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「繋がりの年代記 三話(GS+終わりのクロニクル)」

伏兵 (2004-12-22 18:36)
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 結界らしきものを抜けた横島は、辺りを警戒しつつ首を傾げていた。
 手に持っている携帯電話に電源が入らない。
 前に充電を忘れてえらい目にあってからは、携帯の充電を欠かしたことはない。

「……?」

 携帯だけではない。
 左手につけている、安っぽい時計の針も止まっている。
 それ以上に妙なのは、先ほど聞こえてきた声だ。

 ・――貴金属は力を持つ。

 という、声。
 誰かが大声で叫んだのではなく、直接頭に響いて来るような声だった。

 ……どういう空間だ?

 背後を振り返れば先ほど抜けた壁がある。手を伸ばして触れると、ざらついた触感が指先に来た。

「さて、――どうしたもんかね」

 呟き、周囲を見渡す。
 壁に隔てられているという事以外、異常は見受けられない。

 ……とりあえず、歩くか。

 思い、足を上げた時だ。
 遠くから音が聞こえて来た。
 足音だ。

「っ!」

 足音は二つ。踏みしめるように走る小さな音と、踏み砕くように疾る大きな音。
 人のものと、人外のものだ。
 横島は右手に“栄光の手”を生み、左手はポケットの中へ。文珠を握り、前に駆ける。
 森の枝葉がつくる陰の中、横島は前方を走る二つのものを確認した。
 一つは少年。サイドに白髪の入ったオールバックの髪型で、高そうなスーツに身を包んでいる。障害物の多い山の中で速度を失わないその足取りは、一目で武道経験者だと見て知れる。
 二つ目は、おそらく人狼。鋭き爪を持つ前肢を振りつつ、二本の脚で少年を追いかけている獣だ。
 それらを確認し、横島は左手をポケットから引き抜いた。無手の左手に霊力を集め、盾を形成する。
 サイキックソーサーだ。
 横島はその盾を、

「喰らいなっ!」

 投げた。
 サイドスローで投擲された盾は軽い弧を描いて少年を避け、背後の人狼にブチ当たる。
 が、という音を吐いて人狼がのけぞった。
 しかし人狼は即座に体勢を立て直し、こちらを睨んで疾駆した。

 ……効いてない!?

 先のソーサーには下級の霊なら一撃で焚滅させる霊力を込めている。
 それが効いていない。

「どういうことだ!?」
「それはこちらの台詞だ!」

 声に出した疑問に、少年が答えた。

「あれは一体なんだね? 知っているなら答えたまえ!」
「人狼だ!」

 返す言葉は一言。
 それ以上の応答をする間もなく、人狼が駆けて来る。
 考える。こちらの攻撃は効かない可能性があり、しかも少年を護らなくてはならない。

 ……この状況で、最も有効な行動は――!

 横島は両の掌に霊力を集中し、人狼に真正面から向かい合った。
 振り上げられた爪は刃のごとく鋭さを持ち、それを支える上腕の筋肉は太いの一言。受ければただではすまない。
 が、横島は不敵な表情で両腕を大きく横に開いた。そして、

「サイキック猫だましッ!!」

 勢い良く両掌を打ち合わせる。
 スパークした霊力が閃光を撒き散らし、人狼の動きが止まった。その隙に、

「逃げるならば今か」

 聞こえた声は少年のものだ。
 的確な状況判断に横島は笑みを浮かべ、言う。

「逃げるんじゃないぞ。――戦術的撤退だ」
「その意見には同意する」

 頷きを交わし、二人は同じ方向に走った。


        ○


 ある程度走ったところで、少年が腕の時計を見て言う。

「もはや、待ち合わせの時間は過ぎているのだろうな」
「お前も時計、動いてないのか? ――やっぱり異相空間だな」

 言う横島に、少年は視線を向けた。ややあってから口を開く。

「――自己紹介を。尊秋田学院次期二年副会長、佐山・御言だ。貴方は?」
「美神除霊事務所所属、GS見習いの横島・忠夫。――ゴーストスイーパー、知ってるか?」
「現代の拝み屋だろう。――とうとう私もオカルトに関係するようになったか。ようこそ見たものを信じる世界へ、というわけだ」
「理解が早いな。胡散臭くないか? 除霊屋なんて」
「五年前、アシュタロスやらいう魔神の事件は私も覚えている。あれ以来オカルトの認知が急速に高まっていることは貴方も知っているだろう?」
「……そうだな」

 頷く横島の表情が一瞬だけ暗くなり、すぐに引き締められる。

 ……ワケありか。

 深くは聞かないのが礼儀だと判断し、佐山は自分の疑問をぶつける。

「この空間は一体何だね?」
「知らん。異相空間――つまり、元の世界から少しだけズレた空間だってことは分かるが」
「……異相空間か」

 その語を口に出して反芻し、

 ……まるで漫画だ。

 佐山は口元に笑みを浮かべた。
 その直後だ。
 大きな足音と、小さな悲鳴が聞こえた。

「――!」

 二人は悲鳴の聞こえた方向に走り出した。


                      ○


「よいしょ、っと」

 ベランダから布団を取り込み、朧は一息。

 ……そろそろ夕方ね……。

 月とは違い、地球の空は青い。
 月から見ていたそれはふとすれば落ちていきそうな漆黒だったが、地球のそれは広がりと光のある蒼穹だ。
 その空が、赤く染まっていく。

「昼と夜の狭間……少しの間しか見れないから、こんなに綺麗なのかしら」

 やはり地球に来て良かった、と思いつつリビングに戻りキッチンへ。夕食の支度をしている神無の脇を抜け、冷蔵庫の扉を開ける。
 中から取り出したのは一リットルの赤い紙パックだ。IAI製三倍濃縮ドクターペッパーであるそれには、太い字で“紅尉推薦”との文字がある。 
 朧はうきうきとしながら戸棚からコップを取り、それを注ぐ。三倍濃縮なので水で薄めるのが常なのだが、

「原液で飲むのがおいしいのよね」

 口に出した言葉に、神無が嫌そうな顔をしてキャベツを切る手を止めた。

「良くそんなものが飲める……」
「何でー? この、どうにも表現しにくい感じが味蕾にびびっと来ない?」
「確かにびびっと来るがそれは美味とは違う刺激だ。大体、――それは薄めて飲むものだろう」
「三倍濃縮の原液だと通常の三倍びびっと来るのよ?」
「朧、お前は今、自分が味覚障害者だと自白した」
「してないわよー!」
「した。いいから居間に戻れ、台所は危険な場所だ。――お前が居ると」

 ひどいー、と抗議するが神無は聞き入れない。包丁の刃をちらつかせて退去を迫る。
 仕方なくリビングに戻る。と、羽音とともに虫が入ってきた。

「やっほー」

 窓から入ってきたその虫は、人形に羽の生えたような形状をしていた。

「あ、鈴女ちゃん」

 朧は挨拶を返す。
 鈴女は横島の知り合いで、美神除霊事務所に巣をつくっている妖精だ。
 最貴重種保護妖獣とやらで繁殖相手を探しているらしいが、男女の区別がつかない。
 前は美神・令子が対象だったが、

「朧ー、神無お姉様はー?」

 最近の獲物は神無だ。

「キッチンで夕食の支度してるわよ」
「ありがとっ」

 羽音を立ててキッチンに向かった鈴女を見送り、朧は椅子に座った。
 持って来たドクターペッパーをコップに注ぎ、台所から聞こえてくる叫びをBGMにそれを飲む。
 舌を貫く感覚に恍惚としていると、

「わ、私は最貴重種保護妖獣よ? 殺したりしたら妖獣保護法違反でブタ箱行っちゃうのよ?」
「鈴女、何度も言うが私は月神族だ。――人間の法なぞ知らん!」
「きゃー! 妖精殺しー!」

 朧の目の前を鈴女が飛び抜け、その後を神無の投げた包丁が追う。

「また来るからー!」
「二度と来るなー!」

 叫び、神無は窓枠に突き刺さった包丁を回収する。
 朧は笑みの表情で、

「慕われてるわねえ」
「迷惑だ」

 むすっとした表情で神無は答える。
 その反応が面白く、神無はさらに語を続けた。

「そう邪険にすることもないんじゃない?」
「この前私の下着を盗んで行ったのだぞ。――あの羽虫め、今度こそ切ってみせる」

 包丁を握る手の力を強める神無に、朧は微笑を一つ。

「やっぱり、地球に来て良かったわね」


               ○


マイナーキャラを出す事をウリにしようかと思った伏兵です。
加速度的に原作読んでないと分からなくなってますが、フレキシブルに対処してください。
ちなみに概念空間において、力を得る事を規定されていない霊力は物理衝撃と同じく、威力が減衰します。例をあげればタマモの狐火。文字が力を持つ1st-Gの概念空間では、普通に放ってもミディアムレアが精々。しかし火文字で“火”と描けばウェルダンが可能、という感じです。
あと小ネタ解説。“紅尉推薦”とは“赤い彗星”をもじったものです。まぶらほの紅尉晴明も推薦する炭酸飲料だという事です。……さすがIAI('A`)
それにしても今回の目玉は鈴女。選考基準は“なんとなく”です。次は多分八兵衛とか死神とか(何故

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