そして、ある日……

キツネの店主は、さすがに疲れが溜まっていて、
今日も元気にと言うわけにも行かず。
自分の健康を気遣って、一日だけお店を、
お休みすることにしたのだった……が、

「コ〜ン……お休みと言っても、やることはあるコン。」

そう言いながら、お店の床をブラシでゴシゴシと一生懸命に擦っている。
その額に汗が輝いていて、時折それを手ぬぐいで拭ったりしていた。

「良しコン。 お店の中はこれで良いコン。次は外だコン。 
 こっちはなかなか綺麗にする暇がなかったから、
 大変かも知れないけど頑張るコン!」

今度は竹箒を片手に持ってキツネの店主は、お店の外に出て行った。
そして、後回しにしていたお店の外回りを掃除しだす……
その途中で、

「コン♪ コン♪ 綺麗になっていくのが楽しいコン♪
 あれ……コ、コン!! 森の入り口で誰か倒れてるコンッ!!」

お店のすぐ近くにある森の入り口に
一匹の生き物が倒れていることに気が付いて慌てて駆け寄る。

倒れている生き物をよく観察すると、
……倒れている生き物は、チョコボという鳥に位置する生き物だと思い出した。
成鳥になると体長が2m近くもあり、誰かを背中に乗せて走るのが大好きで、
何時も鞍を付けているチョコボも多いと言うことで有名だった。

自分より大きいチョコボの周りを回って、
どうしようかキツネの店主が困っていると……
倒れていたチョコボの胸は、しっかりと上下させて、
呼吸をしていることに気が付くと安堵のため息をついた。

「良かったコン……でも、このチョコボさん…どうして倒れてるコン?」

頭を傾げて?マークを浮かべているキツネの店主。
自分より大きなチョコボの姿に、
少し怯えながら揺り動かして起こそうと声をかける。

「チョコボさん、起きてコン。 どうしたのコン?
 ……何か事件でもあったのコン?」

ユサユサとチョコボの体を揺らすキツネの店主。
その度に、フサフサとしているチョコボの羽が、
体をくすぐってかなり気持ちよかったキツネの店主だが……

それにかまける訳にもいかず、真剣に起こそうと力一杯に揺さぶっていく。
それが実を結び……
チョコボの目がゆっくりと開いていった。

「きゅぴぃ……ぼく……どうしてこんな……ところにいるの?」
「コ、コン♪ チョコボさんが気が付いたコン。」

目を覚まして不思議そうに周りをキョロキョロしと
見渡す始めたチョコボを見て……
キツネの店主は、その首に抱きついて喜びを表した。

「ク、クエッ?……一体どうしたの?」
「覚えてないコン? チョコボさん……倒れてたんだコン。
 どうして倒れてたか分からないけど、無事に気が付いて良かったコン♪」

目を白黒させてキツネの店主を見つめているチョコボ。
抱きつかれたまま、すり寄られる感触に、
目を細めていき、気持ちよさに嘴が軽く開いて舌を覗かせていると……


キュルルルルっ!


可愛い音がチョコボのお腹の中から聞こえてきた。
ポッと真っ赤に顔を染めてしまうチョコボの様子を、
顔を上げて見つめるキツネの店主は、
……なるほどと言った表情を浮かべて頷いていた。

「そうだったのコン。 チョコボさんお腹すいてたコン」
「きゅうぅぅ……そうなの。 
 お弁当の木のみを全部おとしちゃって、しばらく何もたべてないんだ……」

そう言って項垂れるチョコボを見て、
キツネの店主は、パンッ!と手を叩くと……

「分かったコンッ! 僕も料理人コン。
 お腹をすかせて倒れている生き物を見て、見捨てるなんて出来ないコン!」
「クエッ! 何かたべさせてくれるの?」

キツネの店主の言葉に、
目をキラキラさせて嬉しそうにチョコボは立ち上がった。
その途端に再び……


キュルルルッ!


チョコボのお腹から可愛い音が聞こえてきて、
フニャ〜と力が抜けていき、その場に座り込んでしまった。

「きゅうう……だめ、おなかが……へって、力がでない……」
「そこで待ってるコン。今から作って持ってくるコン。」

そう言い残して、キツネの店主はお店の中に戻っていった。
その後ろ姿を首だけ持ち上げて見ていたチョコボには、
とても頼もしそうに見えていた。

「クエ〜……いいキツネさん。何をたべさせてくれるんだろ?」

そのまま、十数分後……

お店から出てきたキツネの店主の手には、
例の『キツネうどんが』入った器があった。
うどんから漂ってくるいい匂いに、
チョコボの尻尾や羽がせわしなく動き出していて、

「ク……ェ〜……いい匂いい……」
「チョコボさん、出来たコン。 食べさせてあげるから口開けてコン。」

座って首をもたげて素直に口を開いているチョコボさんの側に、
そっと座ったキツネの店主は、割り箸を割って麺をすくい取ると……
チョコボの口の中に、そっと運んでいき食べさせていく。

最初は少し弱々しく麺を飲み込んでいくチョコボだったが、
次第にキツネの店主を急かすように、
……クエッ、クエッ……と鳴いて催促するまでに元気になってきた。

そして、食べきった後には……
元気に立ち上がって羽繕いをする余裕があるほど元気に回復していたのだった。

「きゅぴぴぃっ! キツネさんどうもありがとう。
 すごくっ……おいしい、うどんのおかげで、ぼく……こんなに元気になったよ。」
「コン♪ そう言ってくれて嬉しいコン。
 今回のはサービスするけど、次はちゃんとお店に来て食べに来てコン」

ちゃっかりとお店の宣伝をしながら、
キツネの店主は、今度はお金を払ってねと遠回しに言っていた。
それに気が付かなかったチョコボは、
その言葉を素直に受け取って、嬉しそうにすり寄ると……

「クエ♪ ありがとう……今度は、ぼくの大切な人をつれてくるよ。
 その人……ぼく、なんかよりもずっと大きいけど……」

話していく内にチョコボの目が、ゆっくりと細まっていく。
よほど想いれのある人のようで……
そこから見える瞳が、とても綺麗な色をしていた。

「すごく、やさしい人なんだ……おいしいうどんを食べさせてあげてね。」
「分かったコン。 どれだけ大きいのか、
 良く分かんないけど……どんなお客さんが来ても大丈夫なように、
 とっても大きな器を用意して待ってるコン!」

そういって、翼をキツネの店主に向けて何度も振りながら、
チョコボは何処かへ行ってしまった。
そして、残されたキツネの店主は……

「コン。 それじゃさっそく器を作ってもらいに行くコン♪」

すっかりと掃除のことを忘れて、森の中に入っていったのでした。
その事に気が付いたのは、遅くに森から帰った後だったのは言うまでもなかった。

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