すると竜は一旦は取り戻した元気な顔から急に悲しそうな表情になり、ポツリと呟いた。

「忘れちゃったんだ…もう、永い間名前を呼んでくれる仲間も人もいなかったから………
だから…だから、僕に名前をつけてくれないかな…?」

 上目遣いに見上げられた。やっぱり竜…ドラゴンと言っても一匹の生き物なんだな…
思わず、その大きな顔を抱きしめていた。
かすかに震えているのが分かる。ずっと、あの訳の分からない変な空間に一人で居たのだ、その辛さは尋常じゃ無いだろう。

「辛かったんだな…俺なんかで良ければずっと一緒に居よう。」

「うん………離れないでね……」

 そう言ってさらに顔を摺り寄せてくる。

「おっと、名前だったな。うーん………『セルモス』ってのはどうだ?『ギリシャ語』で『温かい』って意味だ。」

「良いよ。君が決めてくれた名前なら…」

「そうか、じゃあ俺の部屋に行くか。そこで少し休もう。」

 親が帰って来るまで一時間ほどぐらい二階の自分の部屋でゆっくりしていた。親が帰って来た時は少し不安だったが
「家を壊したりしなければ良いわよ」
と、まるで気にしていない様子に安心した。この世界の神様はしっかりと約束を守ってくれているらしい。

 

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