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▽レス始

「引越し先は。2(まるふたつめ)(GS+めぞん)」

cymbal (2005-01-12 08:22/2005-01-12 09:42)
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「あっ、いってらっしゃい。」
「あっ、はい。行って来ます。毎朝大変ですね。手伝いましょうか。」
「いえ、結構です。・・・また何かされても困りますし・・・。」
「えっ、いやいやいや・・・あれはちょっと手が滑っただけで。なあ輝彦さん。」

アパートを出る時に行われるやり取り。ちょっとほのぼのとして自分でも嫌いでは無い。俺は詰まった言葉を濁そうと猫を撫でようとした。

「にゃあ!!」
「いってえっ!!」
「こらっ!・・・もう何で横島さんには懐かないのかしらこの子。でもあの人もそうだったかな・・・。」
「あの人?」
「えっ、いえ・・・何でも無いです。」

毎朝繰り返される光景だ。相変わらずこいつは懐こうとしない。小憎たらしい顔をしおってからに・・・。お陰で手は傷だらけである。

俺がこのアパートに引っ越して来て、一月が経とうとしていた。相変わらず建物の名前は知らない。管理人である魔鈴さんも調べてくれたらしいのだが、どうも要領を得る返事は返って来なかったらしい。まあ別に困る事は無いのだが・・・一応手紙とかハガキも届くみたいだし。ちなみに未だに共同黒電話だったりする。何だか時代が止まっているような錯覚を覚えるな。携帯があるから不便じゃないけど。

魔鈴さんに挨拶を終え、アパートの前の坂を下っていき、のんびりと駅前の喫茶店に向かう。最近は朝起きるのが早くなったような気がする。今日は休日だというのに。まあ周りの住人達が何かとうるさいせいもあるが、最大の目的は朝、掃除をしている魔鈴さんと挨拶をする為であった。それだけで充分、自分の心が癒されていくのが分かる。ああ、ひょっとするとこれが恋というものなのかも知れない。口元もにやつく。

それにしても意外とすんなりここに順応してしまった自分に驚く。休日に家にいれば一日中、仕事がある時でも朝と夜、、誰かが人の部屋に入って来て、まったりと居座っている。プライバシーなんぞ無いに等しかった。しかし、根は悪い人達・・・では無いと思うのだが、ここは判断が難しい所だ。そして初日にマリアのお陰で部屋に空いた大穴は、いつの間にか塞がっていた。まるで何事も無かったかのように。どうやら愛子の力らしいが、何とも不思議な事である。

ぼんやりと考え事を続けている内に喫茶店に着いた。距離にして十分ぐらいだろうか。道も大分覚えたなと思う。地図が無くても簡単に辿りつく事が出来た。結構この辺りは入り組んでいるので最初の頃は迷ったのだ。

ちりんちりん。

「おいっす。」
「いらっしゃい。・・・やあ横島君。少し遅かったけど、今日はお休みかい?」
「ええ、まあ。コーヒーとトーストお願いします。少し焦げ目付けて。」

俺が喫茶店に入ると、ここの店主が出迎えてくれた。名前は良く知らない・・・が鳥みたいな名前だったような・・・違ったかな?建物の内装は比較的綺麗で、清潔感があった。まるで教会のように大きなステンドグラスが使われているのがここの特徴である。

「いつもの奴だね。」

そういうとマスターはごそごそと調理を始めた。まだ一月しか経っていないのにいつもの奴とは・・・相当毎日来ている証拠でもあった。安くてそれなりに美味しいからなのだが、場所的にも便利だしな。

マスターが俺の前に朝食を出してくれるまでの間、側に置いてあった新聞を広げてみる。どうせ本気で読む気は無いのだけど、適当に三面記事を開くと簡単に目を通して理解しているふりをする。「彼女達は危険なのか?」チルドレンの必要性について。・・・か。ふーん。まあ俺にはあんま関係ねーな。

「ところで、最近はどうだい?仕事とか・・・。」
「えっ?・・・ああ仕事ですか・・・まあ大変ですね。ようやく見習いから卒業したばかりなんで・・・。」
「へえ・・・。まあ特殊な仕事みたいだからね。よっと・・・出来たよ。」
「頂きます。」

新聞を閉じて、マスターからトーストとコーヒーを受け取る。そして匂いを嗅ぎながら一口目をかぶりつこうとした瞬間・・・電話が鳴った。携帯からは定期的な発信音が流れている。ちょっと幸せな一時を邪魔されたようで腹が立った。

「あっ、ちょっとすいません。電話・・・いいすか。」
「いや、別に気にしなくていいよ。どうせ誰もいないしね。ははっ。」

マスターは照れくさそうに笑った。確かに今の時間帯に人はいないようだった。休日だというのに・・・珍しい事もあるもんだと思った。普通常連客が少しいたりするものなのだが。・・・遠慮気味に携帯を見ると、公衆電話からだった。珍しいなあ・・・つーか間違い電話かいたずらじゃないのか。少しばかり胡散臭かったが、一応電話に出る事にした。

ぴっ。

「はい。」
「・・・あっ、その・・・えーと、横島さん・・・ですか?私です。小鳩です。」
「あっ。・・・はいはい小鳩ちゃん。久し振りー!」

電話の主は以前、アパートの隣に住んでいた女の子だった。そういえば前のアパートを出る時に連絡先を教えたんだっけ。・・・やっぱり家に電話が無いのかあの子。勿論携帯も・・・。うう・・・不憫な子や。

「何か突然電話しちゃって・・・すいません。その・・・ご迷惑でした?」
「えっ、いやいやそんな事は無いけど・・・どうしたの?何かあった?」
「い、いえ別に用があった訳じゃ無いんですけど・・・その・・・どうしてるかなーって。・・・何か変ですね私。」
「べ、別に変とかは思わないけど・・・そうそう元気だった?」
「あっ、はい。おかげさまで。母も最近は調子は良いみたいですし。・・・と、ところでですね横島さん。」
「んっ、何?」
「来週とか・・・」

ぷつん。・・・つー、つー、つー。

「あっ、もしもし?もしもし?・・・切れちゃった。十円が切れたんかな・・・、こっちからはかけれないし・・・まあ用があったら向こうから・・・いやひょっとしてぎりぎりの十円だったりしないだろうな。」

何だか凄く悪い事をした気がした。余計な話を入れなければ最後まで彼女の話を聞けたかも知れない。しかし、どうする事も出来なかった。わざわざ出向くのもなあ・・・ちょっと遠いし。来週って・・・何が言いたかったんかな?

・・・これ以上考えても結論が出なさそうなので、食事の続きをする事にした。少しばかりトーストは醒めていたが、気にせずに食べた。そしてコーヒーは相変わらず良い香りを発している。こちらも醒めていたので一気に飲み干した。余り誉められた飲み方じゃない事は分かっていたが・・・マスターにもちょっと悪い気がしたし。

「・・・マスター、お勘定。」
「おや?もう帰るのかい?」
「んっ、まあ休日だしあちこちブラブラしてみようかなと。」

そういうと俺は代金を置いて、表に出た。外からガラス越しにマスターの禿かかった頭が見えた。結構苦労してるなあこの人も。少し失礼な事を考える。外の空気は肌寒かった。時計を見ると時刻は九時半。まだ他の店が開くには少し早い。どうしようかなと・・・何気なく、空を見上げた。

「ふう・・・寒いなあ・・・・・・・・・あれ?魔鈴さん?」

丁度俺の真上の上空に、彼女の姿が見えた。いつもの黒い服を身に纏(まと)って。少し違う所といえば首にマフラーを巻いている事か。勿論その色は黒だった。箒の進行方向とは逆にマフラーがたなびいていた。それを見ている内に・・・ふらっと・・・何気なく足が動いた。俺は上を見上げたまま彼女を追う事にした。幸いにも大したスピードでは無く、走って行けば付いていけそうだった。

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ。・・・何処行くんかな?」

・・・今思えば、途中の自転車屋で自転車でもケチらず買えば良かったと思っている。まさかこのまま一時間半も走らされる事になろうとは・・・。


「ぜはー、ぜはー、さ、さすがにもう走れん!!」

気が付けば住宅街からは外れ、辺りは少し木々が多くなっているように見えた。そしてここから少し離れた所に彼女が降り立ったのも見えた。正直助かったと思った。もう体力はほとんど残っていなかったからだ。朝食で食べたのはパン一枚だったので、既に蓄えたカロリーは消費し尽くしていた。俺はゆっくりと歩みを進め、彼女が降り立った場所へと向かった。長方形の石のいくつも並んでいるのが見えた。

「ふう・・・、あれ・・・これは・・・ひょっとしてお墓?・・・すると墓参りか。こりゃ付いて来てまずかったかな・・・」。

今更ながら、何も考えずに付いて来てしまった事を後悔する。もし墓参りならば部外者である自分など邪魔以外の何者でも無い。これは顔を会わすのは止めた方が良いかなと思った。折角、ここまで来たのだけども。でも一応確認だけはしようと、彼女の姿を探す事にした。すると彼女が墓場の奥の方で、お墓に水をかけているのが見えた。やっぱり・・・俺はそう呟いた。

「こら、あかんな・・・帰るか・・・。近くに駅あるかなあ・・・。」

がっくりと肩を落として引き返そうと、辺りを見回す。すると急に彼女がこっちに向かって歩いてくるのが視界の端に見えた。やばいっ!!そう思って、咄嗟(とっさ)に木々の中に身を隠す。幸いにも気付かれた様子は無かった。彼女はつかつかとバケツを持って俺の前を通っていった。そしてお墓の入り口を出て、何処かへ行ってしまった。水でも汲みにいったのかも知れない。俺は彼女がいなくなったのを確認して茂みの中から出た。すぐに逃げ出そうと思ったが、何となく・・・墓の方が気になった。一目だけ見てみようかな・・・と思った。一歩づつ・・・足を彼女がいた墓の方へ進める。何故だか心臓がドキドキした。・・・大丈夫、一目見るだけだから。そしたらすぐ帰ろう。

「・・・これかな。・・・えーと・・・・・・あれっ?」

墓を見て、おかしいな・・・と思った。西条家の墓と書かれていた。「魔鈴」では無い。知り合いの墓かな?とも考えた。不思議に思って裏手に回ると、ごちゃごちゃと書かれた文章の後に、一つの気になる名前が書かれているのを確認した。


「輝彦」・・・。


どこかで聞いた名前だった。ていうか知っている。彼女の猫の名前だ。するとこの人から名前を貰ったのだろうか。ちょっと変な気もしないでも無いが・・・親戚とかかな。

「あらっ・・・横島さん!?・・・な、何でここにいるんです。」
「えっ?あっ・・・いや・・・。」

しまったと思った時には既に遅かった。いつの間にか彼女が戻って来ていたのだ。慌てて弁解をしようと言葉を考えるが何も思い浮かばない。仕方無く正直に彼女に話そうと思った。

「えーっと・・・そのたまたま魔鈴さんを見かけたもんで・・・追いかけて来ちゃいました。」
「・・・へっ?見かけたって何処から・・・。」
「・・・駅前から。アパート側の。」
「・・・・・・・・・馬鹿ですね。一時間半も走って来たんですか?たまたま見かけただけで。」

彼女は呆れ顔で俺の顔を見た。何だかちょっといたたまれない気持ちになった。凄い恥ずかしかった。

「・・・帰りは送ってあげます。二人乗りだとあんまり乗り心地は良くないかも知れませんけど。」
「は、はあ・・・すいません。あっ・・・失礼だとは分かってるんですけど・・・一つだけ聞いていいですか?」
「何でしょう?」
「この墓は一体どなたの・・・魔鈴さんの名字とは違うみたいですし・・・。親戚の方とかでしょうか?」


「・・・・・・夫のです。私の。」
「えっ・・・。」


おっと・・・夫。えー・・・つまり・・・魔鈴さんの・・・旦那さん・・・だった人という事で・・・。

その・・・「結婚していた。」・・・と。

「二年前に亡くなったんです。仕事中に。まだ結婚してほんの少ししか経っていなかったんですけど。」
「は、・・・はあ。」

未亡人・・・という奴でしょーか。・・・とか軽口を叩く訳にもいかない。今、ここに来た事を本当の意味で後悔していた。来るんじゃ無かったと。淡い何かを期待していた自分の心を激しく責めたくなった。彼女を見ると悲しそうな顔で墓をじっと見つめていた。きっと・・・旦那さんの事を思い出しているのだろうと思った。

俺と魔鈴さんの間で、その後会話を続ける事は無かった。彼女は箒に乗っていけば良いのに・・・と一言だけ言ったが結局断った。走って帰りたい気分だった。俺が申し出を断ると、彼女は何故だか悲しそうに・・・ゆっくりと空へと舞い上がっていった。とても綺麗なシルエットだった。空に舞う姿は何よりも悲しく・・・そして美しく見えた。

彼女を見送った後で、かざしていた手を下に下ろす。そして息を大きく・・・一つ吸いこんだ。何だか自分の感情が分からなかった。それを振り払う為に・・・俺は勢い良く走り出した。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ。・・・着いた。」

何処にそんな力が残っていたのかは分からないが、気が付けばアパートに帰って来ていた。汗はびっしょりと流れ、服が肌に張り付く。もう既に倒れそうなぐらい身体が疲弊しきっていると感じた。とにかくもう寝てしまいたかった。そんな気分だった。

「にゃあー。」

建物に入ろうとした時、黒猫が俺の足にまとわり付いて来た。今までは触れさせてもくれなかったのに・・・。ぼんやりとしている頭に妙に猫の声が響く。俺はゆっくりと猫を抱きかかえると、顔をじっと眺めた。何の悩みも無いように見えた。かわいらしい顔がこっちを見つめている。まるでこちらの心を見透かすかのような瞳であった。

「あらっ・・・、もう戻って来てたんですか?早い・・・ですね。」

後ろを見ると魔鈴さんが丁度、地面に降り立った所だった。どうやら全力で走っている内に追い抜いてしまったらしい。彼女は驚きながらこっちの顔を見ていた。そして俺に抱きかかえられた輝彦さんの姿を見てこう言った。

「・・・あっ、輝彦さん。・・・触れるようになったんですね。」
「えっ・・・はあ。何か急に寄って来て・・・。」
「へえ・・・。朝の時は引っかかれてたのに。不思議ですね・・・。ふふっ。」

彼女の顔が笑った瞬間、自分の顔が真っ赤に染まったのが分かった。何でかは分からない。いつも見ている筈なのに。ただこの時の笑顔だけは少しだけ違って見えたのかも知れない。そんな赤くなった顔を見られたくなくて、俺は思わず彼女から顔を背けた。彼女からは不自然に見えたかも知れない。

「ちょ、ちょっと走って疲れたんで・・・寝ますね。それじゃ。」
「あっ・・・、はい。おやすみなさい。・・・何だかまだ昼間なのに変ですけど。」

俺は顔を背けたままで彼女に猫を渡すと、すたすたと自分の部屋へと上がって行った。ここに来てから一番疲れたような気がしていた。それでも・・・彼女の笑顔が頭に妙に焼き付いて離れなかった。

「あっ、横島くん、私を無視しちゃ駄目よ!鍵!鍵!」
「えっ?あっ・・・そうだった。悪い愛子。」
「全くもう・・・何か疲れた顔してるね?青春でもしてきたの?」
「目一杯。」

投げられた鍵を受け取ると俺は自分の部屋のドアを開けた。すると中では雪之丞がラーメンを啜っている所だった。それも俺の奴だ。

「おっ、横島。帰ったか。」
「・・・何してんだお前。」
「いや、腹が空いてな。」

ずるずるずると奴はラーメンを食べ続ける。正直早く出ていって欲しかったので、俺はキッチンからもうニ、三個カップ麺を取り出すと雪之丞に渡す。

「頼む、これやるからちょっと一人にしてくれ。」
「えっ、いいのか。・・・悪いな親友。・・・もう返さんぞ。」
「いい、いい。持ってけ。ただしばらく戻って来るなよ。」

そう言うと奴は部屋に開いている四号室への抜け道を通って戻っていった。何故だかあの穴だけは塞がらなかったようだ。まるでこの状態があるべき姿だと言わんばかりに。しかしまあ、やっと一人になれて俺は、布団の上に寝転ぶと、大きくため息を一つ吐いた。

「ため息つくと幸せが逃げてくらしいぞ横島。」
「ラーメンでも食っとれ!!」

俺は穴から顔を出している雪之丞に向かって枕を投げつけた。それを奴はひらりと穴に戻ってかわす。鬱陶しい奴だ。投げた枕は丁度穴にすっぽりと嵌(はま)った。幸いにもそれから奴が戻って来る様子は無かった。そのまま俺は深い眠りの中に落ちていっていた。


”「びっくりしたな・・・ほんとに。」

私は横島さんが去った後、輝彦さんを抱きかかえながらそう呟いた。今日の墓参りの事だ。少しの間行っていなかったので、時期外れとは思いつつも思い立って行ってみる事にしたのだった。その先で横島さんに会うなんて・・・。しかも追っかけて来ていたとは・・・凄い行動力だなと思う。普段から積極的な人だとは思ってたけど。何だか子供みたいな人だとも思った。輝彦さんの事を話してみたら彼は少し、驚いていたようだった。そりゃそうかも知れない。だって結婚してたなんて急に言われたら。それも未亡人だし。まだ輝彦さんの事は忘れられないけれど、最近・・・少しづつだけど踏ん切りが付いたような気がしている。もう二年・・・もうすぐ三年かな・・・経つし。だからって何?って言われればそれまでだけど。”


”・・・つーつーつー。

「えっ!?もう切れたの!!十円・・・十円・・・ああっもう無い。百円玉は一枚あるけど・・・これは・・・駄目!使えない、勿体無いもの!」

私は激しく落ちこみながら電話ボックスを出た。最近はめっきりとこういう形のものが少なくなった。たまに電話しようと思うと、探すのが一苦労なの。何でこんなに便利なものを無くしちゃうのかな・・・。はあ・・・結局あの人誘う事出来なかったな・・・。折角思いきって電話してみたのに。私の馬鹿!”


”本当の事いえば少しだけドキドキした。あそこで会った時。夫の前で申し訳無いとは思っていたけど。でもそれは好意とかじゃなくて・・・上手く言えないけど。・・・やっぱり好意なのかな。私って何て不謹慎なんだろう。少し胸が痛む。こんな事を考えちゃ駄目だ。”


”アパートに戻ると、私は何気なく横島さんが住んでいた部屋を覗いた。あれから一月経つけどまだ誰も入居する様子は無い。何故か鍵も開いたままだ。無用心だけど・・・別に盗られるものもないから大丈夫なのかな?あの人がここに住んでいた時は家族みたいな感じだったけど・・・今こうして離れてみると不思議な感情が胸にあるのに気付かされる。私はあの人が好きなのだ。間違い無いと思う。”


声がするような気がして、目が醒めると自分の上に毛布が掛かっている事に気付いた。誰がやってくれたんだ?辺りを見回す。すると横に酒盛りしているエミさんと雪之丞と愛子がいた。

「あーら起きたの?何にも掛けずに寝ると風邪を引くわよ。これは常識なワケ?分かる横島クン。」
「そうだぜ親友。この寒いのによ。」
「そーよー。あたひにもちゃんとただいまっていてほしーの!わかる!?寒いのー!冷たいのー・・・。」

・・・何だか・・・ちょっとだけ嬉しかった。毛布もいつもより暖かく感じた。寝る前にこの人達に邪険に対応した自分を少し、恥ずかしく思った。

「・・・すいません何か・・・えっと、あれ?ところでお酒なんかあったか?」
「あるわよー、それぐらい。ほら。」

そういうとエミさんの横から酒瓶がごろごろと・・・。嫌な予感がした。後ろポケットに入れたままの筈の財布の感触が感じられない事に気付く。少し泣きたくなった。

「よこしまくんもー、のむー?飲みなさいよ・・・しくしく。」
「これ美味いな。」
「結構高いのよコレ。」
「・・・・・・好きにして下さいもー!!ちくしょう飲んでやる!!」
「そーこなくちゃ!男の子が細かい事気にしたら駄目なワケ。」
「かっこいーよこしまくん!でもね・・・あの穴だけ塞がらないの・・・。なんで?」

そのまま飲みつづけた俺は次の日、酷い二日酔いのまま仕事に出掛けるはめになった。最悪。

続く・・・のかな(笑)

コメントを下さった方ありがとうございます。一つ一つ内容を吟味しながら読ませて頂きました。本当に感謝しております。ちょっと前の話に比べて内容が重くなってしまいましたが、次もし続けるのであれば馬鹿みたいに明るい話とかも書こうかと思っています。毎度毎度長い作品ではございますが、お付き合いして頂ければ幸いです。さんくす!

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