「お久しぶり・です、横島さん」
マリアは横島の姿を確認すると、嬉しそうに話しかける。
「久しぶり――マリア・・・大体何年ぶりだったかな」
横島も嬉しそうに頬を少し緩めながら、マリアに答える。
「1年3ヶ月11日21時間30秒・です」
マリアのその正確な答えに横島は苦笑しながら、部屋の中へ歩み寄ろうとする――が、
グイ
「っと・・・あぁ、挨拶が遅れてたな」
蛍は横島の裾を掴んでいたため、先に進めない横島が蛍の事を思い出し蛍の姿を目の前にいる二人へと晒させる。
――すると、
ピキィ
カオスは硬直し、マリアは内部ブレイカーが落ちて固まる。
―――あぁ・・・俺もこうなる事は多少は・・・多少は考えてたさ!
GSB横島修羅黙示録!!リポート6
「・・・?」
蛍は目の前で動かない二人を見て首を傾げている。
「・・・」
俺は俺で、目の前の二人が何を言ってくるかを幾通りもシュミレートし、対応を考えてきた――さぁ、かかって来い!
明らかに気合のベクトルの方向性を間違えてる横島をよそに、ようやくこちらの世界へと帰ってきたカオスと再起動したマリアは静かに横島へと歩み寄ってくる。
ポン
「坊主・・・」
「・・・横島さん」
「な、何だ」
近づいてきたカオスは横島の右肩に、マリアはカオスと逆の左肩に手を置くと、いっそ優しい問い掛けに思わず身を竦める横島。
――そして、
「人をやめても人の道理を捨てるのはどうかと、ワシは思うんじゃが」
「横島さん・罪を・償ってください!」
ドコシャ!
「・・・」
無言で床に突っ伏し、その額で木の床をぶち抜いた横島・・・それを突付く蛍の姿があった――以外にコンビとして相性はいいのかもしれない・・・お笑いコンビとしては。
「がはははははははは――まぁ坊主、冗談じゃからそう不貞腐れるな!」
「・・・」
高笑いするカオスの前に座り、無言でマリアの淹れた番茶を啜る横島。
――ちなみに、マリアは本気だったりするが。
「で、その嬢ちゃんはどうしたんじゃ?」
カオスは話を逸らそうと、横島に問い掛ける。
「名前は蛍・・・わけありで俺の義娘として連れている」
ピクッ
「ふむ・・・よろしくな、嬢ちゃん」
「よろしく・お願いします、蛍さん」
カオスは蛍と聞こえた一瞬、顔をしかめたがすぐに満面の笑顔を蛍に向けると挨拶した―――それは、千年を超えた年月を生き、恐れられた錬金術師の姿は無い、唯の好々爺のソレであった。
マリアもアンドロイドと誰も思わないような、綺麗な笑顔を添えて挨拶をした。
「ぇと・・・その」
蛍は挨拶の習慣を殆ど知らないため、目の前の二人にどうやって対応をすればいいのか分からず困惑する。
―――そんな蛍に横島は助け舟をだす。
「こういう時にはよろしくお願いします、って言うんだよ」
「・・・よろしくおねがいします」
声は小さいながらもハッキリと挨拶した蛍の頭を横島は撫でる。
カオスとマリアはほのぼのとした雰囲気が部屋に漂うのを感じた。
「そういえば、坊主は何のようで来たんじゃ?」
カオスはお菓子で蛍を釣ったお蔭かどうかはしらないが、「おじいちゃん」と呼ばせる事に成功させた・・・その時のカオスの様子は饒舌しがたい。
―――ちなみにマリアは、蛍におねえちゃんと呼ばれている(横島が呼ばせた)
「あぁ、実はな・・・」
カオスに問われた横島は、蛍の服が今着ている分しかない事・マリアに蛍と一緒に服を買いに言って欲しい旨をマリアに伝えた。
「ノー・プロブレム!分かりました・横島さん」
「サンキュ、マリア」
横島はマリアにお金を渡すと、蛍に顔を向ける。
「という訳だから、蛍・・・マリアお姉ちゃんと一緒に買いに行ってくれないか?」
―――マリアお姉ちゃんと呼ばれたマリアは、熱暴走によって顔が赤く染まっている事を追記しておく。
「タダオは一緒じゃないの・・・?」
蛍に悲しそうに見上げられる横島・・・思わずたじろぎながらも、しどろもどろに答える。
「えと、えっとな蛍、俺は「嬢ちゃん」」
困惑する横島に助け舟を送るのはカオス。
「坊主は、ワシと少し話しがあるんじゃ・・・すまないのう」
カオスは済まなそうに蛍に言う。
「うん・・・分かった」
「蛍さん・一緒に・行きましょう」
マリアは蛍の手を握ると、管理人室を出て行った。
シンッ・・・
二人がいなくなり、一気に室内の温度が下がった感のする部屋・・・そこでは二人の男がお互いに背を向けていた。
「さて――質問に答えてもらうぞ・・・坊主」
「・・・あぁ」
カオスの顔は窺えないが、その圧力のある声に横島は口調が固くなる
「まず、あの嬢ちゃんの事じゃが・・・何故蛍という名前を付けたんじゃ・・・まさかあの魔族・・・ルシオラの代わりにし「違う!!」・・・」
カオスの言葉は、横島の激昂によって途中から遮られる。
――しかし、カオスの詰問はここで止まらない
「ならば何故!―――義娘として引き取っているあの娘の名前に蛍とつけたんじゃ!」
「・・・ッ」
今度こそ横島は何も答えることが出来なかった。
ギシィ
「まだ・・・振り切れておらんのか?」
カオスは椅子に深く座りながら、静かにそう問い掛ける。
「もう・・・未練なんてものは朽ちた・・・しかし、俺の中では自分の娘に蛍と名前を付ける以外在り得ないんだ・・・」
横島は吐き出すように苦悩を話し出す――その姿はまるで、人生に疲れた老人のようでもあった。
フゥ
カオスは暫く考えていたが、ため息と共に気分を変えるとまだ気になってる部分を横島に問い掛ける。
「それはともかく・・・あの嬢ちゃんは何者なんじゃ?――かなり霊格が高そうに見えたんじゃが」
横島もその言葉を渡りに船と思い、それに答える。
「あぁ・・・元々は美神さんの事務所の人口霊魂だ・・・今はソレが昇華し精霊と化している所を俺が見つけ保護したんだ・・・」
「な、なんと!?―――人口霊魂が昇華するとは・・・もしやマリアやMシリーズでさえ年月が経つにつれて霊力が伴うのか・・・それとも・・・・」
ソレを聞いたカオスは興奮し、独白しだした。
ハァ
―――こうなると、戻ってくるまで長く掛かるなぁ
何だかんだいって、長い付き合いである横島はこの状態のカオスの意識を連れ戻すのは無理だと分かっているので、早々に諦め自分で茶を淹れに行く――かってしったる他人の家であった。
「ぉ!――悪いな坊主・・・また悪い癖が出てしまったようじゃ」
「いや、気にしてない」
カオスの意識が戻るまでの30分、横島は自分で淹れた茶と茶菓子を手に寛いでいた。
「さて・・・嬢ちゃんの事は置いといて―――アレの完成はここまでしたぞ」
カオスはそう言うが早いか、部屋の中心に置かれてある丸机に手を翳す。
――すると、机の表面に魔法陣が浮かび上がりその刻印に沿って、カオスの魔力が通っていく。
ヴォン
先程までいた管理人室が一転し、見たこともないような器具が所狭しと設置された―――研究室のような部屋へと、横島達は現れた。
コツコツコツ
二人は、そんな変化に全く気にせずに隣の部屋へと向かう。
ギイイイイイイィィィ
扉を開けると余りに眩しい光と共に、霊圧が横島達に襲い掛かる。
「前よりも格段に霊圧が高まってきたな!」
「結界を通り越してコレじゃからのう」
横島は外しておいたバイザーを掛けなおし、カオスは懐から偏光サングラスを掛ける。
霊圧に抗うように、部屋の中心へと歩み寄る二人。
部屋の中心には何万、何十万にも及ぶ魔術文字によって形成される魔法陣が存在していた。
その中空には今にも破裂しそうな勢いで増大してゆく霊力の塊。
霊力が辛うじて爆発せずに保たれているのは、偏に壁という壁一面に描かれてある古代に失われた魔術文字による結界―――まさしく三次元結界と言えるだろう、それによって何とか保てているような状態であった。
「これだけのエネルギー・・・人間界どころか神魔界でも探してもないだろうな」
「神魔は元々強大な力を宿しておる・・・これだけの事が出来るのは人間くらいなものじゃな」
二人の言葉の端々から自分達に対する自嘲が混じっており、更に続ける。
「核しかり、生体兵器しかり・・・か?」
「世界のシステムに介入し、エネルギーを掠め取る・・・ワシらはまさしく世界の反逆者やもしれぬのう」
目の前に存在する魔法陣は、世界の中心からエネルギーを得るための物である。
高次元の別世界からエネルギーを得る・・・その理論は横島達と中世に戦った魔族――プロフェッサー・ヌルが造り上げた『地獄炉』と同じ考え方である。
―――しかし、横島達が欲したのは加工しにくい魔力では無く、純然たる唯の莫大なエネルギーが必要だった。
その何の色も持たないエネルギー・・・横島達はそれを模索し、遂に見つけ出すことに成功する―――生き物全てが持っている霊力・・・その魂に与える前の-―輪廻システムに存在するエネルギー・・・これが最も加工に適したものだと考えられたのだ。
―――しかし、それには最大の障害が存在した・・・世界の反作用である。
世界のシステム・・・それに介入するという事は一歩間違えれば世界の崩壊を招きかねない事態へと発展してしまう。
―――それを防ぐために存在するシステム・・・それが世界の反作用、これが横島たちの最大の障害となり頭を痛ませた。
―――しかし、カオスは数十年に及ぶ研究の末に遂に世界のシステムへの介入を可能とさせた・・・これは神魔の最高指導者でもなし得なかった事象であり、恐るべきは人の執念といった所だろうか・・・。
「それで、後どれくらいで霊力が溜まるんだ・・・?」
膨大なエネルギーを前に横島はカオスに尋ねる。
「今までの過度から計算すると・・・数ヶ月という所じゃのう」
「あと数ヶ月・・・長かったな」
横島は壁を越えた何処かを見つめながら、万感の想いで呟く。
「100年て所かのう」
カオスが笑いながらそう答え、横島も「120年だろ」と笑いながら訂正する。
「歳は取るものじゃないもんじゃな」
―――が、
「じゃが・・・まだ中核が見つかっておらんぞ」
先程と一転して渋面を作るカオス・・・・。
「あぁ・・・何年も捜してるが一向に見つかる気配が感じられない―――所詮は神代の御伽噺じゃあないのか・・・?」
横島は、暗い顔をしながらそう呟く・・・。
「その話は後にして、あの犬の嬢ちゃんとはまだ会えないのか?」
カオスは暗い話題を変えるために、横島に問い掛ける。
「狼の・・・だろ?―――アイツとは全く会えてない・・・今は何処に移動してるんだかなぁ」
横島は懐かしい顔を思い出しながら、答える―――その顔には懐かしむ思いが浮かんでいた。
「そうか・・・あの嬢ちゃんの里が見つかれば話は早いのじゃが・・・」
「アイツを見つけるには何時ものように偶『パチィ』ん・・・帰ってきたようだな」
研究室に響く異音・・・それは続・幸福荘に入ってくる人を結界が察知する音であった。
カオスと横島は揃って、隣の研究室へと移動しカオスが魔力を通す。
ヴォン
横島達は先程までいた管理人室へと姿を現した。
ガチャ
タイミングよく扉が開かれた先には、マリアと今まで来ていた和服を着替えていた蛍の姿があった。
「ただ今・帰りました」
「ただいま」
「お帰り・・・おぉ――蛍、凄く似合ってるぞ」
「ご苦労じゃったなマリア」
横島が顔を向けると、そこには、これから肌寒くなる季節を考慮してか白い毛糸で編まれたカーディガンに黒いロングスカートを穿き、それらをスッポリと包むようなロングコートを着た蛍の姿があった――蛍の黒髪と相まってとても可愛らしい。
―――マリアが蛍の服を決めたのだが、彼女のセンスは現代の少女と少しも遜色が無かった。
「マリア、有難うな」
「ノー!――マリアも・楽しかったです」
横島は蛍の頭を撫でながら、マリアに礼を言い、マリアも嬉しそうに言葉を返す―――蛍は横島に頭を撫でられ密かに頬を染めていたのだが、それを知るのは傍から見ていたカオスだけである。
「そろそろ、出発するかな」
横島はカオスから情報を収集すると、徐に腰を上げる。
横に座る蛍はマリアに淹れてもらったジュースを飲んでいた。
「蛍さん・御代わりは・如何ですか?」
「うん・・・ありがとう」
蛍はマリアにとても良く懐き、マリアも蛍の事をとても可愛がっているようだ。
「なんじゃ・・・もう出発するのか?」
カオスは久方ぶりの古い客なので、もう少し長居をして欲しかったが、
「あぁ・・・もう時間が無いからな・・・」
横島のその言葉で、カオスは自分達の計画は最終段階へと進み、時間が無いのを思い出し、引き止めるのをやめる――が、
「そういえば、嬢ちゃんはどうするんじゃ」
横島はカオスのその言葉に、その顔の眉を顰め、目を瞑り考える
―――そして、
「なぁ・・・蛍」
「うん?」
横島は隣で、お菓子を食べている蛍に問い掛ける。
「もし・・・蛍がここに留まりたいのなら、ここにいてもいいんだぞ」
これ以上、蛍を連れまわすと必ず危険な目にあってしまう・・・それよりもここでカオスや、マリアと一緒にいたほうが安全だし、蛍に欠けた一般常識も身に付けることが出来る―――横島はそう考え、蛍にそれを伝える・・・。
―――が、
ガバァ
「タダオ、私をおいていかないで!」
蛍は食べかけのお菓子を投げ捨てると、横島の腰にしがみつく。
「ほ、蛍・・・ぇとな」
横島は流石にここまで過剰に反応する蛍に、どうすればいいのか困惑する。
―――そんな横島に助け舟を送るのはカオス。
「坊主!―――嬢ちゃんの勝ちじゃな、しっかりと守ってやれよ」
カオスのその言葉に、横島は諦めたようなホッとした様な複雑な顔をする。
――更に、
「横島さん・蛍さんの事・お願いします」
そんなマリアの言い方に、横島は苦笑するしかなかった。
「横島さん・これを・どうぞ」
「サンキュ、マリア・・・有難く食べさせてもらうよ」
横島はマリアから貰った大きなお弁当箱を手に取り、嬉しそうに顔を緩ませる。
「お嬢ちゃん・・・ちょっといいかのう」
「・・・?」
トットットッ
カオスはこちらに近づいてきた蛍の耳元に近づき―――横島に聞こえないように小さな声で喋る。
「嬢ちゃん・・・あの坊主を見ててやってくれんかな」
「?」
蛍はカオスが何を伝えたいのか分からず首を傾げるが、それに構わずカオスは続ける。
「あやつは見てるこっちがハラハラする位、無茶する奴なんじゃ・・・じゃが嬢ちゃんが傍にいててくればあやつも余り無茶しなくなると思うから・・・頼まれてくれんか?」
「分かった・・・ちゃんとタダオを見てるね」
カオスはお礼を言いながらも、もう一度「頼んだぞ」と念を押すと蛍を横島の元へと送った。
トットットッ
「うし・・・行くか」
コク
蛍は頷き、横島の隣に走り寄る。
「また近々寄るわ・・・じゃあな、爺さん、マリア」
「さよなら・・・」
「また来るんじゃよ」
「お元気で、横島さん・蛍さん」
外はすっかり夕日で、赤く染まっていた。
「寂しくなるのう・・・なぁマリア」
「ノー、また・会えます、ドクター・カオス」
カオスは「それもそうじゃな」と言いながら、管理人室へと戻っていく。
「・・・」
マリアは、去っていく二人の後姿が見えなくなるまで見送っていた。
あとがき
ごめんなさい、また大ぼらつきました。
一度書き上げたのですが、ふとしたミスで消してしまい・・・。
批評感想お願いします。