ある森の中……

「うぅ……みんな僕を見て美味しそうって……」

そう呟きながらフラフラと歩くのはまだ幼さの残る白い狐の獣人の旅人…アル。
このアルのいる世界は獣人が獣人を食べることさえ認められる世界では、比較的に身体が小さく、
珍しい種族のアルは肉食の獣人からしたらご馳走に見えているのようなものだ。
実際、アルは旅の中で獣に襲われることはともかく、宿や町中でも何度も襲われかけてはなんとか生き延びている。

先日も、大きな虎の獣人に襲われかけ捕まったが、アルの白狐の種族に備わる秘術……妖術で何とか騙して逃げ切れただけだ。次も上手くいくとは限らない。

「はぅ……今日も野宿かな……」

アルはそう言いため息をつく……。
命を狙われるアルにとって、火を焚けば獣を少しは退けられる森の中の方が安全ということもある。
その代わり、柔らかい布団で寝ることは叶わないのだが……。

「っと、先ずは寝床の確保っと……クンクン、水の匂いがする……?」

アルはピクピクと耳を澄ませて水の匂いがする場所を特定することに専念する。
直ぐに水の音の聞こえる所を見つけ、駆けていくと……。

「大きな川だっ……!!」

大きな滝のあるこの川は水しぶきを全身に受け、とても涼しく癒される。
アルは目を瞑り、全身にマイナスイオンを浴びて少し心もすっきりすると、近くに寝床となりそうな場所が無いかと見渡す……。

「っと、あそこなら獣にも襲われないかな?」

アルが見つけたその場所は、滝の裏側に出来た洞窟。少し高いところにあるので、野生の獣も入ってはこれないはずだし、
もし肉食の獣人が来ても直ぐには見つけられないはずだ。
アルはさっそく、寝床にできるのかと中へと入ってみる。

「意外と広いし、誰も棲んでいないみたい……」


アルは妖術の一つ、狐火で暗い洞窟を見渡すが人が棲んでいる様子は見受けられない。しいていえば、異様に大きく、所々に水溜まりができているくらいだ。

アルはさっそく辺りで下に敷く為の草を集めて自分の寝床を作り始めた……。

 

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