真っ暗な闇の中で、
優しく身体を揺すられるような感覚に私は目を覚ました。

「……んっ…んん〜ん……ここは何処だろう?」

アレからどうなったのか……
どうやらFさんに呑まれる快感に意識を失っていたみたい。

「なんか……とても暖かい。」

まだ、少し胸がドキドキしてる。
少し身動きしてみるとすぐに何か柔らかくて弾力のあるモノに身体が当たった。
この感じにはとても覚えがある。

多分ここはまだ、Fさんのお腹の中……

「ふふふ……アイゼンさん起きたみたいですね。」

何も見えないお腹の中にFさんの声が響いてきた。
私が動き出したのが伝わってしまったみたい……
身体に触れている胃壁が波打ち私を軽く押すように動いていく。

どうやらFさんがお腹を撫でているみたいね。
この人のお腹の中は……
とても暖かく気持ち良くて、そして……とても優しく感じるの。

「はぅ……あったかぁくて、寝ちゃいそう。」

その余りにモノ居心地のよさに迂闊にも再び眠ってしまいそうになり。
私は心の中で謝りながら、思いっきり寝返りをして体勢を変えてみた。

「んんぅ……ふふふ……アイゼンさん眠いのですか?」

私の動きが気持ちよいのか?
Fさんが少し気持ちよさそうに声を出すのが聞こえた。
その後、再び胃壁が動き出し……
胃壁を背に胃袋に座っている私を優しく包み、揉みほぐしてくれた。

あぅ……だめね。
このままだとまた寝ちゃうのは確実……
何か気を紛らわせないと……

「はい…… Fさんは今どこにいるのですか……?」

思いまぶたをなんとか開け続け、
私はこの眠気を何とかしようとFさんにたわいも無いことを聞いてみた。

「ここですか? ここは私の家ですよ……
 ふふふ……アイゼンさんは1時間ほど私のお腹で寝ていたんです。
 貴方の寝息と寝言……聞いてしまったのは許してくださいね。」
「はぃ〜……ん? ふぇっ!? わ、私…寝言で何を言ってました!?」

Fさんのその一言で一気に目が覚めた!
あぅ……私って何を寝言で喋ったんだろう……

「ふふふ……私の事を『…大好きです…』と言ってました。
 ありがとうございます。私もアイゼンさんの事……好きですよ。」
「はみゅぅっ!! わ、私ってそんなことを……」

余りにの衝撃に思わず奇声をあげる私!

普段ならそれほどでも無いけど……
寝言でって言うのがちょっと……いや、本当に恥ずかしい!

もう、自分でも分かるぐらい赤く……
熱くなっている顔を冷まそうとFさんの胃壁に思いっきり抱きついて顔を埋めてみる。
勿論リヴェーヌより狭い胃袋だけど……
負けないくらい柔らかくてジュルルと音をたてて私を優しく包み込んでくれた。

「フフ……ん? 誰か来ましたね……」

その声に何も話しかけられず……Fさんが立ち上がったのか、
軽く衝撃が走る胃壁にしがみついたまま柔らかな感触を楽しんでいた。

もうすぐハロウィンも終わり。
やることは出来たし、最後にビックリしたけど……
Fさんに食べてもらえて今日は本当に楽しかったな。

でも、このままだと……Fさんの家に泊まることになるのかな?
あぅ……明日帰ったらリヴェーヌに色々と聞かれそうだよ。

私がそんな事を考えて悩み悶えている事など勿論Fさんが気づくはずもなく。

「こんばんはです。……どちら様ですか?」

Fさんが扉を開けたのか?
それらしい音とFさんの声がお腹の中の私のところまで届いていた。

一体誰が来たんだろう?
そんな私の疑問は……すぐに解けることになった。

「あっ ミロカロスさん久しぶりですね。」

その単語を耳にした瞬間、
私の額に冷や汗が浮かんだ気がしたのは気のせい……じゃないよね。

うぅ……ミロさんかぁ……
大丈夫かなFさん……私と一緒に食べられたりしないよね?
それはそれで楽しいかも知れないけど……♪

そんな感じでドキドキが再発している私をよそに、
外ではFさん達の会話がドンドンと進んで、お腹にいる私にも会話は全部聞こえていた。

「フフフ……久々に会いに来たわ…トリックオアトリート♪」
「いきなりそう来ましたか……♪
 でもお菓子の買い置きはもう無いんですよね……どうしようかな?」
「なら……貴方の身体でも良いのよ……フフフ……どうするのかしら?」
「うっ……ミロカロスさん…まだ懲りてないんですか?」
「当たり前よ……貴方の身体とても美味しいんだから♪」

なんかFさんが押され気味みたい……
や、やっぱり私も一緒にミロさんのお腹に入っちゃうのかな?
でも……Fさんの中なら安全そうだからいつもに比べたら私は気楽だけどね♪

さらにドキドキが増してきて、
今年のハロウィンの最後にこんなに興奮できて嬉しいな♪

なんてことを思っていたら……

「う〜ん……ちょっと待っていてください……」
「あら? フフフ……なにか……お菓子かそれに変わるモノがあるのかしらね?」

そう言った2人の会話が聞こえてきて、
Fさんが動き出したのか再び軽く胃が動き出して、
それにあわせて私も胃壁にぶつかったり沈んだりしていく。

ちょっと残念だけど……これって結構楽しいかも知れない♪
その内、Fさんは奥にある何処かの部屋に入ったのか、扉を開ける音が再び届き……

「ご免なさいアイゼンさん……
 ちゃんと助けに行きますのでお菓子になってください♪」
「え”っ! ちょ、ちょっと!
 Fさんそれはどういう……キャァッ!!」

Fさんのいきなりの声にちょっと頭が回らなかった。
そ、それって……私をお菓子代わりに生け贄にするつもりなのFさん!

その意味に気が付いて慌てて拒否しようとするが、遅かったみたい……
私を包んでいた胃壁がいきなり縮だし、
激しく私の身体を揉みながら私を上へと押し出していく。

再び狭い食道を通り抜けていくと、
霞む目に小さな光が映りドンドン大きくなってきたかと思うと……

「ウグっ …んんっ カハッ!」

一気に口の中から吐き出され、
重力に引かれそのまま床に叩きつけられそうに……
なる前にFさんの両腕が私の身体を力強く支えてくれて難を逃れることが出来た。

「あぅっ うぅ……Fさん……」

まだ……身体の半分がFさんの身体の中に残っていて、
私は自分の身体が口の中から滑り落ちてくる様子を荒く息をしながらずっと見つめていた。

「ふぅ……アイゼンさん。
 本当にすみませんです……でも、お願いしますね。」
「あ……ぅう…」

吐き出されたショックで息が絶え絶えの私はその声に答えることが出来なかった。
その間にも私の身体から滴るFさんが自身の体液を綺麗に拭き取っていく。

最後には胸元に綺麗なリボンまで巻かれて、
本当にお菓子の変わりになってるよ……私……

そして、ついに私はFさんの手によってミロさんの目の前まで運ばれていき……

「お待たせしましたミロカロスさん……これで良いですかね?」
「フフフ……あら…アイゼン久しぶりね……
 フライゴン…中々美味しそうなお菓子ね気に入ったわ。」

私の姿をミロさんが見留めた瞬間、
私を見つめる赤い目が細く怪しく変化して、大きく口の裂け目が開いていき。
中から赤く長い舌が私を求めるように伸びてくる。

「あぅ……わ、私をどうするつもりなの?」
「フフフ……あら? お菓子が喋ってるわね……
 喋るお菓子か……ウフフ……これはこれからが楽しそう……」

ハロウィンで見てきたみんなの仮装の比ではない、
ミロさんのその顔を見た瞬間、私は背筋が凍るような錯覚に襲われ……
一歩も身動き出来なくなり、私に向かって伸びてくるミロさんの尻尾に巻き付かれてしまった。

「フフフ……それじゃ、フライゴン。
 今日のところは……『お菓子』だけで勘弁してあげるわ……」
「自分でやっておいてなんですが……
 明日引き取りに行きますので……無事に返してくださいよ。」
「フフ……分かったは……保証は出来ないけどね……」

そのやり取りを最後にミロさんはFさんの元から離れ……
私を尻尾に巻き付けたまま、何処かへ私を連れ去ろうとする。

段々と私の目から小さくなっていくFさん。
そのFさんに思わず手を伸ばし……
その時、私の頭の中にFさんの声が響いてきて、

「フフ……アイゼンさん。
 楽しいハロウィンをお楽しみください♪」

その言葉に私は完全に力尽きてしまった。

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