入らないと言う取り決めがなされて1年。
実は死んでいない親父師範雪達マンも一回り小さくなりながらも夏を乗り切りました。
そうして、雪が今年初めて降った日。
「こりゃ、豪雪になるな…」
雪之丞は、外を見ながらそう言いました。
今年は親父師範が居ない分、食料も若干少ないですが蓄えは十二分にあります。
居なくて差が若干と言うのは雪之丞が春夏秋に努力したからですが、親父師範の立つ瀬がありません。
そして火を焚き、最初の寒さになんとなく感慨を抱きながらも飯を作っていた時。
「あの…」
コン、コンと言う戸を叩く音と同時に声。
雪之丞は居留守が出来ない男です。ガラリ、とその戸を開けました。
「はいよ」
開けて、雪之丞は驚きました。
そこに居たのは、雪のように白い肌を持つ、旅装束に身を包んだ美女だったのです。
「ご馳走様でした」
「うぃ、おそまつ」
彼女――かおりと名乗りました――は、お椀と箸を置いて言いました。
「不味かったですけど」
一言余計でしたが。
「…じゃ、お前作って見せろよ」
雪之丞のご飯も、決して食べられない味ではないのです。と言うか、親父師範が母に逃げられて、しばらくしてからは彼が作ってきたのですから、むしろ上手い方でした。
「いえ、ここでもう一度作っても、薪と材料の無駄でしょう。明日、作って差し上げます」
「へーへー」
――次の日。
カチャ、とお椀と箸が雪之丞の前に置かれました。
「頂きます」
「どうぞ」
かおりはつん、と澄まして言いました。
雪之丞が、一口椀に注がれたナニカを嚥下してみます。
母に逃げられた当初、親父の作った料理に比べればなんともない見た目と味。
ですが、決して美味しいとはいえません。
「…あんま美味しくねーな」
むっと来たかおり嬢、言い放ちました。
「では、美味い、と言わせて見せましょう!」
胸を張って、彼女は言ったのです。思惑通りに。
――そんなこんなで、数年が経過してしまいました。
子供が寝息を上げる中、雪之丞は言ったのです。
「そーいやぁ、こんな日だったか…」
「何が?」
かおり奥さん――4人も子供生んどいてラインの崩れがほとんどありません――は、夫に聞き返しました。
「いや…親父が雪女に凍らされた日なんだがな。その日も、こんな吹雪だったよ」
ちなみに親父は今だ雪達マンです。
かおり奥さんのきらきらと光る目が細くなりました。
「それで?」
「いや…実はな…」
妻になら、話してもよかろうと彼は、話してしまったのです。
それを聞き終わったかおり奥さんは、立ち上がってこう言ったのです。
「私は話すなと言ったのに」
雪之丞は、それを冗談と取りました。
「おいおい、何を――」
びゅうう、と風と共に戸がひとりでに開き、
『私は子供が可愛いし…貴方が…………から、貴方は殺さずに置きますが…さようなら』
彼女は出て行ってしまったのです。
そして、戸が閉まりました。
「…とーちゃん、どーしたの?」
子供の一人が聞いてきました。
「ん…ああ、何でもね…」
雪之丞は、ふと彼女が居た所に、光るものが在るのを見て取ったのです。
――それは、凍った水。おそらくは、涙――それを見て、震え上がらぬユッキーではありません!
「…ちょっとばかし、留守番してろよっ!!」
雪之丞は、吹雪の外へと走り出したのです。
「待て、かおり!」
はっ、とかおりは振り返りました。
そこに居たのは、雪之丞でした。
「何で出て行く!」
『貴方が約束を破ったからでしょう!掟なのよ!』
「う゛、それはそうだが…」
雪之丞、ひるみながらも言い返しました。
「それよりもなんだよ掟って!」
『掟は掟よ!従わなくちゃいけないの!』
びゅお、と吹雪が強くなりました。
「くっ!!」
雪之丞は、魔装術を展開しました。
それでもなお押し通る冷気、凍気。
「何で盲目的にそんなもの信じるッ!?」
『何でって――そんな事、どうでもいいじゃない!貴方こそ、なんで私を追ってくるのっ!?』
「それは、お前を――」
ぐ、と雪之丞は、言葉をタメました。
――ぽす。
「んにゃ?」
何か暖かいものが頭に乗っている、と理解。
そこで、夢をまざまざと思い出し、まず赤面。
…右を見て絶句。
「ゆ、雪之丞ッ!?」
安らぎを感じてるような彼の顔があった。しかも自分は腕枕をされている。しかも、頭に乗っている暖かいものが雪之丞の手だと知り、さらに首まで真っ赤に。
許したっけ私、とか18禁な事を考えるかおりだったが、とりあえずそんな記憶はなかったので一安心。
「起きたか…よく眠れたか?」
もう既に起きていたらしい。
と、唐突に雪之丞も赤面し始めた。
「ど、どうしたのよ?」
「い、いや、実は変な夢見ちまってな。その…ま、昔話の夢だったが――色々と思い出しちまってな、アハハハハハ…」
弓は、とあるお姉様から頂いた、枕もとのカバンを開ける。
〜尋問中〜
きっちりと聞き出して、夢判断。
「…霊波がシンクロして交じり合って、願望を見せた?」
雪之丞は黙って聞いている。それが妥当だとでも言うように。
「…という事は、お父様が貴方の息子で…私が…」
顔が瞬間沸騰機になった、弓は。
「…お父様を排斥して、既成事実を作ってしまう…」
恐ろしい願望を割り出した。
雪之丞は赤面しながらも黙って聞いている。
そして、結論。
「…良い手だわっ!!」
「ぅおいっ!!」
はっちゃけた弓に、雪之丞は全力で突っ込みを入れました。
ま、その後雪之丞が訓練中に【誤って】師範を大怪我させ、【勢いで】子供が出来ちゃって、【仕方なく】結婚して。色々と幸せな結果になっていたのは、別の話と言う事で。
<その後>
数年後。
「――ところで、雪之丞」
双子を抱えたかおりさんが言いました。
「なんだよ」
「あの夢での、最後の言葉は――?」
「…」
かおりさん、目が真剣と書いてマジと読ませる勢いです。
「…してる、だよ」
「…え?」
「愛してる、だよ!!!文句あるかっ!!!」
精一杯甘くしてみよと言う内なる声に応え。
どうも、母さんに呆れられてパソ使用OKになってしまった斧です。
…甘い、ですかね?むしろ支離滅裂な気が。うぐぅ。
修正入れました。文法おかしい所とかあったもので。