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▽レス始

「きっと一緒に 第6話(GS)」

無気力娘 (2004-12-26 21:18/2004-12-26 23:00)
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「このGS……蛍が極楽へ、行かせてあげるわ!」

悪霊が伸ばしてきた手を神通棍で打ち払い、怯んだその瞬間滑り込むように間合いを詰め、悪霊へと破魔札を叩き付けた。
全ての霊魂を司るチャクラ―――核となる部分を内側から爆砕された悪霊が無事で済む訳が無く、宙へ霧散していく。

辺りに霊の気配が消え去った事を完全に確認すると、ようやく私は息を吐いた。

「除霊完了、と」
「よっ、いつも通り早かったな」
「ええ、いつも通りね」

唐突に背後から掛けられた男の声に、振り向きもせず私は当然のように答えた。
そう、これもいつも通り。
そして、振り向く必要も無い。

「さすが一流GS。俺の手助けなんていらないかな」

そっと後ろから腕が私の首へと回される。
身体から力を抜き、為すがままに背中を預けると―――蕩ける様な甘い声で、彼に囁いた。

「そんな事無い。私はいつだって、あなたと一緒」
「嬉しい事言ってくれるじゃないか。なぁ、GS”横島”蛍」
「ふふ、もう偽名じゃないものね。堂々と名乗れるわ―――旦那様」

そして、頬に添えられた彼の手、後ろを向かされた私の顔と彼の顔が近づいて……


んちゅー


きっと、一緒に

第6話 私と修行と影法師と


『……お二人の実力はよーく分かりました』

今日ここに来てから、もう何度この顔を見ただろう。
小竜姫様は何かを堪えるように先ほどから表情を引きつらせ……ついでに物凄い勢いでぷるぷると握った拳が震えていたり。
可愛らしいと言っていい小竜姫様の顔立ちは、見るも無残にその可愛らしさを打ち砕かれていた。
ほっぺたにあるキスマークだけは、ちょっと可愛らしい気がしないでもない。

「ご、ごめんなさい」
『謝れば良いというものではありません』
「神様に口付けなんて……」
『そ、そっちの事じゃありませんっ!!』

ぴぽーっと頭から湯気を出して、顔を真っ赤に染める小竜姫様。
……うん、その、唇はなんとか回避しましたから、許してください。
横島さんはというと、なんのことだかさっぱり分かってない様子。
分かってたらまた暴走しかねないし、何より私自身が恥ずかしいので助かったんだけど。

『……そ、それにしても何ですかっ。あの体たらくは! 二体どころか一体すら倒せないなんて!』
「無茶言うなーーっ! アレ美神さんが思いっきり苦戦してた奴じゃないですかーっ!」

”アレ”とは、今も広場の真ん中で闊歩するゴツイ岩で出来た一つ目怪人と、足が鋭いカマで出来た蜘蛛の化け物たち。
化け物だと言う事を差し引いても、全長が3、4mあるのは反則だと思います。
アレと勝負しろと問答無用で小竜姫様に消し掛けられてから1秒、私は一つ目岩怪人―――剛錬武(ゴーレム)のメガトンパンチ一閃で宙に舞い意識を失った。
その後の事は小竜姫様からの伝聞でしかないけど、カマキリ蜘蛛怪人―――禍刀羅守(カトラス)の初撃を横島さんは持ち前の回避能力で避けたらしい。
が、どんなに避けれても攻撃手段なしで、しかも2体が相手じゃどうしようもなく。
あえなく、ぼっこぼこ(撲殺)のずったずた(斬殺)にされたそうだ。

目が覚めた時、ちょっぴり寝惚けて小竜姫様に無礼しちゃったのは……秘密ったら秘密。

「俺達が思いっきり素人なのは説明したっしょっ!? それなのにいきなしこれは無いじゃないッスかぁー!」
「わ、わたしも死ぬかと思いました……小竜姫様……」

横島さん、血の涙を流しながら魂の絶叫。
それに対して、私の方は叫ぶ元気も無い。
身体中に包帯を巻いて涙を流す私達の姿に、さすがに失敗したとでも思ったのか、怒りを収めた小竜姫様はぽりぽりと頬を掻き、

『……完全に素人の方にお教えするのは初めてだったもので、手加減を間違えたかもしれませんね』
「「ちょっとーっ!?」」
『いえ、素質はあるんですから、追い詰めれば霊能力の一つも出せるんじゃないかと』

……ア、アバウト過ぎます、小竜姫様。


苛め以外の何物でもない試練に、私達はちっとも成長とか覚醒の兆しを見せなかった。
正確に言うと横島さんは僅かながら霊波は出せていたのだけれど、とても悪霊を退治できるほどとは言えず。
……私に至っては、カスほども霊波を出せていなかった。


集中力が足りなくて霊波が出せない横島さんはともかく、
精神修養やら追い詰めることによっての覚醒などは、散々母さんにやらされて来た私な訳で。
もっと根本的な―――修行というより、治療が必要とは小竜姫様の言。
『蛇口が錆付いている』、前にそう自分の事を表現したが、どちらかというと『蛇口が最初から存在しない』と小竜姫様は結論付けた。
いや、霊力を何度か出せたのだから穴こそ開いているのだろうけど……蛇口と呼べる物ではなく。本当は蛇口が付いている筈の穴に、蓋がしてあるだけなのだ。

霊波を発する蛇口―――それはつまり、身体に備わっている『霊波を発する』回路。
通常、一般人はこの回路がまったく働いていない。
もちろん、一般人だろうが霊能力者だろうがある程度は身体から霊波を発しているので、この場合『霊波を一点集中し高める』回路というのが正確らしいが。

それが霊能力者だと多少の差異こそあれ、この回路が動いているらしい。
この回路を自覚するのが、霊能力に目覚めるということだ。
横島さんのケースを例に挙げると……。
この回路に対する自覚が足りない、すなわち回路を使う事に慣れていない為、自分の意思で霊波を非常に出し辛く、出力も格段に劣ってしまう。
集中力が足りないのもその一端を担ってるらしいけど……霊波を使う事に慣れていけば、放っておいてもそのうち自分の意思で扱えるようになる、との事だ。

が、わたしの場合自覚うんぬんの前に、回路自体がない。
ついこの間、破魔札を使えた事を小竜姫様に説明すると、
『おそらく、一時的に霊力が何らかの影響で異常に高まったのでしょうね。先ほどの例えで言うと、タンクに水が溜まりすぎて漏れ出してしまった状態だと思います』
との事だ。
……つまり、蛇口ではなく蓋をしてあるだけの穴から、まったく使ってない霊力が溢れ出しただけ。
蛇口では無く蓋だから、当然自分の意思では開けられず。
蓋なのだから、当然霊力の調節なんて出来る筈もない。

それを聞き、私は愕然とした。
無能だ、無能だと思いながらも、自分は霊能力に目覚めてないだけだと思っていた。
なのに、神様から指摘されたのは回路がない事―――それは。
私に霊能力なんて物がないという、証拠だったのだ。


『蛇口がないなら作ればいいのです』
「はい?」

ショックを受けている私に掛けられたのは、そんな小竜姫様のあっけらかんとした一言。
人が絶望のどん底にいるのに、そんな『パンがないのならお菓子を食べればいいのに』みたいに簡単に言われてもどう反応していいやら。

「って、作れるんですかっ!?」
『正確には無理矢理魂に覚えこませる、というところですね。人界では難しいかもしれませんが、元々精神体の神族なら出来ない事は』
「是非お願いします! え、えっと、手術費とかそういうのが必要なら、いくらでもお支払いしますからっ!」
『……お金の問題じゃないんですが』

はわっ、興奮のあまり思わず母さんみたいな事を。
それに今の私はバイトで生活を立てる中学浪人生。
いけないいけない、ここではスネを齧る親はいないんだから、自覚しないと……。

「お金の問題じゃない、ということは何か問題が?」

ずっと黙っていた横島さんが―――難しい説明が長々と続いていたので眠かったのかもしれない―――冷静に質問する。
それに対して小竜姫様はにっこりと微笑む。

『ええ、大した問題ではありませんよ。ちょっと命がけなだけで

………。

いやぁぁぁぁぁ!?
小竜姫様、もしかしてさっきのキスの事怒ってますかーーっ!?

「ちょ、ちょっとって……大丈夫なんスか!?」
『ええ。でも、美神さんがやったコースよりは危険ありませんよ。あれは成功か死かでしたから』

今回は、成功か失敗か死かだと。
あはは、確かにそれだったら1/2が1/3までちょっとだけ死ぬ確率は減って……って納得できないーっ!

「そんな危ない事蛍ちゃんにやらせる訳にはっ」

と、私が泣き喚く前に横島さんが渋い表情で小竜姫様を諌めようとする。
ああ、やっぱり私の味方は横島さんだけ―――

「どうしてもやるっていうなら、その前に一発ーー!」

そう言って私に飛び掛ろうとした横島さんが、目の前で掻き消えた。
目を丸くして、左右を見渡すが……どこにもいない。
数瞬置いて、ずっしゃああっと横島さんが上から落下してきた。
たった一瞬の出来事だったと言うのに、胴着が原型を留めていないほどに見るも無残な姿。
え……えーと。

何故か鞘に入ったままの剣を振り切った体勢でいた小竜姫様が、私ににっこり微笑んで問うた。

『やりますか? 死にますか?』
「……是非やらせてください」

どんどん雰囲気が荒んでいく神様に、私は涙を流しながら頷くしかなかったのだった。


「し、小竜姫様……質問が……」
『はい、蛍さん。何ですか?』
「どうしてわたしは縄で縛られているんでしょうか?」
『逃げそうだからです♪』

―――うん、小竜姫様の言う通り、縄で縛られてなかったら逃げてたかもしんない。
いや、確実に逃げていた。力の限り、妙神山から一歩でも遠くへ逃げようとしていただろう。

まるで火あぶりにされる罪人の如く、突き立てられた柱の先に私は縄で括り付けられていて。
真向かいには十メートルほど先にまったく同じ姿をした横島さん。
『ここは中世かーっ!? 魔女裁判やーっ!』などと泣き叫んでいるのは、私と同じ思考をしたのか。

しかも……お前達は生贄だ、と言わんばかりに柱の足元には複雑な魔方陣が描かれており。

「じ、邪悪な儀式とかおもむろに始まったりしませんよね?」
『一応私は竜神の端くれなんですが……』
「い、いえっ!? 小竜姫様が邪神だなんて思った訳じゃなくってですね!」
『……邪神?』

ああっ、またこの口は余計な事を!?
恐る恐る小竜姫様の表情を窺うと……わー、泣いた子供も号泣しそうなすんごいお顔♪

『素人ということで、優しく終わらせてあげようという私の心意気は必要ないみたいですね』
「必要ですっ! 凄く必要っ、思いっきり必須ですからっ!」
『……ふう、説明しますから良く聞いてくださいね。そっちで騒いでる横島さんも』

話を振られた横島さんは、凄い勢いで上下に首を振った。
当然だが、私も首が取れんばかりに頷いている。

『横島さんは見覚えがあると思いますが、これはあなた達の精神の分身体―――影法師(シャドウ)を抜き出す方陣です』
あ、美神さんの修行で使った……

覚えがあるのか、遠くから聞こえる横島さんの声。
今の一言からでは詳しい事まで分からないけど、精神の分身体というからには精神体(アストラルボディ)、幽体に近い分身なんだろう。
それを使って修行……おそらくは精神、引いては魂や霊能力を直接鍛える事が出来るんだと思う。
なるほど、あの母さんがこんな辺鄙な修行場まで来る訳だ。
まあ、分身とはいえ精神を剥き出しにするんだから、やっぱり危険なんだろうけど……。

『あなた達にはこれで戦ってもらいます』

その言葉に、私は目をぱちくりと見開き、横島さんはしばし宙に視線を彷徨わせ、

「「えええええええぇぇっ!?」」
「拒否は許しません」
「それって横島さんと!?」
「それって蛍ちゃんと!?」
「はい、そうです」

小竜姫様の肯定の返事に、私達の視線がお互いに向けられる。
いくら今が駄目駄目だと言っても、相手はGS試験を潜り抜けた横島さん。
それに……


頭を掠めたのは、あの時の、一瞬の光。
悪霊を蹴散らした、横島さんの”力”。


―――勝てるわけが、ない。


無理です、と言おうとした。
だけれど、その反応を予測していた小竜姫様の忠告の方が圧倒的に早かった。

『どうしても嫌なら、美神さんの時と同じくさっきの剛錬武や禍刀羅守を相手にしても―――』
「やりましょう、横島さん!」
「やろう、蛍ちゃん!」

そして交わる私達の視線の意味は、ただ一つ。

―――痛いのは無しな、蛍ちゃん。
―――ナアナアで済ませましょうね、横島さん。

一瞬で交わされる私達のアイコンタクト……が、当然ながら竜神様はお見逃しになられなかった。

『手を抜いたように見えたら、この私が直々にお相手して差し上げますので』

……退路は、完全に断たれた。


『では、方陣に霊気を流します。自分の霊力に気持ちを集中させてください』


小竜姫様の言葉と共に、身体を電流が―――違う、霊力の波が駆け抜けていった。
身体を舐めて行くような、魂を根こそぎ検査していくような、嫌な感触。

霊力と言われ、真っ先に思い浮かべたのは自分の力なんかじゃなく、

それは一瞬の出来事。

私にとって、頼りになる力。助けてくれる力。

思考が周る時間なんてなかった筈なのに、目の前の横島さんと目が合う。

あの時の、”光”が、私を助けてくれると、助けてくれたと

横島さんの目は真っ直ぐ曇りなく、私を確かに見詰めている。

私の”魂”は覚えている。どうしようもなく、途方もなく。


わたしは、私は、あの力を、あの目を


―――覚えている―――


光が私達の間に集まる。
私から流れ出たものが、魔方陣を通し、目の前に出現する。
零れるようで、淡い光は。
溢れるようで、眩い光は。
ここを、この空間を、真っ白に染め上げていた。

『これは……!?』

どこか遠くに聞こえる小竜姫様の声。
光が収束し、人型を作っていく。
それだけじゃない、もっと明確に人の形を、象っていく。
手足はほっそりと長く、身体は光と相反する黒のボディスーツに。
頭にはバイザーと……まるで触覚のような、二つの細長い髪飾りを。


「……あれ?」
「……むぅ?」
『……はい?』

三者三様の声が響く。
そこに現れたのは女性の形をした影法師。
誰が何と言おうとそれは確かに、”私達”が出した分身体。

つまり、

私が右手を上げる。シャドウは右手を上げる。何故か横島さんも右手を上げる。
横島さんが左手を振る。シャドウも左手を振る。どうしてか私の左手も左右に振られる。


『どうしてシャドウが一体しか出ていないんですかーーーっ!?』


小竜姫様の叫び声……いや、悲鳴が広大な修行場に木霊した。

そんなこと言われても……ねえ?

私と横島さんが同時にへらっと誤魔化し笑いを浮かべると。
シャドウも―――どこか苦笑した笑みを浮かべるのであった。


一方その頃。

「まったく、荷物持ちがいないと仕事する気も起きないわね」
『いいんですか? 仕事キャンセルしちゃって……』
「おキヌちゃんはこの雨の中仕事したい? あたしは嫌よ」
『もう、美神さ〜んっ』

そんな暢気な会話を交わす二人がいる事務所の外で、

ドガシャーンッ!

と、一筋の轟雷が鳴り響くのだった。


☆★あとがき★☆
……蛍パワーアップ、ならず。
……余計状況をややこしくしてみた。べんべん(棒読み)


>九尾様
何度血反吐を吐いたか分かりません(by蛍)。
美神、身内には特に手加減しなさそう。
心眼と蛍の双子……いいですね。
今度短編で一本書いてみましょうか。
実に対照的な姉妹になりそうな予感。

>偽バルタン様
オとさなければ横島ではありません。
心眼も草葉の陰で泣いてそうです。
小竜姫様に関しては、無意識の産物という事で。

>紫竜様
横島は横島だから、横島なのです。
ダブルルシオラをやるには、まず蛍がルシオラを自覚しなければなりませんが、聡いようで鈍い子なのでいつになることやら。

>リーマン様
……横島が基本をまったく知らない、という設定の二次創作がほとんどですしね。大抵美神に習うより、妙神山で教わってますし。
そして、結局このSSでも『初心者霊能講座』と何にも代わりがないのでした、まる

>D,様
「……父様(とうさま)、我は恥ずかしい」
みたいな子供。横島が恥ずかしいのはデフォ。
”縁”に関しましては恋人だったり、一心同体になってみたり、親子になったり、従妹(偽)になってたりと多彩なので。ある意味一生付き合ってるより長い付き合いです。

>通りすがり様
原作でも二次創作でも、横島の優しさだけは変わらないと思います。
で、ちょっぴり原作の補填です。
そして我がヒロインは、客観的な観点は意識的に、前世の記憶は無意識に。
蛍とルシオラの両視点から描写できる素敵設定。

>LINUS様
こんな感じになりました。
能力がどう転んだかは次回で。

>匿名希望様
……小竜姫様の嫉妬はそんなに良かったでしょうか?
なんだかとっても人気で驚いてます。
蛍の能力は、何故だか明後日の方向に。
父親の能力にも、美神家の能力にも、終いには前世の能力にもそっぽを向かれ。
蛍の明日はどっちだ?

>義王様
そして、地獄のバイト生活で感覚を磨いた節あり。
……まさに大器晩成?

>朧霞様
なんだかんだ言って、修行らしい修行は一回きりだったんですよね、横島。
あとはGS試験や原始風水盤事件、アシュ編みたいな実戦イベントのみ。
……こー見ると完全無欠の天才のように聞こえるから不思議です。
人格と能力は比例しません。

>梶木まぐ郎様
どちらかというと後者の今回の話でした。
説明は長ったらしいので、前回と今回で二つ分け。
……二人のやり取りは脊椎反射で書いているので、ちょっと間が開くと書きにくくて大変です。

>柳野雫様
シリアスは持って一分。
それがギャグキャラの運命。


……同時イベント勃発。
次回はたいちょー襲来編。

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