「ぷはっ……!早く逃げないと……ライラさんは鼻は獣人みたいにはよくないから、身を隠せれば……」

「フフっ……それ以前に、水龍の前で川に飛び込むなんていい度胸じゃない。
先ずはどうやって川から出るのかしら……なんだったら、川から出るのを手伝ってあげましょうか?
……もちろん受け止めるのは私の舌でしょうが……ジュルリ」

のそりと顔を出したのは、水龍の姿へとなったライラ。視線をアルに合わせているのか、鎌首を下げて話しかける。
その口から伸びる柔らかく長い舌……そこから滴る大量の涎が食事に待ちきれないのか川の流れにそって糸を引く。

「結構です……!」

「あら、残念。では、5分だけあげるわね……この川の中から出られたら、アルの勝ち。もう諦めるわね。
しかし、もし出られなかった場合は……分かってるわよね?」

ライラの質問にアルは必死に首を縦に振ることしかできなかった。

「じゃぁ、始めていいわよ?」

「って、うわぁ……!?」

押さえ込んでくるなんて知らないアルはライラの長い尾が巻き付いてくるのに驚く。
しかし、大人しく食べられる気は更々ないアルは、得意の妖術で姿を消して、ライラの尾に巻き付かれたのは木の葉だけ。

「アル……水龍の特性は知らないわよね?
教えてあげるわ……1つずつ」

「ふぇ……!?なんで分かったの!?」

姿をくらましたはずなのに、下流へと逃げようとするアルの居場所を突き止めて、不思議な力で引き寄せる。
抗えない力にアルは手足をバタバタと動かしながらも、ライラの手中へと収まった。

「先ずは千里眼……私のような水龍の目は水の中を見るために濁った水をも鮮明に映し出すの。もちろん、地上でも同じよ。
次にアルを引き寄せた力……アルの妖術みたいな子供だましではなく、本当の魔法よ……
あら、もう5分経ってしまったわね、では、頂きます♪」

「うわぁあ……!!いやぁ……!!」

「バクン……!」

丁寧に説明するライラはふと思い出したように、約束の5分を思い出す。
アルは何をとっても、自分の力では勝てるものがない……本当の強者の前に絶望していたところに、食事が始まると言う。
手中に収まったアルでは、逃げることは愚か、後退りもできぬまま、口の中へと消えていった……。

「アル……美味しいわよ……」

「………そんなのうれしくないもん……あぅ」

ライラはすっかり大人しくなったアルを丁寧に舐め上げていく。
疲れさせず、尚且つ快楽を与えさせるライラの舌使いは何年もの獲物の食べ方を調べた成果だった。

「ウフフ……アル……ずっと一緒よ……?」

「う…うん……そんなこと分かってるから甘噛みはやめてよぉ……それと、溶かさないでね……?このデカお魚さん……」

完全に酔いしれたライラは最後の悪口も気にせずにアルを喉元へと運んでいき……

「ゴクリ……!」

と、ライラは小気味の良い音を立てて、アルを嚥下した……。

「ズルズル………」

「ケフッ……アルは喉越しはあまり良くないわね……小さすぎてお腹にも溜まらないし……」

「ライラさんのばかぁ……」

「ウフフ……よしよし♪」

ライラの感想が聞こえたのか喉を落ちるアルの声が聞こえてくる。
その様子に微笑みを浮かべながら、喉をゆっくりと擦る。


「ふぐっ……!やっぱりこの空間は好きにはなれないよぉ……」

ビタンと、水龍の胃袋に落ち込むと、巨大な胃袋が柔らかく収縮する感じが、アルには恐いようだ。

「っと、水龍の特性はもう一つ……胃液を鎮静することができるのよ……?アルくらいなら大して重くも無いし、そのままゆっくりしていきなさい……?」

「ライラさん……できることなら……酸素をください……ゆっくりする前に酸欠で倒れちゃうよぉ」

今回は水龍の姿のままであるため、胃袋の中は酸素は多めだが、所詮は生き物を消化吸収するためだけの空間。
……酸素には限りがある。

「ふむぅ……なんとかするわね♪今はゆっくりおやすみ……♪」

「あぁ……力が抜けるぅ……」

ライラの胃袋がアルの身体をひんやりしたまま優しく揉み込んでいく……。全身をマッサージされると、心地よい声を上げながら癒されていく……。

(………なんだか眠い……)

(………ゆっくり眠りなさい?)

このまま怠慢とした時間を過ごし……アルもライラも眠りについた……。

 

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