少し時間が戻り……
リヴェーヌの食道の中でアイゼンはゆっくりと滑り落ちていた。
ジュルジュルと肉壁とこすれる音を立てて、
肉壁からにじみ出る体液で全身をさらにしっとりと濡らしながら…

「あぅ…んぁ……ダメ…頭がおかしく……あぁん……なちゃいそう…」

全身を波打つように蠢く肉壁に揉みほぐされ、
それが段々と快感に感じてきて…
アイゼンは激しく喘ぎ声をあげ始めている。

…気分が高揚して体が火照り、息苦しさで呼吸が浅く早くなっていき
アイゼンの心に『このままだと…頭がどうかなってしまう…』と不安が芽生え始めたところで…

長く短かった食道を抜け…


ジュルルル…ズブズブ……ズッ…ズリュッ!


アイゼンの細身の体が胃袋の入り口に入り込み…抜けた。


ビチャッ!


「ふぁっ!? あぅっ!」

溜まっていた体液を飛沫を上げながら、
アイゼンは立って動けそうなほど大きな胃袋の中へと滑り落ち
その体を柔らかな胃壁が優しく受け止めて……
勢いで胃壁に沈んでいく体を包み込み、ゆっくりと押し出すように元に戻っていった。


「……あぅん……はぁ……はぁ……」

食道に締め付けられる息苦しさから解放され、
力なく体を丸めながら立ち上がると、アイゼンは呼吸を戻そうと必死に空気を貪っていき……

「ううっ… ケホッ! ケホッ!
 ……うぁ……何か呑んだ……うっ! ケホッ! ケホッ!」

いきなり胸を押さえて咳き込み、
少し飲み込んでしまった体液と唾液を、
口から出来るだけ吐き出した後に……胃壁の上へと再び倒れ込んだ。

倒れたまま、アイゼンは荒く息を切らしていて……
それでも疲れた体にむち打ち、何とか仰向けにひっくり返る。

「……はぁ……はぁ……ここが…リヴェーヌさんのお腹の中……なの?」

光がまったく差すことがない漆黒の闇の中……
ジュル、ジルル…と胃壁が動き体液とこすれる音と
胃壁を通して聞こえる…トックン…トックン…と何処か弱々しく、
リヴェーヌの心臓の音だけがアイゼンの耳に届いていた。

「不思議……ヒンヤリしてるのに……
 こうして触れていると何処か暖かい感じがする……」

暴れるわけでもなく…胃壁に身を任して、
アイゼンは微かに見える胃袋の風景を目を動かしゆっくりと見渡していく。

……ちょうどその時だった。
リヴェーヌがお腹を揉み始めたのは……

激しく動き出した胃壁が急に縮だし、
アイゼンの体を抵抗する暇もなく柔らかな胃壁が押さえつけてきて、

「ああぅっ! いやっ! はぅっ! あぐぅ!」

悲鳴をあげてアイゼンは、
胃壁に弄ばれるかのように転がされ潰され揉まれていく。
そして、ついに胃壁から少しずつ……ジュルジュルと
透明な液体が滲み出し溢れてきて、少しずつ胃袋の中に溜まり始めたのだった。

そして、それは当然のようにアイゼンにも迫っていき……
胃壁に揉まれていく拍子に透明な液体に手が触れて、

「……っ! いやっ!」 

自分の手が何か冷たいものの中へと入り込んだのを感じ、
アイゼンは悲鳴と共に慌ててそれから手を引き抜いた。

「何なのよこれ……もしかして胃液なの!」

粘りけのあるヌルヌルとした液体がそのまま手に絡みついていて、
ピチャピチャと触れていた手から滴り胃壁に落ちていく。
その様子をアイゼンは青ざめた表情で見つめているが……

不思議と溶かされるような痛みは無かった。

「あぅ…ううぅ? ………痛くな……きゃっ!」

胃壁に挟まれロクに身動きがとれないまま、
それを見ていて……
突然、あの時とは逆に胃壁が急に広がりだした。
アイゼンは胃壁に取り込まれたまま上へと引きずられていき、


ズル…ビシャァアア!


「うぐっ!」

途中で滑り落ち……
激しく底に溜まっていた透明な胃液を飛沫を上げて巻き上げながら落下した。
当然のように胃液が上から降り注ぎ…全身に胃液が絡みつく。

「あぅ……はぁ……はぁ……もうベトベト……。」

広がった胃袋の中でアイゼンは四肢に力を入れて、
ふらつき、まだ動いている胃壁にもたれ掛かり……

「うう…ぁあうっ! はぁ……はぁ……何とか立てた……」

振り絞るような声をあげアイゼンは立ち上がった。
疲れきり力なく垂れ下がる片腕を押さえながら苦しそうに息をして、

「……うう……リヴェーヌ……どうしてなの……どうして私を……」

悲しそうに呟やき……

「…はぁ、はぁ…ううん…疑ったらダメ。
 どんなことがあっても……リヴェーヌ……信じてるから…」

アイゼンは思い直すように頭を振り顔を上げた。
胃壁を見渡す目には、まだしっかりと光をともしていて、
この状況の中……ともすれば揺らいで崩れてしまいそうな思いの中で……

「私…あなたのこと大好きだから……最後まで、信じているから……」

それでも彼女のことをリヴェーヌを信じる事を止めない。

『リヴェーヌを信じたい……友達だから…親友だから』
『……大好きだから……』

それを一つずつ胸に心に刻み込んで……
必死に疑いそうになる自分の心と必死に戦っていく。

そのうち胃袋に透明な胃液がある程度、満ちると胃壁も完全に動きを止め、
アイゼンは膝下まで胃液に浸かったまま立ちつくしていると……

「あぅ……なに……力が…入ら…ない……」

突然の目が霞むような疲労が襲いかかってきて
崩れ落ちそうになったところを荒い息を吐いて何とか持ちこたえた。

しかし、虚脱感はドンドン強くなっていき……

「うぅ……もう…立ってられない……」


ビチャッ!


胃袋の底で膝を折り手をついて……
アイゼンの呼吸が時間がたつごとに荒くなっていく。
そんな中で、アイゼンの視界に不思議とキラキラした何かが目に飛びこんできた。

「…はぁ、はぁ…何? ううっ…はぁ……体から…変な靄が出てる…」

段々と力が抜けていく感覚の中、
それがなんなのか分からず目でそれを追っていると

「…えっ……胃壁に…靄が…吸収されてる?」

胃壁にスーッと吸い込まれていくことに気が付いて……
アイゼンはゆっくりと自分の姿を見渡し…そして悟った。

「……うぐぅ……分かった……この胃液の意味…あぅ……
 はぁ、はぁ……食べたモノから…この靄を発生させる力が…ううっ……」

この液体が自分の体からこの気体を発生させていることに気が付く。
……そして、アイゼンは、

「はぁ、はぁ……ふふふ……よかった〜……」

何か吹っ切れたように微笑みを浮かべる。

正気のリヴェーヌが断りもなくこんな事をするはずがないと必死に信じていて……
でも……なぜこんな事にと疑いの心と戦っていて……
やっと理由に……

先ほど見たリヴェーヌさんの怪我のせいでリヴェーヌが正気ではなく、
そして、この自分の体から出ている靄を欲している事……
その事に確信が持てたから急にこころが平静になって、
アイゼンは安心して笑うことができた。

「いいよ…リヴェーヌ……大切な人が苦しんでいるんだから……
 その人を助ける…そのためなら…持って行って私の力……」

大切な人が……
大変なことになっている時にこそ力になりたい…
だから……アイゼンはその透明な胃液にあえて身を浸していく。

「ああぅっ! うぅ…あうぁっ!」

急速になくなっていく自分の力…
大量の気の力をリヴェーヌに提供していくと共に
襲いかかってくる凄まじい虚脱感に……アイゼンは叫び声を出して耐える!

だが、それも時間の問題……
体から沸き立つアイゼンの気の靄がドンドン少なくなっていく。

「ああっ……はぁ、はぁ……うぅん……
 リ、リヴェーヌ……元気に…な……ら……また…いっ……」

段々と言葉がとぎれていき…
最後に気絶するまでそれを止めずアイゼンは意識を失った……。



そして、外では……
横たわるリヴェーヌがアイゼンから大量の気を吸収して、
体から淡く綺麗な光を発している。
それが…取り込んだ気が…
時間の経過と共にかなりの早さで傷を癒やしていき……

「うっ…う〜ん……私……まだ生きてる……」

うっすらとまだ霞む目を開き……元のスカイブルーの綺麗な瞳を取り戻し、
ようやくリヴェーヌが目を覚ましたのだった。

「んっ……目が霞んでるわ……まだ本調子じゃないみたい…」

掠れている目をパチパチと瞬きすると次第に視界がハッキリしてきた。
その後…自分の体を確かめるようにゆっくりと立ち上がって…

不思議に思う……

「なんで、私の怪我が治ってきているの…」

リヴェーヌはあの時…もう助からないと思っていた……
大好きなアイゼンにもう会えない。
悲しくて、痛くて、苦しくてそれでも生きていたいと、そう思った後……

そこから先の記憶がなかった。

「不思議…それに、なんか…お腹の中が暖かい……」

まだ…ハッキリとしていない意識の中…
リヴェーヌはお腹の中から伝わってくる暖かさに
少し顔を火照ったように赤らめて、不思議そうにお腹をまさぐる。

「ぅうん〜 この暖かさ……何なのかしら?
 守られている気がして凄く……気持ちいいわ……」

自分の身を暖めるこの不思議な感覚にうっとりとしながら、
ふと……周りの様子を探ると近くに、

「えっ…これは……アイゼンさんがいつも持ってる……」

見覚えのある鞄が落ちているのに気が付いて鞄を拾い上げ、
それがアイゼンの持ち物だと気が付き……

「えっ? …えっ? 何でこれがここに?」」

戸惑うようにリヴェーヌは鞄を抱きかかえて、
何かを否定するかのように頭を振り、
……泳ぐ目で一生懸命にアイゼンの姿を探すが見つからず。

「……アイゼンさんが来たの? …でもいない…わよ?」

心に動揺が広がっていく……
震える声で必死に心の中に浮かびそうになるモノを否定して……
胸の中へ抱きしめている鞄を見下ろし……

「……でも、アイゼンさんの鞄が……ここに……ここに……う…あっ……」

ダラダラとリヴェーヌの顔から冷や汗が浮き出て流れ出す。
胸が締め付けられるように苦しくなってくる。
鞄を見つめるその先に…

いつもより膨れているお腹が目に入った。
もう一度そこに手を当てると恐る恐る撫でてみて……
伝わってくる暖かさを感じていき……

「はぁ…はぁ… ……ア…イゼ…ン? …そこに…いるの?」

目が虚ろに震わせ自分で必死に否定していしていた事をリヴェーヌは言ってしまい……

一瞬、リヴェーヌの頭の中が真っ白になる。

「ああ…何で…何で! 私……アイゼンさんを……食べ…た…の?」

もう、どんなに否定しても頭から心から消えなくて、
いつの間にか鞄を落とし、膨れたお腹を中の大事なモノを震える両手で抑えていた。

「いけない、急いで出さないと!」

ようやくリヴェーヌは動揺を振り切り、
胃壁を動かし中に入っているモノを食道まで押し上げていく。

「ングッ……うぐぐっ……んんっ…」

そのまま口の中まで吐き戻していき……


……グバァー


優しく砂浜に口の中に含んでいるモノを吐き出すと……
……ビチャッビチャ……と透明な胃液と共にアイゼンがリヴェーヌの口の中から滑り落ちてきた。

「うぅ……アイゼンさん…アイ…ゼンさん……」

意識を失い、目を閉じたまま動かないアイゼンに、
恐る恐る震える手を伸ばして、そっとさすり体を優しく揺すり、
あの時のアイゼンの様にリヴェーヌも目に涙を浮かべて……

掠れるような声でアイゼンの名前を呼んだ。

「ぅ…ごふっ……リ…ヴェーヌ……」

その声に応えるかのように……
意識のないアイゼンが呻き口から透明な胃液を吐き出した後、
リヴェーヌの名前をとても小さく呟やいた。

「アイゼンさん?」 

名前を呼ばれリヴェーヌはハッとアイゼンの顔をのぞき込む。
土気色だった顔に僅かだが赤みが差していて、弱々しくだけど胸も鼓動している。

「……ああ…息してる……心臓が動いてる……」
(これなら助けられる)

リヴェーヌは涙を流し続け……
愛おしくアイゼンの顔を撫でてからゆっくりと体を抱き上げ。

「ごめんね……アイゼンさん。
 もう一度、私の中に入って……」

今度は自らの意志でアイゼンを口に入れて、
少し上を向き舌をそっと動かして喉の奥へと運んでいく……


……ゴクリッ


小さく音を立てて喉が動き、
リヴェーヌは再びアイゼンを呑み込んだ。

「うぅ……美味しい……アイゼンさんが私の中に……」

涙を流しながらリヴェーヌはお腹を押さえて蹲る……
口に含んだときに感じた味、喉を膨らませ滑り落ちるのど越し、
自分の大切な人、アイゼンの全てを感じていく。

そして、リヴェーヌのお腹がゆっくりと膨らんでいった。

「……助けるから…アイゼンさん。」

ゆっくりとリヴェーヌは頭を上げていく。
まだ目から涙がこぼれているが、呟く声に少しずつ力強さが宿り始める。

「今度は私が、あなたを助けるから……絶対に!」

お腹の中にアイゼンを抱きながら、
リヴェーヌは胃液の流出を早めるために再びお腹を揉み始めた。

胃壁を揺らさないように…
中のアイゼンにこれ以上負担をかけないように…
細心の注意を払いゆっくりと透明な胃液で胃袋を満たしていく。
時折、キラキラと何かが輝いていて透明な胃液が、
ゆっくりとアイゼンさんが溺れない程度に全身を包み込んでいった。

液体のキラキラがアイゼンの体に入り込んでいくたびに
顔色が良くなり胸の鼓動が規則正しくなっていく。

「ん……そろそろ……いいわね。」

不思議とお腹の中のアイゼンの様子が胃壁を通して……

動く心臓の鼓動が…
呼吸をする息づかいが…
元に戻ってきた体の暖かみが…

十分アイゼンが回復したことがリヴェーヌには理解できた。

「アイゼンさん……吐き出すよ。」

今度はお椀のように手を重ねて、
リヴェーヌはそこに向けてそっと口を開くと、
さっきと同じように胃壁を動かしアイゼンを喉へと口の中へと押し戻していき……


ビチャリ!


胃液と唾液まみれでアイゼンを両手の中へと吐き出し、
すぐにアイゼンの容態を確認する。

「アイゼンさん……」

アイゼンの名前を呟き…素早く体を見渡していくと、
とくにこれと言った異常は見つからず……
アイゼンが自分の手の中で『すぅ、すぅ』と気持ちよさそうに寝息を立てていて、
その様子にリヴェーヌは嬉しさがこみ上げて再び涙を流していた。

「うっ…うぅ…よかった。 本当に良かったよ……」

両手の中のアイゼンに鼻先をそっとすり寄せながら、
リヴェーヌはゆっくりと湖に歩いていく。
両手にアイゼンを抱いたまま湖の水にひたし、
パシャパシャとアイゼンに付着していた体液を洗い落とした。

「これで良いわね…後は… 水よ………」

力のある言葉でそう呟くと、
リヴェーヌの体が光りアイゼンの体が着ている服が一瞬で乾いていた。

やれることは全てやり終えると両手の中で、
ぐっすりと眠っているアイゼンを砂浜にそっと下ろしジッと見つめたまま……

「待ってるから…アイゼンさん。
 あなたが起きるまで、ここでずっと待ってあなたを守るから……
 だから……今は安心して眠っていて…」



リヴェーヌはアイゼンが起きるのを見守り続けていくのだった。

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