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「新世界極楽大作戦!! 第五話(GS+エヴァ+α)」

おびわん (2005-01-20 18:49)
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「・・・一度神界に戻ろうと思うんです。」

久々に食事を摂るシンジへの配慮もあったのだろう。今朝の小竜姫手製の食事は、
鶏がら出汁で作ったお粥に山菜という、かなりヘルシー志向な物だった。

彼女に気を使わせたシンジは勿論、出された物は何でも食べる主義の横島も、
鍋の中の米一粒も残さずにたいらげた。

食後、熱い中国茶を啜りながら呟く小竜姫。

「え。どうしてっスか?」

同じように茶を啜っていた横島が疑問の声を上げた。

一人暮らしをしていた二年前までは、食後に茶を入れる等という事は貧乏ゆえに出来なかった横島だが、妙神山に身を寄せてからは、他の住人の影響でよく飲むようになった。

「綾波さんのお話を聞いて考えたんですが、・・・『この世界』における私達の立場。そして歴史。それがどこまで私達の知っている世界と同じで、何処からが違うのか。その確認が一つ。」

そう言って人差し指を立てる小竜姫。

「そ、そう言われりゃその辺りは確かに気になりますね。」

横島も考える。

レイちゃんは『ここ』は俺達が知っている世界と、似ている様で全く違うって言ってたよなぁ。
なら、『あっち』に居た奴が居なかったり、居なかった奴が居たりすんのか?

不意に心臓が縮こまるような感覚を覚える。

美神さん。おキヌちゃん。シロタマにGS仲間や学校の皆。
色々な奴らと俺は出会った。あいつ等と出会えたからこそ、今の俺が居る。

だが再び繰り返す『この世界』で、会えない者が居るのだとしたら・・・。

そこまで考えた横島はある事に思い至り、今度こそ心臓を凍らせた。


繰り返す世界。・・・なら、いつかまた『アイツ』と会えるのか?


「横島さん? どうかしましたか横島さんっ!?」

自分を呼ぶ小竜姫の声に、横島は意識を外へ戻す。どうやら少々考え込んでいたようだ。
考え込むうちに下がってしまった頭を慌てて上げる。

「あっ!? いや何でも無いっスッ!!」

横島のその慌てぶりに首を傾げる小竜姫。食器を纏めていたシンジもきょとんとしている。

シンジはその横島の態度に、どこか誤魔化している様な感じを覚えた。

(なんだろう・・・。今の横島さんの表情は・・・。)

考え込み、俯く横島の顔。対面に座っていた小竜姫は気付かなかった様だが、彼の隣に居たシンジには、俯いた横島の顔が少し見えていたのだ。

(横島さん。優しくて、悲しくて。・・・凄惨な顔をしてた様な。)

知り合ってまだ一日程しか経ってはいないが、シンジは横島がそんな表情をするとは思えなかった。

小竜姫が話を再開させる。

「そうですか。そしてシンジさん、申し訳ないのですが貴方の事も上に報告させて貰います。」

「そんな事して大丈夫何スかっ!?」

「・・・・・。」

彼女の言葉に驚く横島。シンジは静かに黙したままである。
パラレルワールドから移行してきた自分達とは違い、シンジは完全な異世界から来た存在である。

彼に対し、神魔両上層部がどんな裁量を下すか判らない。

「大丈夫です。異邦神であるシンジさんの保護担当者を、横島さんに担当してもらう様手配をして来るだけですから。」

「・・・シンジがどうこうされるって事は無いんスね?」

慎重に確認する横島。
幾らシンジが恐ろしい程の神格を備えた異界の神だとしても、横島からすれば唯の十四歳の餓鬼である。
それは良い意味でシンジを特別扱いせず、普通の少年として接しようとする横島の心の表れなのだ。

絶望の淵を乗り越え、漸く現世に帰還したシンジ。彼に向けられた幾多の想い。
そして自分に託された彼の幸せ。

アスカや綾波レイと約束もある。
横島は護りたかった。彼の身を。彼の微笑を。

「本当は私もシンジさんの事は秘しておきたいのですが、シンジさんの神としての存在が問題になってくるんです。」

「問題っスか?」

「はい。ここで横島さん、シンジさん。お二人に質問します。」

何故か急に質問してくる小竜姫。
横島もシンジも、彼女の意図は全く判らない。

「はい。なんスか?」

「お二人が小さな子供の頃、『カミサマって何?』と聞かれたとしたら、一体どんな存在を思い浮かべましたか?」

小竜姫の質問の意味を理解できない横島とシンジだが、とにかく答えようと頭をひねる。

「カミサマっスか。・・・え〜と、雲の上にいて・・・。」

「大きくて、・・・輝いていて。・・・おじいさん?」

横島に続き、シンジも答え始めた。

「名は無いのですか?」

ポツポツと己の持つ『カミサマ』のイメージを述べ上げていく二人に、小竜姫が重ねて問い掛けた。

「名前って、カミサマはカミサマっスからねぇ。」

「ボクもこれ以上は・・・。」

二人共もうイメージ出来ない様だ。

「それぐらいで結構です。今お二人が述べられた様に、霊能と関係しない一般の方々が想像する神魔とは、大体その様なものです。私や老師を思い浮かべる方は恐らくいらっしゃらないでしょう。」

湯飲みを傾け、冷めかけた中身を啜る。

「横島さんは憶えていますか? 綾波さんに見せられた異界の記憶を。」

無論、忘れるわけが無い。
あれはそれほどに強烈な体験だった。

「あれに出てきた『使徒』と称される巨大生物。あれらはサキエル、シャムシェル等天使の名を冠していました。
ですがそれは人間達が勝手に付けた名で、あれらは本当の天使ではありません。」

「はあ。」

「つまり、シンジさんは神の居ない世界から来た『神の様な存在』なのでしょう。そしてここで、先程お二人にお聞きした、カミサマのいめぇじがでてきます。」

空になった湯飲みに、二杯目の茶を注ぎながら小竜姫はそう述べた。

「シンジさんの世界には私や老師、ワルキューレやメドーサといった神魔族は存在しませんでした。
なら、その世界の神であるシンジさんは一体何なのか。その答えが先程のお二人のお答えです。」

彼女の言葉に、思わずグッと身を乗り出す横島とシンジ。

「私達の様な神族でも魔族でもない、もっと根源的な意味、概念としての『カミサマ』。
・・・シンジさんはこの世界における宇宙意思が受肉した存在です。」


              新世界極楽大作戦!!

                  第五話


「なっ・・・・。宇宙・・意思。」

余りにも大きなその名前。
あの魔神ですらそれに打ち勝つことは出来ず、ただあがき続けるだけだった。

「しかし、宇宙意思と全く同じという訳ではない様ですね。
・・・恐らく綾波さんが仰っていた、666種の封印のせいでしょう。」

世界を渡る前、シンジは無意識のうちに己に無数の封印を掛けた。
それにより彼の力は分割され、今では普通の人間と変わらないレベルでしかない。

しかし、もし666種全ての封印が解除されてしまった場合。
その力はシンジの意思とは無関係に全てを吹き飛ばし、逆にそれを抑えようとする宇宙意思の力と共に消滅する。

封印されたシンジの力は、それ程に巨大で危険な物だった。

「過去、かなりの数の異邦神がいましたが、シンジさん程の神は記録されていない筈です。」

故に報告をせざるえない。三人だけの問題ではないのだ。

「もしシンジさんがご自分の力に対して不安な気持ちが在るのでしたら、私の上司、竜神王様の庇護の元、神界で生活をすることも出来ますが・・・。どうされますか?」

小竜姫の静かな言葉。
それは正しく女神としての慈愛に満ちたものだった。

「・・・ボクは。」

少し考えた後、シンジははっきりとした口調で答えを返した。

「横島さんと共に、人として生を歩みたいです。」

どんなに変わっても、ボクはボクでしかない。
揺ぎ無い瞳はそう語っていた。 

「確かに自分の力には不安を感じます。ですがボクにはアスカや綾波、カヲル君や皆。そして横島さんと小竜姫様達がいます。・・・僕は一人じゃありません。皆がいる限り、ボクがボクである限り、そんな力には負けません。」

そう言って微笑むシンジに、横島も顔を綻ばせた。

「よく言ったシンジ! 小竜姫様。やっぱこいつの面倒は俺が責任持ってみますよ。」

「矢張りその方が良いでしょうね。・・・では私は今からでも神界へ向かいますが、その間横島さん達はどうされるおつもりですか?」

暗に『ここで私の帰りを待っていてほしいにゃ〜。』と訴えてくる小竜姫。
しかし横島の返答は、小竜姫の意に背いたものだった。

「師匠も居ませんし、いい機会なんでシンジ連れて山を降りようと思うんスよ。」

「何故っ!?」

ガバリと机上に身を乗り出し叫ぶ小竜姫。

「イヤ何故って、師匠居なけりゃ修行も出来ませんし、今回もGSになろうと思ってますからね。」

「うぅ・・・。せ、正論ですね。では横島さんはまた美神さんの元で?」

「そうなりゃ良いんですけどねぇ。でもシンジ連れて時給250円はちょっと辛いっスよ。」

そう横島は苦く笑う。よくあれだけの低賃金で生活できたものだ。
あの時分に持っていた様々なエネルギ−は、まだ自分に残っているのだろうか?

「そうですね・・・。では、少し待っていて下さい。」

そう言って小竜気は席を立ち、何処かへ行ってしまった。

「・・・あの、横島さん。」

小竜姫の足音が聞こえなくなった後、おもむろにシンジが問い掛けてきた。

「ん? どした?」

「さっき言っていた、時給250円って・・・冗談ですよね?」

嘘だと、冗談だと言ってください。ボクは安心したいんです。
シンジの瞳はそう語っている。

しかし、無情にも現実は彼を裏切った。

「残念だが、・・・本当のことだ。」

苦行の末に悟りを開いた僧侶の様な目で遠くを見つめる横島。
彼の様子に、シンジは飲んだくれの上司と同居していた時以上の困難が自分を待ち構えていることを予感した。


「お待たせしました。」

暫くして、小竜姫の声と共に商事が開く。
帰ってきた彼女の手には、ぶ厚い封筒があった。

元の席につくと、それを横島のほうに小竜姫は差し出した。

「なんすか? ・・・っげ。」

中を確認した横島が目にしたのは、百万は在るだろう福沢さんの束だった。
隣から覗き込んだシンジも目を丸くする。

「しょ、小竜姫様。これは一体?」

19年間生きてきて、これほど精神的に重い封筒は持ったことが無い。
横島にとって福沢さんとのご対面は、月に一度有れば良い方なのだ。

「時給250円で生活するのが横島さんだけなら兎も角、シンジさんもいる事ですし、この先何があるか判りません。ですから当面の生活費としてお渡ししておきます。」

下山しても、すぐに以前と同じよう生活を始められるとは限らない。
その事を危惧した小竜姫の善意だった。

「額が多すぎますよ小竜姫様っ。こんなには貰えませんよ!!」

横島は焦って言った。
唯でさえ彼女には色々な部分で世話になっているのに、ここまで迷惑はかけられない。

「あら。勿論見返りは頂きますよ? まだ考えていませんけど(はぁと)。」

そう言って微笑む小竜姫は、横島の体を絡みつく様な視線で見つめていた。
後に、この時の彼女の視線を横島はこう評している。

『・・・あの時の小竜姫様は、獲物を値踏みする猛獣の目をしていた。』

小竜姫の発する桃色の神気に降参した横島。有難くお借りします。と封筒を懐へ収めた。


「暫くの間、私は神界に留まる事になります。」

思いの外長くなった朝食も終わり、シンジと共に食器をかたずけた小竜姫が、
横島達と玄関先に向かいながら言った。

神界へ報告に上がり、それで終わりではない。
妙神山修行場管理人として、彼女の仕事は多いのだ。

「小竜姫様、師匠にも連絡付けて下さいね。」

「はい、それとシンジさんには後ほど召喚礼状が届くと思いますが、多分横島さんの同伴も認められると思いますので、恐れずに従ってくださいね?」

靴を履く横島達にそう述べる小竜姫。

「わかりました。色々とお世話になりました小竜姫様。」

「またお会いしましょうシンジさん。」

その言葉と共に、小竜姫はシンジを抱きしめた。
いつもならすぐに騒ぎ出すはずの横島も、今回は穏やかな表情でそれを見守っている。

その抱擁は女としてではなく、友として、女神としての祝福だったから。

「んじゃ小竜姫様。」

「行ってきます。」

「はい、お二人ともお気をつけて。」

そして二人は玄関をくぐる。

仰ぎ見れば晴天。空は何処までも蒼かった。


「お化け、ですか?」

それから約三時間後。二人は横島が暮らした町に到着していた。

下山途中、慣れない山歩きに足を痛めたシンジが、横島に『姫抱っこ』で運ばれるというアクシデントがあった。

顔を赤く染め、胸元にしがみ付くシンジに、横島は(違うんやぁ! ドキドキなんてしてへんのやぁっ!!)と、男としての大切な何かを必死に護りながら全速力で山道を駆け下りた。

無事に麓のバス停にたどり着けた時、横島は神に感謝した。
ああ、護りきれた。辛い戦いだったけど、護りきったよ皆っ!!


・・・・・でも、シンジの体、やけにや〜らかかったなぁ。


そして現在、あの懐かしき黄金時代を過ごしたこの町を歩きながら、GSという職について説明をしていた。

「ああ。幽霊、妖怪、天使に悪魔。そういう奴らと関わっていく仕事だ。シンジ、お前そういうの大丈夫か?」

「実際に見たことは無いんでまだ判りませんけど、多分大丈夫だと思います。」

お昼前の商店街をゆったりと歩く二人。

おキヌと行った喫茶店、シロとコロッケを買った肉屋、タマモにねだられて入ったうどん屋等が次々と横島の目に映る。

「ごーすとすいーぱー。・・・お化けをやっつけるお仕事なんですか?」

「いや違う、そうじゃないぜシンジ。あいつ等は生まれが違うだけで殆ど人間と同じに生きている。
飯だって食うしトイレに行って屁だってこく。泣くし笑うし恋だってする。悪い奴もいればいい奴だって一杯いるぜ?」

学生時代によく通った牛丼屋を通り過ぎ、そろそろ横島の目指す目的地が近づいてくる。

「GSってのはそいつ等と人間との間に立つ者なんだよ。勿論人間対して一方的に害をなす存在は祓わなきゃなんねえ。
でもな、話し合いで問題が解決するなら、それが一番だろ。」

「GSは潤滑油みたいなものですか。」

「色々とジレンマに悩む事も多いけどな。・・・格言があるじゃん、
『拳銃は最後の武器だ!』って。自分の譲れない想いに反しない限り、
拳を握るのは最後の最後で十分だ。」

「横島さんの考えはよく判りましたが、最後のって格言なんですか?」

そうこうしている内に、二人は目的地に辿り着いた。

二人の前にはかなりの大きさを誇るビルがあった。
看板には複数の入居会社の名があり、その豪華さの割には雑居ビルとして建っているようだ。

「ここですか、横島さん?」

ビルを見上げるシンジに、横島は芝居がかった仕草で答える。

「そぉうっ! ここが過去俺が働き、これから俺とお前が共に働いていく事になる、世界最高のGS
『美神令子』の除霊事務所だぁっ!!」

テンション高く、くるくると空中で五回ほど回ってみせるおまけ付きで、ズビシと彼が指差すその向こう。
看板には『美神除霊事務所』と・・・・。


「・・・・・かぐらそうごうけいび?」


・・・無かった。

この時期、ここにあるはずの彼女の城が無かった。

「な・・・、なんで?」

思いもよらなかった、いきなりのイレギュラーである。
混乱して地べたを転がりまくる横島に、シンジは多少遠慮がちに話し掛けた。

「どこか別の場所で開業してるって事はないんですか?」

その言葉にピタリと急停止する横島。
重力と人体力学を大分無視した動きで立ち上がると、シンジの手を引き走り出した。

「ど、どうしたんですか横島さんっ!?」

「あるんだよっ、もうひとつ心当たりがっ!」

少しも速度を緩めることなく横島が返す。

「ある事情でな、事務所を変える事になったんだ。この世界じゃ最初からそこに居るのかもっ!」

シンジの手を引いた横島は、元来た道を爆走する。

丁度昼時である。商店街は昼食を求める会社員や学生、買い物に来た主婦などでごった返している。

にもかかわらず、いつしかシンジを小脇に抱え直した横島は、彼らにぶつかる事無くトップスピードのままその間を走り抜けた。

その上、彼の走る速度は急激に上がっていくのだ。

「ひわあぁっ、よこ、横島さん。速いぃぃぃ〜!」

堪らないのはシンジである。
まるでジェットコースターにでも乗っているかの様な恐ろしさだ。

「だぁぁぁぁぁぁらっしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

シンジの泣き声を無視したまま、横島は走り続けた。


横島が漸く速度を緩めて立ち止まった場所には、一軒の古い洋館があった。

蔦に覆われた外観、開かれないまま半世紀は経っているだろう、薄汚れた窓。
まさに幽霊屋敷そのものである。

「・・・こ、ここですか? よこ、横島さは〜ん。」

ここに来るまでが余程怖かったのだろう。
腰を抜かし、地面に座り込んだままシンジが、息も絶え絶えに問い掛ける。

しかし彼の見上げた先、横島忠夫は信じられない物を見たかのように、ふるりふるりと顔をふる。

「・・・霊気も、何も感じねぇ。・・・まさか居ないのかよ。なんでだよ美神さん。」

もしここに美神が居るのなら、その霊力によって屋敷は綺麗に保たれている筈である。

膨れ上がる不安。この世界に彼女という存在はいないのか?

「だ、大丈夫ですか横島さんっ。気を確かに!」

「あへ・・・へへへ、美神さんいねぇよ。」

そのまま横島は座り込んでしまった。
シンジの呼びかけも聞こえない様で、虚ろな目でしきりに「さやいんげん、さやいんげん。」と呟きつづける。

あてが外れたことが余程ショックだったらしい。

「横島さん。・・・どうしよう、困ったなぁ。」

立ち尽くすシンジ。
横島が立ち直らない限り、彼にはどうしようもないのだ。

『・・・彼は霊能力者ですか?』

「え?」

唐突に掛けられた見知らぬ声。
振り向いたシンジの前には、何時の間にかトレンチコート姿の人間が立っていた。

声の調子からは、男であるのか女であるのかは判らない。
その顔も目深に被った帽子の陰に隠れていた。

変質者の御手本の様な格好だが、人のよいシンジは気にしなかった。

「は、はい。多分そうだと思いますけど・・・。」

トレンチコートは横島の前にしゃがみ、彼の目を覗き込む。

『とてもショックな事があった様ですね。どうされましたか?』

「あの、・・・ここに居るはずの人が居なかったみたいで。」

シンジも心配そうに横島を見つめている。

『・・・どうでしょう? この方が立ち直るまで、屋敷内で休憩されては。
汚れた所ですが、お茶ぐらいならお出ししますよ。』

「いいんですか?」 

トレンチコートの提案はシンジにとって魅力的なものだった。
というか横島をほっておくのかシンジ。

『彼なら心配ないでしょう。暫く後でこちら側に帰ってきますよ。
それに、私が用事があるのは彼なんですからね。まあ、待ちましょう。』

「・・・じゃあ、おじゃまします。」

そして二人は横島を置いたまま、屋敷内へ消えていった。


「・・・・・さやいんげん。」


薄暗い屋敷内は、机や椅子などの家具がそのまま残されており、厚い埃の層がそれらを覆っていた。

トレンチコートと共に三階の応接室らしき部屋に入ったシンジは、ここまで我慢していた『ウズウズする気持ち』
を、ついに爆発させた。

『どうぞ、お座り「すいませんっ、掃除道具はどこですかっ!?」・・・は?』

手近な椅子を指し示し、自らも腰を降ろそうとしたトレンチコートに、
シンジはその繊細な外見に似合わない大声で詰め寄った。

『いやあの、・・・掃除道具・・・ですか?』

「ボク、ボク、・・・汚い部屋を見ると掃除せずにはいられないんですっ!!

ズドーンと噴火する火山を背景に、シンジの叫びが薄汚れた窓ガラスを振るわせる。

『・・・一階の奥、廊下の突き当り右の小部屋にあります。』

「初号機了解っ、でわっ!」

暴走した愛機さながらの動きで部屋を飛び出していったシンジ。
後に残されたトレンチコートは、どこか楽しそうな口調でポツリと呟いた。

『ふふ・・・、やはり人の多様性には目を見張る物がありますねぇ。
しかしあの方、少年だったのですか・・・。ずっと少女だとばかり・・・』

それからのシンジの行動は、驚愕すべき物だった。

道具といえば箒に塵取り、ハタキと数枚の雑巾のみだったにも拘わらず、
驚くほどの手際の良さで次々と各階を征服していく。結局、小一時間ほどで屋敷内全てを掃除し終わった。

そしてシンジは今、屋上へと確認の為に上がっていってここには居ない。

『こ、これは・・・。私が消える事になっても、あの少年に相続させても良いかも知れません。』

トレンチコートは一人、見違えるほど綺麗になった部屋を見渡しそう述べた。

その時、一人外に残していった横島に、漸く変化が確認できた。

『やっとですか・・・。ではお迎えに参りましょう』

そしてトレンチコートも部屋を出て行った。


「めそ・・・。シンジの奴、俺一人置いて行きやがって。恥ずかし固めを決めてやる。」

なにやらブツブツと呟きながら立ち上がった横島の前に、トレンチコート姿の人間が現れた。

『どうやら立ち直った様ですね。』

「ああ、一人にしてもらえたおかげでなんとかなっ!」

精一杯の嫌味を利かせた横島だが、トレンチコートは意にも介さない。

『あなたは霊能力者ですね。宜しければ私の頼みを聞いて貰いたいのですが。』

「うぐっ、聞いちゃいねえ。(しかし人工幽霊一号か。俺が所有者でもいいのか?)」

本来の歴史ならば、ここの所有者は美神令子だったはずである。
しかし彼女が居ない以上、人工幽霊一号が横島にコンタクトを取って来たのもしょうがないだろう。

(ここはこいつの願い通り、俺が旧渋鯖邸の所有者になっといた方が良いかもしれんな。)

「頼み? いったいどんなだよ。」

その考えをおくびにも出さず、横島は問い掛けた。

『既にお気づきでしょうが、私は人工幽霊一号。人間では在りません。』

「いやそこらへんはどうでもいいから。さっさと用件を話せ。」

さっきのお返しとばかりに、そっけなく返す横島。だが人工幽霊一号の方はそうはとらなかった様だ。

(おお、私が幽霊であると判っても態度をお変えにならない。この方こそ私の主に相応しい!)

なにやら誤解している様だが、横島は単に知っているだけである。

『私はこの渋鯖邸の管理運営のため、渋鯖男爵に創造された意思体です。男爵がご存命の時はその霊力によって職務を全うしていたのですが、男爵の死後、霊力源を失った事により、職務不遂行のみならず私の存在までが消えそうになってきているのです。』

「もしかして、俺にそのおっさんの代わりになれと?」

『お察しの通りです。あなたにここを継承していただければ、私は往時の如く力を取り戻せます。』

そう言った後、トレンチコートはパサリと地面に落ちた。
どうやら人工幽霊一号が屋敷の方に意識をシフトさせたようだ。

『しかしその為にはあなたに三つの試練を受けて貰わねばなりません。・・・それでも宜しいですか?』

ギイィッと扉が横島を誘うように開く。
恐怖映画に出てきそうなパターンだったが、彼は気にせずに足を踏み入れた。

「袖刷りあうも何かの縁だ。やってやるよ。」

『・・・お願いします。』


第一の試練。

達人級の剣捌きで襲い掛かってくる騎士の鎧を片手で適当に受け流し、
横島は霊力の発生源である絵画を切り裂いた。

『お見事です。』

第二の試練。

部屋の奥に鎮座した大きな机。その上にある水晶玉が恐ろしい程の霊圧を発し、横島を近づけまいとする。
だがそれにもかかわらず、横島は何も感じていないかの様に歩みを進め、あっさりと水晶を手に取った。

『・・・素晴らしい。』

そして第三の試練。

『最後の試練です横島様。ここではあちらに見える椅子に座って頂くだけです。ですがこの部屋では一歩歩くごとに五年、あなたは年をとります。・・・見事成し遂げられますか?』

「まかせろや。」

そう一言残し、横島は躊躇う事無く足を踏み出した。

『なっ!? 正気ですか横島様っ。何の策も弄さずに、そのままですと・・・!?』

人工幽霊一号に目が在ったとすれば、間違いなく驚きで見開いていただろう。
椅子へと向かってゆく横島には、何の変化も見られないのだ。

「ほいっと。これでいいか人工幽霊一号?」

優雅ともいえる仕草で椅子に座った横島が確認をとってくる。
しばし呆然としていた人工幽霊一号は、あわてて返事を返した。

『た、確かに・・・。では今これより横島忠夫様を、ここ渋鯖邸のオーナーとして登録させて頂きます。』

その言葉と共に、屋敷全体を霊気の光が包み込み、その外観を全く違う物に変えた。

人工幽霊一号。所有者の霊気量によって、その内部も代わってゆくのだ。

『これからよろしくお願いします。横島オーナー。』

「ああ、こっちこそな。」

微笑む横島の耳に、シンジの声が聞こえてきた。

「な・・・、なんですか今の光。ってゆうか内装がかなり変わってるんですけどっ!?」

そういって部屋に飛び込んできたシンジ。
どこで手に入れたのか、フリル付のエプロンを掛けている。

「あ、横島さん。」

「よおシンジィ。よくも置いてってくれたよなぁ。」

不気味な笑みを浮かべながら、横島はゆっくりとシンジに近づいていった。

「え、あれ? 横島さん、どうかしましたか?」

両手をワキワキとさせながらこちらに来る横島に、
シンジは不吉な物を憶えたのか、少しずつ下がって行く。

「フッフッフ。そぉ〜れ、お仕置きの恥ずかし固めだべぇ〜!!」

「ひゃぁぁっ! 御免なさい横島さん、この格好は恥ずかし過ぎますっ!!」

横島がなにやら複雑な技をシンジに掛け、ふざけ合っているのを見ながら、
人工幽霊は先程の事を思い直していた。

(オーナーは十歩以上歩いていた筈なのにみためが全く変わりませんでした。あれは一体?)


夕刻。
横島によって人工幽霊を紹介されたシンジは、最初こそ驚いた物の、
すぐに慣れた様で普通に話し掛けたりしていた。

とりあえず寝床の確保に成功した二人は夕食の買い物に出ようと玄関を出た。

「じゃ行ってくる。留守を頼むな。」

「いってくるね、人工幽霊一号。」

『お二人ともお気を付けて。』

そう言って踵を返した二人に、横から声が掛けられた。

「無人だった隣に大きな結界が張られていたから来てみれば・・・。貴方達、一体何者?」

その声はシンジの知らない、しかし横島はよく知っている女性の声。
慌てて振り向いた横島の前に、スーツ姿の美女が立っていた。

「あ・・・。な、なんで今ここに・・・。」

「どうかしましたか、横島さん。」

美神令子とは逆に、本来の歴史どおりならここに居るはずの無いその女性。

「た・・・・・隊長・・・?」


女傑。美神美智恵。


あとがき

皆様こんにちは。おびわんです。

前話、第四話と入れ忘れてしまい、申し訳ありませんでした。

やっとGS編に突入です。しかし最初に登場したキャラが
人工幽霊一号に美智恵ママ。

原作と全く違いますな。

キャラの登場順はバラバラです。実際美神より、あの人気キャラの方が
早く登場したりもします。


では毎度有難うございますのレス返し。

>九尾様

私は『萌えシンジ』に全力投球です。
今後もさらに可愛いシンちゃんを書いてきます。

>極楽鳥様

私も『知らない天井だ・・・』は入れたかったのですが、
あの場面は真面目にいこうと思い、泣く泣く止めました。

うちのシンちゃんは受けです。男に対しても女に対しても。

>命 光一様

GSキャラにはちゃんとフォローを入れるつもりです。
原作とは全く違った登場をするキャラも居ます。

>柳野雫様

ユイの再登場予定はありませんが、カヲル君は
たまに登場します。
彼と他のキャラとの掛け合いをお楽しみに。


では次回も宜しくお願いしますね。


 

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