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「彼が選んだ道(GS)」

リキミ・スキッド (2005-01-07 02:53)
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鮮血が舞った。
横島は目の前に立つ横島の顔を睨みつけながらすぐに文殊で傷口を塞ぐ。
出し惜しみをして勝てる相手ではないし、美神譲りの裏技を使用したとしても目の前の存在は自分と同じ存在。
今よりも先に進んだ全てを凌駕している自分の未来。
「まだ理解できないのか。」
「うるせぇ! 突然現れたと思ったら未来の俺だとか抜かして攻撃してきやがって!! 挙句の果てに俺がいたら皆が不幸になるだぁ?」
未来の横島がきたのは今より数時間前。眠っていた横島の腹の上に突然現れたのだ。そして、攻撃。
もはや本能レベルにまで達した危険回避能力を横島が持っていなければその一撃で死んでいただろう。
そして強制的に戦闘へと場が移行された後に告げられた衝撃的な言葉。
『俺は未来のお前だ。』
『俺が生きていては皆が不幸になる。もっと明確に言えば皆死ぬ。』
『そう、ルシオラと同じように・・・』
ルシオラの名前が出た瞬間に横島の理性ははじけていた。
誰もが自分に気を使い口にしないその言葉。
それ故に今だ癒されることのないただヤリタイという自分本位の考えで接していた、もはや愛することも叶わない女性の名前。
「お前が俺の未来って言うのは本当なのかもしれないけどな! 信じられるわけがないだろ!!」
普段の横島であるならば問答無用で逃げただろう。
相手が自分より格上の相手ということは確かであり、それに加えアシュタロスと戦ったときのように横島を後押しする清らかな決意は存在しない。
だが、ルシオラの名を使い、彼女の生きた道を例えにして自分の周りにいるもの達も同じ道をたどるといわれてはいそうですかと言えるような神経を横島は持ち合わせてはいない。
「矛盾したことを言う奴だな。俺をお前の未来かも知れないと思いながらも否定するか。」
「当たり前だ! 第一、顔はちょっとは似てるかも知らんが体はちっとも似てないじゃねぇか!!」
横島の言葉どおり未来の横島の体は人の体ではなかった。鎧のように見えるが、疑うことなく皮膚である甲羅の鎧。
頭から生えた二本の角。そして、放つ霊気。
「今の時期にはもう始まっていたはずだがな。」
ボロアパートから少し離れた位置に存在する路地裏で横島は戦っている。未来の横島が動き、誰もいない路地裏で二人の霊波刀ぶつかり合う。未来の横島の霊気の方が強いので横島はその霊気を受け流すことしか出来ない。
「何が、始まってるって言うんだ!」
「わかっているだろう。魔族化だ。」
間合いが開くたびに繰り返される二人の会話が核心に触れた。
そして、その言葉によって横島は完全に目の前にいるのが未来の横島であるという考えを固めた。
誰にも教えていないこと、ヒャクメにのぞかれてそこからもれたとかいうのは有り得ない。
魔族化を隠すために毎日文殊で隠の文字を発動させつづけてきたのだ。
ブンッと音を立てて物質化した霊波刀を未来の横島はしまう。話に集中しようとしているのだ。
だが横島は霊波刀を消すことなく油断なく未来の横島を睨みつける。問答無用で攻撃してきた相手だ。
今更話で解決しようとしてくるなど有り得ない。相手もアノ美神の弟子なのだ。必ず何かを狙っている。
「魔族因子。ルシオラが死にかけた俺を助けるために与えてくれた物。命がけで彼女が俺という存在を愛してくれたという証。」
「・・・・・・。」
「その証は俺に、いや近々お前にも二つの選択を迫ることとなる。魔族となってアシュタロスの抜けた穴を埋める。もう一つは最後まで人として死ぬという選択。誰にも覆せない俺が絶対に選ばなければならなかった決断だ。」
「それでお前は・・・・・・。」
「生きることを選んだ。いやどちらにせよそうなるのだから、今となっては意味のない選択だった。」
「どういう意味だ?」
「この身に宿る魔族因子が死ぬことを許さない。人の因子を凌駕し、書き換える魔族因子。人の活動が停止したとなれば抗うものは存在しなくなり容易に体を魔族に変換できるだろう。わかるか。どの道をたどろうとも魔族にならなければならないのだ。」
「いっ嫌じゃ〜〜!! 綺麗な姉ちゃんと結婚して退廃的な生活をするんじゃ〜!!」
「虚偽にまみれた愚かな演技だ。忘れたか。俺はお前だ。彼女らが望むお前など、俺の前には何の価値もない。」
横島の動きが止まる。
「ルシオラは死んだ。その悲しみはぬぐいきれない。だが、いつもの、彼女らがいつもの俺として捕らえている俺になればルシオラを失った悲しみは癒されるかもしれない。」
「――お前、本当に俺なんだな。」
ぼそりと普段の横島を知る者ならば想像できない殺気を含んだ声が放たれる。
「癒されることなどなかった。誰もがルシオラのことから目を背け、俺すらもルシオラのことを忘れたように振舞い生きた。」
「うるせぇ。」
「魔族になればルシオラを復活させれると言われた。彼女と再び会えるのならばと、なんの迷いもなかった頃の自分に戻れるのならと、磨耗していく彼女を繋ぎとめる事が出来るならと、そう思って俺は魔族になった。」
「違う! 俺とお前が同じとは限らない! お前が俺の前に現れた時点でもうお前という先を知る俺はお前じゃねぇ!!」
「現れたさ。俺のときも現れた。そして今と同じやり取りをした!!」
「なに?」
動揺のあまり集中がとけ、横島の霊波刀が姿を消す。
「そして目を背けた! あれは夢だったと言い聞かせてなにもなかったように振舞った。ルシオラのことでそう振舞うことになれていたから苦しいなどということはなかった!!」
「ルシオラは復活した。彼女達との関係も昔と同じような関係に戻りかけた! だが無理だった。アシュタロスの穴を埋めるという使命を負わされた俺は、魔王という地位にたった。そして、その時に全ての間違いに気がついた!!」
「間違い?」
「魔王となったといってもほとんど力を持っていなかった俺は天界の奴らに狙われ、そしてハルマゲドンが始まった。」
「ハルマゲドン!」
横島は小竜姫から幾度かその言葉を聞いて知っていた。その言葉の持つ能天気に流すことの出来ない意味を。
「―――嘘、だろ。」
「死んでいった。戦いで死んだもの。魔族と人の寿命の差で死んでいった者もいた。そして誰もが皆俺のことを心配して死んでいった。」
「嘘だ! 美神さんが俺なんかのために命をかけるはずがない!!」
「ふざけるのはよせ。わかるだろう。彼女が、本当に力を貸さないとでも思っているのか?」
「・・・仮にそう行動したとしよう。で、間違いってなんだ? ハルマゲドンはお前の選択によって起こった事だろう。」
「魔族になって、ルシオラを復活させたといったが実際はそんなものではなかった。今だから言えるが、あれは模倣だ。俺の中のルシオラの因子を使って、俺がルシオラと思っているものを作り出しただけに過ぎない。わかるか? そんな偽者を作るために俺は人を捨て、それまでの横島忠夫を捨てたんだ。」
「俺がどうなろうと俺は俺だろうが!!」
「そう思ってくれるのは周りだけだ!」
未来の横島の脳裏に魔王になった後の周りの反応が走馬灯のように思い出される。魔王となった横島はその肩書きゆえに人間界に住むことを許されず、魔界の一角を与えられた。そして、毎日のように送られてくる刺客。
血に濡れた戦いの日々。
「俺が、俺が望んだのはあんなものではなかった!」
「それは、お前が失敗しただけじゃねぇか!」
「そのとおりだ! 俺は人として死ぬべきだったのだ。魔族因子の書き換えなど追いつかないほどの攻撃によって、人として、人として死ぬべきだったのだ!!そして、お前も!!」
閃光が路地裏を照らした。
光が消えた場所には横島の姿はなかった。消滅したのだ。文殊の使用による退却を忘れるほどの精神的ダメージを与え、最大の力によって魔族因子ごと消滅させる。
「何も知らずに死ねばよかったものを。いや、全てを知って死んだほうが奴に、いや俺にしてみれば納得できたのだろうか。」
未来の横島はだれともなしに呟くと、自分の体を眺めた。
「自分殺しは此処になった。さて、世界よ。この事態にどう対処する?」
ズグンッと未来の横島の胸に剣が突き刺さる。視線を向ければ横島が血まみれの姿で文殊で作り出した剣を握り締めている。
「そうきたか世界よ。だが、この事態は本来なればありえないことだぞ。」
「・・・・・・」
「宇宙意思よ。今ならばアシュタロスの考えが理解できる。保身の為だけに存在する神よ。貴様はいずれ殺されるだろう。」
ごふっと未来の横島は紫の血を吐くと口の端を吊り上げて笑みを浮かべた。
「俺を選んだことを後悔するがいい。」
その言葉を最後に横島忠夫は消滅した。
世界が彼の存在をなかったものとしたのだ。そして、彼の代わりとなる代役をあてがい歴史を修正し始める。
それは世界が横島忠夫という存在を恐れた証であった。


あとがき
初投稿になります。はじめましてリキミ・スキッドです。
スキッドと呼んでください。
大切な人を失いすぎて、どうすれば失わないですむかと考えた結果俺がいなくなればいいじゃんという考えに行き着いた横島君と
独立しますと言って独立したばかりの成人して何年か立った横島君の戦いの話。
かなりの独自解釈とご都合主義が入ってますがとりあえずプロローグです。
宇宙意思もしくは世界の最後の行動は、思い通りにならないのであれば消してしまえという随分と横暴に思える行動に見えますが
魔王としての力を持ち、文殊という万能兵器まで持った横島君が牙を剥いた場合においてはこういう反応をするのでは、と。
世界を脅かす、ってかハルマゲドンの引き金となった人ですから3界の大勢の人たちにとって賞賛すべき行動ですね。
指摘などあれば随時お待ちしております。

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