まったく変わらないあの森の中心、 あの森の広場でフラミーは目を覚ました 「……みゅ〜 ピピ……?」 ……頬に涙の流れた後があった。 懐かしい思い出の夢を見て、フラミーは大好きな友達の名前を呟く。 期待するかのように頭を擡げ、周囲を伺い。 何も見つけることが出来ず、シュンと頭を地べたに這わせた。 「ふみゅ〜……気のせいなのかな〜?」 ため息吐き出された言葉には、明らかな落胆の色が見える。 あの時……眠っているとき、聞こえた気がしたのだ。 片時も忘れたことのない友達の声が。 「……ピピ」 もう一度、名前を呟き、フラミーは眠るように目を閉じた。 こうして目を閉じていると、あの時のように友達に会えるような気がしたから。 あんな夢を見た以上なおさらだった。 (会いたいな……ピピに……) 目を閉じていると、また少し眠くなってきたのか、 フラミーの身体が脱力していく。 それでも、頭は最後まで友達……ピカチュウの事を考え続けていた。 あの時から、万事こんな調子でフラミーは毎日を過ごしていた。 ピカチュウと別れた後、フラミーは泣いた。 何日も何週間も泣き続けた。 ようやく涙が止まった頃には、森に春がやってきていた。 さらに季節は『夏』……『秋』……『冬』と巡っていき…… だからといってフラミーには、何もすることはなかった。 知らない……と言うべきか。 (時間は遡り……) フラミーは生まれ……気が付いたら、あの広場にいた。 何故ここにいるのか、何のためにここにいるのかまったく分からず。 かといって、この森から出ようとしても、 本能的にこの森から遠くへ行く事を拒否してしまう。 けれどフラミーは笑えた。 生まれたばかりの『彼女』には見るモノが新鮮だったから。 森に住む生き物たちも、すぐに懐いて遊び相手にもなってくれた。 けれど……ちょっとだけ、寂しかった。 そして、あの日。 広場でフラミーが、うたた寝しているとき出会ったのだ。 「みゅ〜……」 夢うつつ、ピカチュウと分かれた後の事を思い出し、 フラミーは少し泣いてしまった。 目を擦り涙を拭き取ると、いつの間にか眠気も無くなっている (みゅ〜……ピピの声もう一度聞きたかったな〜) 幻聴でも良かった。 もう一度だけ友達の声を聞きたい。 ピカチュウの声を聞きたい…… それだけを願って、フラミーは、もう一度だけ耳を澄ました。 (一年ぶりだな……) 「みゅっ!?」 フラミーは飛び起きる。 一瞬だけ聞こえた声……それは確かにあのピカチュウの声だった。 「ピピ♪」 フラミーの顔一杯に満面の笑みが溢れた。 垂れ気味だった耳がピーンとまっすぐに伸び、目は上空に広がる空を見据え。 待ちきれないとばかりに、四肢に力を込め、 力一杯に大地を蹴り、フラミーは空に舞い上がった。 ピカチュウがすぐ近くまで来ている。 そう確信していた。 早く! もっと早く! 力強く大気を翼でたたき、フラミーは全力で空を駆け抜ける。 巻き起こった突風が、眼下の木々を激しく揺らす。 かなりの被害をもたらし、それを気にもせずフラミーは探した。 高速で流れる世界で目をこらして。 そして、見つけたのだった。 「ピピ!」 * * * 懐かしい声に呼ばれた気がして、ピカチュウは目を開けた。 周囲を探し回るように目をやり…… 「……だれ? ……フラミ?」 問いかけた声に返事は返ってこなかった。 気を取り直し、ピカチュウは森を見据える。 「フラミー……今行くから、待っててよ」 フラミーに会うために、森へ向かって足を踏み出し。 突然巻き起こった突風にピカチュウは、後方に跳ね飛ばされる。 「うわぁっ!」 目も開けられないほどの風圧に、小さな身体は簡単に翻弄され、 ピカチュウは身体を捻り、何とか足から地面に着地した。 衝撃で背中のプレゼントが風にさらわれる。 「あっ! くっ!」 呻く声が漏れた瞬間、ピカチュウの姿がかき消える。 パシッ! 一瞬で数十メートルを電光石火で駆け抜けたピカチュウの両手には、 風に飛ばされたプレゼントが抱き留められていた。 すぐに、プレゼントの様子を確認するピカチュウ。 たいして汚れもなく、傷もないことを確認するとホッと胸をなで下ろした。 「はぁ……良かった」 今度は簡単には飛ばされないように、しっかりと身体に括り付けていく。 (それにしても、何だったんだろう今の突風……?) ピカチュウが知る限り……この地域であれだけ強い風は大変珍しいことだった。 暫く、その事が気にかかり思慮に耽る。 「う〜ん……考えても仕方がないか」 「ピピ……何が分からないの〜?」 「うわっ! うわぁ〜!」 「キャウッ! ふらみ〜ビックリした……」 いきなり後ろから声をかけられ、大声で驚いたピカチュウ。 さらにその大声でフラミーも驚き、思わず尻餅をついている。 「ふ、フラミー……い、一体いつからいたの?」 動揺で震えまくる声でピカチュウは問いただす。 その声にフラミーは座ったまま、ニッコリと笑って答えた。 「みゅ〜♪ さっき来たのぉ〜♪」 「……えっ……あっ」 微妙に聞きたい答えと違い、ピカチュウは言葉に詰まる。 だが、一番言いたいことを思い出すと…… 背中の荷物をフラミーに差し出しながらピカチュウは言った。 「フラミー、また会えたね」 「ピピ……ふらみ〜、嬉しい……」 差し出されたプレゼント越しに、フラミーはピカチュウを抱きしめた。 相変わらずの柔らかな体毛が、小さな身体を包み込む。 伝わる暖かな体温が、寒い空気で冷え切っていた身体を暖め癒やした。 「フラミー……頭を下げて……」 「みゅっ……」 お願は聞き入られ、素直にフラミーの頭が下げられる。 自分の身体ほどある大きな頭に、ピカチュウはプレゼントを乗せた。 それは……とっても大きなサンタ帽子 「これ……なぁに?」 帽子に手を伸ばし触わると、先のボンタンが小さく揺れた。 同時に綺麗な雪の降る雪景色に、可愛らしい竜のサンタが現れた瞬間でもあった。 初めて見るモノに戸惑いながらいじり続けるフラミーの顔に…… ピカチュウはそっと抱きついた。 瞬く間に真っ赤にフラミーの頬が染まる。 「ぴ、ピピ……?」 「フラミー……帽子似合ってるよ」 「みゅ〜♪ ピピ〜♪」 「あはっ くすぐったいよフラミー」 頬を染めたまま、照れ隠しにフラミーは何度もピカチュウを舐める。 ピカチュウはくすぐったそうに身じろぎするが、それでも何度も舐め続け…… いつの間にかフラミーはピカチュウを抱いたまま、空に飛び上がっていた。 上空の風で、フラミーの髪と帽子が同じように揺れる。 誰の邪魔も入らない、この場所で。 「ピピ……大好き♪」 「えっ ふ、フラミー……」 フラミーはゆっくりと顔をピカチュウに近づけていく。 驚きでピカチュウの身体は固まる。 段々近づいてくる顔を黙ったまま見続け。 そして…… パクッ! ゴクリッ! 「ふぇっ! 」 無抵抗のまま、ピカチュウはフラミーに飲み下されてしまった。 視界が真っ暗に閉ざされると、全身を締め付ける柔らかな肉壁に包まれ、 為す術もなく喉を滑り落ちていく。 「フラミ〜……そりゃ無いよ……」 「みゅ〜 なにがぁ〜?」 ピカチュウの抗議の声など、なんのそのであった。 くったくのない笑みを浮かべたまま、フラミーはちょっとだけ溢れた涎を舌で舐め取る。 これもまた、フラミーの愛情表現なのだ。 「みゅ〜♪ ピピ……今日はずっと一緒だよ♪」 「あぅ……フラミー……出してぇ〜」 森に帰っていくフラミー。 今日はいつまでも一緒だ……♪ The End |
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