逃げようとどれだけ手足に力を込めても、マヒのせいで思うように体がうごかない…… そうしているうちにアーボの真っ赤な口内が目の前まで迫ってきていた。 とても大きな口だ。僕の頭なんかよりもずっと大きい。 そんなアーボの口内が視界一杯に広がる。 とても暗い喉の奥……鋭い牙に…………涎塗れな舌が僕に迫って…… ”ヌチャ” 恐怖とマヒで強張った僕の顔をアーボは正面から丸呑みしようと食らいついてきた。 まるで大きな飴玉にシャブリ付くように僕の顔を咥えてしまう。 最初にヌメヌメした舌が僕の頬に触れた。 どちらかというと咥え込まれた僕の顔がアーボの舌に乗ったという感じだ。 アーボの舌に密着する左頬と顎下辺りが、生暖かい感覚に包まれる。 後を引くドロッとしたモノは……アーボの涎? この時僕に襲い掛かった衝撃は言葉では言い表せない。 マヒで動かない筈の僕の体が、この時だけは『ビクッ!』と痙攣するように跳ねた。 それだけおぞましい衝撃が全身を駆け抜けていった。 ……嫌だ……嫌だ! 少しでもこの口から遠ざかりたくて、逃げたくて顔を左右に振りアーボの口を押しのけようとする。 そんな精一杯の努力は、僕の顔中にアーボの涎を塗り込むだけに終わってしまう。 ついには顔全体に舌を被され、僕は何も見えなくなった。 より強く感じるアーボの舌の柔らかさに、目尻から涙がこぼれ落ちアーボの涎と混じる。 ”ジュル……グジュ…ジゥ” 僕の頭を呑み込もうとアーボが強く口を押し当ててきた。 アーボの牙が僕の顔に食い込み、痛みに声をあげようにも口は舌に塞がれている。 何も出来ないでいるとズルリとアーボの口が深く僕の顔を覆った。 すると今度は身体が持ち上がる。 獲物の顔を咥えたまま、アーボが無理矢理僕を持ち上げようとしているんだ。 いとも容易く僕の前足が地面から浮く。 高く高く持ち上げられて、ついには後ろ足で立つような体勢になってしまった。 ”ズル……ルッ” その体勢から力づくで引き寄せられ、顕わになってしまった僕のお腹に何かがぶつかる。 状況から言って、間違いなくそれはアーボの身体。 肌と肌で触れ合って理解したこと、アーボの身体は意外と柔らかい。 それに予想してたより、ずっと暖かだ。 そんな場違いな考えが逃避として僕の脳裏をよぎる。 だが、直ぐに現実に引き戻されるように、再びズルリとより深く僕の顔が呑み込まれた。 乱暴に奪われていく僕の自由が……そして、包まれていく僕の身体がアーボの体内に…… それを止める術が僕にはない…… |