あぁ・・・何だろうか・・この胸に空いた穴が感じは。 儂と彼が交わる事は互いに望んだことであったはずじゃ。 なのに・・なのに・・何だ・・この気持ちは。 彼は儂の為に人間を捨ててまで儂に応えてくれた。 では・・何故、彼から裏切られた? いや、彼は儂の仔を庇ってくれたではないか。 ・・・・止めよう。考えるのはもうやめじゃ。 もう一度・・最後・・最後に彼を存分に味わってから儂は消えよう・・儂の仔に後を託そう。 ベロリ・・グチュ・・ 数時間前に吐き出した彼の頬を舐め、唾液を塗りたくる。 まずは舌で彼を味わおう。 グチュグチュッ・・・ニチャッ・・ ニチュニチュッ・・グチャァ・・ 唾液。唾液。唾液。唾液。 かつてない量の黒狼の唾液が彼を埋める。 黒毛をべっとりと濡らし、長く粘る唾液の糸を地面と体と口に引く。 スライムのような高粘性の唾液に生々しく泡が立つ。 瞬く間に黒狼の唾液に彼が犯されていく。 指、股、脇、服の間、余すことなく黒狼の舌がじっくりとしつこく舐め続けた。それこそ少し動くだけで糸を引く程に。 「主はなんと罪作りな奴じゃっ・・こんなに美味な体をしおって。」 前脚で足を押さえ付け頭を動かしながら強く、ゆっくり。 まだ、黒狼は彼を舐め続けた。 もう、髪さえぬるねば状態。 グチュ・・・グチュ・・ニチュ・・ニチュッ・・ 唾液と舌。無数の糸を引きながら生々しい水音を上げた。 思わず耳を塞ぎたくなるほど。 「ハッ・・・ハッ・・・・ハッ・・・ハッ!」 グプッ・・グチャッ・・ニチャニチャ・・ グチュ・・・ニプッ・・・グチャッ・・グチャッ・・ 彼の皮膚は摩擦で赤くなっている。だが黒狼は舐める。 舐める。舐める。舐める。舐め続ける。 美味しいから。本能だから。 ジュルルッ・・ゴクリ。 口元を大きく舌なめずり、啜りかき集めた唾液を飲み下す。次は唾液ではなく彼だ。 舐め続けること一時間。黒狼は舐めるのを止めた。 彼の右腕をまるごと咥え、甘噛む。 グニィ・・アグアグッ・・ 唾液の中に埋もれた確かな味が牙によって舌にもたらされる。 左腕。 グニュッ・・・ムグッ・・ 右足。 グリュリュ・・アグアグッ・・・ 左足。 ムグムグッ・・グニィッ・・ 四肢を順に咥え、何度も甘噛んで、噛みほぐす。 唾液を存分に含んだ重い服に穴が空く。 バクリ・・モグモグ・・グリュッ・・・・アグゥ・・ 今度は首から下、体を全て咥えて噛みほぐす。 柔らかい肉に牙が深く食い込んで気持ちいい。 美味しいから思わず噛み砕きそうになるのを必死でこらえる。 アグゥッ・・・ギュムッ・・・グリュッ・・ムグムグッ クチャッ・・・ニチュッ・・グチャグチャッ・・ 唾液の分泌が活発になり、甘噛みに唾液が伴い、生々しい水音を奏でる。 口元から唾液がこぼれ、糸を引く。 モゴモゴと口を動かす度に牙と牙、彼と牙、彼と舌、口内に無数の太い唾液の糸を引いた。 それから三十分近く、黒狼は彼を噛み続けた。それから三十分近く、黒狼は彼を噛み続けた。 「儂が主といられる時間もあと少しじゃな・・」 バクン。 クイッと小さく上を向いて、彼を完全に口内に落とし込んで口を優しく閉じた。 グチュッ・・・ニチャ・・ヌチュヌチュ・・ 口内でも黒狼は彼を舌で転がし、弄び、余すところなく舐め回す。 グリグリッ・・・グギュゥゥゥ・・・ 上顎の肉壁に舌で押さえつけ、味わう。 舌を巻き付かせ締め付け、さらに味わう。 ドプッ・・・ドプッ・・・ 舌顎に溜まった唾液風呂に何度も浸しては持ち上げ、また浸す。 モゴモゴと動く黒狼の口。口内から溢れ出る唾液が黒毛を伝いボタボタと地面に滴る。 グパァッ、ドチャドチャッ・・・ 彼を舌でしっかり巻き取って、下を向いて口を開いた。 唾液の糸を無数に引いて口が開かれ、大量のねばねばの高粘性の唾液が地面を無惨に汚した。 人間もすでに酷い状態だった。黒狼の唾液にまみれ、もはや黒狼の唾液の一部と言っても過言ではなかった。 幸い、気絶していたのがよかった。おそらく意識があったのでは耐えられる責めでは無かった。 「・・・さぁ・・呑ませてもらうぞ。」 バクッ・・クイッ・・ もう一度、黒狼が彼を口内に閉じこめ、上を向いた。 ズリュ・・ズリュ・・と唾液を摩擦を打ち消し、生々しいを音を上げ、舌をゆっくり喉・・胃袋に向け、落下を始める。 ・・ングッ・・・ングッ・・・ゴクッ・・・ 喉が先に唾液を飲み込み、蠕動を始める。 そこに彼の足が引き込まれ、一気に喉に呑み込まれ・・ ゴパッ・・と口内に吐き出される。 (一回では呑まぬ。まだ呑むには早い。) ングッ・・ゴクン・・・ゴプッ・・・ ングゥ・・・ゴクリ・・・・ゴポッ・・ 喉の蠕動が彼を捉え、呑み込む。 黒狼が彼を口内に吐き出し、呑み込む。 呑んでは吐いて。また呑んでは吐く。 ングッ・・ゴクン・・・ゴプッ・・・ ングゥ・・・ゴクリ・・・・ゴポッ・・ ングッ・・ゴクン・・・ゴプッ・・・ ングゥ・・・ゴクリ・・・・ゴポッ・・ それを繰り返すこと数十回。 黒狼も限界に近かった。 吐き出す体液に胃液が混じり始めていた。 (・・主を・・呑み込む時が来たようじゃ・・) 勢いよく上を向いて、人間を喉に滑り込ませ・・ ゴクンッ! 小気味の良い音を立て、呑み込まれ、喉が生々しく膨らむ 黒狼はすぐさまその場に伏せた。 その喉越しを長く味わわんが為に。 ズリュッ・・・ニジュッ・・グプゥ・・ 体内で嫌らしい水音を奏で食道を燕下されていった。 波打つような蠕動が胃袋へ、胃袋へと彼を流し込んで行く 喉を非常に遅く下る膨らみに手を当てる黒狼。 その紅眼が愛おしそうに見つめている。 「胃袋まで・・付き合ってくれ・・」 グチャリッ・・ドチュゥ・・ニジャ・・ ジュルルッ・・・グチュチュ・・ まだ、食道を下り切らない。黒狼が膨らみを押さえ、呑み込みを遅延させている。 「ぬ、主が胃袋に落ちたら・・儂は・・儂はっ・・」 裏切られたとは言え、一度は愛を誓い、交わった身。 離れたくないのが当たり前。 だが、そうはいかなくなった。この幸福は生涯続く見込みはないようだ。 グチュッ・・・ニジュゥ・・グプッ・・ ニジュルゥ・・・ドチャァ・・ 彼の体が噴門をこじ開け、胃袋に落ち込んだ。 粘液と胃液を跳ね上げる音が体内で嫌に響いた。 喉の膨らみ分、お腹を膨らませた。 黒狼の体がビクッと大きく震え、頬に涙が伝う。 「・・・ゲフゥ・・ご馳走じゃ・・・」 唾液のように生臭いゲップを吐き、一呼吸。 「これで・・主とはお別れじゃ。」 持ち上げていた頭も地に伏せる黒狼。 「吐き出すのはちぃとばかし待っとれ・・・もう少し、胃袋に収まっておってくれ・・」 黒狼は目を閉じて、体の力を抜く。 「お主の全てを儂の体全てで感じていたいのじゃ・・・最後じゃろ?・・いいじゃろ。」 閉じられた双眸、流れる大粒の涙。 * * * 「んおぅ・・っぐ・・・か・ぇ・・・ぅ・・」 前脚で胃袋の人間を押し上げ、食道に戻してやる。 蠕動に乗った人間の体が喉に揉み解されながら喉を吐き出されてゆく。 喉をこみあがる人間と体液、吐き気。 情けない声を上げながら、巨口を目一杯に開き吐き出す準備を整える。 粘液の飛沫が飛び、グリュグリュと喉の膨らみが口に向かって吐き出されて来る。 吐き出したくない。ずっとこの人間を呑んでいたい。 まだ、丸呑み足りない。まだ、儂の喰欲は満たされてはおらぬ!! 「んげ・・ぇ・・・ごぁ・・」 ゴプゥ・・グチャッ・・・ ネチャッ・・ゴ・ゴポァッ!ドチャドチャッ・・・ 大量の粘体液と共に黒狼の体液に包まれた人間が遂に吐き出された。 「ハァ・・・ハァ・・最後じゃ・・・」 クプッ・・・ジュルルル・・・ 人間との間に無数の唾液糸を引いたまま、妖しくテカる口が再び開かれ、泡立った唾液を未だに纏う舌が口に侵入、その小さな舌を絡め取って、唇を奪った。 「んっ・・・儂のために人狼になって貰ったと言うのにすまぬ・・怨むなら怨むが良かろうて・・」 舌が黒狼に戻り、身を翻す。 口から黒狼の口に伸びる唾液の糸。 去っていく黒狼との間に伸びて・・伸びて・・ 1m程伸びて・・最後の繋がりが・・斬れた。 * * * 僕の前から突然いなくなった黒狼さん。 今、大きくなったあの仔狼と共に探索の旅に出ている。 様々な島、町を巡って情報を集めた。 僕を呑み込んだ九尾にも情報を求めた。 手がかりはあまりなかった。 でも、二年もしたある日。 巨大な黒狼を見たと言う情報を手に入れた。 僕はその森に入って以来、人狼でいた。 そっちのほうが何かと都合が良い。 動物達とも会話できるし、鼻が利く。 微かな黒狼さんの匂いを鼻が捉えているものの黒狼さんを見つける事が出来ない。 その時、背後の木々が蠢いた。 唸る仔狼。僕も構えを取って・・止めた。 忘れるはずがなかった。その老獪な優しい声を。 すっかり痩せた黒狼が目に涙を浮かべ立っていたから。 駆け寄る仔狼。僕は溜息を一つ。 ー何故、追ってきた?ー ・・答えなんて決まってる。好きだから。 ー・・・儂にまだ喰われたいのかの?ー それはちょっとね。でも、いつかはそうなるかな? ーフフ・・他の餌と共に胃袋に放り込んでドロドロに溶かしてくれる。ー 唾液の糸を引く巨大な口。僕を求めて舌が忙しく蠢いている。 獣臭い吐息。生臭い唾液。重圧な柔舌。 逃げたって無駄。ここは大人しく食べられよう。 * * * バクン。 グチュッ・・ヌチュ、ニチャ。 グリュッ・・ムグムグッ・・ベチャァ・・・ ニュチャッ・・チャッ・・・チャッ・・ グチュグチュァッ・・ニチュニチュっ・・ ドプッ・・ニチュッ・・・ヌチャッ・・グジュッ グチャリ・・ニチュリッ・・グチャグチャ・・ ヌチュッ、グチュッ、グチャッ、グチュリ・・・ ゴクリ・・グジュグジュ・・ドプン・・ 黒狼の体内へ。黒狼の胃袋へ。 そこで・・・・・ 僕は黒狼の全てを。 黒狼は僕の全てを。 溶かし尽くして味わい、感じ合う。 fin |
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