「さて、そろそろ出発するか……ん?」



水筒のふたを閉め、疲れた足を揉みほぐしながら出発をしようかと切り株から腰を上げると、

ラグラージの歩いてきた方向とは反対の方から何かががさがさと茂みをかき分けてこちらに来る音が聞こえてきた。



「なんだ?」



ラグラージは不思議に思いつつも、目を閉じ聞こえてくる音に神経を集中させた。

彼の頭に付いているヒレは敏感なレーダーの働きをするため、

こうして集中すればその音がどんなものなのかをある程度特定することができる便利な器官なのだ。



意識を集中させると、どうも二人分の足音のようでしかも足音の感覚から二人とも四足のポケモンのようである。

落ち着いた足取りから盗賊などの類ではないと判断し、ラグラージは目を開けた。



すると森の奥の茂みからラグラージの予想通り、二匹のポケモンが姿を現した。

片方のポケモンは黒と灰色を基調としたつやつやした毛並みを持つグラエナで、

もう片方のポケモンは赤いふさふさとした毛並みをしたガーディであった。



「お、あんたもこの森に食料を探しに来たのかい?」



そうグラエナが笑いかけながらラグラージの方へ近づいてきた、

彼らもお互い首に革製の鞄を下げており、

ラグラージと同じように鞄の中にはオレンの実がこぼれ落ちそうになるまで入っている。

彼らもラグラージと同じく木の実を探しにこの森へ来ていたらしかった。



「ああそうだよ、あんた達もずいぶんたくさん採れたみたいじゃないか。」

「まあね、もっとも夢中で採ってたもんでこんなに遅くなっちまったけどな。」



アハハハと笑いながらグラエナはよいしょっと草の生えた地面に腰を降ろした、

彼らもずいぶんと疲労しているらしく足首を揉みほぐしている。



「お兄ちゃんはどこの村から来たの?」



足の疲れをほぐしながら、ガーディが人懐っこい目でラグラージを見上げそう話しかけてきた。

ラグラージも二匹に向かい合うようにして、彼らの傍に腰を降ろした。



「俺はこの森を抜けて二つくらい山を越えたあたりにある村から来たんだ、

今年の冷害のせいで俺の村の作物があまり採れなくてな…。」

「そりゃまたずいぶんと遠くから来たな…、そんなに不作だったのかい?」



ラグラージが少し険しい表情で話すとグラエナも少し驚いたような表情で話しかけてきた。



「俺達も森を抜けた先にある村から来たんだが、やっぱり今年は冷害のせいでどこも食糧不足みたいだな…。」



心なしかグラエナも落ち込んだような声で話している、

様子からするに彼らの村も自分のところと大して変わらない状況のようだとラグラージは思った。



「まあ、そう気を落としてもしょうがないよ。

 それに、食料不足の解消にはうってつけの森を発見できたんだしよかったと思っているよ。」



落ち込んでいるグラエナを少しでも元気づけようと、ラグラージは明るめの声でグラエナに話しかけた。

しかし、グラエナの表情があまり晴れず苦い顔をしながらラグラージの方を向いた。



「ああ、だけどなこの森にはちょっと気になることがあるんだよ。」



グラエナが少々不安げな顔をして話を続けようとしている、

ラグラージもその様子に違和感を覚えつつも話の先を聞こうと体をグラエナの方へ向けた。

しかし、グラエナが話をしようと口を開きかけたところで彼とラグラージの間にガーディが割って入ってきた。



「ごめんグラエナ、話の途中で悪いんだけどお水もってない? もう喉がカラカラで…。」

「お、おう。 ちょっと待ってな…。」



申し訳なさそうにグラエナに話すガーディに気づき、グラエナがカバンの中をゴソゴソと漁っていく。

すると途端に「ウッ…!」というような微妙に引きつった表情になった。



「悪いガーディ、どうも水筒をさっきのオレンの木のとこに置いてきちまったみたいだ…。」

「えー!?」



悪びれた様子で話すグラエナに対し、ガーディも呆れたように返事を返す。

舌を口の外に出してハァハァと苦しそうにしているところを見ると、かなり喉が渇いているらしい…。

その様子に見かねて、ラグラージは肩にかけていた自分の水筒を外した。



「よければ俺の水筒の水を飲むか? まだけっこう残っていると思うが。」



そう言って、ラグラージは自分の持っている木の水筒をガーディに差し出す。



「え、もらっちゃっていいの?」

「気持ちはありがたいが、あんたの飲み水はだいじょうなのかい?」



ガーディとグラエナの両方がラグラージと彼の水筒を見比べながら申し訳なさそうに口を開いた。



「まあ、この森に来る途中できれいな川も見つけたし、帰りにそこで組めばいいだけだからな。

それに困った時にはなんとやらと言うだろ。」



ラグラージは軽く微笑みかけながら水筒をガーディに手渡した、

ガーディはうれしそうにふさふさとした尻尾を左右に振りながら受け取り、



「ありがとうお兄ちゃん!」



と言ってトテトテと先ほどまでラグラージが座っていた切り株の方まで歩いていった。



「ありがとうな、礼を言うよ。」



グラエナも申し訳なさそうに笑いながらお礼を言ってきた、ラグラージも少し照れながら頬をポリポリとかいている。



「いやいいんだよ、俺にもあれくらいの年の離れた兄弟がいるもんでな、他人事に思えなかったんだ。」



ラグラージは少しはにかみながらグラエナに話しかける、

するとグラエナがラグラージの横にトコトコと移動してきて彼の隣に腰を降ろした。

ラグラージが不思議そうにグラエナの顔を見つめていると、グラエナがおもむろに口を開いた。



「まあ、あいつは実の兄弟ではないんだけどな。

 あいつも俺も小さいころに親を亡くしちまってな…、今じゃ俺があいつの兄貴がわりなんだよ。」



切り株に腰をかけて美味しそうに水を飲んでいるガーディを見ながら、グラエナが言った。

それを聞くと、ラグラージは頬をかく手を止めて申し訳なさそうな表情になっていく。



「そうだったのか、悪いことを言ったかな?」

「いや、気にしないでくれよ、俺達自身はあんまし気にしてないことだしな!」



すまなそうに答えるラグラージに対して、グラエナはニャハハと笑いながら答えた。

ガーディもそうだが、このグラエナもずいぶん人懐っこい性格のようだ、

義兄弟といってもかなり似ている二匹だなとラグラージは思った。



「そういえば、さっきの話まだ途中だったよな…。」



急にグラエナが表情を変えて、神妙な面持ちで話しかけてきた。

 

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