【 深い森の奥で…… 後編】






次の日、マグマラシの住んでいた村では……

マグマラシが帰ってこないことで騒ぎになっていた。
今でも村の大人達が必死になって、マグマラシのことを探している。

そんな中、マグマラシの行方について心当たりがあるもの達がいた。
……それは、子供達だった。

「どうしよう。あいつ……まだ、戻ってこないんだって……」
「だからやめておいた方がいいって言ったんだよ。」
「でも、あいつ……本当に行くなんて思ってなかったから……」
「そうだよな……もしかしたら隠れてるだけかも……」
「それはないよ、何人かあいつの跡を付けて森に入っていくの見てたんだから。」
「それじゃ、やっぱり……森で……迷ってるんじゃ。」
「それだけなら、まだいいよ。探せば見つかるかも知れないから……」
「それだけって、どういう事だよ……」
「言ったじゃないか、あの森には主がいるんだよ!
 見たって言う奴が過去に何人かいたんだから!」


マグマラシが戻ってこない……
その事が子供達の間でも動揺が広がっていく中で、
必然的に例の子供達がやり玉に挙げられ出した。

「おい、お前等があいつを一番虐めてたんだから森に探しに行けよ!」
「そうだよ。元はと言えばお前達二人が肝試しだなんて言わなければ!」

そう言われている二人組の子供……
片方は同じ、マグマラシだが目つきが悪く、少し雰囲気が怖かった。
もう片方は、同年代の中で一番進化が早くすでにバクフーンまで進化を遂げていて、
彼が、子供達の中でガキ大将のような立場だったのだが、
さすがにこれだけの数に一方的に責め立てられると……逃げることは出来なかった。

「っち! しかたねぇな……おい、行くぞ。」
「えっ! バクフーンの兄貴、本当に探しに行くですか?
 別にほっといてもいいじゃないですか!?」

舌打ちして嫌々そうに歩き出したバクフーンを慌てて追いかける目つきの悪いマグマラシ。
あまり気が進まないのか、先にズンズンと
歩いていくバクフーンの手を引っ張り、文句を言った。
その手を振り払いバクフーンは自分の手振り上げて振り落とした。


ゴスッ!


目から火花が飛びそうな衝撃と痛みで、
悲鳴をあげる前に目つきの悪いマグマラシは地面に倒れた。

「痛いっす……バクフーンの兄貴……」
「変な語尾を付けるな! まったくお前は分かってないな!」

足下で悶絶している目つきの悪いマグマラシに
冷ややかな目を向けてたたずむバクフーン……

「あのままだと……俺たちは確実に良くて村八分……
 悪ければ親にも勘当されて村を追放されるかもしれないんだぞ!
 彼奴らは絶対にあいつが戻らなければ、大人に告げ口するだろうからな……」
「うう……そんなもの、バクフーンの兄貴が
 脅して口止めをすれば……グエッ!」

余りにモノ馬鹿さ加減にバクフーンはため息をつきながら
無意識のうちに足を目つきの悪いマグマラシの上に動かしていた。
足下でジタバタと暴れている目つきの悪いマグマラシを黙殺して……

「逆効果だろうが! ……もう、お前は何もその事について
 考えなくていいから 黙ってついてこい……分かったな!」
「……あ、い。 分かりました……だから、足を退けてください。」

そんなこんなで、いつもの調子で大人の目をかいくぐり……
森までやって来たバクフーンと目つきの悪いマグマラシ。
眼前に広がっている大きな森……
いつもは森の入り口から近いところで遊んでいる彼らでも、
奥まで行くとなると緊張で息をのんだ。

「さすがに……奥まで行かなきゃならないなんて……
 バクフーンの兄貴……止めるんなら今の内ですよ。」
「馬鹿! ここまできて帰れるわけがねえだろが!
 それに、臆病ものあいつだそ本当に奥まで行ったかわかんねえだろ……
 もしかしたら近くで隠れてるかもな。」
「そうだと……いいんですけどねぇ……って、いでで!
 バクフーンの兄貴そんなに強く手を引っ張らないでー!!」
「喧しい! お前にウジウジに付き合っていると、
 夜になってしまいそうだ!嫌ならさっさと自分で歩け!」

イライラでバクフーンは頭から湯気が出てきそうに顔を真っ赤にして、
いやがる目つきの悪いマグマラシを引きずりながら森の中に入っていく。
彼らは知らない……

すでにマグマラシがどうなっているのかを……
そして、自分たちが来るのをテグスを引いて待ちかまえている彼女のことを……

そして、もう一つ彼らは気が付かなかった。
彼らをこの森に行くよう焚きつけた子供達の数が、
村に住んでいる子供の数より、1匹多くなっていたことに……

いや、知れない方が幸せなのかも知れない。
どちらにせよ……バクフーンと目つきの悪いマグマラシは、
自分から罠に飛び込んでいくのであった。



それから、十数時間後……



真っ暗になった夜の森の中で迷子になってしまった、
バクフーンと目つきの悪いマグマラシは、お互いに離れないように、
身を寄せ合い……地面に座り込んで休んでいた。

「くっそ……あいつは見つからないし、夜になっちまうし。
 散々だぜ……見つけたらそれなりにお返ししなきゃな。」
「バ、バクフーンの兄貴……おいら疲れたよ。
 もう帰った方がいいんじゃないんですか?」

目つきの悪いマグマラシだけではなく、バクフーンの方も少し息が荒い……
ずっとなれない森の奥まで歩いてきたのだから、
しょうがないのかも知れないが、さらに深刻なのは……
あのマグマラシと同じように、道が分からなくなってしまったことだった。
その事に目つきの悪いマグマラシは、まだ気が付いていない。

「あーそのだな。 すぐには無理だ。」
「何でですか? さすがに夜はやばいですよ。
 本当に泉の化け物が出てきたらどうするんですか!」

なんだか目に涙を浮かべながら縋り付いてくる。
目つきの悪いマグマラシと目を合わせないように横を向くバクフーン。
……それから、気まずそうに口を開く。

「だから無理だ……道に迷った。 簡単には森から出れねぇ。」
「な……な、ななななんだってぇぇぇ!!!
 どうするんですか、バババ、バクフーンの兄貴ぃぃぃいい!!」


ゴスッ!


またしてもバクフーンに頭を叩かれて、地面に突っ伏した目つきの悪いマグマラシ。
荒い息を吐きながら、目つきのマグマラシを抱き起こし。

「慌てるな! ここで慌ててもどうにもならねえ。朝まで待つんだ……
 明るくなったらちっとは森の中も歩き易くなるだろうしな。」
「ん〜ん〜!! ……む〜!!」

胸元を捕まれているせいで、目つきの悪いマグマラシは言葉が話せない。
片手でバクフーンの手を掴んで、もう片方の手で左手の方向へ指さした。

その方向……その先には、少し輪郭がゆがんでいるように見えるが、
確かにあの臆病者マグマラシが、バクフーンと目つきの悪いマグマラシを見つめていた。


「んっ? なんだよ、そんなに驚いたような顔をして……って、いた!!」
「ぶっはー! あーバクフーンの兄貴待ってくれー!!」

子分の手前……常に冷静を保とうと努めてきたバクフーンだったが、
彼もそれなりにこの森に来るのは嫌だった…怖かったのだ。
それは、かなりのストレスとなり彼の心に蓄積されていた。

それが、臆病者のマグマラシを……
ストレスを発散する捌け口を見つけた途端に爆発したのだ。

「マグマラシ!! ひっ捕まえてやるから、そこを動くな!!」
「…………フフフ…………捕まえてごらん…………」
「バクフーンの兄貴……なんか、あいつ様子が変ですよ!!
 って、聞いてくださいよー!!」

怒りに顔を歪めて突進してくるバクフーンに
あの臆病者マグマラシは何故か微笑みを浮かべると……
背を向けて森の奥へ奥へと逃げていった。

森の奥に逃げていく臆病者のマグマラシを追って森の中を進む、
バクフーンと目つきの悪いマグマラシ、後先考えず森の奥深くへ入り込んだ先には……

あの泉が出迎えることによって終わりを迎えた。

泉のほとりでたたずむ臆病者のマグマラシにバクフーンが追いつき、
拳を振り上げ殴りかかろうとしたとき……

「……フフフ……これで君たちも……」

そう呟き残して、その姿が2匹の目の前でスーッと消えていった。

「なっ! ……にぃ。 いったいどうなっているんだ
 あいつは、何処に行ったんだ……わからねえ。」
「ヒィ、ヒィ……バ、バクフーンの兄貴。
 ここここ……ここって、あの泉じゃないですか?」

幽霊のように消え去った臆病者のマグマラシを見て、
目つきの悪いマグマラシは思わず腰を抜かす。

さらにここが何処なのか気が付いて顔を青く変化させていった……

「ふ、ふん! まだ迷信を信じているのか!
 そんなものあるわけ無いだろ……今から確かめてやる!」
「バクフーンの兄貴! 何行っているんですか止めてください!」

慌ててバクフーンを目つきの悪いマグマラシが止めようとするが……

「オイ! コラー! 泉の主のやろう、いるなら出てきて見やがれ!!
 どうせ居ないだろうけどな!! ハハハハハッ!!」

半ばやけくそで奇声を張るバクフーン。
そして、その声に答えるようにあの声が二匹の周りに響き渡る。

「ふふふ、随分な言いようね、あなた……」

泉の前で騒ぎ立てているバクフーンと目つきの悪いマグマラシの後ろから、
とても綺麗な声で話しかけて姿を現したミロカロス。
二匹を見留めたミロカロスの表情は凄まじく邪悪にゆがんでいて……

「なっ本当にいやがったのか! ……っこ、こいつが泉の化け物……でけえ。」
「ヒィイイ!! バクフーンの兄貴……こいつはミロカロスだ!!」

ミロカロスに話しかけられ振り返る二匹。
その頃には、素早く邪悪な表情は陰を潜め……
あの笑顔が表面を飾っていた。

「まったく、なんて失礼な子供達だこと……
 私がわざわざ呼びかけに答えて出てきてあげたって言うのに、
 人を化け物呼ばわりですか……」

目の前でビクついているバクフーンと目つきの悪いマグマラシを
なるべく優しそうな顔つきをすることに努める。
それでも、内心を隠しきれずに口の端が少し歪んでいる。

(こいつ等が、マグマラシの言っていたイジメッ子に間違いないようね……
 ふふふ……一度ならず二度も私の事を化け物ですってー!
 イイ度胸しているじゃないの……あの子と同じように、お仕置きしてあげる。)

そんな内心を押さえ込み、ミロカロスは何とか優しく話しだした。

「まあ、許してあげる。
 それで、あなた達はいったい私に何の用なの?」
「……バクフーンの兄貴。
 このミロカロスは、そんなに怖い奴じゃないようですね。」
「ふん。肩すかしだな……もっとこう、醜くてスゲー化けもんだと思ってたのに。」

ミロカロスが友好的だと判断したのか、
バクフーンと目つきの悪いマグマラシの態度が急に大きくなった。
それを心の中で冷ややかに見つめるミロカロス。
二匹は……気が付いていなかった自分たちが何に話しかけているのかを……
そして、二匹は話を続ける。

「なあ、あんたが泉の主というか森の主なんだろ?
 俺たちの他にマグマラシが何処にいるのか知らないか?」
「俺たちそいつを捜すためにここまできたんだ。
 知っているなら教えてくれよ。」

黙って聞いているミロカロスに
そう言いながら詰め寄るバクフーンと目つきの悪いマグマラシ。
その二匹に微笑みを返してミロカロスは、

「ええ、知っているわよ……何処にいるか教えてあげる。
 泉の向こう側のあの茂みに、頭を抱えて震えているみたいよ。」

スーッとミロカロスは尻尾を動かして泉の対岸を指し示した。
それにつられてバクフーンと目つきの悪いマグマラシは、そちらの方へと顔を向ける。

その時、まさに計ったようなタイミングで、
臆病者のマグマラシが泉の対岸で涙ぐみながら現れた。

「…………ウッウ、ウ…グズグズ…………怖いよ。
 また彼奴らが僕をイジメにきたよ……」

臆病者のマグマラシが自分たちを見て恐怖で泣いている……
そういう風に見えて、バクフーンと目つきの悪いマグマラシは
嬉々と嬉しそうにしながらしながら駆け寄っていく。

「おおう! その通りにイジメに来てやったぜ!
 こんなだだっ広い森の中を一日中も歩かせやがって……
 覚悟は出来てるんだろうな。行くぞ、この臆病者がぁ!!!!」
「バクフーンの兄貴! 俺のブンも残してくれよ!
 散々怖い目にあったんだ……その分いつもよりタップリと返してやる!!」

段々と自分に迫ってくるイジメッ子達を前に恐怖で動けないのか、
『ウウ……グズグズ……ヒック……』と泣き続けている。

そして、……その一歩前まで迫り、
手こずらせたことをお返ししようとバクフーンが拳を振り上げて、

「まずは、これで挨拶代わりだ!!」

臆病者のマグマラシめがけて拳を振り下ろした。
それは確実に臆病者のマグマラシを捉えていて命中……すると同時に、
ブワーとその姿が霧が散るように砕け散り、スーッと薄れて言って消え去った。
後に残ったのは臆病者のマグマラシの『……クスッ……引っかかったね……」という声……


「なっ!……いったいどういう事だ……」
「あああ! バクフーンの兄貴なんか、周りの様子が変ですよ。」

目つきの悪いマグマラシがそう言っている間にも、
周りの風景がグニャリと歪んでいき……二匹は宙に浮くような感覚を感じた瞬間……


ドッポーーン!!!!!


足下が急に泉に変化して大きな水柱を上げながら、泉の中に仲良く落水した。

「ガボッ! ブボッ!……何でいきなり足下が無くなって水になるんだ!
 って、オイしがみつくなって! 俺まで溺れるだろが!!」
「グェッボガボラベラ……ブメラ……ボッハー……バクフーンの兄貴、
 俺泳げない……ボラベラ……助けて!」

水面に何とか浮き上がったバクフーンだったが、
泳ぎ方を知らない目つきの悪いマグマラシにしがみつかれて、
泉の中に引きずり込まれそうになっている……

その状況で……ミロカロスが動いた。
頭からスムーズに泉の中に入り込むと、その巨体が恐ろしく早く動き出した。
シュルシュルと溺れるバクフーンと目つきの悪いマグマラシに巻き付くミロカロス……

二匹の体が水面から持ち上がり溺死は免れたが……
強い力で締め付けられ、別の脅威が襲いかかろうとしていた。

「ぐふっ!……ミロ…カロ、ス……てめー……何をするんだ。」
「何って、マグマラシに会いたいのでしょ? 何処にいるか、
 教えてあげるって言ったわよね……さっきのは嘘……ホントはね……ここよ。」

ミロカロスがググッと体のある部分を持ち上げる。
そこには、あの時よりは小さくなっていたが……
明らかに……不自然なほどプックリと膨れているお腹があって、

「そ、それがどうしたってんだ! お腹がどうしたんだよ!!」
「ばばば、バクフーンの兄貴……もしかして、あいつは……こいつに食わ……」
「言うな馬鹿! 俺だって……俺だって怖いんだ!」

目の前に見せつけられている……ミロカロスのプックリと膨れているお腹。
それが意味することを想像してしまい……
バクフーンと目つきの悪いマグマラシは、お互いに恐怖で震え上がっている。

その様子をミロカロスは飾りの表情を脱ぎ捨て……
あの表情を邪悪に歪んだ笑みを浮かべていた。
さらに二匹に見せつけるようにお腹を近づけながら口を開いた。

「目をそらしちゃ駄目よ……もう分かったんでしょ。
 あなた達のお友達は……マグマラシちゃんは私のお腹の中よ。」

そこで一度ミロカロスは言葉を切り……目の前の二匹を顔を近づけて間近で見つめる。


「く、来るな! こっちに来るなー!!」
「うぐっ……ぐぐぐっ……いや……もう、帰りたい……」

ミロカロスの体に締め付けられたまま、お互いに涙を浮かべて、
バクフーンはメチャクチャに両手を振り回し、
目つきの悪いマグマラシは、真っ青な顔をして泣きながらなにやら呟いている。

「……あらあら、そんなに涙を流しちゃって……
 大丈夫よ、あなた達……すぐにあなた達もそこに行くんだから……」

ミロカロスは言い終えると当時に、二匹を拘束している尻尾を動かしていく。
臆病者のマグマラシにしたのと同じように二匹の位置を調整していき……動きを止めた。

グギュ……グッギュウー


「グホッ!」
「グギャッ!」

間髪入れず動きを止めたすぐ後に、
バクフーンと目つきの悪いマグマラシの体に、
ミロカロスは長い体が音を立てて食い込んでいく。

急激な圧迫感に肺から空気を絞り出され……
浅く呼吸をすのるが精一杯の二匹に
ミロカロスは首を伸ばして、
顔をさらに近づけていき……

口を開いた。


ペロペロ……ピチャッ!、ペチャッ! 
ペロリ……ベチャア!!

大量の唾液が滴っている長い舌で、ミロカロスはゆっくりと時間をかけて、
バクフーンと目つきの悪いマグマラシの顔を交互に嘗め回していく。
それが……二匹に一番恐怖を与えられると知っているから……

「ガップ……もう……ウエップ……止めろ……もう止めてくれ!」
「アウゥ……クゥップ……誰でもいいから助けて……
 ミロカロスさん……ご免なさい許して……」」

顔にミロカロスの生暖かな舌が這うたびに、
バクフーンと目つきの悪いマグマラシが喘ぎ声を上げ命乞いをする。

その命乞いの言葉にミロカロスが反応した。
二匹を嘗め回すのを止めて舌をチュルチュルと引っ込めていくと……
最後に舐めていた場所から唾液が糸を引いて伸びていく……
その糸が切れ、舌を口の中に収めた。

「何故……私があなた達の言うことを聞かなくてはいけないの?
 私を何度も何度も化け物と言って侮辱しておいて……
 私聞いたわよ、あなたのお仲間から私のことを散々に言ってくれたそうじゃない!」


さっきまで薄気味悪く我っていただけだったミロカロスの表情に
怒りが加わっていく……鋭く真っ赤に染まったその目で二匹を見つめて……


ググッギュワァアー


「がっ!………あ、あ、あ……」
「はあ、はあ……バ、バクフーンの兄貴……なんか、息が苦しい……」

目つきの悪いマグマラシの目の前で……ミロカロスの剛力に
今にも押し潰されそうな圧力を受けて、バクフーンの体が大きく反り返っていく。
目の前で見せつけられる恐怖に胸を締め付けられ、呼吸が不自然に乱れていった。

「うふふ……まずは一番生意気なことを言ってくれたあなたから、
 お仕置きしてあげるわ……私の一部にしてあげるのよ、嬉しいでしょ。
 ……そこのマグマラシちゃんは、ちょっと待っててね。」

あの表情を浮かべたまま……声だけは優しく話、
目つきの悪いマグマラシにお預けとばかりにペロリと一舐めした。

その瞬間に目つきの悪いマグマラシの中で何かがプツリと切れた。

「……あ、あいつ……あいつが悪いんだ!!
 ミロカロス様!! バクフーンは好きにしていいから!!
 俺だけは助けてください、お願いします!!」

生きたい、無事に帰りたい。
その事が目つきの悪いマグマラシに全ての良心を捨てさせた。
親分として慕っていたバクフーンを……犠牲にして恥も外聞もなくミロカロスに許しを請うた。

ピクリとミロカロスの額が動き、バクフーンに向いていた顔を、
ゆっくりと目つきの悪いマグマラシに向けると……

「ふーん……あなたって友達を犠牲にするのね……
 私……大嫌いなのよ! あんたのような奴は!!」

目つきの悪いマグマラシの発した戯れ言が、
かんに障ったミロカロスは、冷たく吐き捨てるように
言い捨てて、全力で締め付けにかかった。


グギュギュ!!……グッギュワァアー!!!


隣のバクフーンと同じように締め付けられて、
目つきの悪いマグマラシの体が大きく反り返っていく……
しかし、ミロカロスはそれだけでは飽き足らないのかズルズルと体を動かし、
目つきの悪いマグマラシにその体を幾重にも巻き付けていく……

「…………が……あ…………」
「気が変わったわ……最初にあなたからお仕置きしてあげる……」


一切の身動きを封じ込められた目つきの悪いマグマラシを、
ミロカロスは唾液の滴る長い舌で手荒く、執拗に嘗め回していく……
その舌のに嘗め回されるたびに臆病者のマグマラシが
体験したことと同じような、何度も電気が走る感覚に全身を麻痺させていく……
『あ……あ……あ』としか言えなくなっていく目つきの悪いマグマラシ。

それを剛力の締め付けから解放されたバクフーンが、
尻尾の先で巻き付かれて、荒く息を吐きながら……
恐怖にとりつかれ何も言えず……その一部始終を見ていた。

「……ふふふ……もうそろそろ食べ頃かな? 
 次には大物が控えていることだし……それじゃあ……
 人でなしのマグマラシちゃん、今から私が美味しく食べてあげるわね。」

ペロリッ! 


……カプッ、ジュルジュルルル!!


最後に目つきの悪いマグマラシを
ペロリと一舐めするとそのまま大きく口を開いて、
目つきの悪いマグマラシの小さな頭を……

いきなり丸ごと頬張った。

臆病者のマグマラシの時とは違い、
長い体を使って食べ急ぐように、
目つきの悪いマグマラシの体を喉に押し込んでいく。

それを恐怖を浮かべた目で見るバクフーン……
その目には、ミロカロスが顎を動かし、
尻尾を動かすたびに…ジュルジュル…と
口の中に引きずり込まれていく、
目つきの悪いマグマラシが映し出されていた。

……段々とそれを見ていた目が……自分の視界が暗くなっていくのを感じて
それを受け入れたバクフーンは、途中で意識を失った。


……そして、


ジュルルル……ゴクリ……


あの時と同じようにミロカロスは、
目つきの悪いマグマラシの全身を口の中に収めてゆっくりと口を閉じた。
唾液の慕っている口をジュルリと再び舌を出して舐めとる。


ズブズブ……ジュル、ジュル……ズリュ!


大きくミロカロスの喉を膨らまして、目つきの悪いマグマラシが落ちていく。
胃袋の中に落ち込むと……あの時よりも、ミロカロスのお腹を一回り大きく膨らませた。


「ぷっはー……さすがに食べ過ぎだったかしら?
 でも、すごく美味しいから止められないのよね……あら……」
 

ぽっこりと膨らんでしまったお腹をみっともなさそうに見ていると
ミロカロスはマグマラシ達の味を思い出してしまった。
ポチャン、ポチャンと音を立てて唾液が泉に落ち、それが波紋をつくりだした。

「いけないわね、みっともないから……少し静めなきゃ。」

ミロカロスは静かに目を閉じると最初の内は時折、
プルプルと震えたりしていたのが、時間が経過するにつれてジッとしたまま動かなくなる。
それに伴い、みっともなく口から溢れていた唾液が少しずつ減っていき、

……止まった。

「はぁー……これでいいわね。さてと……待たせたわね。
 食べるには、ちょっと苦しいかも知れないけど、次はあなたよバクフーンちゃん。」


ミロカロスは尻尾の先に捕まえておいた、
食べ応えのありそうなバクフーンに向かって楽しそうに振り向く。

「あら……もう駄目になっちゃったのかしら?
 ふふふ、まさか嘘ついて騙そうとしているんじゃないでしょうね。」

その時初めて、バクフーンが気絶していることに気が付いたミロカロス。
本当に気絶しているのか確かめるためにペロペロと首筋などを軽く嘗め回してみる。
しかし、まったく反応を示さないバクフーン……

「本当に駄目になったみたいね……
 それなら、起こしてあげた方がいいわね。」

不気味に笑うとミロカロスは、
尻尾を巻き付けたままのバクフーンを持ち上げ勢いよく水の中に叩きつける。


ドッパーーン!!


ミロカロスの背よりも高く水柱が立ちのぼり、
まるで雨が降るかのようにバサーっと水滴が落下する。

「ぐはっ! ……う、ううう。 ここはどこだ?」

ゆっくりと目を開き、目覚めたバクフーン。
意識がハッキリとしないのか自分が今どのような状況に
置かれているのか思い出すのに手間取っていると……

「おはよう……バクフーンちゃん。
 ……お仲間さんはもう私が食べちゃったから、次はあなたの番だよ。」

ミロカロスは目覚めの挨拶にバクフーンの鼻先を軽く舐めた後、
そのまま口を開いていきながら首をのばして、バクフーンの頭に口を近づけていく。

「がぁ! お、お前なんかにおれ様が食われてたまるかー!」

眼前に大きく開かれた唾液が滴り落ちる、ミロカロスの口を目にして、
全てを思い出したバクフーン。
背中の炎が再び大きく燃え上がり、黒い煙幕を作り出した。

「ん、なに! これ!」
「これで……どうだ化け物!!」


いきなりの暗闇に慌ててミロカロスは、煙幕から顔を引き抜く。
その一瞬……ミロカロスがひるんだその時に、


ガブッ!!


ミロカロスに負けず劣らずの大きな口を広げ、
自分に巻き付いている尻尾に噛みつき牙を食い込ませた!
鋭い痛みがミロカロスを襲う。

「くう……痛っ!」

バクフーンの思わぬ抵抗にミロカロスの口から悲鳴が小さくこぼれる。
それと同時に痛みで僅かに尻尾の締め付けが緩んだ。

「グウォアァァァア! 離れやがれ!」

今がチャンスとばかりに雄叫びと共に力を振り絞り、
ミロカロスの尻尾をはねのけたバクフーン。
そのままミロカロスの体によじ登り、
泉の中に落ちないようにミロカロスの長い体の上を走りぬけ……
岸へと飛び移った。

「ああ……私美しい尻尾に……傷が……」
「ふん!いつまでもそうしてやがれ。」

悲しそうに尻尾をジッと見つめているミロカロスを、
せいせいしたかのようにバクフーンはあざ笑い、森の中に逃げ出して行った。

その後ろ姿を横目にミロカロスは再び牙の刺さった後の尻尾の傷を見た。
そのまま目を閉じて集中する。
体が少しずつ光に包まれて、傷口が消えていき……
光が消えた後には傷口は跡形もなく消え去っていた。

「ふ、ふふ……私って優しすぎたみたいね……普通に飲み込むだけなんて……
 あのバクフーンには、もっと恐怖を味あわせてあげなくちゃ。」

不適に笑うミロカロスの表情は今までとは変わらない……
しかし、その心内では……バクフーンへの憎しみで満ちあふれていた。



一時間が経過した。



ミロカロスから逃げ出しバクフーンは今も森の中を駆けていた。
さすがにバクフーンも一時間もの間、森の中を駆け抜けたせいで息が上がっている。

「はあ、はあ……くっそ! この森はなんて広いんだ。
 しかも、霧まで出てきやがるとはついて……な、い…ぜ……」

あることに気が付いて、バクフーンの言葉が掠れるように消えていく。
初めは走り疲れたせいだと思っていた……
それが休むために立ち止まっている今でも、
力が吸い取られるように体力が消耗していく事を……

「うう……いったい、どうしたんだ俺の体は……
 ち、力がはいらねぇ……おぐっ、うぐぐぐっ。」

バクフーンは膝を折り、地面に手をつきながら倒れ込んだ。
ゼーゼーと段々と息をすることさえ辛くなって、額から汗がにじみ出す。

そこへ、どこからかミロカロスの声が聞こえ始める。

「そろそろ、動けなくなってきたみたいね、バクフーンちゃん。
 この森で私から逃げ出そうなんて……甘い考えは捨てなさい。」
「ぐぅ……もう、追いついて来やがった……か、化け物……くっそ! どこだ!」

無理をして起きあがり、半狂乱で暴れるバクフーン。
口から炎を噴き出し無差別に一面をミロカロスごと焼き尽くそうとした……が、


ポチャ、ポチャ


水滴がいくつも落ちてきて突然雨になり炎の勢いが弱まっていく。
それを唖然とした表情で見つめるバクフーン……

「これでもう、その炎は封じたわよ無駄な抵抗は止めなさい。」
「だれが、あきらめ……がはぁ! なんだ体が……うごか、せね……え。」

先ほどまで、無理をすれば何とか動かせていた体が、
何かに押さえつけられているかのように、
ピクリとも動かせなくなった事に動揺するバクフーン……

そして、自分の意志に関係なく勝手に背中の炎が消え失せてしまった。

「お、俺の体は一体どうしたんだよ……」

目尻涙を浮かべて混乱するバクフーン……その声に答えるものはいなかった。
変わりに、誰かがの足を払い、バクフーンはどうすることも出来ずに顔面から地面に倒れ込んだ。

「ごは!」

受け身もとれず仰向けにひっくり返され、
倒れ込んだバクフーンが苦痛で悲鳴をあげる。

無防備な姿をさらしているバクフーン。
その両足が突然、何かヌルヌルとしていて、暖かなモノに包まれる感触を感じとった。


「あぐぅぅ……な、何だこの…この足の感触は!」

正体を確認しようにも顔を動かすことも出来ず、抗うことも出来ない。
その間にも暖かな何かは間断なくグニャグニャと動き続け、
その度にピチャ……クチャ……と生々しい何かをする音がバクフーンの耳に届く。
そして、ゆっくりとだが体の上へと登っていき、バクフーンを腰まで包み込んでしまった。

「ああぅ……うっぅぅ……何なんだ? 何がいるんだ……」

暖かな何かが蠢くたびにバクフーンの体に得体の知れない悪寒が走り、
上げたくもない喘ぎ声を上げてしまう。
それが何度も繰り返され、
ある時にバクフーンが僅かに指に力を入れると……ピクリと指が動いた。
おもわず、自分の手を動かし目の前に持ってきて改めて指を手を動かした。

「体が……動く。 体の自由が戻った!」

恐怖に歪み涙を流していたバクフーンの眼に光がもどる。
すかさず暖かな何かに手を当て抜け出そうとしたその瞬間に、
バクフーンの体が高く持ち上がる。

「ぬあっ! こ、今度はいったい何だ!」

悲鳴をあげ、不安そうに呻くバクフーン。
乱暴に空高く持ち上げられ、その衝撃でバクフーンの体が、
ズルズルと一気に胴回りまで暖かい何かに引きずり込まれ包まれる。

その時、バクフーンは見た……見てはいけない物を

すぐ目の前で赤く光っているミロカロスの眼を見て、
何故その事に気が付かなかったのかと後悔し……
そして、この暖かいモノは……ミロカロスの口と肉壁の体温だと理解した。

「ま、またお前なのか……」

あの時の悪夢の再来……

バクフーンの心があの時の光景を……
目つきの悪いマグマラシが目の前でゆっくりと飲まれていった光景を思い出してしまった。

カタカタと恐怖で体が震えだしてし、再び視界が暗くなり始めて……

「ぐあぁああああ! もう嫌だー! 吐き出せッ!
 この化け物吐き出しやがれー!!」

限界を超えた恐怖の反動……
気絶するのではなくバクフーンは、下半身の殆どをくわえ込まれたまま、
メチャクチャに暴れ回って必死に足掻き、最後の抵抗をしてみせた。

それでも……

(んふ……もう、手遅れなのよ。もうすぐあなたは私の一部に……)
「ああっ! くそ! くそー!!」

抵抗も空しく、ミロカロスはせわしく顎と舌を動かしていく。
その度に……


クチュチュ……ジュリ……ジュルル


ミロカロスが口の奥にバクフーンを引きずり
込む生々しい音共に……

だんだんと飲み込まれていく……

バクフーンは何とか抵抗しようと
ミロカロスの舌に手をかけるが……
そのまま舌が残ったバクフーンの頭に絡みついてきて
ついに頭まで口の奥に引きずり込まれる……

「あああっ!! うわあぁあああ!!!」


ジュルルルル……ゴクリ……

最後に壮絶な絶叫と共にバクフーンは……
ミロカロスの体内へと飲み込まれていった。


ズブズブ……ジュル、ジュル……


ミロカロスの喉を大きく膨らませてバクフーンが落ちていく、
必死にまだ抵抗して、グニャリ、グニャリと喉が大きく歪む。

「グエップ……さすがにバクフーンちゃんは食べ応えがあったわ♪」

妖艶な笑みと表情を浮かべて、
頭の触手を使い、まだ抵抗しているバクフーンがいるあたりをなで回した。

そして……


ジュルジュル……ズリュ!


とうとうバクフーンもミロカロスの胃袋に落ち込み
ボーンと大きくはち切れんばかりに胃袋を膨らませた。

「うふふふ……お仕置き完了♪
 それにこれなら、しばらく何も食べなくても大丈夫ね。」

満腹感とお仕置きが出来て満足するミロカロス
そこに意外にもミロカロスに話しかけるものが現れた。
その生き物は、たびたび出現していたあの臆病者のマグマラシだった。

「ミロカロス。 どうだった俺の演技は?」
「ええ。 とっても素晴らしかったわ。
 おかげで、こんなにお腹がパンパンになっちゃったわ♪」

楽しそうに会話する2匹……
ゆっくりとマグマラシの姿が霧のように散り始めて姿を現したのは……

霧の姿をしたガス状ポケモンと言われるゴースだった。
それからも楽しそうに話しながら泉に帰っていくミロカロスとゴース。

後に残ったものは……何もなかった。






次の日町は騒然とする

1匹の子供に続いて2匹も子供が消え失せたのだから当たり前だった。

ついに子供達も黙っていることが出来ずに、
3匹が森の中に入って出てこなくなったことを話してしまった。

それを聞いた大人が何人か森へ入っていくが誰も出てこない……
それが何日おきかで繰り返されたことで……ついに誰も探しに行かなくなってしまった。


そして、しばらくたった村に不思議なことが起こり始めた。
ごくまれに、夜中の間に村人が誰かいなくなってしまうのだ。

1月に一人……1週間で1人…一日で1人……
日かけるごとに誰かがいなくなってしまい……そして、

『町には誰もいなくなる』


そして、かろうじて村から逃げ延びたポケモンが語る怖いお話。

入ったら必ず森に食べられたかのように誰も出てこない、
恐怖の森……捕食の森の話を皆から笑われようとも話し続けて言った。


そして、その森の噂を聞いた愚かなもの達が森を訪れる。

それをあの2匹が……

「うふ……また来たわ♪ ゴースちゃん頼んだわよ。」
「任せてくれミロカロス。 それじゃあ行ってくる。」

舌なめずりをしてまちかまえているのでした。


そして、また一人、もしくは一匹が……彼女の一部になっていくのであった。

もし、あなたがこの森の噂を聞いても確かめに行こうとは思わないでください。
でないと……大変なことになっても知りませんよ。


【深い森の中で】 The End ? OR  To BE Continue ?


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