【プロローグ】


その日は雪が降っていた。
チラチラと舞い落ちる真っ白な雪……
地面に落ちれば、すぐに溶けてしまうそれも大量に降り注いだのなら、
あらゆる物を覆い隠してしまうだろう。

そう……今、彼が見ている雪に埋もれた草原のように真っ白に覆ってしまう。

「……雪か」

独り言のように呟かれた声。
声の持ち主の彼は、雪化粧に彩られた道を歩いていた。
歩く足が足首近くまで雪道に埋まり、歩く度に、ザクッ……ザクッ……と音を立てている。

「ふぅ……はぁ〜」

冷える手を目の前で擦り合わせ、暖かな息を吹きかけた。
気休め程度の暖気だが……
それでも何もしないよりは幾分かましになる。
彼は何度も口から白い息を吐き出し、寒さに耐え……
道を急ぎ足をしっかりと動かし続けた。



近くにある町から凡そ5km――
その場所で彼は立ち止まり、顔を上げて目の前の森を見据えた。
周囲にはこれだけ雪が積もっているのに、この森の敷地だけ不自然なぐらい雪が積もってはいない。
その証拠に……今彼が立っている雪に覆い隠された雪道が、
まるで線を引かれたかのように、その先から地肌を晒していた。

それは彼が一年前……この森で見たのと同じ光景。
徐に伸ばされた手が、降り注ぐ雪の粒を一つ捕まえ握りしめる。

そして、雪の降る真っ白な空を見上げて彼は呟いた。

「一年ぶりだな……元気にしてるかな……?」

声に込められたのは、深い感慨。
目に浮かんだのは、片時も忘れたことの無かった無邪気な友達の顔。
彼女との懐かしい思い出は……暖かくちょっぴり悲しい。

おもむろに彼の手が動いた。
彼の手が背中に背負った大きな袋に触れ、ガサリと音を立てる。
荷物の感触に満足そうに頷くと、

「渡せると良いな……」



クリスマス……それが、今日。
これを渡す相手の姿を思い浮かべ、彼の心は一年前へ飛んでいく。





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