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▽レス始

「かけおち2005(後編)(GS)」

さみい (2005-01-09 21:15)
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賑やかな東京デジャビューランド上空。黒い風船のようなものが浮かんでいる。

ルシオラたちの使い魔だった大魔球1号は空中に浮かんだまま数万人の来場者を凝視していた。
アシュタロス戦の時は雨に弱い点を西条らに突かれ早々と負けてしまったが、寧ろそれが幸いして生き延びることができた。戦後下界に遊びに来たパピリオに見つけられ今回が二度目の御奉公である。
妙神山から人界に駆け落ちした天竜童子とパピリオを探しに小竜姫・イーム・ヤームの3柱が来ているはずである。大魔球の任務はパピリオたちと付かず離れず行動し、万一小竜姫たちを見つけたら横島に連絡することである。
「♪重いコンダーラ死練のみぃ〜ちぃを〜」
凍えつくような北風が吹く中、大魔球は間違った歌詞を歌いながら瞳に焔を浮かべ頑張る。彼にとって何より大事なあるじを守るために...。

さらに天竜童子とパピリオはパピリオの発案で『変』の文珠で変装・霊波まで変調している。万一でも見つかってはならない。小竜姫は天竜童子にとり忠義に篤い臣下であり教育係、パピリオにとって妙神山での母親がわりであった。戦うわけにはいかない。捕まるわけにもいかない。来年7日の許嫁発表日に童子が居なければ自ずと許嫁の話は流れる。いくら龍神王でも本人が居なきゃ発表できない。
すべては年末年始の10日間を如何に逃げ延びるかにかかっている。
だが、2人にとって、小竜姫さまに心配をかけることは苦痛でもあった。そして横島にも小竜姫のことが気がかりであった。

[大魔球よりポチさんへ報告。大魔球よりポチさんへ報告。
 小竜姫さま・イームの2柱は現在美神除霊事務所の上空300m、ヤームは
 ポチさんのアパートの上空300mにいます。動きはありません、 以上。]
横島の通信鬼に入電する。

(あ〜、小竜姫さま、事務所で待ちかまえているつもりだ。
 これじゃ事務所やアパートに戻れないなぁ。極楽だったのに〜。DVD殆ど観てないのに〜)
「横島、なぜこんなとこで目の幅の涙を流してるのじゃ。そーか、デジャビューランドが
よっぽど嬉しいか」
「ヨコシマは事務所に戻れなくなったのを悲しんでいるのね〜」
その時急に頭上に現れた神族・ヒャクメ。横島はヒャクメの鞄と尻に潰される。
「ベス〜!」
パピリオがヒャクメに抱きつく。横島は何とか立ち上がった。
「ヒャクメ! 小竜姫さまに言われて2人を連れ戻しに来たのか!?」
「違うのよね〜。いくら親友でも常に小竜姫の味方ってわけじゃないのね〜。
 私は面白そうな方へ、もとい、正しい方につくのね〜。」
「もといの前が少々気になるが、正直な話、お前がこっち側についてくれて助かったよ。お前には変装も霊波の変調も無意味だからな。」
「小竜姫たちは事務所で待ち構えるつもりなのね〜。だからここでは安心して遊べるのね〜」
「「やったぁ!」」。
「ベス、あっち行こう!」
パピリオがヒャクメの手を握って言う。殿下も横島の手を握って誘う。
「よ〜し、今日は遊び倒すぞ!」

この後、美神さん監修のお化け屋敷ではエミさんを模した白骨に殿下とパピリオが異常に怖がったり(悪魔が怖がる程か!)、ヒャクメが横島に抱きついたりしたが、今日は無事一日が終わりそうだ。赤い夕日が横島たちを優しく包む。
(ルシオラ、お前の妹はとっても元気だぞ。殿下も元気だ。だから、明日も俺達を見守ってくれ)
夕日に向かって呟く横島の手をパピリオが握る。
「なに黄昏れているんでちゅか。」
「そのさ、ルシオラに感謝してた」
「ルシオラちゃんに?」
「そうさ、ルシオラに、だ。 さぁ、帰ろうか、みんな」
「でも事務所とアパートはダメなのね〜」。
「じゃあ穴場に行こうか」
(まさかラブホとか?私はいつでも良いけど心の準備が...。それに子供たちがいる今は教育上宜しくないのね〜)
「ヒャクメ、変な想像してないだろうな! 妙神山へ行こうって思うんだ」
「あ、そっか。小竜姫とイーム・ヤームからすれば、まさか妙神山に居るとは決して考えないのね〜。(きっと美神さん直伝なのね〜。こんな手を考えつくなんて)」
「横島、余は賢い臣下を持って嬉しいぞ」
「じゃあ行くでちゅ!」
横島は文珠を取り出した。


妙神山修行場。修行中の老師・ジークの前に突然現れた1人と3柱。
「横島さん、どうされたんですか?
 あ、天竜童子殿下とパピリオ!小竜姫さまが探しておられましたよ」
「お久しぶりです、老師。
 ジーク、すまんが2人を匿ってくれないか。ちょっと考えがあるんだ」
「いいですけど、横島さん」
「あやつ急に現れおって!まあ、よいか。」

修行場の一角の部屋で殿下とパピリオに夕食を食べさせる横島とヒャクメ。
「やっぱり美神んとこの方が美味しかったでちゅ」
「余もそう思う!」
部屋の隅でジークがいじけている。そう、今日の夕食はジークが作ったのだ。
「2人が褒めてたっておキヌちゃんに言っておくよ。でもジークのメシもなかなか旨いぞ。この野菜サラダなんか、そうそう作れるもんじゃ...」
今日一日遊び疲れたのか、御飯を食べながら寝る殿下とパピリオ。気づいた横島はヒャクメと隣室に布団を敷き、そっと二人を運ぶ。
横島とヒャクメは再び食卓に戻ると、まだ食事をしていた老師とジークに話を始める。
「老師、折り入ってお願いがあります」
「なんじゃ?」
「お耳に入っているかと思いますが、天竜童子の許嫁問題です。」
「それは竜神族の問題だ。猿神のワシや人のお前が口を出すものではない。竜神族の男子は数えで7歳になるまえに許嫁を決めるんのじゃ。そしてその期限が来年の7日の殿下の御誕生日じゃ。」
「ですが老師、ってか、7歳になる前にしか決められないの?!」
「そうじゃ、それ以降は自我が芽生えてしまうからな。竜神族とて鬼ではない。それ以降は「本人がいいひとを見つければそれが通るのね〜。縁談ってのもあるけど、人界同様、本人の意志が大事なのね〜」...」
「ワシの台詞を盗るでない、ヒャクメ! まあ、ワシが言えるのはここまでじゃ」
老師はゲームの続きをしに自室に行ってしまった。

横島は座禅をして考える。
(要は2週間程度ごまかせばいいんだよな〜)
ポッポッポッ
どこからか木魚の音が聞こえるが、ここ妙神山は仏教系神族の拠点なのでおかしくはない
チーン
鐘の音まで聞こえる。くどいようだが仏教系神族の拠点なので別段おかしくない。
横島が何か思いついたようだ
「新衛門さん、加速空間の用意をして下さい。殿下とパピリオには加速空間で2週間程度滞在してもらいます」
「新衛門って誰ですか?」ジークが横島に尋ねるが、聡明な彼は横島の発言の意味がわかったようだ
「横島さん、老師を呼んできます!」

翌日、天竜童子・パピリオ・横島・ヒャクメの4人は鬼門たちに自首した。老師が付き添いだ。鬼門たちは驚いた様子だったが、早速人界に降りている小竜姫に連絡する。数時間後、小竜姫たちが戻ってきた。
「小竜姫、おととい黙って抜け出してごめんなさい」「ごめんでちゅ」
2人は素直に謝る。
「横島さん!ヒャクメ!どうして教えてくれなかったのですか。」
小竜姫は怒った様子だ。
「事情聴取は後で行いますが、まずは龍神王さまの所に行きましょう」
小竜姫と5人は龍神王の処へ移動した。

天界の龍神王執務室。パピリオと横島は初めて見る天界の景色に見とれている。廻りに並んでいる龍神王の側近も天界では滅多に見ない魔族の少女と人間の少年を見てざわついている。
龍神王が部屋に戻ってきた。
「童子!どこへ行っておったのだ。小竜姫たちに心配させるでないぞ」
「父上、一昨日はここにいる魔族のパピリオと臣下の横島の処へ行き、人界に宿泊。昨日は人界の『デジャビューランド』なる娯楽施設を見学後、妙神山へ戻り斉天大聖老師の処で2週間程すごしました」
「と言うことは童子は加速空間に行ったのか?!」
「はい、何事も経験が大事と心得ます。父上の臣下で最も勇敢な斉天大聖老師の修行をぜひ見とうございましたので」

龍神王は臣下の斉天大聖老師の方を見る。
「斉天大聖老師、そちは1月7日に何があるか心得ていたのか?」
「いいえ、修行でずっと亜空間に居ったので天界の話はさっぱり」
とぼける老師。
(横島さん、老師ってさすが度胸あるのね〜)
(『だってサルなんだもん』ってか?、ヒャクメ)
内緒話がバレたのか、いきなり横島・ヒャクメの方を向く龍神王。
「そちが横島だったな。まず先のアシュタロスとの戦い、大儀であった。礼を言うぞ。
また、神族ヒャクメ、あの戦いでは人界で活動出来た神族はそちだけだった。大儀であった」
「「有り難き幸せに存じます」」
横島とヒャクメは平伏して龍神王の労いに応える。
「ところで童子は7日に許嫁が決まることになっておった。竜神族の決まりでは数えで7歳になるまでに許嫁を決める。しかし童子の場合、加速空間に居って誕生日を過ぎてしまったようじゃ。許嫁の話はご破算じゃな。」
なぜ人間の横島と他種族のヒャクメに対して龍神王がこのような話をするのか、龍神王の側近は皆首をかしげている。
「横島、そちの理想を教えてくれ。アシュタロスを倒した人間の考えを知りたい」
「恐れながら申し上げます。私の理想は、神・魔・妖・人が共生できる世の中でございます。例え種族が異なっても仲良く平和に暮らせる、それだけが理想でございます」
「たとえば童子とそこの魔族パピリオか」
龍神王の側近はその時初めて龍神王の質問に隠された意図を知った。
「ご質問の意図がよくわかりませんので一般的な話ですが、神族と魔族が仲良く育てば三界の未来に必ずや平和をもたらしてくれることでしょう」
「余がデタント反対派と知っておっての言葉か?」
「私はアシュタロスの記憶を持っておりますが、決着がつかない戦いで数千年もの長い一生を費やすのは牢獄のような生活かと存じます。これは魔族だけでなく神族も同様かと。」
「...そうか、下がってよい」


結局、天竜童子の許嫁は正式に決まらなかった。龍神王は天竜童子に今まで通りの生活で良いとの勅令を出した。おかげで妙神山では今日も殿下とパピリオの遊ぶ姿が見える。妙神山でイーム・ヤームと大魔球1号がそれぞれのあるじを優しく見守っている。

ジークは魔界に戻った折、姉のワルキューレ大尉に今回の経緯を報告する。
「龍神王様は小竜姫さまを許嫁とするつもりだったようです。教育係として天竜童子殿下のお世話を立派に務めているのを龍神王様が大層気に入られた様子。さらに小竜姫さまの血統、年齢も僅か300歳ほどしか違わないことから、天界ではほぼ小竜姫さまで決まっていました。横島さんはそれをひっくり返したんですから凄い影響力です」
ワルキューレは弟の報告を聞いて複雑な心境だった。ライバルが1人減るはずだったのに、という残念な気持ちの一方で、横島の優しさに更に魅入っている自分を実感していた。
そして神族の少年と魔族の少女の幸せを祈らずには居られないワルキューレだった。


1台のタクシーが美神所霊事務所の前に横付けした。
「はい、到着しました。高速代込みで18700円です」タクシーの運転手が言う。
「ご苦労様。ぴったりよ」母の美智恵が支払を済ませる。
「忘れ物はありませんね。毎度あり〜」ドアが閉まりタクシーが走り去る。

「あ〜ぱんまんっ! あ〜ぱんまんっ!!」
タクシーから降りたとたん、抱いていた妹のひのめが騒ぎ出した。この子も事務所が好きなんだろう。私も好き。自分の事務所だから、妹のようなおキヌちゃんやシロタマが居るから。そして、今や私の心の大半を占める『彼』がいるから。
「お疲れ様でした、美神オーナー」
建物から声がした。重厚な雰囲気を醸し出す事務所・人工幽霊一号が迎えてくれる。
私は事務所を見上げる。帰ってきたわ、と。
・・・・・
(え゛っ)
「あら、2階に大きい穴が空いているわね。ア○パ○マンのレジャーシートがぴったりね。とってもかわいい事務所になったわね、ひのめ」
「あ〜ぱんまん!」
私は母に妹を預けると荷物もそのままに事務所に入っていった。留守番の『彼』をシバくために。


(完結)

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