大きな村があった。 唯一の貴族を中心とした大きな村だった。 以前は気前がよく、村の人々にも好かれ、誰もが崇めて(崇めて)いた賢い貴族の領主が統一していて、外からの交渉が少ながったが、人々は皆が皆平和に暮らしていた。 そして、子供も授かっていた。 生まれた時から貴族と言う身分であり、仕事で忙しい領主である父親の顔を知らずに、母親とメイドに囲まれて育っていった。 その子供は生まれながらの才能人で、教わった事への飲みこみも早く、大人顔負けな程であった。 そんな日が何時までも続くのかと思われた…。 しかし、十数年後のとあるの夕刻に、村を統括していた領主が原因不明にも倒れてしまった。 村一番の医者にも係ったが、原因は分からず、手を上げた。 葬式は村の殆どが参列をし、多い悲しみに包まれた。 その後、主権が領主の子供に移された。領主の血を継ぐもの、責務は果たさんとす…と言う決まりの元、主権はその貴族から離れることはなかった。 その頃彼は18歳。幼い事から悪戯(いたずら)好きで、村の子供と遊んだ時や屋敷での生活でも悪戯ばかりしていた。 そして歳を重ねていくにつれて悪戯もより濃いものになっていった。ある時は、ヒト1人を殺す寸前までに達していたのだ。 領主が変わってから、そう言った事件も多くなり、その原因の殆どがその新しい領主と言う事実の中で、村人は何日かに、1人、また1人と、村を離れて行くようになった。 屋敷に仕えるメイド等も、村人と同じように1人1人と離れ、実の母親も、その嘆かわしさゆえに、自ら命を絶ってしまった…。 そんなある日の事である。 真夜中、大きな部屋の大きなベッドの真ん中で眠っている領主がいた。外も中も淋しく、冷たい空気が彼の頬を包んでいた。 そんな夜中の12時頃の事 「起きろ…起きろ…」 誰もいないはずの大きな部屋の、大きなベッドの近くで声が聞こえた。幻聴だろうか、耳障りなその声を遮ろうと枕を頭に被せて嫌な顔をして再び深い眠りに就こうとした。 「起きろって…なぁ、起きろ…」 声がだんだん強くなってくる。その強く聞こえてくる声に反して、自分も大きな声でうるさい!と叫んだ。 正直、とても怖かった。ヒトの少ない屋敷で声がする事ではなく、その声があまりにも自分のそれに似ていたから…。 「起き―――」 「うるさいって言ってんだろ!」 オウム返しのように反響してくる声に、いい加減キレたのか、ガッと目を開けて領主は怒鳴った。 だが、目の前にあるのは、何時もの天井、いつもの壁に取り付けられた窓、いつもの布団がある。が、何時もとは違う何かを感じた。 それに早くも気付いた領主、ゆっくりと上半身を起こしてベッドから降りようとした―――時だった。 ……… 「あ、あれ…体が…何で…」 上半身を起こした途端、体が急に動かなくなった。体の中に図太い金属棒でも入れられ、丈夫なロープで全身を巻きつかれた様な、そんな感じだ。 動かせるのは、目と、口と、呼吸が出来る程度だ。 そして先程まで聞こえてきた声が、また聞こえてきた。 「お、やっと起きたなぁ」 「だ、誰だよお前…」 恐怖と噴怒で震え上がった声で返す。 「誰か…は、話の終わりの頃に話すさ」 とりあえず意志の疎通は出来た。だが、それ以上に、相手の姿形、どこに居るのかが分からないのだから、意志の疎通よりも怖い物を感じた。 まるで、独りで何もない、真っ暗なお化け屋敷に放り込まれたようだった。 「まぁまぁ、そんなに緊張すんなって…ほら、深呼吸をして」 こんな状況の中で出来る訳がなかったが、そんな時に、相手の言葉と自分の記憶がすれ違った様な感覚に一瞬陥り、肩の力がフッと抜けてしまった。 「そうそう、出来るじゃないか」 「お前は…何をしに来たんだよ…」 先程から聞こえてくる声が、どうも自分の記憶と重なっていく様で、ある意味怖かった。 「僕か?それは話していくうちに理解していくようになっていくさ」 …ズキン…頭が一瞬だけ強く締め付けられるような痛みを感じた。 「………」 「じゃぁ、そろそろ話すか」 固唾(かたず)を飲みこむ。これから、何が始まろうとするのかと、心が震え上がった。 |
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