その場に対峙する二つの影
一つは深緑の邪悪『蜘蛛』もう一つは炎の救世『空牙』
救う存在と壊す存在の闘いが今、始まる。
エピソード四 救いの炎
「な!?この霊波の出力・・・人間を遥かに越えてるわよ!!」
美神たちは中心にいる空牙と蜘蛛が放っている霊力の出力と質に驚いていた。蜘蛛が放っている霊波は邪悪に満ちており、触れれば魂を吸い出されかねないモノだった。それに対し空牙が放っている霊波は慈愛に満ちていた。
心を癒し、魂に安らぎを与え、全てを護る。そう、まさに“救世”だった。
「こっちに向かってくる邪気を打ち払っている。霊波を放つだけでこの浄化・・・まるで精霊が持つ純粋な力。これを彼が・・・」
空牙を見る小竜姫の眼が熱くなる。それもそのはずである、美神に連れられて
来た横島は拙い丁稚だった。しかし小竜姫は彼の霊力の素質を信じ、今回の試験を勧めたのだ。横島の成長は彼女にとって非常に嬉しいものであった。
「バカな!?これほどの霊波をただの人間が発しているっていうのかい!?デタラメ過ぎる!!」
「でもそれが現実です。受け入れるしかないですよメドーサ」
愕然としているメドーサと安心している小竜姫。その後ろに
「これほどの癒しの力・・・私のもとで修行させたいものだ。・・・美神君みたいな守銭奴にならないためにも(涙)」
結構マジな本音を漏らす唐巣神父がいた。
「身体中から・・・力がみなぎってくる!!」
自身の身体から湧き上がる霊力に驚く空牙。それに対し心眼はあまり驚かず冷静に分析していた。
(なんという霊波の出力!これならばあの蜘蛛を一掃出来る。今がチャンスだ)
心眼はそのまま空牙に指示を送る。
(横島よ、今ならばあやつを打ち倒せる。一気に行くぞ!!)
「お、おう!!」
心眼の指示を受け駆け出す空牙。それに反応した蜘蛛が空牙を迎え撃つ。
「オ・・・マエ・・コロ・ス」
そう言いながら両手から硬質化した糸を放つ。そのまま一直線に空牙の元に向かう。
(五秒後に二時の方向、そして更に二秒後に九時の方向からだ、避けろ!!)
「無茶いうなやーーーーーーーーー!!」
口ではそう言いながらも一撃目の糸を手刀で叩き落し、ニ撃目を手刀を打ったときの反動を利用して回し蹴りで蹴り払う。
≪ボト・・・シュゥゥゥゥゥゥ≫
空牙によって払われた糸が地に落ち、そのまま浄化された。
(・・・私は避けろといったのだが)
「んな事言ってられっか!!避けるよりはこっちの方が楽だ!!」
頭の中で口論しながらも、蜘蛛から視線を逸らさず対峙する空牙。すると蜘蛛は両手首の爪を伸ばし始める。
「完璧接近戦で来るっぽいな」
(そのようだな、気を抜くな)
蜘蛛の動向を見続けていると、突如蜘蛛が片腕を後ろに下げた。
「くっ!糸か!?」
蜘蛛の行動に先手を打とうと動き出す空牙。しかし心眼はそれを止めようとする。
(違う・・・この動きは・・・マズイ!!)
心眼が止まれと叫ぶ前に蜘蛛が腕を前に突き出す。すると手首の爪が空牙目掛けて伸びてきた。そしてそのまま空牙に巻きつく。
「んな!?」
奇妙な声を上げながらすっ転ぶ。爪を引き剥がそうとするが強く締め付けられているため動きが取れなかった。空牙がそうしている内に蜘蛛は美神たちの方を向いた。
「シ・・・・・ネェェェェェェェェェェェェェェ!!」
奇声を上げると共に口を開く。
そこからは
蜘蛛の持つ邪悪な霊気を持った
小蜘蛛たちが這い出してきた。
そしてその小蜘蛛たちは・・・美神たちのもとへ向かいだした。
「嫌ーーーーーーーーーーー!!なんて事すんのよアイツはーーーーー!!」
「うるさいわね令子。でも流石に・・・これは引くワケ」
「こ、これはヤバイですケンノー!!」
向かってくる小蜘蛛たちにパニックに陥る美神たち。冥子に至っては暴走する前に気絶してしまっていた。
(助けて・・・横島さん!!)
おキヌは思い人の事を思いながら目を瞑った。その時!!
≪バリーン!ズドドドドドドドドドドドドドド!!≫
突如ガラスが割れるような音が会場に響き渡り、それに続き炸裂音が響いた。
「・・・え?」
目を開いた美神たちは目の前の光景に驚いていた。
その光景とは
こっちに向かってきていた小蜘蛛たちが
粉々になっているというものだった。
「ギギッ!?」
蜘蛛は目の前で何が起きたかを理解出来なかった。すると後ろから霊波が発せられている事に気付き振り向く。
するとそこには
“赤い”霊気の盾を持った
空牙の姿があった。
「メチャクチャ過ぎる!!アレは本当に人間か!?」
目の前で起きた“何か”に驚愕するメドーサ。それに対し小竜姫はある程度落ち着いていた。
(まぁこんな非常識な力を手に入れたのなら、こんな芸当が出来ても不思議じゃないですね)
小竜姫は確信しながらその闘いを見守る。その戦士の勝利を・・・。
(そなたもデタラメな行動にでるな。私でもそんな闘い方は知らんぞ)
「俺だってぶっつけ本番でこう上手くいくとは思ってなかった」
(ぶっつけ本番だったのか!?)
「当たり前じゃ!!俺は考えて“あんな事”出来んわ!!」
横島は心眼の問いに自虐的に答える。なにせ今まで自身をヘたれと思ってきていたのだ。コンプレックスを感じるのも無理ないだろう。
「横島さん!危ない!!」
おキヌを声に気付き前を向くと自分に向かってくる蜘蛛の姿が・・・。
(どうせなら接近戦でも試してみる価値があるやもしれん。もう一回だ!!)
「何かお前性格変わってないか?」
(気にするな。いくぞ!!)
心眼の言葉を聞くと霊気の盾を軽く宙に投げる。そして・・・
「どぉりゃぁあああああああ!!」
霊気の盾の中心を殴った。その瞬間、盾にヒビが入り蜘蛛の身体目掛けて分散し、直撃した。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
その破壊力に叫び声を上げながら倒れる蜘蛛。立ち上がるももう力が残ってないのは明白だった。
「いいわ横島君。そのままブッ飛ばしちゃいなさい!!」
美神の言葉を聞き止めを刺そうとすると、突如“声”が頭の中に響いた。
“たすけて”・・・と・・・。
「い、今のは?」
(そなたにも聞こえたか。どうやらあの蜘蛛の中にまだあの男の魂が残っているようだ)
「何!?・・・なんとか救えないのか!!」
(何故だ!?そなたやそなたの仲間を殺そうとしたんだぞ!!それなのに何故!?)
「もし操られているなら・・・俺は救いたい。助けられる魂なら・・・助けたいんだ!!」
空牙が“救いたい”と発した瞬間、霊力の質が変わった。今までの思いは“大切な人を護る”というモノだったが、この言葉を発すると“全てを救い、護りたい”という思いに変換したのだ。
(そなたは本物の馬鹿だな。今時こんな馬鹿はいない)
「悪かったな!!」
(よかろう。今のそなたからは異常なまでの“救世の気”が発せられている。
霊力を一部に集中させ奴に打ち込めば、邪気のみを打ち払う事が出来るかもしれんぞ)
「・・・!!・・・恩にきるぜ!!」
心眼の言葉を聞き霊力を集中しようとするがどうすればいいか分からなかった。すると突如頭の中に謎の古代文字が浮かび上がった。
『来たれ!青空を走る炎精の技よ』
本来分からないはずなのに理解できる事に空牙は一瞬驚いたが、その言葉を信じ構える。そして両手を右斜め後ろに下げ、同時に下げた右足を地面に擦る。すると擦った足から霊気の宿った炎が燃え上がる。
(いけ横島!!そなたの力を奴にぶつけて来い!!)
「おっしゃあああああああああああ!!」
一気に蜘蛛目掛け走り出す空牙。その速度は速いはずなのだが何故か周りにはゆっくりな様に見えた。そしてそのまま宙へ跳躍し
「でええええええええええええええいいいいいいいいいい!!」
右足を突き出し蜘蛛に全霊力を叩き込んだ。
そしてその右足を叩き込んだ瞬間、蜘蛛は大爆発した。
「ったく、何でこんなことになるのよ(怒)」
机に足を乗せながら美神がふて腐れていた。何故彼女がここまでふて腐れているかというと、まず第一に会場で変身した横島のことをGS メンバー以外は覚えていないのである。皆は口々に赤い戦士の事は話していたが、横島の事を覚えている者はいなかった。
第二に、横島が倒した蜘蛛は勘九郎に戻ったことである。更に勘九郎からは邪気が完全に消滅しており、清清しい青年となっていた。彼は己の罪を認め西条に連れられ連行されていったのである。
まぁこの二つに関して言えばまだこの不条理のGS世界という事で納得できるだろう。
では何にふて腐れているか?
それは・・・。
「横島さん♪」
べたべた
「横島さん♥」
べたべたべた
「横島さ〜ん♥♪」
「だぁー!!どうしたのおキヌちゃん!?俺なんか悪いことしたぁーー!?」
そう、いままで以上におキヌが横島に“憑く”ようになったのだ。それも人目を気にせず堂々と。おかげで美神はイチャイチャ(?)を毎日見なければならなくなってしまったのである。
「うっとうしいわーーーこの丁稚がーーーーーーーーーーーー!!」
「何でやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
これにより横島のボコられ回数が増加したのはいうまでもない。
あとがき
正月からのバイトで書くのが遅れたweyです。
とりあえずこれでGS試験編は終了です。今回出た霊気の盾を殴り飛ばすアレですが、分かりにくい方は盾をショットガンの様に放っている感じです。
あと古代文字ですが、いまいちマイティッキックを示すモノが無かったので多少オリジナルを入れました。
果たして次は何か!?では次回までさらばです。