少女は裕福な家庭で育った。 生まれた時から何一つ不自由無く、欲しい物は全て買ってもらえる、いわゆる"お嬢様"だった。 そんな少女には苦手な物が一つ… 「もういや!どうして私の嫌いな牛乳を食事に出すのよ」 少し口に含んで見るもすぐにコップをテーブルに戻す少女。 少女は牛乳が嫌いだったのだ。 「あら、ママはあなたのことを考えて出しているのよ。牛乳を飲まないと背が大きくならないでしょう」 「ふんだ、背なんて大きくならなくてもいいもん!」 そう言うと少女は拗ねたまま自分の部屋へと戻ってしまう。 少女の悩みは同い年の女の子よりも身長が低いことだったのだ。 ─────────────────────── その夜私は不思議な感覚に目が覚めた。 暗い。 いくら夜とはいえ暗すぎる、何も見えない。 そして身体中の感覚が無くなり、まるで宙を浮いているかのようだった。 今夜は確かに自分の部屋のベットで眠っていた筈なのに… 「背が伸びなくてもいいのか?背が低くてもいいのか?」 「だ、誰っ!」 何処からとも無く声が聞こえる。 慌てて感覚の無いまま視線を巡らせるも、無論何も見えなかった。 「背が小さくてもいい…牛乳が嫌い…ならばお前には牛乳の素になってもらおう…」 「さっきから何を言って…」 すると突然目の前が一瞬眩い光に包まれそれが消えると、身体の感覚や視界が戻ってくる。 「あれ、ここは…」 いつの間にか朝になっていたのか、周囲は明るかった。 しかし私がいるのは部屋のベットの上ではない。 少しチクチクする様な感覚、見ると藁か干草のようなものの上に横たわっていた。 そして同時に感じる違和感。何かがおかしい。 干草というのは一本一本がここまで大きかっただろうか。 長さは私の身長よりも長く、茎の太さも腕ぐらいはある。 普段よく見ているわけではないが明らかに大きすぎる。 そしてここは一体何処なんだろう。変なにおいもするし… ぬっ… 「へっ」 その答えは光を遮るように現れた影の主によって明らかになった。 私の頭上に突然現れたもの、それはまるで怪獣のように巨大な牛の顔だった。 頭だけで5m以上はありそうなほど巨大な牛の顔が、私の視界を一杯にするように頭上から見下ろしていた。 「きゃあぁぁーーー」 次々に起こる不思議な事態に私の頭はパニック状態で、ただ突然現れた巨獣に悲鳴を上げることしかできなかった。 |
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