「まぁいいさ、これを餌に誘き寄せればいいさ、まってな「「横島忠夫!!」」」
Legend of Devil vol.5 Assault その3
シャ〜〜〜
シャワーの出る音が響き渡っている。ここは美神除霊事務所の浴室である。美神が鼻歌交じりで朝のシャワーを浴びているのだ。朝と言っても既に11時を回っている為、どちらかというと昼のシャワーではあるが、美神が起きてすぐなので朝と言っても良いだろう。
今日は特に定休日という訳でもないのだが暇である。顧客の多くが横島除霊事務所に乗り換えた為依頼が少々減少し、急ぎの書類のない時はこのように暇な1日ができるようになった。だからといって儲かっていない訳ではない。極力、霊符や聖霊石を使わずに神通鞭や横島から毎週送られてくる(人員を派遣して取りに行かせることもある)文殊を駆使している為あまり元手がかからないのだ。
ガシャーン
『大変です! 何者かが結界を破って侵入しました!』
窓ガラスが割れる音とともに人工幽霊一号が警戒を訴えた。
「なんですって!?」
良い雰囲気でシャワーを浴びていた美神だったが声を荒ぶらせて聞き返した。
『魔族が3体、所長室です!』
その声を聞き、入浴後着ようと準備していた衣服を手に取り、足早に所長室へと向かう美神。
所長室のドアを開けて美神が目にしたものは3体の魔族と対峙するおキヌ、シロ、そしてタマモの6人だった。所長室は窓ガラスが割れている以外荒らされた様子はない。ただ無造作に投げ捨てられた女性週刊誌とこぼれた紅茶が床の絨毯を汚しているくらいだ。
その3体の魔族は美神は知っている顔だった。少女の風貌と蛇のような目をした女魔族、メドーサ、少年姿のやたらと目つきの悪い魔族、デミアン、そして蠅の姿の見るのもおぞましい魔族、ベルゼブルであった。3体とも不適な笑みを浮かべて佇んでいる。
(こいつら生きてたっていうの!? コスモプロセッサの崩壊と一緒に消えたと思ってたのに)
「やっとご登場かい、随分暇してるみたいだね」
不適な笑みを浮かべたままメドーサが口を開いた。
「そんなことを言う為に来た割りには随分手荒な訪問ね」
平静を保とうとする美神だが、魔族の前では流石に緊張を強いれられていた。悪態を吐くも全身が緊張した状態で構えを解くことができない。
「今回は万全を期そうと思ってね」
「?????」
メドーサの言葉は美神にとって理解し難いものだった。万全を期す、どのような意味で使ったのか?
「人質は多い方がいいからな、あの小僧の所の前に来たってわけだ」
「大人しくすれば殺しはしないさ、大人しく人質になってもらうよ」
「「「「!!!!」」」大人しくつかまるとでも思ってんの?」
デミアンとメドーサの言葉で全員が理解した。こいつらは横島を殺しに来た、と。“復讐”美神とおキヌの脳裏にはその二文字が浮かび上がった。
そして、自分たちの力ではこの3体の魔族の足元にも及ばないことが分かっている。以前は勝てた、しかしそれは相手が人間をなめきっていた事もあり、意表を突いた勝利や、竜気のおかげでのギリギリの勝利だったのだ。美神は戦略的撤退の方法を模索し始めた。
「先生に何をするつもりでござるか!!?」
空気の読めないシロ、美神が戦略的撤退を考えているとはつゆ知らず、右手に霊波刀を出し、犬科特有のうなり声を上げながら3人の中心に立っているメドーサに切っ先を向けて叫んだ。
「随分元気がいいね、どうするだって? 消すに決まってるじゃないか、私らはアイツを認めない! ましてや魔し「「!!!!」」」
メドーサも言葉を遮り、魔族3人組の周りに炎が舞い上がった。突然のことに3人は驚きは隠せなかった。
「それ以上喋らないで。 ヨコシマを消す? ふざけないで! アイツはいろんな事を乗り越えて、全て覚悟の上でやっと望みを叶えられるかも知れない所まで来たのよ!? 邪魔なんかさせない!!」
炎の正体はタマモの狐火だった。更に狐火を放ち魔族3人組を取り巻いていく。
(((タマモ(ちゃん)は何を言っているの?(でござるか?))))
「ミカミお願い。 このことをヨコシマに伝えて! ここは私が何とかするわ!」
「あんた何言ってんのよ!!」
「そうでござる! タマモ一人でなんとかなる相手ではござらん!!」
「お願い・・・・・・・・・」
タマモの言葉を否定しようと駆け寄るミカミ、おキヌ、シロ、しかし狐火を放ちながら「お願い」の言葉と一緒に傾けた視線は悲哀と覚悟が折り重なったものに見えた。
「・・・・・・・・・分かったわ」
「「美神さん!!」」
「ただし! 全部終わったらアンタの知ってること全部教えてもらうからね!」
美神の言葉にフッと笑みを浮かべるだけのタマモ。
「お話しは終わったかい?」
「ゲハハハ! この程度の炎でくい止められると思ったのか?」
「!!!!! 行って!!」
「行くわよ!」
「は、はい」
「くっ!」
タマモの言葉をきっかけに美神達は走り出した。
「逃がすと思うのかい?」
その言葉と一緒に未だ不適な笑みを浮かべたままのメドーサが指を鳴らした。それを合図に3人が炎の中から飛び出す。メドーサは上から直接二股の矛でタマモを襲う。デミアンは右から体を増殖、変化させながら、ベルゼブルは左から直接走り出した美神達を襲う。
「火遊びするとおねしょするんだよ!!」
そう言いながら目を見開き襲いかかるメドーサ。
ヴン!
「「「!!!!!」」」
魔族3人組は突然視界が奪われ暗闇に沈んでいった。タマモの幻術である。視界を塞げばどのような生き物であっても一瞬取り乱す。そして、美神達を逃がすのはその一瞬で充分だった。追い討ちとしてそれぞれに狐火を浴びせたタマモ。メドーサ達は消えていく美神達の霊力に舌打ちをした。
「たかが妖怪がやってくれたね」
視界が塞がれているがタマモの霊気を感じる方向に話しかけるメドーサ。
「これであなた達のことがヨコシマに伝わるわ、それにばらさないってヨコシマと約束しちゃったもの、美神達に悟られる訳にはいかなかったの」
「? まぁいいさ、一人でも人質にできれば充分さ」
炎を纏ったまま笑みを浮かべてメドーサは言った。次の瞬間、タマモの目から見れば一瞬のうちに消えたメドーサが突然目の前に現れその拳を自分の鳩尾にめり込ませてきたように見えただろう。
視界が塞がれているメドーサとしては頼りになるのは相手の霊力発生源である、逃げられたときは後を追うのに少々手こずるだろう。しかし、超加速によって距離を詰めることでその可能性はかなり低くなるのだ。
鳩尾を強打されたタマモはそのまま気を失った。それに伴い魔族3人組の視界は回復した。
「フン、手こずらせてくれたな」
「収穫は妖怪のガキ一匹だけかよ」
「まぁいいさ、これを餌に誘き寄せればいいさ、まってな「「横島忠夫!!」」」
続く
あとがき
こんばんわ鱧天です。
今回のAssault(襲撃)は如何でしたでしょうか? 取り敢えず魔族が行動を開始するところを書きたかったんです。 神族の暗殺部隊も考えていたんですがそれは後日と言うことで。
さて、タマモが人質として捕まりました。開業から3ヶ月間たった横島の実力を知りたかった人も多かったと思うのですが、それは次回作Counterattack(反撃)でご披露致します。 ・・・・・・・・・今回横島出番無し、主役タマモ?
それでは〜