「おめでとう美神くん。これで今日からきみも一人前のGSだ」
「有難うございます。唐巣先生」
母親と同じく、悪霊退治を100件こなした美神令子。彼女は高校卒業と同時に師の唐巣から独立の許可をもらう事が出来た。
こんな金銭感覚の無い、金にならない依頼ばかり受けている師匠のところなんか、早く一人前になって出て行ってやる。
常々そう思っていたはずの美神だったが、いざそうなってみると、やはり一抹の寂しさは感じていた。何だかんだ言って、唐巣はいい人で、そんなところを彼女は決して嫌ってはいなかったのだ。
ただ、ほんのすこ〜し金に縁が無いところがガマンできなかっただけで。
「それさえなければな〜…」
「ん?なんの事だね美神くん?」
つい、口に出しつつ回想にひたってしまう美神。不審に思った唐巣が話し掛けるが、気付かない。
「やっぱりお金って大事よね。ママもそう言ってたし」
「美神くん?それは本当かい美神くん?」
「あとは、やっぱりアレよね。髪の毛が…それさえなければ」
「美神く〜んんんん!?」
自らのウィークポイントを付かれた唐巣の魂の叫びに、ようやく我に帰る美神。
しかし、それさえなければ何だと言うのだろう?
「はっ!?あ、ごめんなさい先生。つい…」
「はぁ……ま、君もこれから一人でやっていくんだ。大丈夫だとは思うが、しっかりしなさい。何かあったらいつでも力になるからね」
美神の少し引っ掛かる謝罪を、それでも即座に受け入れて唐巣はそう言った。ここまでだったら、心温まる師弟のお話だっただろう。
しかし、続けて唐巣はこんなことを言い出した。
「で、だ。美神くん。GSの価値というのは何だと思う?」
「へ?」
「だからGSの価値だよ。私はね、GSの価値っていうのは……悪霊を払ってナンボだと思うんだよ」
でなきゃ、困った人を救えないしね。と、マジな顔で嘯く神父。そんないつもと少しばかり違う神父に戸惑いながらも、相槌を打つ美神。
「え…ええ、まぁそうですね」
「だろう?そこでだ。美神くん。きみ……妙神山へ、行かないか?」
「は?はぁぁぁ〜〜!?」
妙神山。皆さんお馴染みの竜や猿の神様の管理する修行場で、本来は超上級者専用コース。当然、駆け出しの美神に薦めるような場所ではない。
さすがの美神も、そんな危ないお誘いを慌てて否定する。
「む、無理です!いきなりそんなのは無理ですって!」
だが、唐巣は美神が今までに見た事も無い歪んだ笑みを浮かべて、強引に話を進め出す。
「ふふふ、解るよ、美神くん。そんな事を言っても、きみは行きたいんだろう?」
「行きたくありませんってば!!」
叫ぶ美神。しかし唐巣は邪悪さすら感じる笑みを深くして、ますます強引に話を展開する。
「ククク……解る、解るよ美神くん。行っちゃおうよ……なぁ。他のGSの事なんかかまうもんか。行こうよ、妙神山へ……修行に、なあ。俺たちだけ強くなっちゃおうぜ」
「せ、せんせいっ!?なにをいってるんですか!?」
あまりの師の変わりように、思わずひらがなでツッコむ美神。
ツッコんでから自分が動揺しているのに気付き、落ち着いて論理的に再度ツッコむ。
「いいですか?妙神山は神族の管理する修行場です。辿り着くだけでも一苦労。それに死ぬかパワーアップかってハイリスクハイリターンな…」
「美神くん」
「は、はいっ!?」
歪んだ笑みから一転、影を背負った迫力ある、真剣な表情の唐巣に名前を呼ばれて美神が黙り込んだ、次の瞬間。
「できないと思うならやるな!」
後光さえ差している、そんな光あふれるような、これまた美神の見たことも無かったような笑みで唐巣は爽やかにそう言いきった。
「くっ…」
その笑みに騙された美神は、考え込んでしまう。
そこまで言われれば……実は自信だって無いわけじゃない。自分は美神令子だ。きっとやって出来ない事は無い。いや、やってみたい。しかしリスクが…それに自分でも解っている。美神令子は意地っ張りだ。ここで「やる」と言ったらもう引き返せなくなる危険な旅!
できない……いや、やるべきじゃない!
妙神山が上級者用だっていうなら、それでいいじゃないか!くやしいが自分が駆け出しだと言うのは事実。私はやらない!人は人の作ったルールを守ってこそ、人との共存が可能なのだ!
それに妙神山へ行くよりも、先に事務所を立ち上げて荒稼ぎ、もとい一先ずGSとしての経験と信用を得るのに力をそそぐべきだ!こんな当たり前の事が何故わからないんですか先生!
一人だけ目立ちたいのか!?
一人だけ浮かれているのか!?
一人だけ他のマンガ家、もといGSと差別をはかりたいのかっ!?
ふざけるなあっ唐巣!!
混乱して、よく解らないノリのサッパリ解らない思考に至ってしまった美神。
彼女は更に考える。
今、この場でその唐巣を止めるべきではないか、と……
「本当に、私を妙神山へ行かせるつもりですか唐巣先生…?」
「ああ、そうだよ。だがそれだけじゃあない。私も行く」
「は?」
「フフフ…しかもだ。私は今回妙神山最高峰……ウルトラスペシャルハード&デンジャラスコースを受けるつもりだっ!!」
馬鹿なっ!!
妙神山というだけでなく、そこの最難関コース……っ!!
その発言は、美神の予想を越えるものだった!!
「あ…」
「ん?何かね美神くん?」
「ああ!」
「だから、どうしたと言うのかね?」
「唐巣、きさま…………ふざけるなーーっ!!」
とうとう師を呼び捨てにして、美神は叫んだ。
「それで俺に勝ったつもりかああっ!?」
「なに!?」
「それなら私はその最難関コースを………2回受けるっ!!」
「なにぃぃぃ!?」
ガラガラピッシャーーン!!
ここは唐巣の教会で、完全に室内だったはずなのに、全てを無視して雷が落ちる。
その余韻が消えるや、同時に低く、不敵な笑い声を上げる師弟。
「「フフフフフ…」」
「クク…それでこそ美神くん。憎いヤロウだぜ!妙神山に……俺たちの骨を埋めてやろうじゃないか!!」
「ウフフフフフフ」
「フハハハハハハ」
「「ワーッハッハッハッハッハッハ!!」」
そんな笑う2人の下に、一人の闖入者。
「あら、2人とも楽しそう。私も仲間に…」
「「お前は自分の時代を一生懸命生きてろー!!」」
ドコッ!
ツッコミ一閃、闖入者を場外へ叩き出し、その場の勢いで妙神山へと旅立つ師弟。
「いくら美神くん!きみでも……私を超える事は残念ながら不可能!」
「いえっ!私ならできる!その後自信を失って唐巣先生!あなたがもうGSができなくなる――それが逆に心配です!」
「そんな事はありえんっ!!」
「いえ、絶対そうなりますっ!!」
「じゃあ、決着を付けに…」
「ええ、行きましょうか。妙神山へ!!」
ちなみに、唐巣は後にこの闖入者を思い出し。それが美神令子に良く似た髪の色と顔立ちをしていたような気がしたが…
彼女は故人であるはずなので、まさかと思って見なかった事にしたそうな。
なお彼らが妙神山に出かける途中、バイト情報誌を持ってバンダナを額に巻いた少年とすれ違ったが…特にイベントは起きなかった。
色々と変わってしまってはいるが、それでも………………
銀河の歴史がまた1ぺぇじ(オイ)
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