あれから数ヶ月
なんら変わりなく泉へ通う毎日だった。

あの日から数日も経てば。
何事も無かったかのように泉の周りではポチエナやらジグザグマなんかは水を求めてやってきた。
なかには相当我慢していたモノも居たのだろう。
勢いあまって水の中へ転落するモノも居た。

とても滑稽な状況だが、正直オレは期待していた。
何がハブネークをあんな目にあわせたのか。
もしそいつが泉の中から現れるなら願ったり叶ったりだ。

そんな毎日を繰り返すが、流石に飽きてきた。
居るか居ないかも分からない、奴の為に泉を見張るのもこれで………どうだったか。


そして今日も…オレは泉へと向かう。
あのハブネークと最後にヤりあったのはイツだったか。

他の奴等はダメだ。
オレの姿を見ては怖気づいて逃げてしまう。
アイツだけが、オレに立ち向かってきていた。
全力で叩き潰す事が出来た。
そして何度も何度もアイツはやってくる。

ツマラナイ。
何もかもがツマラナイ。
アイツが居た方がマシだった。

居なくなったら無くなったで別にどうでもいい。
なんて思っていた頃が嘘のようだ。

こうしてアイツが居ないだけで退屈すぎる。
何故だ。何故こうにも退屈なんだ。


一人…どうしようもなく叫ぶ―――


意味も無くただ、この気分を晴らす為にだ。


………泉だ。


いつもと変わらぬ水場。
特に変わらず、ただ広く。綺麗で。日が暮れる頃なんかは特に良い景色が見られる場所。
そして…


誰も居ない。
いや、アイツが居た。
だがアイツは既に居ない。
いや、違う。
アイツはなんだ。アイツは誰だ。アイツは…違う!

ならばアレはなんなんだ。
ソイツはそこに一つだけ。
夕日を背にして存在していた。

影になり、黒く、そして蛇のような姿だった。
他には、誰も居ない。何も無い。

そいつだけ…だった。


オレの全身の毛が逆立つ。
本能が告げる。
コイツがハブネークをヤった奴だと。

オレは………この時、笑っていたのだろう。
そう………とてつもなく邪悪な笑みを浮かべて目の前のソレに襲い掛かっていた。


   *   *   *


オレは負けた―――

打ちのめされ。
腕を折られ。足を潰され。
とてつもない力で…長い体がオレの体に巻きついてくる。

もはや息も出来ず、オレも終わりか…
そう感じ取れた。

もう…死ぬのならこれでいいか…
そう…考えた時にはもう体中の力は抜けていた。
痛みなどもう無い。
ただ…あとはこのハクリューとやらに食われるだけなのだろう。
あのハブネークと同じように。


そしてオレの力が抜けると同時にそのハクリューとやらの締め付けも弱まっていた。
なんとなく、オレはソイツに聞いてみた。

「オレを…食うのか?」
そんなオレの声に驚いたのだろう。
一瞬締め付けが強くなったものの、オレが全然抵抗をしない事に気づくとソイツは意外な事に返事を返してきた。

「ハイ、ワタシはアナタを………食べます。」
なんとも…綺麗な声だった。
もっと…聞いていたい。これからコイツに食われるものだとしても…もう少し……聞いていたい。
そんな感情を覚えた。

「ハブネークを……食ったのも…オマエか?」
聞こえる。自分の声もまるで他の誰かが話しているかのように聞こえる。

「ハブネーク……えぇ…食べました。アナタの前に食べた方……です。」
なるほど…やっぱりそうか。
だが…オレの前になどという言い回しはなんとも奇妙な気分だ。
やはりオレはコイツに食べられる。
仕方の無い事だが…
やさしい癖にオレより強いなんてな。

 

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